第27話 執着の終わり
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前話では魂の消滅タイミングが数秒後となっていましたが数分に修正しました。すみません。
いつの間にか雪が降っていた。
騎士団隊長のグレイドは大きく息を吐く。彼もエドルスに同行し都市ローヴェールにやってきていた。
都市の外れには既にエドルスの居場所をつきとめた騎士団と、騎士団のゴーレムが待機していた。グレイドは作戦指揮を執る隊長に話をつけてきたところだった。
エドルスをまだ捕まえるのは待っていて欲しい、と。
話を付け終わった後、彼は教会近くの公園で待機している。
彼の側には銀髪の女性が立っている。彼と契約した悪魔レノンである。彼女は教会がある方向を見つめていた。
グレイドはふと疑問に思ったことを彼女に聞いてみたくなった。
「レノン。お前の目的は結局のところ何だったんだ?」
「最初に言ったとおりですよ。彼の結末に興味があるんです」
グレイドは更に踏み込んだ質問をすることにした。
「なぜ興味を持つ? そう思うようになったのは何故だ?」
レノンは一度考え込んで口を開く。
「……さぁ。深く考えたことがなかったんですけど……。私なりの反逆かもしれません」
「反逆。何に対して?」
レノンは上を指さした。
「天に住まう女神や神達に対して。彼らの元に迎え入れられる魂は、彼らの気に入った善人だけ。基準からもれる人間は必ず存在する。マスター……エドルスもそうでしょう。
その上で彼が何か……何でも言い。価値を示してくれるのを見たい」
彼女の言葉の真意は分からなかった。
代わりにグレイドは別の質問をすることにした。
「彼はどうなる、と思う?」
レノンは質問に答えず逆に尋ねてきた。
「アナタは彼をどうしたいんですか? 彼の処遇を決める権利がアナタ達にはあるはずだ。この先どうするか、について」
グレイドはもう一度大きく息を吐く。
「先、か。確かにそうだな。私にも彼にも先はある……。私はせめて彼には良いことをしてもらいたい、という気持ちはある。償いをしろ、と言うワケじゃない。そんなものは何の意味もない。償いとは関係なく、彼には善人であろうとする義務があると私は思う……のか?」
彼自身にも明確な答えはなかった。明日には今の答えは変わってしまうのかもしれない。
だがせめて考えて、言葉にして、彼にぶつけることはできた。
納得とまでいかないが、十分な結末かもしれない。
レノンも「そうですか」と少しだけ笑う。
グレイドは思う。
私たちには先がある。自分にも彼にもどうしようもなく存在する可能性だ。
彼にも……未来は存在してしまっているのだと。
◇◇◇◇
血が教会の床に飛び散る。エドルスが吐いた血が床にしみをつくる。
アルカの剣がエドルスを貫いていた。心臓を一突き。
勝負は一瞬だった。アルカは素早くエドルスとの間合いをつめ、剣でエドルスを貫いた。エドルスは魔術を発動しようとしたが、間に合わなかったのか何も起こらなかった。
アルカはエドルスの胸から剣を引き抜く。
エドルスはそのまま床に倒れ込んだ。
間違いなく死んでいた。
「こんなものか……?」
何か策があるものだとアルカは考えていた。自分を消滅させる作戦を練ってきたのだと。
それで自分が消滅するのなら、それはそれで悪くない結末に思えた。
……アルカは転生を繰り返し1000年以上も生きている。流石に生きるのにも飽きている。いつ本当に死んでも良いとさえ思っている。
しかし、その上で他者を搾取し生きながらえている。
他人の命をゴミみたいに消費して自分のような存在が生きながらえている。他人の価値を貶めることに喜びを覚えている。そのため今も生きている。
「お前もつまらなかったな……。折角だ。魂はもらっておくか」
そこでアルカは異変に気づく。
エドルスの魂が見当たらないのだ。魂は肉体(入れ物)が破壊されれば数分後にはこの世界から消滅する。自分のエネルギーとして使うためには消滅する前に回収する必要がある。
「もう消滅したのか……いや――」
消滅したのではない。
――転生は肉体の死亡後に起きる現象だ。人格や経験といった情報そのままに、別の肉体に入り込み、再び人としての生を活動する。
そして転生は一度だけなら望んだ肉体へと転生できる。
瞬間、王国祭祀場での戦いがアルカの脳裏によぎる。転生魔術が奪われる直前にアルカは自害し転生した。その際のエネルギーとして死亡した騎士達の魂を回収した。
他の死亡した人間達……エドルスの仲間達の魂は回収できなかった。
あの時。転生魔術を奪われる瞬間に魔術を無理やり発動した。意識はエドルスとつながっていた……!
エドルスを殺してから、たった数秒。
アルカは油断し、そして思考した。
ほんの小さい隙。
教会の扉の方向から、魔術の矢が飛んでくる。魔力で形作られたエネルギーの塊だ。
肉体には一切ダメージを与えない。代わりに当たった人間の魂を確実に攻撃する。
矢はアルカの肉体を貫いた。
アルカは床に倒れ込む。視界には教会の扉……そこに立っているエドルスが映っていた。
◇◇◇◇
王国祭祀場での戦い。
俺はアルカの転生魔術を奪うことができなかった。俺が魔術を奪いきる前にアルカは自害し、自ら転生魔術を発動したからだ。
しかし。あのとき俺とアルカの意識は混線していて、アルカの魔術発動につられて俺にも転生魔術が発動していた。
王国祭祀場で死んだ騎士団の魂はアルカに。そして死んだ俺の仲間たち7名の魂は……俺の中に入った。俺の中に何かが入り込んだ感覚があったが、その正体は俺の仲間達の魂だった。
転生魔術は使用者が死んだ瞬間に自動的に発動する。そして一回だけ転生先の肉体は自ら選ぶことができる。今の俺の肉体は魔術で造ったモノだ。俺と同等のスペックを持つ特注品で、ダンジョンの材料を用いて作製した。
アルカに殺される瞬間に魔術の発動が気取られないよう細工し、あとは殺されるのを待つだけ。殺された後は教会の外に置いておいた肉体に乗り移る。魂が入っていない肉体はただのモノなので、転移するまではアルカにも気取られない。
俺が殺されたあとアルカの油断を誘い、その隙をつく作戦だった。
俺はアルカに近づく。俺が放った魔術は肉体ではなくアルカの魂を攻撃するものだ。
アルカの魂はもうすぐ消える。アルカの中にいた騎士や事件の被害者の魂も解放される。
俺を見てアルカは言った。
「……お前の中に残っているのはあと何人だ?」
「今ので一人いなくなった。まだ6人いる」
アルカの場合は転生した魂を定着させるために大量の魂が必要で、更にエネルギーとして消費される魂には意識があり、魂は苦痛を味わうことになる。これはアルカが転生を繰り返してきたことにより、転生に必要なエネルギーが増加した事が原因だ。
俺はまだ一回しか転生していない。先ほど消費して消えた魂一人分で、俺の魂は完全に定着している。この先また転生しない限りエネルギーは消費せず、残った仲間達の魂に余計な苦痛を与えずにすむ。
俺は話を続ける。
「俺の中にいる仲間達の魂はいずれ自然に消滅するだろう。あと……50年くらいか?」
俺がそう言うとアルカは笑った。
「なるほど。その50年がお前の猶予というわけか」
俺は頷く。
転生魔術は俺の死亡と同時に発動する。しかも二回目以降の転生先は俺も予想ができない。無関係な人間の肉体を奪うことになるだろう。
騎士団は簡単に俺を殺せなくなった。
俺は……。
「このあと俺は自首して騎士団に捕まることになるな。50年後に死刑になるまでは……まぁ、良いことをしてみよう」
「……そうかよ。ツマラナイ答えだな……」
アルカの声はどんどんと小さくなっていく。
「俺は死ぬのか。死んだら……女神のところへと行けるのか?」
「仮にあってもお前は行けないだろ。罪人が行く『罪の国』って所じゃないか?」
「……それでいい。どこにも行けないよりはずっと」
その言葉だけは同意できた。
そしてアルカの魂は消滅した。
ようやく戦いが終わった。
しかし簡単に俺の人生は終わってくれない。
残念ながら先がある。
どうせどうしようもない人間だし、この先に素晴らしいモノは何もないけれど。
せめてマシな事をしてみようと思った。
取りあえず戦いは終わりました。
あと2話の予定です。
ありがとうございました。




