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あなたを許せるまで  作者: まめしば
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9.フィーネの家

「・・・では、せめて貴女の家まで送ろう」


 そう言ってきたアルバートの言葉にフィーネは信じられない気持ちで聞いていた。

 この男と関わりたくない。

 その思いだけがフィーネの中で確固たる意志を持っていた。


「いいえ。結構です。お気遣いありがとうございます」


 フィーネはアルバートの言葉を拒否すると、痛む足を庇いながらアランの手を借りて立ち上がる。

 早く帰らなければ。


「その怪我で歩けるのか?」

「大丈夫です」

「大丈夫には見えないな。息子に支えてもらわなければ歩けもしないようだが」

「歩けます!!」


 フィーネはカッとなって自力で歩こうとしたがアランの手を離した途端バランスを崩す。


「あっ!・・・」

「おっと。そら見ろ。全然大丈夫じゃない。大人しくしていろ」

「離して下さい!」


 バランスを崩し転びかけた身体をアルバートが素早く受け止めた。

 久しぶりの温もりに一瞬だけフィーネは泣きそうになる。


「別に取って食いやしない。君を送り届けたらすぐに立ち去ろう。約束する」

「・・・・・」


 返事がないが、抵抗もしないところを見ると恐らく相当足が辛いのだろう。

 そう思ったアルバートはそのままフィーネを横抱きにして自分の馬車まで連れて行った。


「公爵様・・・!下ろして下さい!」

「大人しくするんだ。何もしない」


 そんな二人のやり取りを横でじっと見ていたアランはフィーネの服の裾を引っ張った。


「母上。お言葉に甘えて送って頂きましょう」

「・・・アラン?」


 アランの言葉にフィーネは驚く。

 普段アランは見ず知らずの人間を直ぐには信用しない。

 そう教えて来たからだ。

 初対面の人間だったらなおさら甘えたりなど考えられない。


「早く母上の足の治療がしたいです。痛そうだから・・・」

「でも・・・」

「送ってくれると言うなら送って頂けばいいと思います。()()()()()してもらいましょう」

「アラン!無礼な事を言ってはいけません!謝罪しなさい!」


 アランの何時になく失礼な言葉にフィーネはヒュッと息を飲んだ。

 こんな嫌味な言い方をする子ではないのに。どうして。


「謝罪は必要ない。その子の言う通りだ。あまりここで騒いでもまた注目を浴びるだけだぞ」

「う・・・分かりました。では、よろしくお願い致します」

「よろしくお願いします。()()様」


 アランが何故か公爵様を強調して呼んだ気がする。アランの痛くなる程の視線にもたじろがずアルバートはにこりと笑った。


「任されよう」


 そのまま抱かれながらフィーネは馬車の車内に乗せられ、フィーネを座席に座らせた後、アランもまだ一人では馬車に乗れないのでアルバートの大きな手がアランを抱き上げフィーネの隣に座らせた。

 アルバートは向かいの座席に座ると外にいる執事を呼んだ。


「すまないがこの親子を送って行く。屋敷には少し遅れると連絡を入れておけ」

「畏まりました」


 一瞬だけ執事はフィーネたちに視線をやり一瞬で目を逸らしたことにフィーネは全く気付いていなかったが、アランだけは気付いた。


「家はどの方角だ?」

「スラムの北地区です」

「分かった。近くに着いたら教えてくれ」

「はい」


 相変わらずフィーネの声は固い。

 馬車が走り出しても車内はシーンとしていた。


 アルバートはアルバートで何か言いたそうにしているが、声になることはなく、フィーネに至ってはアルバートから完全に顔を背けて見ないふりをしていた。


「母上・・・明日はお仕事を休んで」

「何言ってるの。お休みは出来ないわ」

「でもその足じゃ・・・」


 そんな中アランがフィーネに心配そうに声をかけた。


「大丈夫よ。きちんと手当すれば腫れる事もないわ」

「本当?」

「ええ。本当よ。心配してくれてありがとう、アラン」


 アルバートがフィーネの右足に視線をやると、切って流血したのもあるがそれよりも捻って足首が真っ赤になっているのに気が付いた。これでは明日腫れ上がるだろう。

 アラン自身も母親の言葉をそのまま信じてはいないようで心配そうにフィーネの右足を見ていた。


「アラン・・・といったか。お前は大丈夫なのか。あの商人に殴られたと聞いたぞ」


 アルバートはアランにも確認した。


「僕は大丈夫です。ちょっと脇腹に痣が出来るくらいだと思います」

「はっ!見せなさい!」

「ちょ!ちょっと母上!」


 ベリッと音がしそうな勢いで息子の上半身を剥く母親に息子が焦った声を出す。


「母上!」

「ああ、良かったわ。そんなに酷くなってないわね」

「もう!こんなところでやめてください!」

「ははは。元気が良くて何よりだ」


 アルバートからも揶揄われて少しムスッとするアラン。


 そうこうしている内にフィーネたちが住んでいるエリアに到着した。


「あ、そこを右に行って少し真っすぐ行ったところです」

「わかった」


 スラム街に入ってきた貴族の豪華な馬車にスラムに住む人々は恐々と眺める。

 ある者は窓を閉め、ある者は何か恵みを施してくれないかと期待し、ある者は敵愾心剥きだしに睨み付ける。

 しかし貴族に手を出そうとする愚か者はいない。馬車の周囲を護衛と思われる屈強な騎士たちががっちり固めているため悪さをしようとも思わない。


 アルバートはスラム街に入って来た辺りで周りの環境の悪さに顔を歪めていた。

 フィーネがこんな荒んだ地区で生活しているとは。

 浮浪者が多い。

 路上で物乞いや、売春も横行しているのだろう。犯罪率も高いはずだ。栄養失調者もそこらで見かける。


 国の現状、内戦から5年経っているとはいえ、この国の治安はまだ回復仕切っていない。スラムも何れは掃除が入るだろうがまだ時間がかかるだろう。


「ここです。ここで止めてください」

「ああ」


 止めた先には。

 とても元貴族令嬢が住むには不安すぎるあばら家だった。

 本当にここに住んでいるのか。

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