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第20話 エドルスの過去5ー計画

ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。


※今さらですがエドルスのビジュアルについて補足。

・過去編のエドルス:細身長身。灰色の髪。灰色の目。若い。

・本編のエドルス(変身魔術使用):中肉中背。茶色の髪。黒色の目。30代くらいの見た目。

寒がりなので過去編も本編も厚着のローブを着ている。

大体そんな感じです。


※今回の話の補足。

・ちょっと長めです。エドルスの計画は最後の方に書いています。

・自死についての描写が少しあります。


前置きが長くなりました。

よろしくお願いします。

 

 『フリューネ』の土地であった爆発及び『黒衣の団』の壊滅。それについての調査や報告作業を行っている内に俺は19歳になっていた。ただ無心に王国からの仕事をこなした。

 そして更に一年後。俺は20歳になり王国との約束通り宮廷魔術師となった。

 魔術の研究やモンスター討伐が主な仕事で、大して難しい仕事ではなかった。たまに魔術学校で教鞭をとることもあった。

 俺は社会の居場所を手に入れていた。

 地下室に閉じ込められていた時からどうしても欲しかったものだ。自分がこの世界にいても良いと許可される証明。

 ……ただ手に入れても何も感じなかった。

 仕事をする中で更に一年、もう一年と経ち俺は22歳になっていた。

 残念ながら、『黒衣の団』が壊滅した時に抱いた憎悪は消えなかった。

 憎悪を維持するのは難しい。宮廷魔術師として過ごす内に憎悪が弱まる時も確かにあった。

 しかし、それ以上にむなしかったので、ずっと憎悪が居座っていた。

 宮廷魔術師として過ごす傍ら、この憎悪を現実のものにしたいという衝動に駆られ俺は魔術の研究に没頭した。魔術だけではなく様々な書物を読み『方法』を模索した。

 ただ人を殺すだけではダメだ。ただ街や建物を壊すだけではダメなのだ。

 もっと……もっと……致命的な……世界の在り方が否定されるような何かが欲しかった。

 具体性もなく視野が狭く幼稚な衝動だが、いつまでたっても消えてくれなかった。

 起きているときも寝ているときもいつでも、死んでいった者達の顔が思い浮かんでくる。黒衣の団の死に顔が目に焼き付いて離れない。その中には俺が殺したホムンクルス達や何故か子供の時の俺もいた。

 彼らの死に報いるとか、彼らの死に意味がほしいとか……そんなんじゃない気がした。

 ただ今の世界が平常通りに動いているのが我慢ならなかった。


 基本的にはずっと衝動に駆り立てられていたので、日々の生活は荒んでいった。

 部屋は荒れ放題で掃除もほとんどしなかった。食事についてはマトモにとろうとする考えすら浮かばず携帯食料ばかり食べていた。そもそも『一人暮らし』が初めてだった。自分のことを気にかけるという考えも浮かばなかった。

 なんとかして社会に一撃を与える、そればかり考えていた。あまりにも思考が煩わしくて酒や薬に頼る夜も多かった。夜は2,3時間だけ寝て直ぐに起きてしまう。

 たまに鏡を見ると病人みたいに痩せて目元はクマだらけだった。

 生きているけれど死んでいるも同然のような生活。

 別に構わなかった。

 とにかく自分の衝動を実現するための方法を探した。

 そして22歳になったときに実現するための手がかりを得た。


◇◇◇◇

 22歳になった年の夏の出来事だ。

 宮廷魔術師として仕事を一つ任されることになった。

 王国が管理する魔術研究室。その地下室にある大きな管理室。

 そこには100体ほどのホムンクルスが住んでおり、俺は彼らの管理を任されることになった。前任の管理者は色々と問題があったとかでクビになったそうだ。

 ホムンクルスの性能はかなり個体差がある。特に感情表現については差が顕著だ。ほぼ人間と変わらないほど感情豊かな個体もいれば、カラクリ人形みたいに全く感情を持たない個体もいる。俺が管理を任されたホムンクルスは後者で、笑うことも泣くこともない者ばかりだった。

 しかも彼らには生存欲求も欠けていた。俺ですら食事はとるというのに、彼らは命じなければ一切食事をとらない。寝ようともしない。体が衰弱していくのにも構わず部屋の隅で座っているだけ。


 前の管理者がいなくなり俺が管理を引き継ぐまで二日のインターバルがあったが、その間、ホムンクルスたちは食事も睡眠もとっていなかった。

 身体に異常が見られた個体を治療し、その後は食事と睡眠を命令した。命令すれば彼らは大人しく従い少しずつ健康を取り戻していった。

 命令すれば実行できる。つまりは食事と睡眠という知識はちゃんと持っていた。

しかし極端に生存欲求が薄いため、命令されなければ生きるために必要な行動を一切とろうとしなかった。

 ――彼らの『用途』は大体察しが付いた。


 そもそもホムンクルスはとは何か、という話になる。

 まずホムンクルスは滅多に造られない。

 理由は単純でコストが高いからだ。一体作成するのにも大量の材料がいる。さらにホムンクルスの生成魔術を発動させるための触媒も必要になる。これらを用意するために費やされる金・人材・時間と、実際に生成されるホムンクルスの性能とでは釣り合いが取れていない。

 優秀な兵士が必要になった場合。その要求を満たす戦闘力が高いホムンクルスを造るよりは、普通の人間を優秀な兵士へと教育する方がよっぽど安上がりだし確実だ。


 またホムンクルスが滅多に造られない理由はもう一つある。これも単純で一部の魔術師を除いてホムンクルスの製造方法は一般に秘匿されているからだ。ホムンクルスという名称は一般人にも知れ渡ってはいる。ただ殆どの人間にとってホムンクルスは『魔術で造られた人形』という認識だ。しかし実態は異なる。

 ホムンクルスの性能は人間に劣るが、『魂』は人間と同じ性質を持っている。

 魔術により魂というモノはとっくに製造が可能となっている。人間と同じレベルの生命体を作成することは可能なのだ。この事実は人間の存在価値を脅かしかねないとして一般には秘匿されている。俺の家はホムンクルスの専門家でもあるので、俺も知識としては知っていた。


 そしてホムンクルスの主な用途は『生け贄の代用品』である。大魔術の生け贄、凶暴なモンスターを鎮めるための生け贄、などなど。

 魂は人間と変わらないから生け贄の役割を充分に果たせる。

 普通の人間を生け贄に使うよりは色々と都合も良い。


 ――管理を任されたホムンクルス100体。

 彼らは生け贄として使用されるのだろう。

 ……では何に使われる生け贄なのか?

 俺はそこが気になった。


 モンスターに捧げる供物だとは考えにくい。ここにいるホムンクルス達はあんまりにも人間味がない。感情がない人形みたいで、モンスターには人間と認識されない可能性がある。モンスターの生け贄として使用するのならば、モンスターの好みにあうよう造形や人格にもう少し工夫を凝らすだろう。

 

 モンスターへの供物ではないとするのなら魔術のための生け贄だろうか。こちらの方が可能性は高そうだが疑問は残る。

 まず生け贄の数が多い。100人を生け贄として使用する魔術なんて俺は聞いたことがない。自慢ではないが俺はたいていの魔術についての知識は持っているが、それでも100人以上の生け贄がいる魔術なんて俺は知らない。

 少なくとも俺が知らない魔術、禁止魔術と呼ばれるレベルの魔術の可能性が高い。

 魔術に使用する生け贄の数は魔術の規模や威力だけではなく、その魔術の持つ『秘匿性』にも比例する。魔術の使用権限が限定――とくに世界で一人しか使えない魔術ならば生け贄も沢山必要になる。

 

 秘匿性の高い魔術であるならば――俺みたいな人間がホムンクルスの管理を任された事にも納得がいく。

 俺は犯罪集団の『黒衣の団』に所属していたせいもあり、周りには未だに警戒されている。

 ホムンクルスの専門家が少ないのもあるだろうが、俺が管理を任されたのは『重要度が低い仕事』だと、俺に管理を任せた担当者も考えている可能性が高い。俺に管理を任せた担当者もホムンクルスが何に扱われるかなんて知らないのだ。

 ホムンクルスが何に使われるか、真実を知る者は王国内でも本当に極少数なのだろう。


 更にホムンクルス達の体を調べてみると、彼らは長生きできないことが分かった。長生きできるように造られていないのだ。短命にしていた方が作製のコストも少なくて済むからだろう。

 俺が管理していかなくても、彼らは長くても4,5年で死ぬ。

 ……更に疑問が沸いた。

 そもそもの話。なんで早く生け贄に使わず管理をしているのか?

 管理をするのにもコストはかかるし、管理の期間が長ければ長いほど情報が漏洩するリスクも高まる。

 さっさと生け贄として消費すれば良い筈なのに、未だにホムンクルス達は生きており管理の必要がでている。

 ……仮に。魔術の使用のための生け贄だとして。

 その魔術を使うための準備が整っていないのだろうか?

 ……もしそうなら、段取りが下手だと言わざるを得ない。魔術の準備が整う日から逆算してホムンクルスを造っていけば良いだけだ。首謀者が誰かは分からないが、王国内の誰か――かなり重役に位置する人間だろう。そんな人間が初歩的なヘマをするとも思えない。

 …………例えば、だ。

 魔術を使用するタイミングを完璧には予期できないとすれば?

 魔術を使用する時期は概ね予想はできる。ホムンクルス達の寿命は後4,5年。この期間内で魔術を使用するタイミングは来る。しかし、その正確な日取りは使用者にも予測できない。

 正確な日取りを予測できない……台風などの自然災害か……?

 ……いや、この魔術の使用者はおそらく一人に限られている筈だ。

 一人の人間に訪れる正確な日取りを予測できない出来事。その上である程度は予測できる出来事……。

 

「ああ」


 思わずつぶやいた。


「――人の死か」


◇◇◇◇

 それから俺は真実を調べるために動いた。王国内のあらゆる書物、時には禁書が封じられている書庫にも忍び込んで様々な書物を調べた。

 俺にホムンクルスの管理を任せた担当者――そこから指示系統を探り、より上の役職の者達も調査した。こっそり背後から闇討ちして洗脳魔術をかけて、洗いざらい吐かせた。

 二ヶ月間の調査の結果、一人の人物が浮かび上がってきた。

 『英雄』アルカ。王国の最上位の騎士団長と並ぶ役職『守護騎士』にも任命された騎士。

 英雄の二つ名の通り、彼の働きは英雄と称されるに相応しいものだった。凶暴なモンスターを何匹も倒し国の窮地を救ってきた。国民の希望ともなっている存在。

 そんな彼は『守護騎士』の役職に就くことになった。『守護騎士』は女神の信託により選ばれた者がつく神聖な役職だった。先代の騎士が死ねば、同時に新しく信託が下され次の者が選ばれる。

 

 王国騎士団にはある噂があった。といっても限られた者……役職の高い少数の騎士が口にするような噂が。

 先代の『守護騎士』と当代の『守護騎士』は似ている、と。種族も性別も違うのに剣筋が似すぎている。それに価値観や思考も先代に通じるものがあるらしい。

 先代だけではなく、先々代、更にその前の代の『守護騎士』とも。無視できないほどに似ている部分があったそうだ。

 確証はない。ただ別人とは思えない何かがある。

 『守護騎士』、『英雄』アルカ。

 彼は転生をしているのではないか? という噂だ。


 そして『守護騎士』の代替わりの時期。

 沢山の人間が死んでいることを俺はつきとめた。

 犯罪者の処刑。犯罪ギルドの粛正……。大量の人の死に王国が関わっていた。


「――『転生魔術』。この魔術が存在するとして仕組みを推測してみた。

 まず使用できる者はアルカのみ。魔術の使用には大量の生け贄が必要になる。おそらく使用者をアルカに限定しているゆえに、魔術の秘匿性が高いせいだろう。

 使用のタイミングはアルカが死んだ時だ。そのタイミングで生け贄も殺す。人間の肉体が滅べば『魂』というエネルギーが放出されるから、そのエネルギーを使って転生を実行するのだろう。

過去の事例を見てみると、使用者の死後から三日以内程度であれば、転生魔術による転生が可能だと思う。おそらく三日以上経つと使用者の魂が消滅……あの世行きとかそんなところだろうな」


 俺は調査の結果を言ってみる。

 その結果を聞かされた人物は顔をしかめて言った。


「……で、何故その調査結果を私に聞かせる?」


 ダグラス・ファリカ。俺の親父は面倒くさそうに言った。


「生け贄用のホムンクルスの前の管理者はアンタだっただろ? それに元は王国に使える魔術師でもあった。アンタなら大体の事情を知っているんじゃないかと思ってな」


 俺がそう言うとダグラスはつまらなそうに舌打ちをした。

 俺はダグラスの家に来ていた。家と言ってもファリカ家の屋敷ではなく、王国の外れにある寂れた一軒家だった。治安の悪い地区にあるボロい一軒家。これがダグラスの終の住処だ。

 俺が家を出てからダグラスも色々とあったらしい。過去に彼がやってきた悪事が明るみになり、更には息子達にも裏切られ、追放同然で家督を追われた。お情けでホムンクルスの管理だけ任されていたが、その仕事も暴力事件を起こしてクビになった。

 高名な魔術師だった姿は見る影もなく、今は飲んだくれの哀れな老人になっている。

 俺はというと昔は彼を恐れる気持ちもあったが今はもうない。むしろ彼の生活費を立替えてやってもいる。かつて自分を支配していた人間が、今では自分の力を借りないと生きてはいけない、その事実に暗い喜びを覚える。

 

「俺の推理は当たっているか? 生活費は俺が立替えてやっているんだ。答えてくれてもバチは当たらないだろ?」


 ダグラスはまた舌打ちをして、それから頷いた。


「ああ。概ね合っているだろうな。転生魔術の仕組みについては私も全てを知っている訳じゃないが……お前の推理通りだろう」


「アンタはアルカの秘密を知っていた。他にも王国内に知っている者もいるだろうな。アンタはともかく、他の奴らは何で黙認している?」


 ダグラスは溜息をつく。


「アルカは人を操るのが上手い。アルカが転生していて、その転生に多くの人間を犠牲にしている。そんな事実が明るみになったら連帯責任を取らされる人物に秘密を共有している。自己保身や使命感を煽って、いつの間にか協力者にしてあげられるのだ。

 私もそうだった。重大な秘密を知らされ、その重責で押しつぶされそうだったのだ……。秘密を打ち明けられたのはちょうどお前が産まれた頃だったな……」


 ダグラスは震える手で酒をあおぐ。そして続けた。


「わ、私はプレッシャーで押しつぶされそうだった。少しおかしくもなっていた……冷静ではなかった……。だから仕方なく、お前を地下室に閉じ込めたりしてしまったのだよ」


 昔、俺はコイツに屋敷の地下室に閉じ込められていたことを言っているのだろう。

更にはホムンクルスを使って俺に暴力も奮った。

 

「仕方がなかったのだ。普段の私ならそんなことはしなかったに違いない……運が悪かったのだ」


 驚いたことに。

 彼は自分のことを被害者だと思っていた。

 彼がそう思うのなら、そうなのだろう。と俺も思った。

 不思議なことに怒りは沸かなかった。ただむなしかった。


「……あ、そう。別にどうでも良いよ。俺は自分の推理の確証を得たかっただけだから」


「ふん。つまらない子供だ……だが、折角来たんだ。良いことを教えてやる」


 ダグラスの顔に歪んだ笑みが浮かんだ。

 その笑みを見て一瞬からだが強ばる。

 俺が地下室で暴力を振るわれていた時に、それを見ているダグラスがよく見せていた笑顔だ。


「転生魔術で生け贄になった者達の魂はエネルギーとして消費される、と聞いたことがある。転生者が新しい体に魂を定着させ生存するために、長い間エネルギーとして消費され続けるそうだ。その間も魂には微かに意識があり、かなりの苦痛が伴うらしいな」


 ひひ、と笑う。

 ……ダグラスは俺がこれから何をしようとするのか分かっているようだった。

 意味の無い言葉だと思った。


「そうか」


 と俺はつぶやいて家を後にした。

 ……話しは前後するが、この日から暫くしてダグラスは自殺した。葬儀は俺以外に誰も来なかった。葬儀に行かないことは逃げるような気がして俺は行くことにした。

 家も処分した。

家の中には何もなかった。


◇◇◇◇

 転生魔術の存在を知ったときに、ある計画が浮かんだ。

 まず俺はミンウェルに連絡を取って王国まで来てもらった。

 『簒奪魔術』と呼ばれる魔術の使用権利を奪う魔術がある。かつてミンウェルの魔術が奪われたときに使用された魔術だ。その魔術についてミンウェルから教えて貰うことにした。

 彼女は最初イヤな顔をしたが、俺が頭を下げてお願いしたら、最終的には納得してくれた。

 

 アルカから転生魔術を奪い、俺が使えるようにする。

 そのためにやることが沢山あった。

 俺は一つずつ片付けることにした。

 

 ……過去の事例から考えるに、アルカが転生する場合、その転生先は既にある程度成長している人間の可能性が高い。女神の信託を受け取る者は赤ん坊ではなく、成人年齢まで育っている者がほとんどだった。女神の信託を授かった――正確にはアルカの魂が移り変わった肉体は無類の強さを誇る。そうなると倒すのは難しい。

 今のアルカの肉体は老いている。また現在のアルカは王国内での立ち位置も落ちているので、護衛の数も全盛期よりは少ない。

 転生魔術を奪うには、今のアルカを殺すのが最適解だ。

 ゆえに今、転生させる訳にはいかない。例えばアルカが自殺して直ぐに転生魔術を発動する可能性もあった。

 

 俺はホムンクルスを管理している部屋に行った。

 そして食事に毒を盛った。

 ……他にも理由は、俺がこんなことをする理由は思い浮かんだ。

・転生のためのエネルギーに使われるのはかなりの苦痛が伴う。彼らはエネルギーとして消費され尽くすまで苦痛を味わうことになる。

・かつて俺を育てたホムンクルス達に、俺は姿を重ねているかもしれない。彼らが人間の道具として使われる様を見ていられなかった。

・使用した毒は全く苦痛なく対象を死に至らしめる。彼らはもう長くもない。せめて安らかな死を与えたかった。


 上記の理由が一つも無くとも――俺は同じことをしただろう。

 彼らの埋葬を終え、俺はそんなことを思った。


 彼らの埋葬を終えてミンウェルと合流する。

4年ぶりの彼女は少し痩せていた。と思っていたら、ミンウェルにも「お前少し痩せたな」と言われた。

王国の時計台に俺たちは来ていた。上階にあるバルコニーに来ると、王国の広場が見渡せた。あの日と同じように多くの人で賑わっている。

 ミンウェルは眼下の景色を眺めながら言った。


「で、お前の計画とやらを詳しく聞かせろ」

 

 俺も頷いて話すことにした。


「王国の英雄『守護騎士』のアルカを襲撃して転生魔術を奪う。

 転生魔術の使用権利は俺に移るが、俺はその権利を書き換える。

 ――全ての人間が死んだら自動的に転生できるようにする」


「…………ハァ? 可能なのか?」


「たぶんな。全人類が使えるようになれば、魔術の秘匿性は激減する。そうなれば発動に生け贄も必要じゃなくなる。

 もっとも転生の土台作りは必要だな。魔術発動のための必要な魔力を自動的に確保する仕組みを作らないといけない。これは人の死に応じて必要な魔力を、周囲の自然から吸い上げる形でなんとかなるだろう。

 転生先の肉体は、これも魔術で用意すれば良い。魂を造るのは手間だが、人の肉体は簡単に造れる。寧ろ生前よりは上質な肉体を提供できる」


 ミンウェルは口をぽかんと開けていた。

 暫くしてから彼女は言った。


「…………それで、何が変わる?」


 俺も正直に答えることにした。


「分からない」


「ハァ?」


「結局、何も変わらないかもしれない。どんな結果になるかは分からないんだ……ただ」


 俺も眼下の景色を眺める。

 広場には沢山の人がいた。

 一人でいる人も、家族連れできている人も、恋人や友達でいる人もいた。

 『黒衣の団』の仲間が死んで王国に戻ってきた日。俺は同じような景色を見た。

 全部壊れて欲しい、と。そのときに抱いた感情は残念ながらまだ残っている。


「成功したら、人の死が終わりではなくなる時代がやってくる。人が生まれて、成長して、社会を形成して、そして死んでいく――そんな当たり前だった在り方は壊れてくれる。

 魂も何度もリサイクルされる程度の代物に成り下がる。全員同じだ。命の価値も平等に軽くなる……かもしれないな」


 そう言って何故か俺は笑ってしまった。

 随分と醜悪な笑い顔だったと思う。

 ミンウェルは溜息をついた。でも少しだけ笑ってもいた。


「……なるほどな。実際の所はやってみないと分からないのか。だが、それ相応の混乱は巻き起こるだろう。確かに()()は壊せるかもしれない」


 俺も頷く。


「ああ。世界に一撃を与えられる。やってみないと分からないけど……もしかしたら本当に壊れてくれるかもしれない」


 俺はやろうと思った。 

歪んだ思想。醜い衝動。間違った理由。手に入れた手段。タイミング。可能性。全てがかみ合ってしまった。


「俺は見たいんだ。見たくてたまらない。少しでも良いから世界が壊れる様を。

 そんで壊れる様子を見てさ、『世界なんてこの程度だ』って笑ってやろう――()()()()


 俺がそう言うとミンウェルも頷いて笑った。



何もなければ、過去編は残り2話くらいです。

ありがとうございました。

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