表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたを許せるまで  作者: まめしば
5/25

4.トラブル

「くそっどこ行ったんだ・・・!」


 アランは見失ってしまった少年を探してスラムの中を探し回っていた。

 もうすぐ日が暮れてしまう。

 昼間はまだ子供が外に出ていても多少大丈夫だが、完全に夜になってしまうと極端に犯罪率が上がる。

 その辺で人が死んでいても気にもされない。日常的だからだ。


「どうしよう・・・あれがないと・・・」


 ババ様なら許してくれると思うがお世話になっているし、母上だって気にしなくていいと言うと思うがあれは大事なお金だ。ただで他人に渡せるものじゃない。


「あ!」


 小道を進んで行ったところで、もう少しで大通りに出そうな場所であいつを見つけた。


「お前っ返せ!」


 褐色の少年はアランの声に気付いてバッと走り出す。

 大通りの人込みに紛れるつもりだ。

 5歳の体ではとてもじゃないが追いつけない。

 悔しい。


 大通りまで出たアランは大勢の人々が行きかう間を通り抜けた。

 ここはスラムではない。

 スラムの人間は見た目で分かるのでアランを見かけた平民や商人などが嫌そうに顔を歪める。

 今はそんなことに構っていられない。

 何とか取り戻さないと。


「見つけた!!」

「ちっ!しつけーっての!!」


 少し先で見つけた少年にアランは走っていくが、アランに気付いた少年はアランを振り切ろうと馬車が行きかう通りの激しい場所に入っていく。


「待て!!」


 しかし、アランは気付いていなかった。

 自分が飛び出した先に馬車の蹄が迫っている事に。



◇◇◇



「おい、フィーネそろそろ上がれ」

「え、でも・・・」

「ガキが家で待ってんだろう。早く帰ってやれ」


 おやっさんの気遣いにフィーネは嬉しくなって微笑んだ。


「ありがとうございます」

「気にすんな。というかあんたは美人なんだからあんまり誰かれ構わず笑いかけない方がいい。日が暮れたら物騒だからな。攫われんように早く真っすぐ帰れ」


 スラムの怖いところはこれが冗談にならないところだ。

 若い女性が攫われて悲惨な姿で発見されたり、身売りをさせられたりと女一人で生きていくのはとても危険な街だ。

 今までフィーネが無事だったのも、奇跡に違いなく家と仕事場、ババ様の家のみと行動範囲が狭かったがゆえの奇跡だ。

 それもこれも、おやっさんやババ様の力によることが多い。

 ババ様はこのスラムで顔が利き、下手に手出し出来ないしおやっさんに至っては筋骨隆々の大男だ。大勢の職人たちを従えている棟梁という立場もあった。

 それにおやっさんはどうも、フィーネが訳ありであることをわかっているように感じる。

 スラムにいる人間はみんな誰かしら秘密があったりするが、たぶんフィーネの所作や言動から元貴族だと勘付かれている節がある。

 お互い何も言ったりはしないが、何かと気を配ってくれる優しい男だった。


「では、お言葉に甘えます。今日もお疲れ様でした」

「おう、お疲れ。今日の報酬だ」

「ありがとうございます」


 僅かな銅貨を受け取りフィーネは帰路につく。

 橋の下から覗く太陽はだいぶ沈みかけている。早く帰らねば。

 帰り支度をして、冷たくなった手を擦り合わせ自分の手に呼気を吹きかけた。


「これから寒くなるわ。去年の防寒具はもう長い事使っていてボロボロよね・・・。買い替えれるかしら・・」


 仕事場から帰りながらそんなことを考える。

 とにかく家の中でも冬はとても寒い。暖炉なんて贅沢なものはない。衣服を着こむしかないのだ。

 スラムでは病気になっても治療出来るお金がない者が多い。毎年凍死や、風邪を拗らせて命を落とす人間もいる程だから体調にも気を遣わねばならない。


 いつもの見慣れた通りまで帰って来たフィーネはアランもババ様の所にいるだろうと思い、ババ様の家の扉を小さくコンコン叩いた。


「ごめんください」


 少し間を置いてガチャりと扉が開く。


「あん?何だいあんたか」

「アランはいますか?迎えに来たのですが」

「ああ?そういや今日はあの坊やはうちには来てないよ。自分の家にいるんじゃないのかい」


「え?」


 来てない?

 どういうことだろう。

 いつもこの時間帯ならババ様の家に行くように教えているはずだ。

 いないなんてありえるのだろうか。あの子に限って。


 嫌な予感がフィーネの心を突き刺す。


「そんな。私が遅くなる場合はいつもババ様のところへって言っているのに」

「今朝あんたに言われてたが、来なかったからてっきりあんたの仕事が早く終わったんだと思ってたよ。あんた、今仕事帰りなのかい?」

「・・・探して来ます!!」


 フィーネは焦った顔で踵を返した。

 どこへ行ったのだろう。

 一応家にも戻ってみたが。


「家にもいない・・・」


 あの子に何かあれば。

 私は生きていけない。


 ほとんど頭が真っ白になった状態でフィーネはあちこち探し回った。

 怪しい笑みでこちらを見てくる人間もいたが今は構っていられなかった。何とか見つけねば。


「アラン、どこへ行ったの・・・」


 アランが行きそうな場所は粗方探し回ったがどこにもいない。

 走っている内に道端に転がったバケツをひっくり返し濡れてしまうがフィーネは気付きもしなかった。


「後は大通りしかないわ」


 大通りなら人通りも多いし誰かしら目撃しているかもしれない。スラムの人間を見かけたら目立つから。

 あまり近づきたい所ではないが仕方ない。

 そう思い、大通りまで続く道にいくとその先で見た光景に心臓が止まりそうになった。



「アラン!!!」



 猛スピードで迫る馬車にアランが急に飛び出したように見えた。

 フィーネは考える前に大通りへ飛び出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ