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最終話その1 はじまり

いいね、ありがとうございます!


 スローライフという名の逃亡生活が終わり、指名手配犯エドルス・ファリカ――俺は王国騎士団に捕らえられることになった。アルカを殺してシスターを救ったあと、俺は騎士団に自首したのだ。

 そして俺の逮捕の数週間後、俺は処刑されたと国民に伝えられた。

 しかし俺はまだ生きている。


 頭上の灰色の天上を俺は眺めている。体は鎖で何重にも固定されているので動かせるのは首くらいだ。

 王国の監獄の最下層。幾つもの魔術防壁が施された牢獄に俺はいた。

 世間では俺は死んだことになっているが、実は秘密裏に活かされている。俺に施された転生魔術は俺の死亡後に自動的に発動する。しかも転生先は俺にも分からないので、誰か関係の無い人間に乗り移る可能性が高い。

 騎士団は俺を殺せなくなった。

 俺の中にいる仲間6人の魂。彼らが消滅し、転生するためのエネルギーがなくなるまで。

 彼が自然に消えるのは大体50年くらいだと思う。それまで俺は生かされている。

 残りの50年。俺は騎士団に拘束され、王国のために使われる。常に体は拘束され、俺の要望など何一つ受け入れられないだろう。そして50年経てば晴れて処刑される。

 俺はこの結末に不満などなかった。俺にはもったいないくらいの結末だと思う。


 こんなことを考えるのはグレイドと話したからだろうか。

 牢獄にぶち込まれた日。最後に彼と話しをした。

 「君は償いをするのか?」という問いに俺は頷いた。

 彼は「そうか」と言った。


「君は優秀な魔術師だ。これから君は王国のために使われることになるが、君は多くの成果を王国にもたらすことになるだろう。それは償いとして充分過ぎるものかもしれない。

 ……だが私たちには意味のないことだ。君がこれから先、どれだけ良いことをしようと、被害を受けた人たちには何の意味もない。だが君は償いをする義務がある……しなければならないんだ。分かるな?」


「努力するよ」


 と俺は答えた。

 彼は頷いた。


「……君とこうして話すのは最後にしたい。個人的にも君が嫌いだし、君だけに手を煩わせたくもない。だから最後に確かめたいことがある」


 と彼は一冊の手帳を取り出した。

 見覚えのある手帳だった。

 ……俺の父親が使っていた日記帳だ。


「この日記に書かれていたことは本当にあったのか?」


 とグレイドは尋ねてきた。

 一瞬、言葉につまる。体が震えるのが分かった。

 たった一言。それだけで地下室に閉じ込められていた子供に戻った気がした。

 俺は頷くことしかできなかった。


 グレイドは何かを言いかけて、口を閉じる。

 代わりに彼も頷いた。


 少し間が空いて彼は再び口を開いた。


「……私は君を許したりしない。誰も君を許さない。君にどれだけ悲惨な過去があったとしてもだ。そんなものは私たちには何の意味もないことだ。

 ……だが君が経験したことも確かにあった……あったんだな」


 彼は自分の剣を取り出して日記を放り投げる。

 一閃。

 彼の魔術を組み込んだ剣術により日記帳はあとかたもなく消え去った。


「じゃあな。顔を合わせることはもうないだろう」


 と彼は背を向け去って行く。


 ……この日。初めて。本当の意味で。

 俺は『償いをしなければ』と思えた気がする。



◇◇◇◇

 そしてもう五年も経つ。

 俺は今日も灰色の天上を眺めている。時々、王国の要請で働く以外はずっと閉じ込められている。

 時折あのスローライフの日々を思い返す。

 ほんの数ヶ月。自分のために生きた。自分のために生きることができる、そんな選択肢があることを知ることが出来た。

 それだけで充分だった。


ありがとうございました!

次回で完結です。

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