16.救出
「・・・・あ・・・うぅ・・・・」
「ああ・・・美しい悲鳴だ・・・もっと鳴け」
フィーネはあれから、商人の男に麻薬を無理矢理吸わされ意識が朦朧としているところに馬用のムチで甚振られ悲鳴を上げていた。
身体中至る所から出血しており、頬も殴られたのか口が切れていた。
怪我をしていた右足は鎖が擦れて腫れ上がり無残な姿であった。
「や・・・・やめて・・・・」
「まだ喋る元気があるのか。仕置きが足りんようだな」
「うぁぁあ・・・・・」
商人の男は昔から嗜虐趣味があった。
人には言えない趣味は時々鬱屈したストレスを発散する際に貧民の女を連れて来ては甚振って殺すという事を繰り返していたのだ。
今回見つけたこの女は久々の上玉だった。
子持ちだったが、子持ちとは思えぬ美貌を持ち、あの金髪に吸い込まれそうな翡翠色の瞳は白い肌によく映え、男の劣情を多いに刺激した。
あの親子が馬車に飛び出して来た時はイラついたが、それでこんな女に巡り合えるとは思わなかった。
その後偶々いた公爵に邪魔されたのは気に入らないが、すぐ取り戻す事が出来たからまぁいい。
「さて、そろそろお楽しみの時間だ」
「・・・・・」
男はスラックスの前を寛げる。
その光景をフィーネは感情のない瞳で見ていた。
「ははは。気になるか?わしはなぁこうやって甚振った女を首を絞めながらするのが大好きなんだ。その時の悲鳴はもう最高だ。ゆっくり息絶えていくのを見るのもいいが、お前は久々の上玉だからな。暫くは生かしておいてやる」
「・・・・・・」
フィーネにはもう思考能力もなく眺めていたが、身体だけが危機を知らせるようにガタガタと震えていた。
「可哀想にな。でもそれが美しい。いいぞ」
ベロリと舌なめずりをして近づいて来る男にフィーネは目を閉じた。
ガチャン!!
「ここか!!フィーネ!!!」
「閣下!我々より前に出ては・・・!」
遠くからずっと聞きたいと思っていた声が聞こえる。
幻聴かもしれない。
だって、私には助けてくれる人なんて誰も・・・。
「フィーネ!!返事をしろ!!どこだ!!!」
幻聴じゃない?
ああ。
どうして。
フィーネの瞳からポロポロと涙が零れていた。
「クソ!なんだこの騒ぎは・・・!!」
だんだん近づいてくる大勢の足音に男は何事かと憤る。
「ここには誰も暫く通すなと言ったはず・・・」
部屋の空気を逃がさないために幾重にも張られたベールが大きく翻った。
「フィー・・・!!!?」
アルバート。
アルバートだ。
来てくれた。
本当に?
私の願望が見せた幻かもしれない。
本当は今もこの男に甚振られて・・・。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「こ、公爵!!?ぐあっ・・・」
遠くで声が聞こえる。
やっぱりそんなはずない。
ああ、アレンに会いたい。
あの子が泣いているかも。
喧嘩してしまったの。
謝れていないわ。
本当はずっと。
来てもらいたかったの。
憎い憎いあの人に。
私から全てを奪い去ったひと。
お父様は許してくれないでしょう。
でもアランの父親で。
私が愛したひと。
「フィーネッ!!!遅くなって済まない!!フィーネ!!しっかりしろ!!」
「・・・・アル・・・」
「ああ・・・!私だ・・!ここにいる!!迎えに来たから一緒に帰ろう・・・・」
ああ、嬉しがってしまってごめんなさい、お父様。
どうしたらいいの。