第18話 エドルスの過去3ー傷を埋めるモノが何もなくとも
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※9月30日追記:ミンウェルの罪状を変更しました。
変更前:犯人の一族と関係者を殺した。
変更後:犯人の妻と息子を殺した。
カジの提案で俺とミンウェルは『自分のことを話す』練習をすることになった。
ミンウェルはついでに言葉使いを直すよう言われた。彼女自身は不服そうだったが意外にも真面目にやっていた。
俺はというと、まず口で話すのではなく、自分のことを文章で書くことから始めた。人との会話は俺には難しかったからだ。任務の報告とかなら難なくこなせるが、それ以外の会話――自分のことを話そうとすると直ぐに言葉に詰まった。
同時に人の話を聞く練習もした。その人の過去、その人の好きなモノ、嫌いなモノ、最近あった出来事……。魔術や数学の内容と違い、規則性のない話ばかりで最初は全然理解できていなかった。
ただ人の話を聞いている内に、自分のことを話すのが苦手なのは自分だけではないのだと知った。
ミンウェルも自分のことを話すのは苦手だった。
時間をかけて、少しずつ、彼女も自分のことを語った。
彼女は魔術の研究を生業とする一族の一員だった。彼女たち一族が研究している魔術は『転移』魔術。文字通り別の世界にいける魔術。
転移魔術の完成は彼女たち一族の悲願で、ミンウェルの代にようやく完成させることができた。
しかし完成したとき、別のエルフの一族に魔術の使用権利を奪われた。『簒奪』魔術によって。
魔術の中には使用出来る者に限りがあり、転移魔術は一人にしか使用権利は与えられていなかった。今回の場合はミンウェルに使用権利が与えられていた。
しかし簒奪魔術により転移魔術の使用権利が奪われた。ミンウェルはそのエルフが率いる部隊に襲撃され深手を負い、その隙に簒奪魔術が使われた。
転移魔術を奪われただけではなく、自分の家族も傷つけられた。
下手人であるエルフは既に転移魔術で別世界へと旅立っていた。
残されたのは傷つけられた自分と、傷つけられた家族と、傷つけられた自分の名誉だけ。
ミンウェルは復讐と称し、自分の魔術を奪ったエルフの家族――犯人の妻と息子を殺した。
「一族の名誉も私の誇りも地に落とされた。それらを補填するモノがほしかった……。認めるよ、冷静ではなかった。私はとても怒っていた。怒っていたから私は色んな者を傷つけても気にしなかった」
ミンウェルはそこで一度言葉を句切る。
「……アンタは罪を犯したんだろうさ。でも悪いのは、魔術を奪った奴もだろう?」
と俺の隣にいる男が意見を言う。同じ『黒衣の団』の一員だ。周りの参加者も頷く。
……俺たちの集会の参加者は俺とミンウェルだけではなくなっていた。教会で集まっている俺たちの様子を見て、一人、また一人と参加するようになっていた。
彼らも思い思いに自分のことを話し、他人の話に耳を傾けた。
男の意見にミンウェルは頷きかけて、首を振った。
「確かに私の魔術を奪った『奴』はクズだった。しかし私もおそらくクズなのだろう。
私は罪を犯した時ずっと怒っていたが……その怒りは今もある。今も怒っているし、何か……何かがずっと足りない感覚がある」
私はクズだ、と彼女はもう一度言う。
「元からなのか、それとも殺人を犯してから変わったのかは分からないが……反省などしていない。自分が満たされないこと、自分が報われないことに対しての不満だけがある」
自分はクズだと分かったと、彼女は最後にもう一度言った。
全てを語り終えたとき、ミンウェルの口調は随分と穏やかなものになっていた。
きっとこれが本来の彼女の姿なのだろうと思った。
同時に彼女はとても悲しそうだった。
参加者たちは何も言えなかった。もちろん俺も。
唯一カジだけが口を開いた。
「ミンウェルさん。アナタは確かに罪を犯しました。アナタは自分をクズだと称しました。まぁ、それはその通りなのでしょう」
カジの言葉を聞いてミンウェルは乾いた笑い声を聞いた。
「身も蓋もないな。私だって分かっているよ。でもお前が話せと言ったから、わざわざ話したんだ。話した意味なんてあったのか?」
「意味はありますよ、どんなことにも、残念ながら……。大切なことはまず自分の傷を認めることです」
「傷を認めるね……。私にそんな資格があるのか? 罪人である私に?」
「真面目ですねぇ。資格なんてなくても良いんですよ。何かを思うことは残念ながら誰にも制限できないんですから……面倒なことです、マジで」
とカジは笑う。
「自分には『傷』があったと認めることです。それをしないと始まらない。埋めるモノが何もなくとも、難しいことは考えず、まず自分の傷を認めなきゃなりません
ミンウェルさんも他の皆さんも……報われることも、その『傷』が埋まることはおそらくないでしょう。ですが『傷』があった事実はある」
「――自分の傷を認める……」
カジの言葉を聞いて俺は思わずつぶやいてしまった。
カジは俺の方を見る。
「エドルスさんはどうですか? 何か話してみたいことはありますか?」
そう問われて思い浮かんだ光景があった。
自分の過去の光景だ。
冷たい地下室。
暴力の記憶。
137号達。
俺は頷いて話し始めた。
何度も言葉に詰まり、うまく語ることができなかったが、みんな真剣に聞いてくれた。
日をまたぎ、少しずつ語った。
そして数日かけて自分の過去を語り終えた。
語ることで自分の感情に気づくこともあった。
俺は、辛かったのだと気づいた。
俺の話を聞いた後のみんなの反応は様々だった。
慰めてくれる人がいた。
悲しんでくれる人がいた。
こうすれば良かったと意見を言ってくれる人もいた。
反応は様々だったが、みんな俺の話を最後まで聞いてくれた。
否定はしなかった。
最後に礼拝の時間になったので俺のためだと祈ってくれた。
俺と死んだ137号達のために。
俺は教会の中を見回すと、机の端においてあった花瓶に気づいた。
紫の色の花でどこかで見た気がした。
……自分がいた地下室で見たことがあったのだと気づいた。
いつの間にか137号が部屋に飾っているのを見たのだった。花を飾るなんて命令は受けていなかったはずなのに。
……話していて気づいたことがある。
別に俺は彼女たちを恨んでなかった。
ただ、俺は辛かったし、どうすれば良かったのだという思いだけがある。
周りの人たちを見る。
俺の過去を話して何か解決したわけじゃない。解決する日も来ない気がする。
ただ自分の過去はあったのだと認められた気がして、少しだけ嬉しかった。
◇◇◇◇
礼拝も終わった後、俺は外の空気を吸いたくて散歩することにした。教会の裏手に回るとカジがいた。立ちながらパンを食べている。神父のくせに行儀が悪い。
彼も俺に気づいたので、俺は彼の隣に立つことにする。
「エドルスさん、どうでしたか? 自分のことを話してみて?」
「……悪くなかった」
と俺は正直に答える。カジはパンを食べ終わり、手についたパンカスを払う。
「そいつは上々。ミンウェルさん達もいい顔するようになりましたねぇ。これで私は罪人達を改心に導いた優れた神父ですかね。私のことを崇めても良いですよ」
「嫌だよ」
と俺が即答するとカジは嬉しそうに笑った。
「それで良いです。私は提案だけしかしていないですからね。気づきを得たのはアナタ達の力ですよ」
「俺たちの力……なのか?」
「ええ。この先だってアナタ達は自分で考えて、選択し、行動しなきゃなりません。もちろん全部自由とはいかない。むしろ思い通りの選択ができない事の方が多いでしょうね。しかしながら、どんな事象に対して、自分の意思は介在する余地がある」
「自分の意思で決めるのか……難しいな」
「ですね。くそ面倒くさいです。でも、じゃあ決めるのが嫌だからといって……例えば私の言うことだけ聞くようにしますか?」
「……それは……嫌だな」
と答えるとカジは「よろしい」と言ってまた笑った。
俺もちゃんと否定できたのが嬉しかった。
昔の俺なら「どうでもいい」と言っていたはずだった。
なんだかおかしくなって俺も笑った。
ストックがないので、また書き終えたら投稿します。
よろしくお願いします。




