第8話 お金を稼ごう
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エルは主人公の偽名です。
街から離れた森。
俺はギルドから依頼を受けスライム討伐に来ていた。大量発生したスライムは街道を塞さぎ、街に来る商人に被害が出ているらしい。
「おーい。エル、魔術頼む」
一緒に仕事を受けている『アッシュ』が俺に声をかける。アッシュ。人族の男性。大柄な男。剣士。
彼が前衛としてスライムを引きつけている間に俺が魔術で片付ける。
「了解。『火球』」
俺は魔本を開き火の魔術を唱える。
魔本は魔術を発動させる際の補助道具だ。俺は魔本を用いなくても魔術を扱えるが、Fランクの冒険者として身分を偽装するため、一応持っている。
俺の火の魔術でスライム達は景気良く燃えた。
よし。なんとかやれそうだな。
「なぁ。エル。アンタ実は相当強いだろ」
昼休憩の時、アッシュにいきなり言われた。思わずサンドウィッチ(俺が作ったお昼)を喉に詰まらせそうになる。
「な、なんでだよ。俺はしがないFランクの魔術師ですよ?」
「偽装するなら、もっと上手くやりな。魔本をほとんど見ないで魔術を発動してたぞ。それに詠唱と魔術の発動にも誤差があった。本当は無詠唱で発動したんじゃないのか?」
その通りだった。簡単な魔術は無詠唱の発動に慣れていたせいだ。魔本も普段は使わない。
「……そういうアッシュも随分と闘い慣れているみたいだ」
お返しに自分の方からも指摘する。アッシュも自分と同じFランクの冒険者だ。
しかし戦いの指示は的確だった。大剣の扱いも見事で技量の高さが窺えた。
俺はA級冒険者達と共に戦ったこともある。彼らが持つ強者の雰囲気を、アッシュからも感じ取った。
俺の指摘を受けて、アッシュは自嘲気味に笑う。
「まぁ、な。俺もきっと、アンタと似たようなもんだ」
「似ている?」
「俺だけじゃない。結構いるんだぜ? 日の当たる場所では生きられないから、Fランクで日銭を稼いでるやつはよ」
「……なるほど」
社会から爪弾きにされた者が冒険者になる例は多いと聞く。冒険者になるだけなら資格はいらないし、腕もたてば仕事に困らない。
「……悪ぃな。詮索するようなこと言っちまって……」
「いや構わない。むしろ指摘してくれて助かった」
俺はいつ捕まっても良い。しかしわざわざ自分から証拠を残すマネはしない方が賢明だろう。
「アッシュ。休憩は終わりだ。仕事に戻ろう」
「……ああ!」
それから俺とアッシュは仕事を片付けた。想定より早く終わり、俺とアッシュは報酬を受け取って別れた。
別れ際、アッシュは「また一緒に仕事をしよう」と言った。俺も頷いた。
足取りも軽く、家路に着く。
扉を開けるとエプロン姿のレノンが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。マスター」
とレノンはウインクと裏ピースで出迎えにきた。きゃるん、と可愛らしい効果音付き。しかし無表情。
「おう。ただいま」
「お疲れ様でした。ご飯もお風呂も置いておきまして、ちょっくらエッチなことでもします?」
「ご飯で頼むわ」
と軽口をたたきつつ部屋に入る。着替えてからテーブルに着くと既に晩御飯ができていた。今日の食事当番はレノンで、俺より数十倍もうまい。あっという間に平らげてしまった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末です。マスターは美味しそうに食べてくれますので作りがいがありますねぇ」
「実際マジで美味しいよ。俺もこれくらい料理が上手になりたいと思う」
「マスターも確実に上達していますよ。私を追い越す日も近いですね」
「本当か? 嬉しいな」
「ええ。美味すぎて私の衣服が全て弾け飛ぶレベルの料理を期待します」
「……どんな料理だ?」
今日の皿洗い当番は俺なので、レノンの皿も一緒に洗い場に運ぶ。皿を洗っている最中、レノンが声をかけてきた。
「今日のマスター。随分とご機嫌さんじゃないですか?」
「ん。まぁな。仕事が上手くいったからかな。一緒に働いた人が、けっこう良い人だった」
「ほう」
「それにやっぱり働いて金をもらうと充足感というか……社会の歯車になれている感覚があって悪くない」
働き、金を稼ぎ、休む。
うむ。スローライフ悪くない。
明日も無理せず働こうと思った。
ありがとうございました。
次回の内容は少しシリアスになります。




