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第21話 エドルスの過去6ー爆弾たち

ブックマーク、いいね、ありがとうございます!


過去編の続きです。

最初は前話の計画の振り返りとなっています。

今回出てくるドーリスについての説明文は、14話のものと一部同じです。

よろしくお願いします。

 

 俺の目的は『全人類が転生できる世界を創ること』。

 理由は今の世界の在り方を壊すことだ。転生することが当たり前になれば社会は混乱し、今の世界の在り方――産まれて社会を形成し、そして死ぬという在り方が壊れると考えたからだ。

 実際はどうなるかは分からない。

 でも何でも良いから世界には壊れて欲しかったので俺は実行することにした。

 

 計画の鍵は『転生魔術』だ。

 王国の英雄アルカが転生魔術の使用権利を独占している。

 俺はアルカを襲撃し、『簒奪魔術』を用いてアルカから転生魔術の使用権利を奪う。そして使用権利を書き換え、全人類が使えるよう環境を整える。

 

 アルカの襲撃の前段階として俺はホムンクルス達100体を殺した。彼らはアルカが転生魔術を発動させるための生け贄だった。これでアルカは直ぐに転生を実行することはできなくなった。

 ちなみに、この件が原因で俺は王国の宮廷魔術師を解雇された。23歳になる頃だった。

 

 あとはアルカを襲うだけだ。

 しかし相手は老いたとはいえ王国の英雄。更には護衛もいるだろう。

 仲間を集める必要があった。

 俺の計画に共感してくれるような――ろくでもない奴らが必要だった。

 俺はミンウェルと一緒に仲間を集めることにした。

 


◇◇◇◇

 王国から離れた森林地帯。

 ここにはある指名手配犯が潜伏していると噂があった。

 王国の騎士や上級冒険者の多くが返り討ちになってもいて、総合戦闘力は王国の騎士団の隊長と同格だという噂もあった。

 騎士団の隊長は人類の中では最強格だ。その上は騎士団長とアルカしかいない。

 

 半信半疑で俺たちは森に足を踏み入れ、

 森の中に突如としてそびえ立つ『要塞』を見て、噂は正しかったと確信した。

 

 ドーリス・カーマン

 人族。男性。見かけは華奢な美少年だ。

 あらゆるものを作り出す『創成』魔術の使い手。

『創成』魔術で作れるものに上限はない。理論上は。武器でも金でも人でも何でも作ることができた。しかし魔術の発動に大量のエネルギーを必要とし、そのエネルギーは周囲から無尽蔵に吸い上げて発動する。

 その能力ゆえに彼は周りから利用され、迫害されてきた。

 

「――どいつもこいつも殺してやる!!」


 会いに来た俺たちを問答無用に襲ってきた。「仲間になってほしい」という俺の勧誘に聞く耳を持たない。

 仕方が無いので応戦することにした。

 既にミンウェル以外にも仲間が数人いた。彼らも手練れの冒険者で戦力は申し分ない……はずだったが、とても苦戦した。

 ドーリスは周囲の森や土から魔力を吸い上げて魔術を放つ。

 彼を説得するために彼の魔力切れを狙う必要があったが、結果的に周囲の森が枯れ果てるまで戦い続けることになってしまった。

 土地が完全に枯れ果てた頃、ドーリスはようやく膝をついてくれた。

 彼は息を切らしながら、俺を見て言う。


「……な、なんで、お前は魔力切れを起こしていない……?」


 ドーリスは創成魔術であらゆるモノを生み出した。大砲・モンスター・ゴーレム……。俺はそれらを自分の魔術で対応した。モンスターを火の魔術で焼き殺し、大砲を結界魔術で防ぎ、ゴーレムを風の魔術で切り刻む。

 流石に俺も疲れた。ある程度はミンウェル達にも攻撃の対処を任せたお陰だと思う。タイマンだと負けていた。


 俺はドーリスに近づく。


「俺は自分の魔術の術式を我流で書き換えている。使用魔力量を大幅に削減しているんだ。例えば火の魔術『火球』……普通の魔術師が使用する魔力量を1とするなら、俺はその100分の1の魔力で使える」

 ドーリスはハハっと笑う。


「無茶苦茶な魔術だな。天才ってレベルじゃない。そうか、アンタがエドルス。最強の魔術師か……王国の騎士団が噂していたぞ……」


「照れるな。それじゃ、最初の話に戻ろうか」


 俺は膝をついてドーリスと目線を合わせる。


「ドーリス。俺たちの仲間になってくれ。君の力が必要だ」


 ドーリスは顔を背けてしまう。


「イヤだ。人と関わるのにはうんざりだ。どいつもこいつも僕を利用するだけ。不要になったら処分しようとするだけだ」


 ドーリスの能力は魔術の実験により植え付けられたものだと聞いている。

 コントロールできない危険な能力ゆえに周囲から迫害されてきたとも聞いた。


「……本当にもう、うんざりなんだ。お前達はいつもそうだ。お前達は居場所を用意してやると言う。そのコミュニティに適応できれば、という条件付きで。

 ……それは正しいだろうさ。適応できない人間の言い分はワガママだと切り捨てられる。適応するために、ある程度は自分を殺さないといけない。そんなことは分かっている」


 ドーリスは自嘲気味に笑った。


「だが、もう……自分を殺すことにも疲れた。できなくなった。だから、もう」


 ドーリスはうなだれてしまう。

 俺は彼にかけるべき言葉を考えようとしたが、考える前に口が動いてしまった。


「ドーリス。俺はそんな世界を壊したいと考えている」


 ドーリスは顔をあげた。

 俺は話を続ける。


「お前の気持ちが分かるとは言えない。お前だって俺たちの気持ちを完璧には分からないだろう。ただ似ている部分はあると思う。『世界を壊す』――それが俺たちにはきっと必要なんだ」


 俺は彼の目を見る。


「成功するかどうかは分からない。失敗するかもしれない。けど俺たちと一緒にやってみないか?」


 ドーリスは暫く何も言わなかった。俺もこれ以上は何も言うつもりもなかった。

 少し間を置いて、彼は小さく頷いた。


◇◇◇◇

 そして更に二ヶ月後。

 俺は日課となった『演説』を終えて王国の裏路地を歩く。

 ここ数週間、俺は人を集めて『転生魔術により全人類が転生できる世界となる』と演説を行っていた。作戦が成功した後に、人々が世界の変化を受け入れられる可能性を少しでも上げるためだ。

 といっても王国に目を付けられる事も多い。転生は国教であるイディラ教を否定する考えでもあるからだ。

 演説はやめる潮時かもしれない、と考えているとアジトへとたどり着く。

 王国の入り組んだ地区にある、更に人目のつかない裏路地の建物。ここが俺たち『黒衣の団』のアジトだった。

 扉を開けると仲間達がケンカをしていた。


「ドーリス! てめぇの言い方は一々ムカつくんだよ!」


「ボルバ。君の方こそ一々うるさいよ。もう少し静かにしてくれないか。君はともかく、僕たちの品位が疑われる」


「そのすかした態度もムカつく! マジでやってやんぞゴラァ!!」


 ドーリスに今にも掴みかかりそうな大男の名前はボルバといった。

 元は冒険者で今は無職。自暴自棄になり王国で大量殺人を行おうとしていたところを、俺が見つけて仲間にスカウトした。

 どうもドーリスとは馬が合わないらしい。

 いや他の仲間も同じか。

 俺を含めて10人いるものの、仲間と呼べる連中か怪しいものだ。今だって他の仲間達は仲裁に入らずニヤニヤと眺めている。

 根本的に人として終わっている奴らばかりだ。自分のことにしか興味が無く、他人が嫌い。


 仕方が無いので俺が仲裁に入ることにした。


「はいはい、そこまでだ。ケンカしない」


 俺を見ると二人とも黙った。

 こんな俺でも一応はリーダーとして認めてくれてはいる。

 周りが落ち着いたようなので、ケンカの理由を聞いてみる。

 ドーリスは溜息をついて言った。


理由(ワケ)も何もボルバが馬鹿なことを言うからだよ。『俺たちなら王国騎士団と真正面から戦っても勝てる!』なんて愚かなことを言ったんだ」


 ドーリスは出会った頃と比べて言葉使いは柔らかくなったものの、それはそれとして人を怒らせることばかりを言う。現にボルバは怒っている。


「ここにいる奴らは全員A級冒険者相当の凄腕ばかりだぜ! 何より今代の最強魔術師とも賞されたエドルスがいる!! いくら騎士団相手だといってもガチでやりあえば勝てる!!」


 ボルバはそう言って拳を振り上げる。

 ……俺のことを買ってくれているのは嬉しいが、残念ながらドーリスの肩を持たざるをえない。

 俺は椅子に座って言った。


「ボルバには悪いけどドーリスの言う通りだ。俺たちは強いが、王国騎士団はもっと強い。その中で一番強い英雄アルカを俺たちは殺さないといけないんだ。それに護衛もいるだろう。騎士団長は流石にいないだろうが隊長クラスがいたら厳しくなる。アルカと騎士団隊長は正面から戦ったら、まず勝てない」


 俺の言うことを聞いて、ボルバは渋々といった感じで腕を下ろす。


「アンタが言うならそうなんだろうな……じゃあ、予定通りにやるのか?」


 ボルバの問いに俺は頷く。


「ああ。予定通り、不意を突いてアルカ達を襲撃する。アルカの居場所は王宮の魔術祭祀場と当たりは付いている。護衛も相当数いるだろうが……そこを襲うしかない。

 俺はアルカを襲って転生魔術の使用権利を奪う」


 今度はドーリスが口を開いた。


「……アルカは抵抗するだろうね。魔術の使用権利を奪うのに殺す必要は無いけれど……まぁ、殺すのが一番だろう。それに周りの護衛達も邪魔をしてくるだろうね。そのときは?」


 俺は簡潔に答えを口にすることにした。


「俺たちの目的は別に人を殺すことじゃない。だが、邪魔をする奴らは殺す」


 俺の答えに仲間達は全員頷いた。

 

 彼らを見たあと、俺は言う。


「もっとも成功するかは分からない。転生魔術の仕組みが完璧に分からないまま、魔術を奪うんだ。成功するかどうか、完璧に魔術の使用権利が奪えるかどうかも不明だ。

 仮に全てが成功したとして、全ての人間が転生できる世界になったとして、お前達が望むような世界の崩壊が起きるかは分からないな」


 本当に成功するかどうか分からない作戦なのだ。

 だが全員この作戦にのってくれた。

 ボルバが笑って言う。


「上等じゃねぇか。成功するかどうかが問題じゃない。俺たちはまず世界を壊したいんだ。それをしないともう耐えられないんだ。ならやるしかないだろ?」


 ボルバの言うことに今度はドーリスも頷く。


「認めるのは癪だがボルバの言う通りだ。僕たちはもう全部にうんざりしているんだ。全部壊したいと願っている。それ以外の生き方を選べたとして……自分を殺した生き方はもうごめんだ」


 二人の話を聞いて、それまで黙っていたミンウェルも口を開いた。


「覚悟は決まっている。やろう、エドルス」


 ミンウェルの目を見る。

 俺も頷いた。

 ……明確で、言語化された理由はない。

 ただ、もう、あの日から、ずっと昔から。

 抱いていた絶望と衝動があって。

 無視することも、されることもにも飽きたと思っていて。

それらをぶつけずにはいられない。


「ああ。やろう、みんなで」


 俺の言葉にみんな笑った。


 ――暫く笑い合った後、ボルバがさらに笑って言う。


「折角だし成功したことを考えようぜ。作戦が成功して世界がぶっ壊れてくれたら、どうする? 美味い酒でも飲みながら世界が壊れる様を眺めるってのはどうだ?」


 ドーリスもまた頷いた。


「悪くない。ゆっくりと過ごしながら――スローライフでもしながら、世界が混乱する様を見るのは悪くないね」


 聞き慣れない単語が聞こえたので、俺は尋ねることにした。


「ん? スローライフってのは何だ?」


 俺の質問にドーリスは答えてくれた。


「異世界の人間が持ち込んだ生活様式の一つだよ。仕事や義務から離れ、ゆっくりとのんびりと過ごす生活らしい。その中で新しい趣味を見つけたり、丁寧な生活を心がけたり、過去の人生を振り返って気づきを得たり……自分と改めて向き合う生活なんじゃないかな。人によって捉え方は違うだろうけど」


「……そんなのがあるのか。知らなかったな」


 俺がそう言うとドーリスは少し笑った。


「全部終わったら君もやってみると良い。君はずっとちゃんと眠れていないだろう? 一度休んでみるのも悪くない」


 ドーリスの言う通り、俺はあんまり寝ていない。寝ても直ぐに目を覚ます。食生活も荒れている。

 確かに悪くない生活に思えた。



◇◇◇◇

 作戦決行までの残った時間。

 俺は仲間達の話を聞いて過ごした。

 みんなも俺に話したがった。

 自分の過去。自分の考えていること。

 恨んでいること。怒っていること。悲しんでいること。

 後悔していること。


 彼らの話を俺は聞いた。

 俺が彼らにしてあげられたことといえば、結局はそれくらいのことだった。

 ただ、それくらいのことが手に入らない辛さってやつも俺は知っていたので、

 出来る限り彼らの話を聞くことにした。

 これまで誰も彼らの話を聞こうとしなかった……ワケでは無いと思う。

 彼らの人生の中でも手が差しのばされた瞬間というものはあったのだと思う。

 ただ気づくことができなかったり、望んだ手ではなかったり、タイミングがすれ違ったのだ。赤の他人が彼らを必要以上に気にかける義務はない。彼らの不幸は結局の所、彼ら自身が原因だと言えるかもしれないし、否定できる言葉を俺は持っていない。

 でも、やっぱり、どんな人間だとしても。彼らの不幸は自業自得だったと俺は言いたくないと思ってしまう。確かな根拠も権利もなかったとしても。せめてそれだけは、と思ってしまう。

 だから俺は彼らの話を聞いた。

 否定も肯定もせず、彼らの中にあったことを聞いた。


 そして作戦決行の日となった。


ありがとうございました。

過去編は残り一話の予定です。

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