第111話 リタの懐事情
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しばらくの間、リタのことをそっとしておいたミカミさんは、彼女が少し落ち着いたであろう頃合いを見計らって、また声をかけた。
「時にリタちゃん。キミに一つ質問があるんだけど、いいかい?」
「……なんですの?」
「キミはアサシンギルドに入ってから、だれか人を殺したかい?」
その問いかけに彼女はフルフルと首を横に振った。
「アサシンギルドの下っ端向けに公開されている依頼は、いろんな人が受けますの。わたくしが依頼を受けてギルドを出発しようと思ったら、その依頼を達成した人が戻ってきたなんてことが多々ありましたわ。」
「ん~、じゃあ幸いにもまだ人殺しは経験ないんだね。」
「わ、悪かったですわね。愚図で……。」
「いやいや、嫌味で言ったわけじゃないよ。心の底からそう思ったから口にしたまでさ。」
微笑みながらミカミさんがそう言った直後、彼女のお腹から空腹を知らせる大きな音が鳴り響いた。直後、彼女は少し頬を恥ずかしさで赤らめさせながら、うんざりとした様子でため息交じりに言った。
「はぁ……お腹空きましたわ。」
「まだ今日は何も食べてないのかな?」
「今日だけじゃありませんわ。最後に食事……いえ、アレを食事と呼べるかは怪しいですわね。最後にお腹に物を詰め込んだのは3日も前ですわ。」
「ありゃりゃ、もう食べ物を買うお金もないの?」
「ポケットに入ってる銀貨1枚がわたくしの全財産ですわ。」
ルカが彼女のポケットに手を突っ込むと、そこから銀貨が本当に1枚だけ出てきた。
「これじゃあパン1個買うのが精いっぱいだね。」
「しかも硬いパンしか買えませんわ。」
「あっはっは、間違いないね。」
自虐するようなリタの言葉にミカミさんはクスッと笑いながら時計に目を向けた。時刻は17時……もうそろそろ夕食の準備をしてもいい頃合いだ。
「柊君、この子正直にいろいろ話してくれたからさ、何か食べさせてあげれない?」
「別にいいですよ。食材は買い貯めておいたものがありますし、ちょうどそろそろ夕食の仕込みをしなきゃいけないなと思ってたので、そのついでに作りましょうか。」
俺がそう言うと、彼女は驚いた表情を浮かべる。
「わ、わたくしは、貴方がたを……こ、殺しに来たんですのよ?そんな相手に食事を振る舞うなんて……。」
「いいのいいの~。どうせキミじゃ柊君と私のことを殺すことは不可能だからね~。」
「それに、職業柄、目の前でお腹を空かせてる人を放ってはおけないし。」
彼女が呆気に取られている間に俺はキッチンに立って、早速夕食の準備を始めた。すると、ご飯の気配を感じ取ったシアとグレイスの2人がこちらに素早く近寄ってきた。
「ごはんっ?」
「夕ご飯の準備っすか~?」
「そっ、今から夕食の準備だ。何か食べたいものとかある?」
そう問いかけると、2人は必死に頭を回転させ始めるが、これといった料理が出てこない様子。
「シア、ヒイラギお兄ちゃんが作ったごはんなら、何でもいいっ!!」
「自分はできれば肉が食べたいっすねぇ~。」
「じゃあ今日はグレイスの要望に応えて、肉料理にしようか。」
まず最初に、マイネさんからもらって残っていたお米を軽く研いでから、鍋で炊いておく。
お米を炊き始めた後、さっき帰り道で買ってきたオークのロース肉のブロックを取り出して、まな板の上に置いた。ところどころ血がついてるからこれを紙で拭きとって、少し厚めにカットしていく。そのカットした肉の筋を切り、塩と胡椒で下味をつけた。
「シア、グレイス、ちょっとお手伝いできるかな?」
「やるっ!!何をしたらいいの~?」
「じ、自分にできるっすか?」
「大丈夫、誰でもできる簡単なことだから。」
キッチンの上にバットを3枚並べて、小麦粉と溶き卵、パン粉を用意した。
「じゃあグレイスはそこのお肉に満遍なく粉をつけてから、この卵の中に入れてってくれ。」
「了解っす!!」
「シアは、グレイスが粉をつけてくれたお肉に卵を絡めて、このパン粉のところに置いてくれるか?」
「うん!!」
「よし、じゃあやっていこう。」
2人が手伝ってくれたおかげで、肉へのパン粉づけもあっという間に終えることができた。これでもう準備はほぼ完了だ。
「はい、ありがとうな2人とも。今日は2人とも頑張ったから、夕ご飯の後で美味しいお菓子を食べよう。」
「もしかして、ケーキっ!?」
「あぁ。」
「やった~っ!!」
「のわぁぁぁっ!?シアちゃん、振り回さないでほしいっす~!!め、目が回るっす~!!」
喜びのあまり、シアは両手で抱えていたグレイスをぶんぶんと振り回す。しばらく振り回されて、解放されたグレイスは目をぐるぐると回し、ふらふらとした飛行でベッドに墜落した。
「さてと、あとはこれを揚げていこう。」
熱したオーリオオイルでパン粉づけをしたオーク肉をカラッと揚げていく。その間にバーバラさんから購入した、パリパリーフというレタスとキャベツを足したような野菜を千切りにしていく。
千切りにしている途中で、パリパリーフを少し味見してみると、レタスのようなシャキッパリッと心地の良い食感で、その味はキャベツの中心部分のように濃厚で甘い。サラダにはぴったりだ。
「サラダはこれで良しと、あとは丼つゆを作ろう。」
鰹節と昆布で出汁を引き、それに醤油と酒と味醂、砂糖で味をつける。これであとはカツが揚げ上がるのを待つだけ。
いい香りが部屋に充満しているせいで、リタのお腹から空腹を知らせる悲鳴が鳴りっぱなしだな。もう恥ずかしがる素振りも見せないし、早く食べたい気持ちでいっぱいらしい。早いとこ仕上げてしまおう。
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