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あなたを許せるまで  作者: まめしば
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5.窮地

誰かが叫んだ気がした。

 その場面はスローモーションのように誰もが見ていただろう。

 迫る馬車に轢かれそうになる子供。


 そこに咄嗟に飛び出す母親と思わしき女性。

 誰もが親子が轢かれる未来を予想し、目を瞑って見ないようにする者もいた。



 ヒヒィィィン!!ブルブルブル!


「うわっ!!」


 馬の嘶きに馬車の御者が目の前に迫った子供の姿に焦った声を出した。

 急いで手綱を操るが止まれるかどうかは分からない。


 急に視界に子供が現れたように見えたのだ。

 もうだめかというところで真横から何と女性が子供にタックルするように飛び出して来た。


「アラン!!!」

「母上・・・!?」


 間に合わない!!

 御者も目の前に飛び出してきた親子が無事で済むとは思えず、思わず神に祈った。


 ヒヒィィィン!!


 ガタン!!


「どうどうどう。落ち着け」


 御者は馬が驚き急停車したのを見計らい馬を宥めた。

 目の前にいた親子はどうなったのか・・・。


「おい!!!急に止まるとは何事だ!!」

 馬車が急停車したことで、馬車の内部にも衝撃があったようだ。中にいた人物が馬車の窓から顔を出した。


「旦那様すみません。急に目の前に子供が飛び出してきて・・・」

「ええぃ!そんなもの気にせず進め!!」

「しかし・・・」


 幸い御者が改めて眼前を見ると僅かに親子は脇に逸れて大事故にはならなかった様子だ。

 しかし、母親と思わしき女性は子供を庇って飛び出した際に足がどこかへ当たったのか足から出血していた。

 親子はまだ抱き締め合ったままだ。


「母上・・・!!母上!!」


 子供が泣きそうな顔で自分を抱きしめる母親に声をかけている。

 どうやら服装からスラムの親子のようだ。


「・・・っ!アラン・・・怪我はない・・・?」

「僕は大丈夫です!それより母上が・・・!」

「私なら大丈夫よ。アランが無事で良かったわ」


 そんな親子の会話に周囲の人間もホッとしたように顔を綻ばせる。

 いくらスラムの人間であっても目の前で悲惨な死に方をする人間は見たくないものだ。

 すると誰もが安堵しているところに、馬車から怒鳴り声が聞こえてきた。


「早くそこからどかんか!!この薄汚い貧民め!!」


 そのがなり声に周囲にまた緊張が走る。

 怒鳴っているのは成金趣味の商人だった。

 礼服にハットを被った紳士だが宝石や金のアクセサリーでかなり下品な出で立ちの中年男性。

 ステッキの先を親子に向け怒鳴り散らす。


「申し訳ございません」


 フィーネはその場に這い蹲って頭を下げる。

 直ぐに移動しようとするが、先ほど足に怪我を負い右足が痛くて上手く動かなかった。


「母上、足が・・・!」

「黙っていなさい。すぐにどきますのでご容赦を」


「さっさとしろ・・・んん?」


 商人は何を思ったのか馬車の扉を開け、親子のすぐ側まで歩いて来た。

 そして、ステッキをフィーネの顎に当て上を向かせる。フィーネを真正面から見た商人はフィーネの予想以上の美しさにニヤリと笑い知らずの内に舌なめずりをしていた。


「ふん、貧民の女にしては見れた顔じゃないか」

「母上に何をする!!」


 アランがフィーネを庇おうと咄嗟に動こうとするが。


「ガキは黙っていろ!!」


 ガン!


「いっ!!」

「アランッ!」


 商人はアランに向かってステッキで殴りつけた。

 アランは脇腹を抑えながら痛みに呻く。


「申し訳ございません!!お許しを!」


 フィーネは更に頭を下げたが商人は何を思ったのか、フィーネの目の前に屈んだ。


「わしはなぁ・・・急いでいた上に馬車が急に止まって車内で足首を怪我したんだ。どうしてくれる?」


 ニヤニヤ笑いながら商人はフィーネを見る。


「ち、治療費をお支払いいたします!!一生かけても必ず・・・」

「貧民ごときがわしの治療費だと!!ははは!いくらになると思うんだ。きさまらでは一生かかっても返せない額だろうよ。だがなぁ?わしの提案を飲むというのなら・・・考えてやらんこともない」


「といいますと・・・」



「女。お前はわしの妾になれ。そうしたら今回の事は不問にしてやる」




 商人の嗤った顔がフィーネを射抜く。

 顔を確認したのはこのためか、と周りの人間も苦笑いをする。


 フィーネは愕然とし、アランも顔を真っ赤にして今にも怒りが噴き出しそうだ。

 しかし、フィーネは他にこの場を切り抜ける方法が思い浮かばなかった。

 何としてもアランを守らなければならない。


「・・・っ母上!!!」

「黙って」


 腰を浮かせ、フィーネは目の前で嗤っている商人を真っすぐ見た。


「それで私たちをお許し頂けるのであれば・・・」



 その時だ。

 フィーネは商人の背後に人が近づいて来ているのに気が付いた。



「そこで何をしている」




 フィーネが商人に自身を身売りする言葉を発する途中で、男の低い声を聞いた。





 

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