第9話 話を聞こう
話が暗いです。
申し訳ない。
いいね、ありがとうございます。
最近、街では物騒な事件が起きている。
ここ二ヶ月の間に三件の殺人事件が起きている。朝、街中の目立つところに死体が置かれている。そして死体の側には決まってメッセージが残されている。
被害者がかつて犯した罪の告発、そしてこの行為は『正当な裁き』だという主張。
1件目の被害者は自分の母親を殺害。
2件目の被害者は強盗殺人。
3件目の被害者は大規模な詐欺グループに所属し、多くの人間を自殺に追いやった。
真偽は分からないが、この裁きを支持する人間も一定数いるようだった。
犯人はまだ見つかっていない。
そんな事件が続いているせいか、一緒に仕事をするアッシュの顔は暗い。仕事をキッチリこなすものの口数が少なかった。
何か思うところがあったのだろう。仕事の終わりに飲みに誘われた。今日はレノンも仕事でいなかったので、俺も誘いに乗ることにした。
飯はアッシュの家で食べることになった。アッシュが住んでいる集合住宅の一室。入ってみてビックリした。
部屋にはほとんど何もなかった。ボロいベット。簡素な丸机。
レノンが来る前の俺の部屋とそっくりだった。
買ってきた料理を食べ終わるとアッシュはぽつりぽつりと話し始めた。
「アンタ、最近の事件をどう思う?」
「どうって……」
「犯罪者が殺されている事件のことさ…‥酷い話だと思ったらいけねぇかな?」
「別に良いだろ。思うだけならなんでも」
「そうか……」
アッシュは水を飲む。俺は酒を飲んでいるが、彼は酒を飲んでいない。
「街の人が言っていたよ。『犯罪者なら殺されて当然だ。正当な裁きだ』ってよ」
「あの告発文が本当かはまだ分からないだろ」
「そうだな。ただ罪を犯した人間への認識は、
結局は『死んで当然』だ。そうだろ?」
「…………」
「罪を償い、罰を受けていない、反省していない、自分のことだけがかわいい、総じてクズ。そんな認識だ。あぁ、正しいさ。正しいとも」
アッシュの口調は静かなものだったが、言葉は止めどなく溢れてきた。
「俺もそんな人間だ。罪を犯した時、『なんで自分がこんな目に遭うんだ』って思ったよ。被害者のことなんて気にもしなかった。自分のことしか考えられなかった」
俺は頷いてアッシュの話を聞く。
「世間は『被害者のことを考えろ。申し訳ないと思わないのか』と言うだろうな。けれど俺は思っちまう。『俺のことは誰も見てくれなかったじゃないかって』……」
アッシュは水を飲んでから話し続ける。
「俺だって生まれた時から犯罪者だった訳じゃない。俺にも子供の時があって、生きてきた人生があったんだ。辛い目にもあってきた。良い思い出なんかない。そんな人間がどうやって他人を思い遣ればいい?」
アッシュのコップに水がなくなったので注いでやる。
「……そういう、普通の……なんていうのかな……」
「正しく生きることができない?」
「それだ。正しく生きる能力がない。努力もした時もあったけどさ、到底『正しい』には及ばない………」
アッシュは一度言葉を切り、俺の方を見てきた。
「すまねぇな。意味の分からないことばっかり言っちまって……」
「いいや。よく分かるよ」
「……そうか。ありがとうな」
お互い酒と水を飲む。
暫くしてアッシュは言葉を続ける。
「けどさ。最近は少し違うんだ。別に何か……劇的な出来事があった訳じゃないけれど……昔より他人のことを考えられるようになった。少しはまともな人間に近づけている気もするんだ」
「すごいじゃないか」
「ありがとう。あと少し…‥もう少し生きて考えていけば…‥罪を償う生き方ってやつができる気がするんだ。俺の自己満足でも、被害者の家族に償いをしたい」
「……本当にすごいな」
本心だった。
もっと彼の話を聞きたいと思ったが、ちょうど酒も切れてしまった。気がつけば夜もふけている。
「おっと。もうこんな時間か。エル、そろそろ帰るか?」
「ああ。そろそろお暇するよ」
「悪かったな。俺の話ばっかりで」
「いいや。興味深い話だった。今度また話を聞かせてくれ」
罪を償う生き方をしたい、彼がそう思えた経緯を聞きたかった。
アッシュは初めて笑って、こう言った。
「ああ。でも今度はアンタの話も聞かせてくれよ。聞いてやるから」
俺も笑って別れた。
それから一週間。なかなかアッシュと仕事が一緒になる機会もなかった。
それでも『前日』、ギルドで顔を合わせた。今度また飲もうと約束をした。
次の日。朝。街の広場。
アッシュの死体が飾られていた。
側には彼が犯した罪についての、血で書かれた告発文があった。
思っていたより早く完結しそうです。
ただ毎日更新はそろそろできないので、更新頻度は下がります。
気が向いた時に読んでいただければ嬉しいです。
次回の話も暗い。スローライフとは。




