第1話 残された時間
以前投稿していた作品を放置していて申し訳ありません。活動を再開します。前の作品も最終回を書いたら投稿しようと思います。
この作品は中編(40話くらい?)のボリュームを想定しています。気ままに投稿しますので、気が向いた時に読んでくれたら嬉しいです。
エドルス ファリカ。
街の掲示板に貼ってある指名手配書。その中で一番目立つ位置に貼ってある男の名前だ。
元は王国に仕える魔術師。人族。男性。24歳。
この男は大罪を犯した。仲間の魔術師や冒険者、更には凶悪な犯罪者を引き連れて王国に反旗を翻した。王国を手に入れようとしたのだ。
果てには世界を滅ぼしかねない禁止魔術も使用した。彼は最終的に世界を滅ぼすつもりだったのかもしれない。
凶悪な犯罪者集団に対して、王国騎士団は果敢に戦った。結果から言うとエドルス達の目的を阻止することはできたが、騎士団も壊滅的な打撃を受けた。特に王国の守護者で、国民の精神的支柱でもある『英雄』は重症を負い、戦えない体となった。
犯罪者達の多くは捕まったが、主犯のエドルスを始め、3人の犯罪者達はどこかに身を潜めている。
主犯のエドルスは特に危険人物として多額の賞金がかけられている。卓越した技量を持つ魔術師。一人で騎士団とも渡り合える戦闘力。普通の人間より、犯罪者側に肩入れするという一般的な倫理観の欠如。
上記の罪以外にも、大量の人造人間の破壊。国教である『イディラ教』を否定する言説の流布などの罪を犯している。
世界の平穏のためにも一刻も早くブタ箱にぶち込むべき人間。
それが、俺らしい。
俺は俺の手配書を見て、そんなことを思った。
周りの人は俺に気付かず通り過ぎている。
俺が捕まらないのは、俺は魔術で俺の肉体を変化させているからだ。手配書の二枚目とは程遠い、冴えない男の姿なのだ。一般人にはまずバレない。
しかし捕まるのは時間の問題だということも分かっていた。
王国は総力を上げて俺を探している。俺は世界でもトップクラスの魔術師だが、王国の全戦力には及ばない。
彼らは俺の痕跡を見つけ、俺の変身も見破り、力で俺を拘束する。
必ずそうなる。俺は自分の力を過信していない。逃亡生活も限界が来る。
ただ、それでも少しは時間はあるだろう。
騎士団はまだ混乱しているだろうし、俺の痕跡を辿るのは容易でもない。
残された時間の使い道を考えてみる。
……特にないな。
はっきり言うと生きる目的はもうない。
俺の反逆は失敗したからだ。
正直言って、生きている意味はあまりない。
しかし。しかしだ。
自分の命を絶つのも味気ないだろう。
生きる意味はないが、ないならないで良いじゃないか。
残された時間をゆっくり過ごそう。
噂に聞くスローライフというやつだ。
せっかくだからやってみたい。今まで戦いの日々で休まることはなかったしな。
「……よし」
覚悟を新たに俺は歩き始める。
捕まればそこで終わる。処刑か、一生を牢獄で過ごすかのどちらかだろう。太陽の元を歩ける時間も限られている。
捕まるその日まで、スローライフをやってやろうじゃないか。
去り際、俺の手配書を眺めていた女性の言葉が耳に入った。
「どんな極悪人かと思えば、なんだか冴えない顔しているわねぇ」
…………そんなことはないだろ。ご婦人。
続きは明後日くらいまでには投稿したいな、と考えています。