第23話 暴力に抗う
忙しい時期を抜けたので投稿を再開したいです。投稿までの期間が空いてしまい申し訳ありません。
旅行編の続きの予定でしたが、当初の予定を変更して第三者視点の話です。
前話でエドルスと戦った騎士の話です。
いいね、ありがとうございました。
暴力の被害を受けた人間は変わることを強制される。
エドルスが起こした事件により私はそれを痛感した。
私――グレイド・イスラは騎士団隊長として部下達を守れなかった。12人の部下を失うことになった。失った仲間の数を何度も数えてしまう。そのたびに頭がおかしくなりそうになる。失った部下。彼らの友、家族、恋人。傷ついた者達があまりにも多すぎるし、彼らの被害を考えただけで押しつぶされそうになる。
エドルス達への憎しみは勿論あった。だがそれ以上に『なぜこんなことが起きた?』という疑問の方が強かった。
逃げたエドルス達を捕まえて殺しても、この疑念は晴れないだろうとも思っていた。
私は納得がしたかった。
受けた暴力について自分なりに理解し、納得することでようやく傷が癒えるのだと思った。
エドルスの襲撃事件から数日経ち、私は自分がどうしたいのか、そしてエドルスをどう思っているのかについて考えることにした。
◇◇◇◇
まず私がエドルスのことをどう思っているのかについて考えることにした。
……憎しみ以外の感情があることを認めなければならない。
彼のことは前から知っていた。
彼の父親――宮廷魔術師のダグラスについて調査したことがあった。ダグラスには認可されていないホムンクルス製造の嫌疑がかけられており、騎士団の調査部隊として私は彼の屋敷へと足を踏み入れた。結果としては違法ホムンクルス製造した痕跡は見つけることはできたが、肝心のホムンクルス達は処分されたあとだった。もともと黒い噂もあった人物で、この件を契機に彼は宮廷魔術師の任を解かれることになる。
そのときの調査で新たに見つけたものがあった。ダグラスの書斎には三冊にも及ぶ日記が隠されていた。
日記には……自分の息子を地下室に監禁し虐待していた記録が綴られていた。あまりにも凄惨過ぎる内容で、日記を読んだ騎士団員の多くは最後まで読み切れなかったし、最後まで読み切った者は例外なく体調を崩した。
ダグラスは日記の内容は自分の創作だと否定した。ダグラスの他の子供達も、屋敷の使用人達も、そんなことはなかった、自分は知らないと否定した。地下室自体は存在していたが何一つ証拠は見つからなかった。
肝心の虐待を受けていた子供――エドルスは別の場所で任務中のため事情聴取は行われなかった。彼が王国へと戻る前に調査は打ち切りになった。
元々の調査目標は達成された。そして日記の内容は創作だと結論付けられた。誰も現実にあったものだと信じなかった。実の息子にあんな酷いことをするなんて、現実にあるわけないと思ってしまったのだ。
他に優先しなければならないことは沢山あったから仕方が無い。後ろめたい気持ちはあるけれど我々にも――いや私にも限界があるのだと言い訳をした。
エドルスが王国に戻ってきた後、私は彼に何度か接触しようとした。
しかし彼も私も多忙だったため話すことはできなかった。私にとっても彼は最優先するべき事項ではなかった。結局、彼と直接話せたのは、彼が王国に反旗を翻し祭祀場を襲撃したときになってしまった。
彼と話したとき、もう全てが手遅れになってしまっていた。
私は彼に同情してしまっている。
もっと私にできたことがあったのではないのか? と後悔してしまっている。
◇◇◇◇
では彼を憎んでいないのかと言われれば勿論違う。
部下を殺されたのだ。彼らは大切な仲間で未来ある若者達だった。大切な人たちを守りたい、王国に住む人々の生活を守りたい、手の届く範囲は限られているけれど、それでも自分に何かできることをしたいと願う者達ばかりだった。
彼らにも家族や恋人、仲間に友人がいた。
残された者達は悲しみ、怒り、そして耐えなければならなくなった。
エドルスが事件を起こされなければ、これらの変化が起きることすらなかった。悲しみに耐えることも、いずれ立ち上がるために強くなることも必要なかったはずだ。
私もそうだ。
部下を目の前で殺された怒りで頭がおかしくなりそうになる。自分の無能に絶望して自分自身を傷つけたくなる。
…………その上で。
エドルスへの同情があり苦悩を邪魔してくるのだ。
……こんな物語が私の頭の中で成立してしまっている。
彼は虐げられてきた。社会から無視されてきた。
当たり前の幸せを知らなかった。
ゆえに凶行に走ったのだ、と。
ふざけるな、という怒りが沸く。
同時に怒りに身を任すことに躊躇も沸く。
私たちは……いや、都合良く他者を持ち出すのはやめよう。
私は納得がしたい。
ちゃんと前に進むために、自分が抱いてしまう感情全てに対する決着がほしい。
事件から一週間後。
騎士団とは別に、私は独自に動くことにした。
◇◇◇◇
騎士団のエドルス捜索は難航していた。エドルスが自身にしかけた『痕跡隠蔽』魔術のせいで、彼を探すことは難しくなっていた。魔術を解除すれば彼を見つけ出せるだろうが時間がかかりすぎる。
正当な捜査では時間がかかる。
ゆえに私は外法に頼ることにした。
私は『悪魔召喚』を試すことにした。
準備を整え悪魔を召喚する。悪魔達が住む魔界への扉が開き、召喚術式を描いた魔方陣の中心に白銀の炎が揺らめいた。
『――ふむ。王国の騎士団が悪魔に頼るのは珍しいですね。で、望みは?』
炎は女性の声で私に話しかけてきた。召喚には成功したようだ。
次に悪魔との取引を始める。
「私の望みは二つだ。一つ目はエドルス・ファリカを見つけ出すこと。彼は自分の居場所を魔術で巧妙に隠しているが、悪魔のお前なら可能か?」
悪魔が操る魔術は人知を超える。人が代償を差し出す代わりにあらゆる奇跡を可能とするのだ。
炎は微かに揺れて私の質問に答えた。
『ふむ。可能ですね。で、二つ目の望みは?』
私は二つ目の望みを口にする。
「エドルスが望むものを彼自身に与えてやって欲しい……そうだな、彼に『当たり前の幸福』というものを与えてやってほしい」
炎の動きが止まり、私に尋ねてきた。
『それは何のために?』
「彼は虐げられて生きてきた。ゆえに今回のような凶行に走ったのだと私は考えている。他人の――自分には関係のない人間の痛みを想像できないから、簡単に人を傷つけることができた。そうなったのは当たり前の幸福を知らないからだ。自分をないがしろにされてきたからだ。
だから教えてやりたい。何でも良い……彼が自分を大事にできるような『幸福』なら何でも……自分を大事にできたときに、彼が何と答えるのか。私はまずそれを確かめたい」
今、語ったことは全て私の想像でしかない。
しかし想像することしかできないのだ。
とにかく彼の話をしたかった。
彼が奪ったモノの価値を共有した上で。
そのためにはまず彼が自分を大事にできて、他者への想像力を持っていないと困るのだ。
幸福を知った上で彼が何も反省しなかったら、それはそれで問題ない。もう同情することもない。
仮に彼が反省するのならば、納得した上で次の段階……彼に罰を与えるか許すのか考えるという段階へとようやく進むことができる気がした。
前に進むために、私は知りたかった。
「悪魔よ。できるか?」
炎はまた微かに揺らいだ。
『やってみますよ。エドルスが本当に幸福を望んでいるかどうかすら不明ですが、そこは悪魔である私の腕の見せ所ですね。では次に仕事を引き受ける対価についての話をしましょうか』
悪魔は召喚した人間の望みを叶える代わりに、悪魔側も対価を望む。召喚の際に魔力を込めた道具はたくさん差し出したが、まだ足りないようだ。
『身構えなくても大丈夫です。私からの要望も二つです。まず一つ目。アナタは今回の件……悪魔を召喚しエドルスを探っている件を周りに秘密にしてください。仮にエドルスを見つけたとしても、騎士団に居場所をリークすることは禁止します。
期限は事件が解決するまで、としましょうか』
「なるほど。二つ目は」
『二つ目はもっとシンプルです。今回の件は私なりに関わることを許して欲しい。私なりの方法でエドルスに幸福を与えて……その結末を見届けさせて欲しい』
「……結末というのはどんな意味を持つ?」
『結末は結末ですよ。エドルスが捕まるか、自首するか……例えばアナタに殺されるというのも立派な結末です。私は彼みたいな人間がどんな最期を迎えるのか確かめたい』
「…………良いだろう」
『契約成立ですね。では早速エドルスを探して行ってきます』
そして炎は消えた。
◇◇◇◇
悪魔からは定期的に連絡がきた。
エドルスの居場所を探しだし、今では彼と行動を共にしているようだ。
どうやら彼は『スローライフ』を望んだらしい。
人を殺した上で何がスローライフだという怒りが沸いた。同時にどこかホッとするような気持ちもあった。
この気持ちについてもキチンと整理したいと思った。
……季節が夏から冬に変わる頃。悪魔から連絡がきた
『エドルスに全てを打ち明けました。そろそろ彼と話しに来ませんか?』
私はその提案を受け入れることにした。
もうすぐ王国騎士団もエドルスの居場所を突き止めるだろう。その前に一度、彼と話をしたかった。
スローライフを経て彼は変わったのだろうか。
確かめるために彼がいる場所へと向かう。場所はかつての『黒衣の団』が壊滅した土地だった。
ふと空を見上げる。
空はすっかりと冬の空模様に変わっていた。
また書き上げたら投稿します。
よろしくお願いします。




