第110話 没落貴族のリタ
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元貴族アサシンを拘束したまま部屋の中に招き入れると、ルカが彼女をさらに椅子に縛り付ける。すると彼女は不満そうな声をあげた。
「は、話を聞くだけですのに、こんなに拘束をする必要はあるんですのっ!?」
「まぁ一応ね。急に飛び掛かってこられたら困るし。私たちの命を狙いに来たっていう点において、そこは納得してほしいなぁ。」
「……わかりましたわ。」
渋々といった様子で彼女は納得すると、コホンと一つ咳払いをした後に、ミカミさんに改めて質問をした。
「それで、わたくしに何の話をさせるおつもりですの?」
「キミがどうして没落貴族なんかになってしまったのか、それが気になったんだ。知的好奇心ってやつだよ。」
「没落貴族になることの何が不思議なんですの?なんら不思議なことではないはずですわ。」
「いや、さっきのキミの話を聞いてた限り、まだキミは自分の御家が完全に没落したとは思っていないようだったからね。御家のルール、規範に未だに囚われてしまっているってことは、そういう事でしょ?」
「…………。」
ミカミさんの言葉に彼女は何も答えられずにいる。沈黙を貫いた彼女の反応をまるで分っていたかのように、ミカミさんは一つ大きく頷いて、話題を切り替えた。
「まっ、見ず知らずの私たちにそれを話すのは流石に抵抗があるか。じゃあ、交流の第一歩としてキミの名前を教えてよ。それぐらいならいいでしょ?」
「……リタ・ヴェイルファーストですわ。」
「じゃあリタちゃんだね。」
「り、リタちゃん……。」
相も変わらないミカミさんのフレンドリーな呼び方に、彼女は少し戸惑っているようだ。
「あら、嫌だった?」
「そういう風に呼ばれた経験がございませんわ。」
「じゃあこれも経験の一環ってことで、キミのことはリタちゃんって呼ばせてもらうね。」
ぽんぽんとミカミさんは彼女の頭を撫でたあと、自分の名前や俺のことについて彼女に話していく。
「リタちゃんも知ってるとは思うけど、私はミカミ。こっちの黒髪男の子が柊君。」
「存じておりますわ。アサシンギルドで今、貴方がたの名前を知らない人間はおりませんのよ。」
「そこがわからないんだけどさぁ。どうして私と柊君って、アサシンギルドでそんなに有名になっちゃったわけ?確かにルカちゃんを返り討ちにして、2度とアサシンとしての活動ができないようにはしたけど~……。」
チラリとミカミさんがルカに視線を送ると、ルカの背筋がぎくりと震えた。無表情を貫いている彼女の顔を冷汗が一粒伝っていく。
「でもそれだけだよ?」
「アサシンギルドの長からすれば、それだけでは済まないのですわ。最強の一匹狼を打ち破られた上、懐柔されてしまった……長からすれば面子は丸つぶれ。アサシンギルドに依頼をする依頼者からの信用を取り戻すために、貴方がたを始末するのに躍起なんですの。」
「ははぁ~ん?なるほどねぇ~。」
「それに長は貴方がたの始末に成功したアサシンを次代の一匹狼にすると宣言しております。」
「じゃあリタちゃんは、次代の一匹狼っていう称号が欲しくて私たちを狙ってるんだ?」
そのミカミさんの質問に、彼女は少し答えに詰まりながらも言葉を絞り出した。
「そう……でもありますし、そうではないとも言えますわ。」
「それはどういう意味?」
「別にわたくしは一匹狼の称号が欲しいわけではありませんわ。わたくしが欲しいのは、ヴェイルファースト家を再興するための資金。アサシンギルドなんかの称号に興味はありませんことよ。」
その答えを聞いたミカミさんは、一つ大きく頷きながらも、ルカに視線を送った。すると、ルカはフルフルと首を横に振る。
「その~、更に質問なんだけど、御家を再興するための資金は一匹狼になってからの稼ぎで集めるつもり?」
「もちろんですわ。一匹狼になれば莫大な報酬金がもらえることは、アサシンギルドの誰もが知っていることですのよ。」
「そっか、そうなんだね。」
彼女の話を聞いて、ミカミさんは悲しそうな表情を浮かべながら、ルカがどんな環境でアサシンギルドで働いていたのかを彼女に話した。
「リタちゃんは知らなかったかもだけど、ここにいるルカちゃんは毎日金貨1枚っていうお小遣いで一匹狼としてお仕事をしてたんだよ。」
「は、はぁっ!?そ、そんなわけありませんわ!!だって……だって一匹狼に舞い込んでくる依頼の報酬金は……。」
「ほとんどが長と重役の懐に入る。私がこうしてメイドとして働いているのも、ご主人様たちの金払いと……食事が美味しいからだ。」
「そ、そんな……じゃあわたくしの目的は…………アサシンギルドにいる意味は…………。」
「まっ、残酷な話だけど、これが真実だよ。アサシンギルドの長って人に何を吹き込まれたのか知らないけど、キミの再興っていう夢はそこじゃ叶わない。」
すでに絶望していた彼女に追い打ちをかけるようにそう告げたミカミさん。それがトドメとなったようで、彼女はがっくりと肩を落とし、しばらく何も喋らなくなってしまった。
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