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第26話 良いことをしよう2

いいね、ありがとうございました。

投稿が遅れてしまいました。よろしくお願いします。

※今回の話で言及している殺人事件は9~11話の時の話です。

 

 俺は元々の拠点としていた都市ローヴェールに戻ってきた。

 荷物を家に置いた後、一人で目的の場所へと向かう。

 外は冷え込んでいたが街の中は人で賑わっている。通りは露天で賑わい、多くの人が笑っている。

その中を俺はひたすらに歩いた。徐々に人が少なくなってきて、目的の場所が見えてきた。

 街の外れにひっそりと佇む教会。俺は教会に入る前に墓地へと寄る。

 この都市で出来た友人の墓があった。冒険者アッシュ。

 かつては罪を犯した人間で、『悪人を滅ぼす』という信念にかられた騎士に殺された。その騎士はアッシュの他にも二人の罪人を殺して、今はもう裁かれ牢の中だ。

 ……ただ裏を引いていた人間がいる。

 俺は墓場から離れ教会の方へと向かう。扉は開いていて中へと足を踏み入れた。


「――おや」


 教会の中はしんとしていて、俺以外に来客はいないようだった。奥の方にある祭壇の側にシスターが一人立っているだけ。そのシスターが俺に気がついて近づいてくる。


「珍しいですね。こんな夜分に。どうかされましたか?」


「いや。なんとなく来ただけ。迷惑か?」


「まさか。教会はいついかなる時でも門戸を開いています。歓迎しますよ」


 シスターはにこりと笑う。

 背の高い人間の女性だった。薄暗い教会の中でも目立つウェーブがかかった金髪、真っ赤な瞳。

 こうして目の前で会ってみると、どこか雰囲気は似ているなと思った。


 どうやって切り出そうかと思ったが面倒なので直接問いただすことにする。俺は自身にかけていた変身魔術を解いて元の姿……指名手配犯のエドルスの姿になる。

 

「アンタのことは何て呼べば良い? アルカで問題ないか?」


 と切り出すと空気が張り詰めるのを感じた。目の前のシスターから発せられる殺気だ。

 シスター……アルカは暫くして、にやりと歪んだ笑いを浮かべた。


「ん? どういう風の吹き回しだ。この数ヶ月、俺のことを放っていたくせに」


 その問いに俺は完結に答えることにした。


「気が変わったんだ」


 俺の答えを聞いてアルカはますます笑った。腹をよじって笑い声をあげる。


「あっはっはっは! そうかそうか。悪くない答えだ……! 身構えるなよ」


 アルカは笑って長椅子に腰掛け隣を指さす。


「座れよ。少し話そうぜ」



◇◇◇◇

 アルカは椅子にふんぞり返って座っている。身長が高いからか妙に様になるポーズだ。

 俺は距離を開けて、隣の長椅子に腰掛ける。

 既に俺も変身魔術を解いて本来の姿に戻っている。

 もう隠す必要は無い。


「……さてと。まずはそうだな。まずは『どうやって俺の正体に気がついたのか?』について話そうぜ」


 俺も話に付き合うことにした。

 

 ――アルカと俺が戦った日。アルカは俺に殺される直前に自害して転生魔術を発動していた。だから転生している可能性も考慮していた。しかし転生魔術の発動は不完全で、転生先の準備も足りていなかったはずだ。

 転生したアルカの魂は、既に他の魂が入っている肉体に乗り移ったということもあり得ると思っていた。このシスターの肉体にアルカの魂が憑依したのだろう。

 そして転生した魂には維持するためのエネルギーが必要だ。アルカはエネルギーを俺たちに殺された騎士12名、非戦闘員2名の計14名の魂で補うだろうが、それだけでは足りないはずだ。

 エネルギーとしての魂を追加で調達する必要があると予測もしていた。

 そこで街で罪人達が殺害される事件が起きた。転生し続けてきたアルカはエネルギーを罪人達から調達していたので条件とも合致する。

 この事件が起きたときアルカが絡んでいそうだとなんとなく思っていた。


 ……そこまで話すとアルカは笑った。


「なるほどな。で、この女が俺の転移先だということはどうして分かった?」


 俺は話を続ける。


 ――俺の『解析魔術』なら相手の情報を調べることができる。殺人事件が終わった数日後、俺は気づかれないようにシスターに解析魔術を使用し、シスターの中にアルカの魂がいることも気づいていた。


「俺に解析魔術を使用したってことはある程度は当てが付いていたってことだよな? 街中の人間を片っ端に調べるのは流石にムリだろう?」


 アルカの問いに俺は頷く。

 この都市は人が多い。解析魔術は一回につき一人の人間にしか使えないので、街中の人間を調べようと思えば何年もかかるだろう。

 ある程度は当てを付けて調べる必要は確かにあった。

 そして罪人殺しの真犯人は教会関係者なんじゃないかと俺は思っていた。


「何故だ?」


 アルカはにやにやしながら質問してくる。


 ……真犯人がどうやって被害者達の情報を手に入れたか、に俺は注目した。

 実行役でもあった少年騎士。彼は罪人達を見つけ出し殺した。しかし被害者の一人でもあるアッシュは罪を周りに隠して生きてきた。他の被害者達も同様に自分の正体は隠してきたのだろう。

 少年騎士はどこでその情報を手に入れたのか? 彼と戦った後、もちろん俺は彼を解析魔術で調べようとした。しかし……『どこで情報を手に入れたかに』ついては脳に強力な防壁が施されていた。俺の解析魔術を妨害する魔術だ。無理やり調べようとすれば、おそらく俺が真実を調べきる前に少年が壊れてしまうだろう。

 可哀想なので少年を調べるのは止めた。

 アルカはまた笑う。


「あの可哀想な少年か。確かに彼に罪人達の情報を渡したのは俺だよ、うん。だが彼に情報を渡したのが俺だと気づいたのは何故だ?」


 別に。なんとなく予想しただけだ。

 被害者である罪人達は自分の罪を隠して生きてきた。

 しかしアッシュは俺に自分の素性を明かしたこともあった。

 ……自分のことを知ってもらいたい、自分にだって考えていることがあるのだと誰かに認めて欲しい。そういう欲求はある。

 そして教会は自分の罪を打ち明けるのには最適な場所だ。


「お前の推測は合っているよ。三人とも俺が悩みを聞いてやったんだ。アイツらは自分の罪をちゃんと告白したぜ。この意味が分かるか?」


「――彼らは殺されても仕方が無い人間だった、とか?」


 俺の答えにアルカは両手をあげる。


「俺はそう思わないが、そう思う人間はでてくるだろうな」


 コイツ嫌いだわ、と俺は思った。



◇◇◇◇

 アルカとの話は続く。


「しっかし、お前も分からん奴だな。俺の正体はとっくに知っていたんだろ? それなのに今まで放っておいた理由は何だよ?」


 アルカの問いに俺は答える。


「……戦っても勝ち目がないからな。アッシュが殺される原因を作ったのはアンタだが……実行役は懲らしめたから、と納得することにした。それにアンタの中にアッシュの魂はないようだし」


 転生者は魂を肉体に固定するためにエネルギーが必要で、そのエネルギーには他の魂を必要とする。エネルギーとしての魂には意識があり、消費されるあい間は苦痛を伴う。

 だが解析魔術で調べたアルカの中にはアッシュの魂はなかった。転生するときに使った騎士12名と他の被害者2名の魂だけ。


「そうそう。その……アッシュ? という奴の魂は回収し損なってな。肉体から離れた魂は数分で消滅するから、その前に回収しないといけないのに、アッシュの殺害時は街で火事があって近くに行けなかったんだ」


「みたいだな。勝てる見込みはなかったから放っておいたんだ」


「ふーん。じゃあ今は勝てる見込みはあるってことか?」


「試してみるか?」


 と俺が返すとアルカはくっくっくと笑った。

 次の質問を待ってみたがアルカは何も言ってこない。なので今度は自分から質問してみることにした。


「俺からも質問良いか? お前の方こそ何でまだこんな教会にいる? 王国に戻れば良いじゃないか?」


「まだ俺の力は完全には戻っていないんだ。王国内には俺を邪魔に思うヤツも多くてな。ノコノコ戻れば殺される危険性もある。今はこの地に隠れて色々と準備しているんだよ……。お前が『監視』していたせいで魂は回収できなかったがな」


 アルカの指摘通りではある。

 コイツがまた人を殺さないように魔術で監視はしていた。

 住民を守る義理は俺になかったがしないのも寝覚めが悪かった。

 アルカは呆れたように溜息をつく。


「俺も大概だが、お前も半端な対応だなぁ」


「別に。本腰入れて、お前から住民を守る義理は俺にないしな」


 アルカは納得したのかしないのか、頷く。

 俺はもう一つ気になったことがあったので質問することにした。


「もう一つ質問いいか? 何故その女性の肉体に乗り移った?」


「さぁな。正直なところは俺にも分からん。転生魔術も万能じゃない。望んだ肉体に転生できるのは一度だけで、回数を重ねるごとに転生先は俺にも分からなくなる。

 だが俺の血縁が選ばれる可能性は高くてな。200年前くらいか……俺が『アルカ』じゃなかったとき、とにかく子供を作ってみたことがある。管理が面倒で途中で止めたんだけどな。この女はそんときの子孫だろう」


 ……カスな告白の中に重要な情報が入っていたな。『望んだ肉体に転生できるのは一度だけ』。

 まぁとにかく。


「俺も聞きたいことは聞けた。ありがとな」


「どういたしまして」



◇◇◇◇

 

 色々と確認が終わったので本題にようやく入る。

 先にアルカが話し始める。


「……で、だ。結局、お前は何にしにきたんだ?」


 会話でのだまし合いは苦手なので俺は正直に答えることにした。


「――お前を倒して、シスターを助けに来た」


 解析魔術で調べたところ、シスターの肉体にはアルカの魂とシスターの魂の二つが入っており、現在はシスターの意識はアルカに乗っ取られている。

 このままではいずれシスターの意識と魂は消滅してしまうだろう。


「エドルス。なんでお前がやるんだ?」


「アンタはいちおう王国の英雄だ。騎士団の連中に任せたら、あとあと面倒なことになるだろう。それに比べて俺はただの犯罪者。お前を殺して俺が捕まれば何の後腐れも無い」


 俺の答えにアルカは首を振る。


「違う違う。何で今さら、そんなことをする気になったのか? と聞いているんだよ」


 アルカは立ち上がり俺の側に近づいてきた。


「今さら罪の意識に目覚めたか? 良いことでもしようと思っているのか?」


「…………」


「……なぁ。エドルス。俺から助言をしてやろう。ここは教会。悩める人間を導くには相応しい場所だしな」


 アルカは俺の正面に立って言う。


「罪の意識なんて捨ててしまえ。あるだけ無駄だ。悪いことをした人間には罰が必要だ、なんて考えも捨ててしまえ。

 罰なんて存在しない。そんなん運の悪い弱者が考えだした幻想だ。全ては結果でしかない。生きるべき奴が生きて死ぬべき奴が死ぬだけだ。そして俺たちは生きていて、俺たちが殺した人間は死んだってだけ。

 『何かをするべき』なんて思考は不要だ。俺たちは思うままに生きれば良い」


「思うままに、か」


「そうだ。俺はお前のこと気に入っているんだ。俺と来いよ。罪とか罰とか気にせず好きに生きようぜ」


 アルカは俺に手を差しのばす。


 俺の答えは決まっていて、自然と口に出てきた。


「誘ってくれるのは嬉しいけど。悪いな。やっぱりアンタを倒すことにする」


 アルカは手を引っ込める。

 俺は立ち上がってアルカと向き合う。


「それに償いをするべきだと考えていない。俺は自分の思うままに行動している」


 数ヶ月のスローライフ生活で知れたことがある。

 平和で。温かい日々を過ごした。明日が怖くない日を過ごすのは初めてだった。

 そういう生活を手に入れられなかったことに怒りも沸いたけれど。知れて良かったと思う。

 そして仲間にも出会えた。俺の存在を認めてくれた。

 十分だ。

 俺にも先がある以上、別の生き方をしてみようと思う。


「せっかく良いことをしようと思えたんだ。邪魔をするなよ」


 気が変わってしまう前に良いことをやってみたいと思う。行動から意識が変わるのはスローライフで実感済みだしな。

 俺がそう言うとアルカは少し距離を取る。


「あっそう。じゃあ……やるか」


 いつの間にか手に剣が握られている。俺も構える。


「ああ」


 最後の戦いを始めよう。


情報の後出しが多くてすみません。

残り3話の予定です。

ありがとうございました!


12月16日:魂の消滅タイミングは数分に修正しました。

12月21日:アルカの中にいる魂は計14名です。修正しました。

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