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第17話 エドルスの過去2ー意味のあること

前話のタイトルをちょっと変更しました。

過去編の続きです。

 

 俺は14歳になるまではファルカの屋敷で生活していた。

 そこでの日々での日々の中で特筆するべきことはない。

 俺の母親と、母の妹――当主の妻はたまに俺を気にかけてはくれた。しかし二人とも当主であるダグラスに疎んじられていたため、家での立場は低かった。最終的には二人とも独り静かに死んでしまった。

 俺はというと、よく他の兄弟たちからは暴力を振るわれた。地下室での拷問と比べればおままごとみたいなもので、反抗する気も起きなかった。

 ただここでも暴力を振るわれるのかと、少しだけ残念に思った。

 暴力を振るわれるのは、そのコミュニティで自分は乱雑に扱われる存在なのだと思い知らされるようで、そのことが辛かった。

 殺しても良かったが、その行為をしたら社会における自分の立場がまずくなることくらいは分かっていた。

 せっかく『彼女たち』を殺してまで外に出たのに無駄になってしまう。

 ……認めよう。

 俺は外の世界に憧れがあった。結局は居場所がほしかった。

 

 どうやっても手に入れることができない、手に入れるための努力の仕方も分からない。

 そのことに気づいて更に絶望した。


 居場所が欲しいから、魔術師として危険な任務に行くよう命じられたときも大人しくしたがった。命令に逆らう、という発想を持たなかった。

 モンスター退治は楽で、俺は成果を示した。示した結果、『化け物だ』と蔑まれる結果になった。

 14歳の頃。魔術師としての任務で、俺は王国特殊部隊『黒衣の団』に所属することになった。所属に至る経緯は分からない。父親であるダグラスが王国に恩を売るために色々と手を回したのだろうか……。当時の俺は社会への解像度が低いので分からなかった。

 ただ命じられたので、行った。

 とにかく俺はここでようやく『仲間』と呼ばれる人たちに出会った。ミンウェルともここで出会ったのだ。


◇◇◇◇

 汚染地帯『フリューネ』。

 100年以上前は自然豊かな平原だった。しかし召喚魔術の実験が行われ失敗。暴走した召喚術式からは凶悪なモンスターが召喚され続け、さらに濃度の高い魔力が空気中に漂い、人が住めない地帯となってしまった。

 『黒衣の団』はフリューネにて、原因となっている召喚魔術の術式の破壊を、王国から命じられていた。

 黒衣の団の構成員の多くは罪人だった。王国からの恩赦のために危険な任務をこなす特殊部隊。もちろん罪人以外のサポート要員や監視役などもいて、いちおう俺はサポート要員という役割で所属していた。

 

 ある日のことだ。

 任務が終わったあと、俺は団員の一人に声をかけられた。仕事中はお互い最低限のことしか話さないので、話しかけられたのは初めてのことだった。

 相手はダークエルフの女性、名前をミンウェルといった。


「お前、なんでここに来ている?」


 彼女は気に食わなそうに俺を見ている。(この時は流石に俺も人の表情を読み取ることができていた)

 俺は正直に答えた。


「命令されたから」


 ミンウェルはますます顔をしかめた。


「命令されたから? 別に私たちみたいに罪を犯したわけでもないのに、命令されたら、こんな肥だめまで来るのか? 他に居場所があるだろうに?」


「居場所……?」


 ミンウェルの言うことが直ぐに俺は飲み込めなかった。その態度がますます彼女を苛立たせてしまったらしい。


「名家の出身で魔術の才能もある! 私たちと違って選択肢が沢山あるような人間が、なんでこんな場所にいるんだ!」


「選択肢……。自分がいる場所っていうのは選べるのか?」


「……ハァ?」

 ミンウェルは本当に怒ってしまったようだった。


「――そこまでですよ、ミンウェルさん」


 今まさに殴りかかりそうなミンウェルを止める声がした。

 声の方向を見ると一人の男が立っていた。

 細身、黒髪の人間族の男。眼鏡をかけている。黒い礼服に身を纏っていて、片手には『イディラ教』の教本を持っている。

 名前はカジ。彼もまた罪人ではなく、『イディラ教』の神父として派遣されている男だ。


「エドルスさんはまだ此処に来たばかり。それに彼はまだ子供です。年長者として優しくしてあげなさい」


 カジがそう言うとミンウェルは不服そうな顔をしつつも頷いた。

 カジは神父であるだけではなく、王国からの監察官でもある。団員で彼に逆らえる人間はいなかった。

 しかしその権力を振りかざすことはなく、誰にでも分け隔て無く接するために、団員からも信頼されているようだった。

 カジは俺たちを見て穏やかに微笑んだ。


「もうすぐ礼拝の時間です。よろしければ、お二人ともいかがですか?」


◇◇◇◇

 簡素な礼拝堂には俺たち以外にも参加者がいた。参加者の多くは団員だった。

 混んでいたのが意外だったし、彼らが真剣にカジの説法を聞いているのはもっと意外だった。

 カジは『イディラ教』の教えを説く。

 イディラ教の内容は俺も知っていた。王国の政教でもある。

 はるか昔、神と悪魔が争った。争いが終わり、争いで疲弊した人間と荒れ果てた大地が残された。それらを癒やすために女神イディラが現れ人々を導いたのが、イディラ教の始まりと言われる。教義の内容は女神や、女神の信徒が残したものが多い。

 なんで、俺は教義の内容を知っていたのだろうと考えて、思い出す。

 137号が俺に教えてくれたのだ。

 たまに彼女が祈るような動作をしていたことも思い出した。

 カジの教えが続く。内容は頭に入ってこなかったが、なぜか昔のことを思い出したせいで、胸が痛くなった。


 礼拝が終わった。

 参加者達は一人、また一人と帰っていき、なぜか俺とミンウェルとカジだけが残った。

 ミンウェルはまだ怒っているような表情を浮かべている。

 カジは俺の側により話しかけてきた。


「エドルスさん。どうでしたか。初めての礼拝は?」


「……どうって……」


 俺はうまく答えられなかった。

 ミンウェルは苛立ったのか椅子を蹴り上げた。


「チッ。いらつくな、お前の態度は……。ハッキリと言え!」


「ミンウェルさん。言葉使いが乱暴ですよ」


 カジは腰を下ろして、俺の視線に合わせた。


「アナタが書く報告書は読みやすいですし、言語能力はむしろ高い筈なのですがね……。どうやらアナタは自分のことを話すのが苦手なようです」


「自分のことを……話す?」


 俺はオウム返ししかできない。

 自分のことを話すといっても何をしたら良いのか分からなかった。


「はい。自分のことを話す練習をしてみましょう。何でも良いんです、好きなことや嫌いなこと、身の上話でもね……一緒にミンウェルさんもどうです?」


「はぁ? 私もか? 不要だ。そんなガキのような真似は……」


 カジは眼鏡をくいっと持ち上げて言う。


「私より長生きのくせに言葉使いがなっていませんよ。長い間ずっと乱暴な言葉使いのままだから癖になっているんじゃないですか? 言葉使いも直しましょうよ」


 ミンウェルは面倒くさそうに溜息をつく。


「……まぁ、確かに私の話し方も変わったな。罪を犯す前と後では……。だが今さらだ。罪を犯した以上は元の自分には戻れないし、居場所もない。何をやっても無意味だ」


 そこでカジは「はっはっはっは」と笑った。笑ったと言うには随分と無機質な声でわざとらしかった。


「ミンウェルさん。この世に無意味なことなどありませんよ」


「ふん。聖職者らしい綺麗事を吐くつもりか?」


「いいえ、逆です。残念ながら無意味なことなど存在できないんですよ。至極面倒なことに、何でも、些細なことでも、意味は生じてしまうのです。無情ですよねぇ」


 カジは億劫そうに立ち上がり話を続ける。


「私なんてね。本当は生きている間は何もしたくないんですよ。本当に何もですよ。神学校の先生達からは『無欲で素晴らしい』と言われましたが、私はただ面倒くさがりなだけです。どうせなら石とかに生まれたかったものです。

 しかしながら残念なことに私は人間で、度し難いことに私なんかも生きている。生きている以上は行動しなければならないし、行動の結果として意味が生じてしまう。この意味の積み重ねの結果、私のような人間も神父をやっているのです。面倒くさいこと極まりなし」


ミンウェルは呆れてのか、また溜息をつく。


「つまり、アンタは何を言いたいんだ?」


「無意味なことなんてものはないので、折角ですし自分のために何かやりましょうよ、という話です。面倒ですが、まぁ、幾分かマシです」

 

 カジは気だるげに言う。


「人生は一度きりしかないので、どうせなら良いことをする方が得ですよ」


 こうして。

 カジの提案で俺はたまに彼らと会話するようになった。


明日もう一話。投稿できたら投稿します。

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