第10話 せめて覚えておこう
投稿できました。
話は暗いです。すみません。
『アンタは生きてくれ』
かつての仲間に言われた台詞だ。王国に反旗を翻した時に一緒に戦った仲間だ。
英雄殺しは達成できたが、禁止魔術の発動は『ほぼ』失敗した。
俺はもう死んでも良かったが、アイツは最後に力を振り絞り、自らの命を犠牲にして俺を逃した。
だから俺も自殺はしないでいる。
せっかく逃がしてくれたので、時間がある限りは牢屋ではなく外の世界で生きようと思っている。
……彼はA級の冒険者だった。名前はボルバといった。彼は十年以上も前に仲間に嵌められて地位も金も、家族も失った。
「生きていても死んでいるようなもんだった」
とボルバは俺に語った。
自分がいかに惨めで、人より劣り、生きている価値がないかを教えられる人生だったと。
俺とボルバが会ったのは偶然だ。
アイツは王都の街中で、たくさんの人間を殺そうと計画していた。剣を持って大通りに行き、目につく人を殺そうとした。
俺の今後の計画に支障が出そうなので、俺はボルバを止めた。
俺は彼の話を聞いた。
最初は興奮していた彼は次第に冷静になり、次には泣いていた。
「なぁ、なんで俺はこんなことを考えるようになっちまったんだ? 昔は違った。人並みの正義感もあった。悪事は許さない人間だったんだ。でも今は幸せな人間がいるのが許せなくなっている。俺はこんなにも惨めなのに!」
殺してくれ、殺してやる、消してくれ、嫌だ、ふざけるな、と支離滅裂な言葉を吐くボルバを見て、俺は彼を仲間に誘うことにした。
英雄アルカを殺し、彼が使用権を持つ『転生魔術』を奪う計画に。
英雄アルカは何度も転生を繰り返し、姿と名前を変えて王国を守ってきた。その鍵となる『転生魔術』の術式は彼の魂に刻まれている。俺は術式を奪う手段があった。
そのためにはまず英雄アルカを殺す必要があり、そのための戦力が必要だった。
「転生魔術……それを使ってアンタは何をするつもりだ?」
「人は死ねば終わりだ。一度まともな道から外れてしまえば二度と戻れない。しかし転生魔術があれば、やり直す機会を得られる……というのが、まぁ表向きの理由だな」
「本当の目的は?」
「俺は全人類が転生できるよう世界の仕組みを変えるつもりだ。そうすれば『死が終わりではなくなる世界』がやってくる。生き方も社会の在り方も根本からひっくり返る。クソな世界の理念がぶち壊れる様を見てみたい」
理屈でなく、衝動があった。
この世界をぐちゃぐちゃに踏み躙って、価値観をひっくり返して、まるごと全部台無しにしてやりたい。
この衝動はずっとあった。
父に見放され、ホムンクルスに育てられた時。ホムンクルスは力の加減ができないので、何度も死にかけた時があった。
助けてと叫んでも誰も助けてくれなかった。
俺を産んだ母。そして母の妹であるファルカ家の正妻。この二人だけは俺に良くしてくれたが、あの家では女性の立場が弱く、最後は惨めに死んでいった。母の葬儀には俺しか来なかった。帰り際、父が女と腕を組んで歩いているのを見た。
……そして、かつての『黒衣の団』の仲間達。多くは罪人で構成され、贖罪として危険な任務をこなさなければならなかった。
彼らの性格も皆それぞれで、嫌な奴もいれば、優しい奴もいた。普通の人間と変わらない。運と環境が悪かった者も多かった。
しかし彼らは無惨に死んでいった。危険な任務で王国騎士団に見捨てられ、一人、また一人とゴミのように死んだ。
俺ともう一人だけ生き残り、『黒衣の団』は解散。俺は王都に戻った。
今でもよく覚えている。
よく晴れた日だった。
広場にはたくさんの人がいた。
皆笑っていた。
何かがパチンと弾けた。
そうして俺は王都に反旗を翻した。
どうしようもない人間はいる。
手遅れで、被害者ヅラをして、他者への想像力も欠けていて、暴力を振るう。
俺はそんな奴らのために戦いたかった。
俺もそんな人間だから。
「…‥だから、アンタの話をもっと聞いてみたかったよ」
アッシュの墓の前で俺は呟いた。
アッシュは罪を犯して、その上で償いをしたいと言っていた。俺たちでは考えられなかったことをしようとしたのだ。
もっと話を聞いてみたかった。
「エルさん。外は冷えますよ」
声をかけられて振り向くと教会のシスターが立っていた。アッシュの葬儀に出たのは俺だけで、最後までこのシスターが付き合ってくれたのだ。
「大丈夫です。俺はもう少しここにいます」
「かしこまりました……アッシュさんとは友達だったのですか?」
「…‥そうですね」
俺が答えるとシスターは笑った。
「悩みがあれば聞きますよ。告解室に来てください」
と言ってシスターは去っていった。
俺は最後にアッシュの墓を見た。
…‥今なお衝動がある。
お前を殺した人間を痛めつけてやりたい。自分にその権利があるかどうかは関係ない。
空を見上げた。
良い天気だった。
ありがとうございました。
話も半分くらい終わりました。
次回投稿は間が空いてしまうかもしれませんが、完結はちゃんとしたいです。




