第11話 最悪の魔術師
評価、ブックマーク等ありがとうございます。
今回の話は三人称になります。
少年騎士は7話で出てきた人です。
少年は夜道を歩いている。暗闇の中では鎧に刻まれた三つ星の紋様が光る。
彼の名前はルイ・ヴァンダレイ。齢16にして、王国騎士団の三つ星騎士。五つ星騎士は英雄アルカのみ、四つは四人の騎士団長に与えられている。三つ星騎士はその下につく、精鋭中の精鋭たち。
その年で三つ星騎士になれた理由は、正義を信じてここまでやってきたからだ、とルイは信じていた。
悪は潰す。
同情の余地もなく。
そこで彼は立ち止まった。
いつの間にか正面に誰かが立っていた。フードを被り、顔がよく見えない。
しかし、近くに来るまで存在に気が付かなかった。それだけで警戒に値する。
ルイは剣に手をかけ、問いかける。
「………何者です」
フードの人物はゆっくりと近づいてくる。背格好から男だろうか?
男はルイの質問に答えず、問いかけた。
「ルイ・ヴァンダレイだな。四件の罪人殺しの犯人」
「………確かに僕はルイ・ヴァンダレイですが、殺人となんのことでしょうか?」
「いや、否定しても意味ない。解析魔術でアッシュの死体を解析して、大体分かっている。犯人は君だ。それに」
「それに?」
「別に人違いでもどうでも良いだろ? 不運な人間が増えただけだ」
男の口調は無機質で人間らしさが欠けていた。
(………腹立たしい。嫌いな人種の匂いがする。自分以外どうでも良いと思っているクズの匂いだ)
少年は直感で男がどんな人間なのかを理解した。
自分が殺してきた犯罪者と同類なのだと。
「ふん。僕が殺してきた犯罪者と同じだな。正当な裁きを受けず、のうのうと生きるクズと同じだ」
「………どうして殺した?」
「だから正当な裁きですよ。犯罪者は死でしか、その罪を償えない!」
「あっ、そ」
男は更に一歩近づいた。
ルイは男に向かって叫ぶ。
「貴様は何者だっ! 名を名乗れ!」
「ーー俺はエドルス。エドルス・ファリカだ」
その答えと共に、ルイの意識は暗転した。
「ーーー!!???」
目が覚めるとルイはベッドの上にいた。自分が住んでいる宿舎の一室だ。
体を調べてみる。外傷もなく、魔術をかけられた痕跡もない。
(………夢だったのか? いや………)
記憶はハッキリしている。
ローブの男が自分の名前を口にした瞬間はちゃんと覚えている。
エドルス・ファリカ。英雄殺しの指名手配犯。
卓越した魔術師にして、許されざる犯罪者。
(………油断した。準備を整えて、今度こそ奴を殺す)
そう、決心する。
ルイ・ヴァンダレイはそういう少年だ。
正義のためには殺人もいとわない。
(ーー何のために?)
だから自分の行動に疑問が浮かんだ時、一番、彼が驚いた。
(………人を殺す? いくら悪人でも殺すなんて………僕は………)
違う。こんな弱い思考を自分は持ち合わせていない筈だ。
いきなり指名手配犯に会ったことで混乱しているのだ。
一度、顔でも洗って気分を変えるべきだ。
しかしベッドから動くことができない。
(………殺してしまったっ! 人を………! 無理だ………っ! 耐えられないっ!)
洗脳魔術でもかけられたのか?
思考が今までの自分とかけ離れている。
しかし魔術をかけられた痕跡はない。
(……ごめんなさい……ごめんなさい……許して……)
涙が出てきた。吐き気も止まらない。
自分はこんな人間だったのか?
そうだったのかもしれない。
むしろ昔の自分にこそ違和感を覚える。
「随分と苦しそうじゃないか」
声がした方を見るとローブの男が立っていた。
エドルスだ。
「お、お前……僕に何をした?」
「君の魂をいじらせてもらった」
「……魂?」
――〈原初の部屋〉というものがある。
自然の法則、多種多様の生命、魔術の摂理。
この世界の全ての摂理が記された空間。
その空間へと入り、摂理を書き換える魔術こそ〈禁止魔術〉とされていた。
エドルスは魂の転生を試みるために、〈原初の部屋〉へと侵入した。
結果は失敗したものの、一つの能力を得た。
「人間の魂の情報を書き換えることができる。魂を書き換えれば、種族も、性別も、能力も、人格だって簡単にいじれる」
「……そんな……そんなことが……」
「なに。もうすぐ『今の自分』への違和感がなくなる」
「……も、戻して……」
「戻してやるとも。ただし自首することが条件だ」
エドルスは思わず笑ってしまう。
自首、だなんて。
罪の大きさからしても真っ先に自首するべき人間は自分だというのに!
まぁ、どうせ自分はいずれ捕まるし、と自分のことを棚にあげることにした。
つくづく自分はカスだなぁ、と思った。
「『まだ自分のまま』生きていきたいだろう?」
エドルスの問いにルイは頷いた。
それから数日後、騎士団の三つ星騎士が殺人犯として捕まったという情報が町中に広まった。
住民の反応は彼を非難するもの、支持するものと様々だった。
エドルスはというと、いつもの公園でベンチに座り空を見ていた。
そんな彼を見つけた銀髪の女性が近づいてくる。
「お疲れ様でした~。マスター」
「レノンか。お疲れさん」
「しかし意外でしたよ。あの少年を殺さなかったんですね」
「ああ。別に殺しても良かったんだけど……」
エドルスは自分の行動に驚いていた。
別に殺人に抵抗があるわけではない。王国の特殊部隊〈黒衣の団〉にいたころも、そして王国に反旗を翻した時も、人を殺してきた。
その方が手っ取り早いからだ。
「殺すより別の方法があるんじゃないかと思ったんだよな……」
「そうですか。ま、殺すより自首を勧める方が上等ですよ。良いことです」
「良いことねぇ。今さら良いことして意味があるかって話だが……」
「意味ならありますよ」
レノンはそう言い切り、エドルスの隣に座る。
「聖人がずっと正しいまま生きていける訳じゃ有りませんし、悪人もしかり、です。そして起こした行動には必ず意味が生じる」
「…………そんなもんか」
「はい。そして行動は未来に意味をもたらしますよ。必ず変化は生じる。マスターにも必ず変化はおとずれてしまう。私はね。大罪人のエドルスが変わってしまう瞬間というのを見てみたい」
確かにレノンの言う通りだ。エドルスは頷く。
何か大きな、劇的な変化が起きたわけじゃない。
ただゆっくりと過ごして……そして人と関わっただけ。
けれど自分に変化は起きてしまっている。
その変化が何の意味をもたらすのか、意味があって良いのかも分からないが。
「まぁどうせ、簡単に人生なんて終わりにできないんですから、気楽にやりましょう」
「だな。捕まるまで」
俺が捕らえられるまで、どれだけの時間があるかは分からない。
だが気楽にやってしまおう。
どうせ真面な人間ではないのだから。
エドルスは決心し、空を見上げる。
今日も良い天気だった。
〈調査レポート ゴーフ・メイズ(偽名:アッシュ)について〉
・幼少期に親をなくし、街の貧民街にて育つ。
・8歳の頃に冒険者ギルド〈紅の翼〉に拾われる。
・以後、〈紅の翼〉に所属。ギルドマスターを実の親のように慕う。
・20歳の頃にギルドマスターから、別のギルドに所属していた女性の殺害を依頼される。
女性の名前はエルサ・アイズ。
ギルドマスターは『自分はエルサに脅されており、このままでは破滅だ』とゴーフに泣きついた。
また街の憲兵は買収しているので、事件が明るみになることはない、必ずゴーフを守ると約束したという。
・ゴーフはエルサを殺害する。その事件は直ぐに明るみになり、ゴーフは逮捕されることになった。
『ゴーフはエルサに恋愛感情を抱いており、彼女をつけ回していた』とギルドマスターは証言した。
・ゴーフは出所後、アッシュと偽名を名乗り、姿を消す。
・現在、〈紅の翼〉のギルドマスターは冒険者組合の資金を横領していた罪で捕らえられている。また他にも様々な罪が明るみになっており、その中でゴーフとエルサの事件も明かされることとなった。
・エルサはギルドマスターの横領を告発しようとしていたようだった。
・ゴーフが殺人を犯した事実は変わらないが、調査を進めることで、ゴーフとエルサの名誉が回復されることを望む。
一区切りです。
次回から後編になります。
後編のストックがたまったら投稿しようと思います。
投稿まで期間が空くかと思います。申し訳ない。
気が向いた時に読んでいただければ嬉しいです。




