第109話 元貴族アサシン再来
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ミルタさんとの初めての取引を無事に終えた後、彼は満足そうにニコニコと微笑みながら、俺達に深々と頭を下げてギルドを後にした。何やらこの後に行かなければいけない場所があるらしい。
それをドーナさんと一緒に見送ると、やれやれとドーナさんがため息をついた。
「いっつもアイツは忙しそうだねぇ。まっ、でも今回はだいぶ長く留まった方か。」
「いつもはもっと早くギルドを後にするんですか?」
「あぁ、ささっと注文の品を聞いて、ちょっとアタシと世間話をしたら行っちまうよ。」
「やっぱり商人さんだから忙しいんだろうね~。」
ミルタさんを見送った後で、また席につくとミカミさんが今日の売り上げを数え始めた。
「え~……今日の営業の売り上げは~金貨が28枚と、大銀貨が3枚、銀貨が6枚だね。新しいサービスを導入した分ちょっとだけ売り上げは予想よりも落ちちゃったかな。」
「でも全然いい方じゃないですか?原価以上に稼げてはいますし、それに加えて、予約注文分の売り上げもあるんですよね?」
「もっちろん、予約注文の売り上げはスゴイよぉ~?今回はホールケーキだけの注文を受けたけど、総計68個の注文が入ったんだ。」
「え゛っ?そ、そんなに?」
「うんっ!!大人気も大人気だよねぇ~。その額なんと、金貨34枚だよ。この予約注文の金額と今日の売り上げを合わせれば~……なんと金貨62枚!!大儲けだよ~。」
「でもこれからその予約注文の対応が大変ですね。68個ってなると昨日以上に仕込みに追われる気がします。」
「むっふっふ~、柊君を一人にしたりはしないよ?私もケーキがどんな風に盛り付けられているのかは、ちゃんと頭の中に入ってる。だから盛り付けぐらいなら手伝えるよ。調理の人数が2人に増えれば効率も2倍でしょ?」
「ですねミカミさん。」
「さっ、そういうわけで、帰ったら明日の準備をしよ~っ!!」
ミカミさんにぐいぐいと手を引かれて席を立たされると、去り際にドーナさんに呼び止められた。
「あっ、ちょっと待ちなヒイラギ。」
「へ?なんですかドーナさん?」
「これ、ヒュマノファイトの正式な日程が決まったから、渡しとくよ。」
そしてドーナさんがこちらに手渡してきた紙には、出場者ヒイラギと名前が書いてあって、そのほかにも大会の開催日程や、受付番号などが書いてある。
「ヒュマノファイトは30日後……1日目は予選で参加者総当たりのバトルロイヤルで決勝戦に進む4人を決める。で、2日目は決勝戦トーナメント方式で優勝を競い合うってわけだ。」
「意外と日程はぎゅうぎゅうなんですね。」
「今回が異例なんだよ。本来は決勝戦まで3日間の休息期間があるんだけど、今回のヒュマノファイトは休息もほぼ無い状態で戦わないといけない。」
「ほへ~、まっ、柊君なら大丈夫でしょ。絶対優勝だよ。」
「おっと、優勝の前にアタシがいることを忘れてもらっちゃ困るよ?」
「んっふっふ〜、ドーナちゃん。柊君はまだまだレベルアップの見込みがあるんだよ?今日帰って予約注文の分のケーキを全部作ったら、明日からはレベル上げに勤しむのさっ!!」
「まっ、30日で上がるレベルなんて高が知れてると思うけど……期待しとくよ。」
何故か俺とドーナさんが火花を散らすのではなく、ドーナさんとミカミさんが火花を散らしているこの現状に思わず俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
それからギルドを出て少し買い物をしてから宿に帰ると、ちょうど部屋の前でルカが見覚えのある人物を麻縄で縛り上げていた。
「あ、おかえりなさいませ。」
「ありゃ、ルカちゃんその子は……。」
「先日夜道で我々を襲ってきた元貴族のアサシンです。あれに懲りずにまた襲いかかってきました。」
そう言いながらルカがぎゅっと手にしている縄を強く引っ張ると、拘束している縄が強く締まり、元貴族のアサシンは潰れたカエルのような声を上げた。
「ふぎゅぅっ!?」
「今回はまだ意識があるんだ……。」
「気を失わせてしまったほうがよろしかったでしょうか?」
「あぁ……多分その方がその子のためになったかも。」
「ふむ、では次回からそのように致しましょう。……それで、今回の処遇はいかが致しましょうか?」
「う〜ん、どうしよ。一応前回結構な恥辱を味わってもらったと思ったんだけどなぁ。」
「くっ……あ、あの屈辱は忘れませんわッ!!」
「忘れませんわ〜って言ってるけど、また捕まっちゃったら同じような目に遭うとは思わなかったの?」
ミカミさんがそう問いかけると、彼女は少し悔しそうな表情を浮かべた。
「わ、わたくしの御家のルールに、負けた相手には勝つまで挑めというルールがあるのですわ。」
「ふぅ〜ん、元貴族なのに、お家のルールをちゃんと守ってるんだ?」
ミカミさんのその言葉で、彼女は痛いところを突かれたようで、表情が少し落ち込んだ。
「元貴族って話を聞いた時に、訳ありなんだな〜っては思ってたけど、想像以上に何かを抱え込んでるみたいだね?」
「あ、貴女には関係ありませんわ。」
「話したらスッキリすると思うよ〜?アサシンギルドで働かなきゃいけなくなったのも、それが関係してるんでしょ?」
今回は珍しく親身になって彼女の話を聞き出そうとしているミカミさんは、縛り上げられた彼女を俺たちが借りている部屋の中へと招き入れたのだった。
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