第113話 触手召喚
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食事を終えた後、みんなでケーキを食べてゆったりとした一時を過ごしていると、いつの間にかリタは座ったまま眠りについてしまっていた。そんな彼女を見たミカミさんは、ルカに拘束を解かせて彼女の肩に毛布をかけた。
「寝ちゃいましたね。」
「きっと疲れていたのさ。それに、こういう満足感のある食事も久しぶりだったんだと思う。」
「そういえばカツ丼を食べたとき、お母様って……呟きながら泣いちゃってましたね。」
「お出汁の優しい味とかが、この子のお母さんのことを思い出させたんじゃないかな。いわゆるお袋の味ってやつ?」
「そう言われると納得かもしれないです。」
「うんうん、でもそこで私は一つ疑問を抱いたんだよ。どうしてこの子は今独りなのかなってさ。」
「確かに、たぶん両親がいたら、アサシンギルドでお金を稼ぐなんてことは……。」
「許さないだろうね。厳格な御家だったら尚更さ。」
「じゃあ、彼女の両親はどこにいるんでしょう?」
「そ~れは、流石の私でもわからないなぁ。でも、生きてはいるんじゃない?仮に亡くなっていたとしたら……いや、この話はやめよう。」
パンパンとミカミさんは手を叩くと、その話をいったん打ち切った。
「さてと、柊君。そろそろ仕込みに取り掛からないとまずい時間じゃない?」
「そうですね。そろそろやり始めないと……。」
俺も気持ちを切り替えるとまたキッチンに立って、明日に控える予約注文の受け渡しをするためにひたすらケーキの仕込みに勤しむのだった。
それから数時間後……すっかり夜も深まり、起きているのは俺とミカミさんだけとなってしまった。いくらミカミさんが盛り付けを手伝ってくれているとはいえ、少し手が足りない。俺が2人いれば……もしくは手がもう2つあればもっと作業は…………って、ん?
俺は頭の中であることを思い出し、不意に手を止めた。すると隣で生クリームにまみれながらケーキの盛り付けをしているミカミさんが首を傾げた。
「あれ、柊君どうしたの?」
「今、自分の手がもっとたくさんあったら作業が捗りそうだな~って思いながら仕込みをしてたんですけど。」
「うんうん。」
「今、もしかすると手を増やせるかもしれないスキルを持ってたことを思い出したんです。」
「へ?そんなスキルあげたっけ?」
「いいえ、ミカミさんからもらったやつじゃなくて、クラーケンから奪い取ったスキルなんですけど……。」
俺は物は試しと思ってそのスキルの名前を口に出してみた。
「触手召喚っ!!」
そう口にした直後、自分の腰のあたりからずるりと何かが飛び出た感覚を感じた。チラリと腰のあたりに目を向けてみると、そこからは太いイカの足のような触手が2本生えていたのだ。
「あ、こういう感じなんだ……。」
「そ、それどうなってるの柊君?腰のところから生えてるみたいだけど~……。」
ミカミさんがぴらっと服を捲ると、ぎょっと驚いた表情を浮かべた。
「こ、これ本当に生えてるよ柊君っ!?」
「召喚って名前だから、魔法陣か何かからこういうのが出てくるのかと思ってましたけど、まさか体から生えてくるとは思ってませんでしたね。」
「な、なんでそんなに冷静でいられるんだい?」
「あ、いやなんていうか……その、まるで体に最初からあったみたいに違和感がないんです。」
驚くことにこの生えてきた触手には、指先以上に繊細な感覚があることを俺は感じ取っていた。ミカミさんがツンツンと恐る恐る小さな指で突いてくる感覚もハッキリと感じ取れる。
試しに自分で手に取ってみると、イカの足のような見た目ながらも粘液で濡れてはいないし、匂いも無臭。衛生的には何の問題もなさそうだ。ただこれはどう動かせばいいのか……。腰を動かしてみたり、いろいろ動かそうとして試行錯誤してみたところ、この触手は俺が頭で思った通りに動いてくれるという事がわかった。
「こうやれば動かせるってことは……。」
例えばこうやってこの生やした触手でスポンジ生地を作りながら、俺がミカミさんと一緒に盛り付けをすることもできる。
「おぉ~、これは便利ですよミカミさん。」
「絵面はちょっとアレだけどね……。まぁでもそんな風に自由に動かせるなら、効率もかなり上がりそうだね。」
「はい。これならきっと……もっと早く作れます。」
この触手についている吸盤のおかげで、調理器具を落とすようなこともない。まだ慣れてないせいで、頭で強く意識しながら操作しないといけないけど、慣れたらもっと簡単に動かせるようになるはずだ。これの操作に慣れるために、これから日常的に使ってみようかな。
そして実質的に手が4本に増えたおかげで、仕込みのペースは格段に上がり、なんとか朝日が昇る前に予約注文分の68個もの大量のケーキを作り終えることができた。
朝食を作り始めないといけない時間まで、あと3時間ぐらいしかないけれど……このわずかな時間だけでも仮眠を取ろう。
腰から生えていた触手を消してベッドに横になり、俺の胸の上に横になったミカミさんと一緒に眠りについたのだった。
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