第4話 良いことをしよう〜猫を助ける〜
ブックマークありがとうございます。
12月14日追記:タイトルを変更しました。
子供の足元には一匹の猫が横たわっていた。見るからに衰弱していて、息もするのも辛そうだ。
子供は泣いていて何も言わないので、仕方ないから俺から尋ねることにした。
「ソレは君の飼い猫か?」
子供は首を振る。その子はポツポツと話し始めた。
「公園に来たら……この子が倒れていて……どうしたら良いかわからなくて」
「ふむ」
この子供はまだ5歳くらいか。目の前の問題に対処することができなくても仕方がない。
俺は膝をついて、その子供と目線を合わす。
「……わたしのお家じゃ飼えないから……わたし、何もできなくて……」
「なるほど。大体わかったよ」
俺は猫の胴体に手を添える。そして子供に気づかれないよう、そっと魔術を発動する。
『解析』魔術。対象のステータスを調べる魔術。魔法の精度が高ければ、対象がかかっている病気なども分かる。
猫がかかっている病気を把握した後、次に俺は『治癒』魔術を発動させた。魔力を猫の体に流し、内部の傷を癒やし、体内の病原体を排除する。
「え……」
子供は驚きの声を上げる。
猫の呼吸は正常に戻り、回復したのは一目瞭然だった。
そのまま俺は猫を両手で抱える。
「1日休めば完全に回復するだろ。それまでは俺が預かっておく。元気になったら冒険者ギルドにでも行って飼い主を募集するよ」
「うん……」
子供の顔は冴えない。申し訳なさそうに目を伏せている。
「わたし……ただ泣いているだけで……オロオロしているだけで……何もできなかった」
「そうか? 少なくとも君がこの猫に気がついて立ち止まっていなければ、俺も猫に気が付かなかったぞ」
俺がこの場に来たのは、この子供のことが気になったからだし、猫の存在には全く気がついていなかった。
この子がいなければ俺はそのまま帰っていただろう。
「君が行動したお陰で俺は気づいたし、猫も助けることができた。何も恥じることはない」
「うん……ありがとう、おじさん」
「どういたしまして。あと、お兄さんな」
確かに今は変身魔術で姿を変えて、多少は年老いた男の姿にはなっているけど。
子供は手を振り、その場を去っていく。
俺も手を振りかえして別れた。
……そして、夜。自室の一角に、猫用の寝床を作った。
俺はベットに寝そべり猫を見ていた。毛布に包まれた猫は気持ち良さそうに寝息を立てている。
良いことをした、と俺は思った。
だから何だ、という話でもある。
今回の行動によって、俺に何か心理的な変化が起こる訳でもない。明日も今まで通りの日が続くのだろう。
……俺が捕まるまでは日々が続く。
「寝るか」
明日は猫の飼い主を募るために冒険者ギルドに行こう。
魔術で表記は統一していますが深い意味はありません。
次回はようやくヒロイン(?)が登場します。