第112話 カツ丼
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ぐぅぅ……とお腹を鳴らしているリタは、涎を垂らしそうになっているのを必死に我慢しながら、俺の手元を凝視している。その様子を見てミカミさんがケタケタと笑う。
「あっはっは、リタちゃん釘付けだね?」
「お腹が空いているときにこんな良い匂いを嗅がされたら、こうもなりますわ。」
「元貴族なら、それなりに舌も肥えてるんじゃない?」
「し、舌は太りませんわよ?」
「言葉の綾ってやつさ。美味しいものをたくさん食べてるから、料理にはうるさいんじゃない?って話。」
「ま、まぁ……庶民の方々よりは、多少美味しいものを幼少期から食べさせてもらったのは間違いありませんわ。」
「じゃ、柊君の料理を食べてどんな反応をするのか楽しみだなぁ~。」
ミカミさんがニコニコと笑みを浮かべているところへ、俺は盛り付けを終えた料理を運び込んだ。
「はい、カツ丼お待ちどおさま。」
「かつ……どん?」
リタが頭の上に?マークを浮かべている横で、ミカミさんはきらきらと目を輝かせる。
「お~っ!!カツ丼だぁ~、これ美味しいんだよねぇ~。柊君、私の分はつゆだくで頼むよ。」
「わかりましたミカミさん。」
そしてスプーンを置いて、みんなの分のカツ丼を盛り付けるべくキッチンに戻ろうとすると、リタに呼び止められた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいましっ!!」
「ん?」
「こ、これは何ですの?こんなお料理見たことありませんわ。」
「あぁ、それはカツ丼って言う料理で、オーク肉のカツレツを出汁と一緒に卵でとじて、ホカホカのご飯の上に盛り付けた料理だな。」
「い、いったいどこの国のお料理ですのこれ……。」
「我らが妖精の国の料理さぁ~。まっ、食べて見て見て~。」
「た、食べたいのですけれど、この拘束じゃあ食べられませんわ。」
「あ、そっか。ルカちゃん手の拘束だけ外してあげて。」
「よろしいのですか?」
「大丈夫大丈夫。もう殺意もないし、反抗する気もないでしょ?」
ミカミさんの言葉にリタは一つ小さく頷いた。それを確認して、ルカは彼女の手の拘束を外した。すると彼女はゆっくりとスプーンに手を伸ばして、カツ丼が盛られた丼を手前に引き寄せる。
「すんすん……はぁ、良い香りですわ。」
何度も匂いを確認して、何度も彼女は頷くと、いよいよスプーンでご飯と一緒にオーク肉のカツを掬い上げた。
「で、ではいただきますわ。」
「はい召し上がれ~。」
恐る恐る口にカツ丼を運んだリタは、その熱さに少し苦悶しながらも、ハフハフと口の中で熱を冷ましていく。
「はっ、はふっ!!あ、あひゅいれふわ。」
徐々に口の中で熱が冷めていくと、それに従ってリタの表情が笑顔に変わっていく。一口目を時間をかけて味わった後、リタはゴクンと飲みこみ、幸せそうに大きなため息を吐き出した。
「はわぁぁぁぁ~、とっても美味ですわぁ。」
「口に合ったようで何よりだよ。はい、ミカミさん、つゆだくのカツ丼です。」
「わっほ~い!!ありがと~。このつゆがいっぱい入ってるのが美味しいんだよね~。」
「ルカは、どうする?」
「私もミカミお嬢様と同じものをお願いいたします。」
「はいよ。シアとグレイスはどうする~?」
「自分は大盛りが良いっす!!」
「シアはヒイラギお兄ちゃんと同じのが良い~。」
「わかった、ちょっと待っててな。」
そして他のみんなの分のカツ丼も仕上げ、シア達にはミカミさんとリタのいるテーブルとは別のテーブルで食べてもらう。みんながおかわりを要求する前に、俺もミカミさん達と同じテーブルに座ってカツ丼を食べることにした。
「よいしょっと。じゃ、いただきます。」
いざカツ丼を食べ始めようとすると、すごくこっちに視線が向いている気がして、ふと顔を上げてみた。するとすごく申し訳なさそうにしているリタと目が合った。
「ご、ご馳走様でしたわ。」
「はいよお粗末様でした。」
彼女は空になった食器をキュッと両手で抱えながら、突然こちらに頭を下げてきた。
「そ、その……ご、ごめんなさい……ですわ。」
「へ?急にどうしたんだ?」
「い、命を狙ってしまったことを謝りたかったのですわ。」
「……なんだそういう事か。別に気にしちゃいないよ。だってこうして命があるんだからな。」
ぽんぽんと自分の心臓の辺りを叩くと、彼女はポカンと呆気にとられた表情を浮かべていた。彼女の心からの謝罪の言葉を受け取ったところで、俺は彼女に一つ質問を投げかける。
「んで、カツ丼は美味しかったのか?」
「へっ!?そ、それはもう……食べたことのないお味でしたけれど、すごく優しいお味で美味しくて、思わずお母さまを思い出して……しまいそうに。」
そう答えている彼女の目からまるで決壊したようにポロポロと涙が零れて落ちる。
「ど、どうしてですの?勝手に涙が溢れて……。」
「ほい、リタちゃんハンカチ。」
「か、感謝いたしますわ。」
溢れる涙を拭った後で彼女はおずおずと、あるお願いをしてきた。
「そ、その……図々しいお願いなのは重々承知ですけれど、お、おかわりを頂けたりはしませんでしょうか?」
彼女はぎゅっと目を閉じながら、こちらに空になった丼を震える手で差し出してくる。それを受け取り、おかわりのカツ丼を盛り付けた後、また彼女の前に置いた。
「お腹いっぱいになるまで食べたらいいさ。遠慮はしなくていい。」
そう笑いながら言ってあげると、彼女はぱぁっと表情を明るくして勢い良く頭を下げた。
「か、感謝いたしますわっ!!」
そしてまたカツ丼を口いっぱいに頬張り始めた彼女を見て、俺とミカミさんはお互いに顔を合わせて、微笑んだのだった。
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