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最終話その2 檻から出たある日のこと

今回が最終話となります。

視点はエドルスが収監された監獄の看守(新キャラ)になります。

 目を覚ましてベッドから身を起こす。あまり眠れなかったので頭が重い。

 なにより気も重かった。

 罪人の処刑に立ち会う日はいつもこうだ。王国の監獄の看守に配属されてから時も経つが未だに慣れない。いや本音を言うのならば少しは慣れているのだが、慣れていることに抵抗を感じる。

 人の死に立ち会う。贖罪という名がつく死に立ち会うのは気が重い。

 私は身支度を終えて家を出る。家を出る際は自分に魔術をかけて周りから自分の姿を見えなくする必要があった。

 私が向かう監獄は一般には存在を秘匿されている。収監されている囚人も一般には知られていない、または既に死んだとされている人物ばかりだ。

 その内の一人の刑が今日執行される。


 罪人の名前はエドルス・ファリカといった。


 彼が監獄に収監されてから55年。彼が魔術師としてもたらした恩恵は数え切れない。全ての成果に彼の名前は残らないが、彼が与えた技術で魔術は更に進歩をとげた。多くの呪いの解綬方法も見つけ、多くの街、沢山の人を救った。危険なモンスター討伐にもかり出されて多くの貢献を果たしている。

 しかし彼の罪は許されず今日死ぬことになる。

 彼の処刑が執行されることは、彼の罪だけが原因ではないと私は考えている。彼が持っている魔術の知識ごと、彼を消してしまいたいと考えている人間が上層部にいると疑っている。とくに彼が所有している『転生魔術』の知識を闇に葬りたいのだ。

 彼の死には様々な要因が絡まっているのだと思う。

 ……だが私は死刑の執行に反対はしない。

 彼が自分の処刑を望んでいるからだ。


 牢獄の中に一人の老人がいる。弱々しく枯れ木のような印象の老人だ。

 彼がエドルス・ファリカだ。収監された当初は厳重に体を拘束されていたが、彼の功績が認められたことにより、少し前に彼への拘束器具は緩められることになった。牢の中には幾つもの魔術が施されており、この中では彼は無力な老人でしかない。

 牢の中で彼は主に『イディラ教』の教本を読むか、一心に祈りを捧げていた。慰問に来る教会の牧師と熱心に話し込むこともあった。そのとき彼は涙ぐみ、時には泣き叫んで自分の罪を懺悔したと聞く。

 年々、彼は老いて、自分の罪を懺悔する機会が増えた。

 弱くなったと私は思わない。

 今日も彼は祈りを捧げていた。祈りが終わった瞬間を見計らい私は声をかける。


「……出ろ」


 彼は振り向いて頷く。

 私が何も言わなくても「今日がその日なのだ」と分かったのだろう。



◇◇◇◇

 私たちは監獄の外にある庭にいた。もちろんエドルスは厳重に魔術と鎖で拘束されている。

 最後に何かしたいかと尋ねたところ「空を見たいです」と申し出があったからだ。

 エドルスは何もせずに、ずっと空を見上げている。いくら見ても飽きないとでも言うように熱心に。


「……空なんて見て楽しいか?」


 と私は思わず尋ねた。

 彼は頷く。


「楽しいですよ。とてもキレイだと思います。昔を思い出しますね……」


 彼はどんな人間にも丁寧な口調で話す。


「看守さん。私なんかにそんなことを思う資格なんてないのは重々承知していますが……私は空がキレイだと思います。キレイだと自然に思えたことを嬉しく思います。以前の私はただキレイなモノが憎くてたまらないと思う人間でしたので」


「…………」


「昔わずかにあった自由の時間もキレイだったと思い返すことができます。そう思うことが嬉しいと思います」


 それから彼は黙って空を見上げていた。私も彼に倣い空を見上げようと思い視線を上げる……その途中で何かがよぎった。一匹の猫が視界に映ったきがした。

 しかし気のせいだったのか中庭には私たちと警備の者以外は誰もいない。

 私も彼と一緒に空を見上げることにした。

 空がキレイだと私も思った。


 時間になり彼の肩を叩く。

 最後の自由の時間が終わった。

 このあと彼は処刑場に連れて行かれる。私も立ち会うが直接話すのはこれが最後の機会だ。

 何か彼に話したいと思う。しかし死に向かう彼に言葉をかけようとするのは私の我が儘ではないかと躊躇ってしまう。ただ……やはり何か話してみたいとも思った。


「……お前とも長い付き合いだったな」


 と私は偉そうに言う。エドルスは頷いて頭を下げた。


「ええ。お世話になりました……」


「……お前を覚えておくよ」


 と私は言った。別に彼だけにかけている言葉ではない。処刑される罪人に毎回かけている言葉だ。

 エドルスは眩しそうに目を細める。なぜか泣いているように見えた。

 彼は「ありがとう」と呟いた。


 ……そして彼は連れて行かれて刑が執行された。

 罪人エドルス・ファリカはこうして死んだ。

 結果だけ見れば、それだけのことである。

 ただ彼が存在してしまっていたことを覚えている。 

 彼は確かにいたのだと思う。


 外に出て、もう一度空を見上げる。

 清々しい青空だった。




これで完結です。

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