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第16話 エドルスの過去1ー初期衝動

※子供への暴力・虐待表現があります。

ワンクッションとして空白行を入れています。

とても暗いです。












 子供の頃を思い出すとき、寒かったことを最初に思い出す。

 特に足の裏が寒くて痛かった。

 靴も靴下も与えられなかったから。

 俺が8歳まで閉じ込められていた部屋は、屋敷の地下室にあった。暖炉もないので、冬はとにかく寒かったし、床なんて冷たくて歩けたもんじゃなかった。

 

 俺はファルカ家の正式な子供ではない。

 ファルカ当主である父親――ダグラス・ファリカと、正妻の姉との子供だ。

父親曰く、『姉のほうが誘惑してきた』らしいが嘘だと思う。

 ともかく俺は父親から疎まれていたのでファリカ家ではいないモノとして扱われた。物心ついた時には既に、屋敷の地下室の狭い部屋にいた。

 ボロ布みたいな服。布でこしらえた床と大差ない寝床。かびた携帯食料。

 そして常に部屋には三体のホムンクルスがいた。

俺を主に世話をしたのはホムンクルス137号。金髪の髪をした女性型のホムンクルス。他2体は主に監視として部屋にいた。

 ダグラス・ファリカはホムンクルスの研究者でもあり、外見は人と変わらないホムンクルスを作り出すことに成功していた。

 しかし性能自体には多くの欠陥があった。

 まず力加減ができない。着替えの時は俺の服を脱がそうとして、いつも俺の腕を折った。その度に『治癒』魔術で治療する。

 そもそも子供の世話をする機能も情緒もない。俺への食事も最低限しか与えない。基本的にはほぼ放置。たまに俺を構おうとして、力加減を誤り、怪我をさせる。

 いつも体のどこかが軋むように痛かった気がする。

 四歳になる頃には、もう、悲鳴をあげることもなくなっていた。喉が無駄に痛くなるだけだからだ。

 6歳になるころ、初めて俺以外の人間が部屋にやってきた。

 俺の父ダグラスだ。

 病人みたいに痩せこけた頬。顔に似合わない立派なひげ。目はぎょろりと大きく、全体的にアンバランスな印象だった。


 彼は俺の姿をじっくりと眺めた。痩せていてみすぼらしい俺を見たあと、にやりと笑った。

 (……当時の俺には彼の表情の動きはよく理解できていなかった。ホムンクルス達は基本的に無表情なので、表情を変える、ということを俺は知らなかった)


 彼は自分が父親であること、俺の素性を語って聞かした。

 俺を部屋に閉じ込めて、酷い目に遭わせている理由も。

 

「今の私はずいぶんと面倒な状況に追い込まれていているんだ。お前を作ったばかりに、周りからは責められるし、評判も散々だ。ストレスがたまっている。不幸なんだ。

 『せめて自分より不幸で惨めな人間がいて欲しい』と思うのは自然な欲求だと思う。人なら誰でも持っている感情だ。そうだろう?

 私の不幸の原因であるお前を酷い目に遭わせるのも、仕方がないとまで言わないが、理解されてしかるべき行為ではないかね? それに――」


 彼は137号に命じる。

 137号は俺の体を拘束し、俺をうつ伏せの体勢にさせた。

 彼はそのまま俺の右手を踏みつけた。

 骨が軋む音がした。


「私はずっと我慢してきたし、頑張っているんだよ。お前には分からないだろうがね。いや私の頑張りは私が理解できていれば良いのだが、それではやはり物足りない。少しくらい良い思いをしても良いだろう?

 たった一度だけの人生なんだ。不幸でいる時間は少ない方が良い。出来る限り良い思いをしたいんだ」

 

 ダグラスには生来の嗜虐趣味があり、それを解消するためにホムンクルスの研究に没頭していただけだ。

 この日。彼の嗜虐趣味の対象が俺になっただけ。

 たまたま俺がそこにいた。要素と要素がかみ合っただけ。

 それだけの話だ。

 

 この日から俺への直接的な暴力も開始された。

 ダグラスが137号に俺への暴力を命じる。

 俺はズタボロになる。

 137号が俺を治癒魔術で再生させる。

 繰り返し。

 

 俺が6歳になる頃には、ダグラスの命令で俺への教育も開始された。

 俺に暴力を振るう以外の時間では、137号が教師となり、俺に様々な知識を授けた。文字の読み書き、数学や歴史などの教養。また外の世界についての知識。

 俺は俺とダグラス以外の人間がいることを知り、俺が置かれている状況は少なくとも『幸福』ではないことを知った。俺は地下室に閉じ込められているのに、『太陽』とやらの火の明かりを浴びて、普通に呼吸できている人間がいるらしい、と。

 料理という存在も知った。

 ダグラスが俺に見せびらかせるように食べているのを見たこともあったが、どんな存在であるかは知らなかった。俺が口にする携帯食料とはまるで違う、栄養補給以外にも人の楽しみとなりうる存在らしい。

 

 次第に俺にも欲求が生まれてきた。

 この場所から出てみたい、という欲求だ。

 

 まず俺は覚えた言葉でホムンクルス達に会話を試みてみた。


「ここから出るためにはどうすればいい?」


 137号が俺の言葉に反応して応える。

 

「我々はアナタをこの部屋に閉じ込めておくよう命じられている。ゆえにこの部屋から出る場合は我々を取り除かなければならない」


「……そのためにはどうするべき?」


 137号たちホムンクルスは主人であるダグラスの命令で動いており、彼の命令に逆らうことはできない。しかし彼の命令に含まれない内容であれば、俺の言うことを聞いたし、何でも教えてくれた。

 なんでも。例え自分の命に関わることでも。


「我々を実力で排除するのが最も効率的だと思われる」


 137号は無機質に答える。

 金色の瞳からは何の感情も読み取れない。


「しかし我々を排除することも困難であると思われる。我々は一般的な感情を持たず、ホムンクルスとしての完成度は低いものの、代わりに戦闘力は高めに設定されている。戦闘力は王国騎士団の三つ星騎士に相当する」


 王国の騎士がどれくらい強いかは分からなかったが、とにかく彼女たちを排除するのは簡単ではないらしい。

 俺は彼女にお願いしてみる。


「じゃあ、それを達成するための手段を教えて欲しい」


「――了解した。アナタには魔術師の適正がある。魔術を覚えるのが最適だと考えられる」


 彼女は俺の提案をのんだ。

 ダグラスが造ったホムンクルスは人の命令を最優先する。

 例え『お前を殺すための方法を教えろ』という馬鹿みたいな命令にも従う。


「――しかし。また明日から教えるとしよう。そろそろご主人が来る時間だ」


 俺は諦めて従う。

 いつもの暴力の時間だ。


 それから部屋を出るまでの二年間。

 俺は137号からの暴力を受けながらも、彼女から彼女達を殺すための特訓を受けた。

 あまりにも馬鹿馬鹿しい状況だと言わざるを得ない。


 しかし、そのときのことを思い出す時は、今でも妙に胸が痛くなる。


 ◇

 8歳になった。

 俺には魔術の才能があったらしく、既に上級魔術と呼ばれる、世界で限られた魔術師しか扱えない魔術も自在に使えるようになっていた。

 体内に込められた魔力も多く、その魔力の扱い方も上達した。

 同時に137号達の戦闘力もある程度把握できた。隙を突き魔術をぶつければ殺せると確信を得た。彼女らは肉弾戦も得意としているので、一瞬でケリをつけなければならない。

 ……部屋にいるホムンクルス3体。これらを排除する算段はつけた。

 彼女たちに自分がどれだけ痛めつけられてきたか。6歳の頃からはダグラスの命令とはいえ、明確に暴力も振るわれた。

 壊すことに躊躇いはなかった、

 わけではなかったが、結局、俺は実行した。


 彼らが部屋の掃除を始めた時だった。

 ちょうど全員、俺から視線が外れる瞬間があった。

 その瞬間を逃さず、俺はため込んでいた魔力を一気に放出した。

 最大火力の『火球』魔術。

 後ろから一体を仕留める。

 他が反応する前に更に一体。

 最後に137号が残った。既に戦闘態勢にうつっている。

 もう一度、俺は魔術を唱える。

 137号が接近してくる前に魔術を放つ。

 彼女の体が燃える。

 

「―――――」


 最後に彼女は何か言った気がしたがよく聞き取れなかった。

 俺はそのまま外への扉に手をかける。外から鍵がかかっている。魔術で扉を吹き飛ばす。

 外へと出る。

 外へと出るために俺は3人殺した。


 俺が閉じ込められた地下室を出る。そのまま外へと続く階段を上る。階段というのも初めて見たが存在は知っていた。137号達が教えてくれた。

 階段を上る。

 上る。

 登り切ると、また扉があった。また鍵がかけてあったので魔術で扉ごと破壊する。

 

 外へと出た。


「――――ああ」


 屋敷の廊下に出る。窓から眩しい光が差し込んでいた。

 温かい、春の日差しが屋敷中に溢れていた。


「あああ」


 眩しくて目から涙が溢れてきた。

 地下室とは比べものにならないほどに、この空間は温かい。

 

 近くで悲鳴が上がった。見ると女性が口を覆って、俺をおびえるような目で見ていた。屋敷の使用人という奴だろう、と思った。137号達と同じ格好をしていた。

 俺は無視して進む。

 歩く度に人とすれ違う。みな温かそうな格好をしていた。俺を見ては悲鳴や怒号をあげる。

 全部、無視した。襲ってきたら殺してやろうと思ったけれど、みんな、俺から逃げ出した。

 

 大きな扉の前についた。

 俺は扉を魔術で吹き飛ばす。

 大きな部屋には、大きな長机があって、沢山の料理が並べてあった。

 更には沢山の人間がいた。なんとなく俺と顔が似ている奴が多かった。

 自分の兄弟姉妹、と呼ばれる存在かと気づいた。

 また悲鳴が上がる。

 逃げ惑う奴らを無視して、俺はテーブルの席に着いた。

 テーブルに置かれた『料理』は本の挿絵で見たことがある『ハンバーグ』というやつだった。

 手で掴んで口に運ぶ。

 熱くて、なんだか不愉快な食感だった。

 

 ああ、と俺は更に絶望した。

 遠巻きに俺を眺める俺の兄妹を見て悟った。


 もう、『何かを』、自分は手に入れることはできないのだろうと悟った。


ありがとうございました。内容が暗くてすみません。

ストックがなくなったので、また次の投稿まで間が空くかと思います。

残りは過去編、旅行編の完結、そして最終編と、そんなに話数もないはず。

気が向いたときに読んでいただけると嬉しいです。

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