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朝霧  作者: KARINA
7/9

ローズブレイカー その3の2

私としょうこ♂お姉さま、そして、らいずまい先生の合作『朝霧』を、捨てるにはもったいないので、公開する事にしました。知ってる方も、知らない方も、最後までお付き合いして下さいましたら、幸いです。

空は晴れ、何時もと変わらぬ風景を僕に見せる。

休日後の朝は、何時もと変わらず訪れ、そして教室では、何時もと変わらぬ顔が、僕の目の前で満面の笑みを見せ付けていた。

・・・。

いや、これはニヤニヤ笑いなのだろうか?

「で?どうだったのよ?」

「何が?」

嫌らしい笑いを向ける神崎に、僕は質問を返す。

「何がじゃねぇ~っしょ! 昨日のデートの話だよ!」

昨日のデート・・・。

僕は頭を抱える。

いくら朝霧を持たずの散歩とは言え、神崎の存在を感知する事が出来なかった。

ホント、神崎貴様・・・、何者よ。

「デ、デートって何ですか!」

神崎の言葉を耳にしたのか、中里さんは何時ものように会話へと混ざってくる。

「お!笑美ちん、耳が良いねぇ!」

「はい!死活問題ですから!」

二人は『友よ!』などと腕をクロスさせ、見詰め会う。

僕から見ると良いコンビに見えるのだが、今の所、二人に間に恋愛的事実は無いらしい。

「で、話戻るけど、昨日はどこまで行ったんだい?」

神崎は尚も、同じ事を聞いて来る。

まぁ、あの店を僕に教えたのが神埼なのだから、こいつの情報網に引っ掛かったとしても、不思議では無いのだが。

「優くん!ご説明を希望します!!」

会話の所在を掴めない中里さんは、神崎に質問をする。

「おっし! じゃぁ中里さんへの説明が先だ」

そう言いながら神崎は、中里さんへと視線を移す。

かしこまる中里さんは、深呼吸を一つして、「どぞ!」などと真剣な瞳をした。

・・・いちいちオーバーアクションな人達だ。

「一年の女子に、俺ですら躊躇する美少女が居るんだよ」

神崎は真剣に言い、中里さんは眉をピクッと動かす。

「触れてはいけない・・・、そんな聖域めいた娘なんだけど、加々美君は何の躊躇もなく、紳士的捕食体制に入ったと言う話」

「そんな・・・、また新たな女性の影なんですか!」

神崎は説明と言うには妙な表現をし、妙に察しの良い中里さんは神崎ではなく、僕に泣きそうな視線を向ける。

「神崎・・・お前、いい加減に・・・・」

「デートしてたのは事実だろ?」

僕は最後まで話す事を許されず、神崎に言葉を阻まれる。

「散歩ついでにお茶をおごっただけだ」

突然真面目な顔をする神崎に、僕は言い訳のような言葉を吐いてしまう。

「次のデート約束までしたのに、それだけだと言うのかい加々美君」

神崎は、僕の心を見透かすような瞳で見詰めてくる。

「何が言いたい?神崎」

僕は神崎にプレッシャーを掛けるが、神崎は視線を逸らそうとはしない。

「今の話を聞いて解った。あの娘は止めておけ。あれは加々美君を駄目にする」

突然の反転とでも言うのだろうか?

何時に無い、神崎の冷ややかな言葉は、僕に苛立ちを覚えさせる。

「神崎、お前の台詞とは思えない事を言うな?」

全ての女性は・・・が、聞いて呆れる。

「そう、それだよ加々美君。何時もの君なら、そんな反論はせずに笑い飛ばすだろ?」

・・・。

「加々美君は拘っているんだよ、彼女・・・蔵姫に。全く持って君らしくないんじゃないか?」

神崎は言う。

しかし、こいつは何を根拠にそんな事を言うのだろう?

「僕らしい? お前に、僕の何が解る?」

売り言葉に買い言葉とでも言おうか? 僕は僕らしく無い言葉を言う。

「それこそ加々美君は自分自身の何が解る」

「随分と、上から目線だな神崎」

「それはお互い様だろ?」

神崎は、言葉と裏腹に、何時に無い真剣な視線を僕に向ける。

神崎の言おうとしている事、神崎の何時に無い真面目な視線に、奴の言葉を真面目に捉える。

僕が蔵姫に拘っている?

それが事実ならば、その事に意識の無い僕は、自分自身を理解していない事になる。

自分自身を理解しない・・・か。

・・・確かに。

神崎の言うとおり、僕は蔵姫に拘っているのかもしれない。

こういう事は、人に言われなければ気が付かない事なのだろうか。

僕は自分の中に答えを捜そうとし、神崎との会話に沈黙が流れる。

「うぇ、う・・・うぅ」

僕は小さな嗚咽に、思考のループを止め、思わず中里さんを見る。

「け、喧嘩しないでくださ・・・ぃ。うぇ・・っ」

気が付くと中里さんは、顔中濡らして泣きまくっていた。

「どうしたの中里さん?」

僕はその時、彼女に何がおきているのか理解出来なかった。

「う・・ぅ、け、喧嘩しないでくださぁ~ぃ・・・」

「いや、笑美ちん、喧嘩してないから、俺達喧嘩してないから!」

シリアスモードだった神崎は、あたふたと中里さんに両手を振り始める。

「喧嘩は・・・だめ・・・なんですぅ~・・、うぇ・・・」

「か、加々美君!君からも言うんだ!俺達は喧嘩なんかしてないって!」

どうやら中里さんは、僕と神埼が喧嘩をしていると、思ったらしい。

・・・いや、実際に口喧嘩してたとは思うけど。

「大丈夫だよ中里さん、僕達は喧嘩なんかしてないから」

僕はそう笑顔を作りながら、中里さんを小さい子にするようにあやした。

周りの視線どうのこうのは、この際仕方がないだろう。

「ほんと・・・ですかぁ?」

中里さんは泣き止みながら、視線を上目遣いに僕達を見てくる。

「本当だよ」

僕は微笑み、神崎はうんうんと頷く。

それで蔵姫と僕の話は終了と言う流れになり、僕達はあまり意味の無い会話を続ける事になる。

授業が始まる前の、ほんのひと時を・・・と言う奴だろうか。

日常的なそれは、何時ものように、日常的な物になる筈だった。

だが、そうも行かない事情は、僕の意思とは関係なく発生する。

それは、神崎が僕の事を無駄に心配したように。

教室のドアが開くと同時に、神崎はドアの方に視線を向け、僕に何かを言おうとする。

僕は視線を向ける事無く、神崎に手で合図をし、立ち上がる。

「え?どうしたんですか?」

まだ目の赤い中里さんは、僕達のアイキャッチを不思議に思ったのか、神崎と僕を交互に見る。

「中里さんごめん、用が出来た」

そう言って、僕は教室の入り口へと足を運ぶ。

「どうした?何か在ったのか?」

僕はそこに立つ人物、美姫へと声を掛ける。

「蔵姫ちゃんが居ないの。学園にも来てないし、気配を探っても、感じ取れないの」

美姫は不安そうに言う。

美姫の言う所の『感じ取れない』は、恐らく美咲町の中で・・・と言う意味なのだろう。

「何時からだ?」

僕はそう言いながら、美姫を生徒の少ない方へと、導く。

「気配が無くなったのは昨日の朝からなんだけど、今日は存在自体を感じないの・・・」

美姫は泣きそうになりながら、僕にしがみ付いて来る。

「心配なのか?」

僕の問いに、美姫は小さく『うん』と頷く。

蔵姫もそうであるが、この娘達は、何か時間とは関係の無い結び付きがあるのかも知れない。

「あいつが誰かに何かをされる・・・と言うのも考え辛いし、自分で存在を隠してるんだろ?」

僕は、美姫を安心させる為に、楽観的な言い方をする。

「だから心配なんだよぉ」

美姫は蔵姫の行動の理由を知っているような素振りを見せる。

「美姫、とりあえず昼休みにもう一度話そう。・・・・屋上で良いか?」

僕は、ホームルームが始まる前に、話を切る。

「でもぉ・・・」

美姫はすぐにでも動きたいらしく、僕に懇願するような視線をよこす。

「今授業を抜ければ、歩美さんに連絡が行くだろ? さっきも言ったけど、蔵姫をどうこう出来る奴は少ないんだから」

僕は、焦っても仕方が無いと、美姫を諭す。

歩美さんの名前を聞いた美姫は、しぶしぶと言った感じで大人しくなる。

「じゃ、昼休みに屋上で」

僕は確認するように言い、美姫は「うん」と元気なく答え、自分の教室へと帰っていく。

約束とは人を縛り、個人の暴走を止める力が有る。

ふと、蔵姫と交わした、もう一度・・・と言う約束を思い出す。

蔵姫が何を目的としているかは判らないが、僕と交わした約束が、蔵姫に対しての歯止めになれば良いのだが。

・・・。

・・・あれ?

何で僕は、蔵姫の事を心配しているのだろう?

家族でもない彼女に対し、それを考え、その明白な理由を探しあぐねた。

廊下を歩きながら、神崎の言う『拘っている』と言う言葉を思い出す。

拘っている・・・ねぇ。

そして、そんな思考の繰り返しを、時間を知らせるチャイムが遮る。

今は考えた所で答えは出ないと判断をする。

とりあえず、ひと気の無くなった廊下を、僕は軽く早歩きで進む事にする。





「ご飯食べてこなかったのか?」

僕は、先に屋上へと来ていた美姫へと話しかける。

何時もなら、蔵姫がここに居るのだが・・・。

美姫の返事を待ちながら、僕はそんな風に考える。

「やっぱり蔵姫ちゃんの気配がしないの・・・」

美姫は朝と同じように、心配そうな表情を隠せないでいる。

「その気配って物が僕には解らないんだが、例えば、派手に戦っている最中でも、隠せる物なのか?」

「それは無理だけど・・・、でも・・・」

美姫は不安を拭い去る事が出来ないようだった。

「朝も言ったけど、蔵姫をどうこう出来る存在は少ない。それは事実なんだから、まず美姫が落ち着くのが先だろ?」

きちんとした話をする前に、冷静さを求めるのは、当たり前の話である。

「え?美姫は落ち着いてるよぅ」

・・・ほう。

おろおろしている奴が言っても、説得力は無いと思い、僕は美姫の頭をグリグリする。

「いたっ!痛いって!なに?なんで?」

自分がぐりぐりされている理由が解らない美姫は、素直な抗議を僕へと向ける。

「ただの愛情表現」

僕は冷ややかに言う。

「何怒ってんの?意味わかんないよぉ~!」

美姫は、『ぷんすか!』なんて擬音が似合いそうな怒り方をする。

「で、どうする? 今まで僕に頼らなかった美姫が僕に話をするんだから、僕に利用価値が在るんだろ?」

僕は、実も蓋も無い言い方で、美姫の思惑を探る。

「利用価値だなんてぇ・・・」

美姫は悲しそうな表情をし、押し黙るように、言葉を止める。

「言い方は悪かったが、僕の知らない事が多い以上、それが事実と言う物だ」

そんな僕に、美姫は僕の目を見詰め、頼る様に次の言葉を待つ。

「美姫は知っているんだろ? 蔵姫がこの町に来た目的を」

そう、蔵姫の目的。

蔵姫が関わっているから『アレ』を持った白薔薇も存在する・・・では無く、本当の意味での彼女の目的。

僕は疑問に思っていた。

不意に見せる、静かだが激情的な、彼女の感情。

使命感や責任とは、全く違う、彼女の根本に在る物。

「そだね、助けてもらうんだから、言わなきゃ駄目だよね」

美姫は溜息を突く。

「お兄ちゃん・・・」

少し考えた美姫は、以外に素直に、その口を開く。

「蔵姫ちゃん・・・、蔵姫ちゃんには、お兄ちゃんが居るんだって」

美姫は伏せがちに言う。

「ほう・・・」

僕は思わず、目を顰めながら相槌を打つ。

「深い事情は聞かなかったんだけど・・・」

美姫は言葉を詰まらせ、しばし沈黙が訪れる。

「気にするな。僕は相手に同情するような人間じゃない」

僕は、美姫の言い辛らそうな態度に、催促を入れる。

「・・・ごめん」

美姫はそう言って、話を続ける。

「蔵姫ちゃん、自分のお兄ちゃんを殺さなきゃいけないって言ってたの・・・」

「それが使命だと?」

僕は、態と考え付いた事と違う事を言い、美姫は首『違う』と、を振る。

「だとすれば私怨か」

淡々と言う僕の言葉に、美姫は答えない。

「あと、私・・・美咲はね、人とは・・・戦えない・・の」

美姫は辛そうに言う。

「それが僕に相談してきた理由か?」

僕は感情を乗せずそう言い、美姫はまた、それに答えようとしない。

今問題にしている人物、・・・蔵姫も一応、人である。

ならば、それから出される答え。

静かに自分の機嫌が悪くなっていくのを、僕は理解する。

「美姫、もう一つ聞くが、蔵姫の兄貴は『アレ』・・・鬼なんだよな?」

流れから言って、予想は出来る。

何か大きな要因が無ければ、その兄も同じように、人である筈なのだ。

しかし、解って居てても、聞いてしまうのが人と言う者だろうか。

「えっと、お・・・鬼じゃない・・・と、思います」

美姫は僕の質問に、視線を逸らしながら、声を小さくして行く。

僕はそんな美姫へ、そっと優しく、腕を伸ばす。

「ひぐっ!」

僕が美姫の髪に手を回し、軽く撫でただけで美姫は青ざめ、声を上げる。

・・・。

蔵姫を助けると言う事は、殺し合いの中に割って入ると言う事。

それを美咲が出来ないと言う事は、相手が『アレ』では無い、と言う事。

・・・。

僕は今、どんな顔をしているのだろう?

「僕に、人を殺せと言うんだね、美姫は?」

僕は自分の機嫌が更に悪くなって行くのを感じる。

美姫は、美咲が人と戦えないから、僕に頼むと言う。

それは、人である蔵姫の兄と戦う・・・いや、殺しあう可能性が在ると、遠まわしに言っているのと同じだった。

「ちがっ、蔵姫ちゃんを・・・とめ、止めて・・・欲しいの」

美姫は、むりやり言葉を絞り出すように言う。

「白薔薇なんだろ?そいつも。・・・なら、もちろん殺し合いに・・・」

僕はそこまで言って、美姫が震えて、涙ぐんでいる事に気が付く。

「どうした?美姫」

「あんまり怒らないでぇ・・・、恐いよぉ・・・」

美姫は懇願するように、僕の瞳を見る。

「蔵姫の事は恐くないのに、僕の事は恐いのか?」

「お兄ちゃんは別なんだよぉ」

美姫のそれは、人が神にする畏れのようにも見える。

「美姫には、人の理が当てはまらないんだろ」

不意に、蔵姫の言葉を思い出し言う。

「それはお兄ちゃんのことだよ。お兄ちゃんの言葉、私の根源まで届くんだからぁ。普通、在りえないんだから・・・」

美姫は自分の事を『私』と言い、それが美咲としての意見であると、主張する。

僕は肩の力を抜き、心の中で、溜息を突く。

「止めれば良いのか?」

「えっ・・・?」

美姫は一瞬、何を言われているのか、判らない様な反応をする。

「蔵姫を止めろと言ったのは、美姫だろ」

「あ、うん」

美姫は頼むと言いながら、一瞬戸惑う。

それは、危険が多大に存在する証拠である。

「それに泣くな。傍目には、僕がいじめている様に見える」

今朝は中里さんに泣かれ、今は美姫に泣かれる。

それはあまり、面白い事では無かった。

「事情は解った、美姫はこのまま授業を受けていろ」

僕は視線を美姫から外し、自分の行動を選択する事にする。

「・・・あれ?もしかしてお兄ちゃん、美姫が泣いて、少し・・・困った?」

視線を逸らした僕に、美姫は、茶化すようにつまらない事を聞いてくる。

先ほどの怖いだの何だのは、何処へ行ったのだろう?

「ねぇ・・・、困った?」

美姫はそう言いながら、ワザと下から覗き込むように僕を見詰め、僕はそんな美姫を睨む。

「今のお兄ちゃんは・・・恐くないもん!」

そう言って、美姫は僕から離れる。

どうやら美姫、・・・いや、美咲は、僕の感情に呼応するように、その表情を変える様だった。

ならば、蔵姫に対する不安感は、美姫と美咲、どちらの感情の表れなのだろうとも考える。

「とりあえず、美姫は動くな」

僕は、念を押す押すように、美姫に言う。

「お兄ちゃんは?」

「午後からフケる」

「じゃ、わたしも・・・」

「駄目だ」

「えぇ?何で?」

美姫は、僕の言葉に異論を唱える。

「歩美さんに連絡が行くとまずいだろ。美姫の事で、歩美さんに心配をさせたくはない。それに僕だけだったら、デートしてたとでもと言えば問題は無いしな」

「じゃ、美姫とデートって事で・・・・イタッ!」

阿呆な事を言う美姫のデコを、音速で叩く。

「なんですぐに叩くかなぁ~」

「聞き訳が悪いからだ」

僕の言葉に、美姫は、ブゥーーーー!と不満を漏らす。

不安がったり、恐がったり、笑ったり怒ったり、本当にこの娘は喜怒哀楽が激しい。

「大丈夫だ。蔵姫を見つけたら、美姫に知らせる」

「どうやって?」

「朝霧を抜く。それなら判るだろ?」

「それは、そうなんだけど・・・」

「ん?美姫は朝霧が嫌いか?」

朝霧を見せた途端、美姫は少し不機嫌になる。

「その刀も恐いの・・・」

「まぁ、鬼でも喰らう位だから、神様も喰らうかも知れないしな」

僕は、適当な事を言う。

「違うよ。その刀・・・・、お兄ちゃんを連れて行っちゃいそうで・・・」

僕は美姫の言う事に首を傾げる。

「僕を殺す・・・って事か?」

「そじゃなくて、なんとなく、これは美姫の敵だ!って感じるの」

美姫は、桜さんを睨む様に、朝霧を睨む。

「悪い、言っている意味が解らないんだが」

「簡単に言うと、女の勘なんだよ」

・・・女の勘。

それは霊的な物と同じように、僕には理解出来ない物。

・・・まぁ良い。

「どの道、美姫は手が出せないのだろ? それなら大人しくしてくれていた方が助かる」

僕は遠回しに、邪魔だと言う。

「うぅぅぅぅぅぅーーーー・・・」

美姫は納得が行かない様に口を尖らす。

「ま、そう言う事だ」

それだけ言うと、僕は美姫の頭を撫で、一人屋上を後にする。

追い掛けて来ない所を見ると、美姫は了承してくれたのだろう。

「行くのかい?」

そんな僕に、階段を下りた所で、神埼が声を掛けてくる。

「悪いか?」

僕は神崎に、毒づく。

話を聞いていたとも思えないが、まるで待っていたかのようなそれは、癪に触る。

「いや、加々美君が加々美君であれば、俺は気にしないさ」

神崎は、相変わらず意味ありげな言葉を言う。

「他に言う事は在るか?」

僕は俗学的な事を言う神崎に、嫌味のつもりでそう言った。

「I・LOVE・YO・・・ぐえ!」

阿呆な事を言う神崎を反射的に殴る。

「お前の忠告、ありがたく頂く」

そう言いながら伸びたふりをしている神崎を残し、僕は校舎を後にする。

最後に神崎が『死ぬなよ』なんて呟いた言葉が聞こえたが、僕はそれを聞こえなかった事にした。

神崎、何処まで知っているのやら・・・。






空は青く、蒼天と言う言葉が似合いそうな風景を見せる。

・・・。

美姫にはああ言ったが、町に出た僕は、蔵姫をどうやって探すかを考える。

とりあえず、朝霧の感覚を伸ばすしか、手は無いだろうか?

ローリング作戦・・・。そんな、溜息が出てしまいそうな単語が、頭に浮かぶ。

何時もの事だとは言っても、行き当たりばったりな自分に、呆れてしまう。

・・・?

町を歩いていた僕は、ふと、見たことの在る人物を見つけ、声を掛ける事にする。

「なにしてんの?」

「きゃぁ!」

その人物は、突然声を掛けたせいか、オーバーアクションな驚き方をする。

「悪い、驚かせた?」

歩美さんを驚かせた様に、この娘も驚かせてしまったらしい。

「何者ですの!」

その女性は、『ズササー!』擬音が出そうな勢いで、低く間合いを取る。

・・・。

声を掛けただけでその対応、いわれの無い冤罪とは、こう言う物を言うのだろうか?

「先日は世話になったね」

僕は気にするでもなく、目の前の女性ににこやかに話し掛けた。

「気配を消して近づくなんて、趣味が悪いですわ」

その女性・・・、数日前に会ったばかりの巫女さんは、構えを解く事無く、こちらを威嚇する。

「悪気が在る訳ではないんだ、許してくれれば助かる」

僕は、形式的に、簡単な謝罪をする。

「真昼間から大刀を持ち歩く方に、悪気も何も、無いでしょうに」

彼女にそう言われ、相手に朝霧が見える事が、当たり前になって来たと認識する。

もっとも、僕の周りの常識が、おかしくなって来たとも言えるのだが。

「大丈夫、この刀、普通の人には見えないから」

僕はそう言いながら、彼女の着ている制服に視線を移す。

「そう言う問題では御座いませんわ。常に刀を持ち歩く異常さを言ってますの。そちらがその気なのであれば、御相手致しますわよ!」

彼女は、僕と一定の距離を置いたまま、僕の出方を見計らう様にする。

そんな彼女の様子を見、僕はふと、疑問に思う。

彼女には、先日の様な、高圧的な態度や問答無用さが無い。

何か、ためらいながら話を進めているようなのだ。

「だけど以外だね」

「何ですの?」

僕の言葉に、彼女は怪訝な表情をする。

「いや、同じ学園だったんだと思ってね」

蔵姫程で無いにしろ、彼女が美人で在る事には、変わりが無い。

学園内に居るのであれば、奴が教えてくれても良さそうな物なのだが。

神崎・・・、ワザと僕に教えて居ないのか?

そんな風に考える。

「私に用が無いのであれば、悪い事は言いません、立ち去りなさい」

そんな僕に対し、彼女は距離を取りながら、早々に話を切り上げようとする。

「名前・・・、聞いて良いかな?」

他意が在った訳では無く、僕は自然に彼女の名前を聞いていた。

「貴方の様な礼儀知らずに、教える名前など、ございませんわ」

礼儀。そう言えば、僕も彼女に名前を教えてなかったと、数日前の夜の事を振り返る。

「・・・僕の名前は『加々美 端鷹』。学園では二年生と言う事になってる」

「そう言う意味でいったのではありません。それに、貴方の名前など、当に知っていますわ」

彼女は、既に知っている・・・とそう言った口調で、僕を睨み付ける。

「もしかして、悪気が無いって言った事、嘘だと思ってる?」

「当たり前ですわ!」

・・・。

「もしかして、僕の事を敵だと思ってる?」

「いまさら何を!」

僕の考察よりも速く、彼女は返事を返す。

僕はふと、彼女が武器らしい物を、何も見せていない事に気が付く。

あの夜、彼女は身に似合わない強弓を携えていた。

だが今は、腰を落とし、手刀を構えるのみである。

「成る程、今は空身なんだ」

僕は態と朝霧に片手を掛け、ニヤリと笑う。

「馬鹿になさらないで! 神弓『風裂』が無くとも、貴方に遅れを取るような事はございませんわ!」

そう言いながらも、彼女は少しだけ後退をする。

悪戯のつもりで鎌をかけたのだが、彼女は正直に空身である事を認める。

そしてその対応は、可愛らしく思えてしまう程臆病に見え、あの夜の時とはとはまるで、別人のようにも見える。

なにはともあれ、どうやら僕は悪者で、空身の彼女はかなりピンチな状態のようだった。

僕は、朝霧から手を離す。

「ごめん、冗談だ。僕としては、君と争うつもりは無いんだ」

僕は両手を挙げて見せる。

「冗談ですって?・・・とても信じられませんわね」

悪戯とは言え、軽いモーションを見せてしまった。

言い訳が通るような世界でも無いだろう。

「別に信じなくて良いさ」

「どう言う意味ですの?」

「僕が何をした所で、所詮、君をどうこう出来る物でもないだろ?」

僕は遠まわしに、彼女との力量さを言う。

少しの沈黙の後、彼女は考えるようにし、構えを解く。

「そうですわね。貴方が何かをするのであれば、全力で滅するのみ。けん制や駆け引きなど、何の意味もありませんわ」

彼女はそう言って、緩やかな動きで、僕に背を向ける。

それは、あれ程けん制していた人間とは思えない様な、余裕の有る・・・っぽい動きだった。

見栄を張ったのだろうか?若干顔が引きつっているのが、朝霧の感覚で判る。

「貴方も人間社会で生きて行くのであれば、大人しくしていることですね。では、ごきげんよう・・・」

彼女は見た目上、今回も見逃す・・・・と、そう言た具合で優雅に歩き出す。

まぁ、それは見た目上。

状況の流れから言って、正直、僕から『にげた』と言うのが正解なのだろう。

蔵姫を探す当てもない僕は、それに対し、無口で付いていく事にする。

どうせ当てが無いのなら、何処に向っても同じだから。

もちろん、朝霧の感覚は、最大限に伸ばし、視覚的に見える物にも注意を張り巡らす。

朝霧の視覚と僕の視覚。

同じ物と認識していても、その違いと揺らぎを見逃す訳には行かない。

例えば目の前を歩く彼女。

僕の視覚と朝霧の視覚で、見え方が違う。

その違いは大きくて小さく、気にしなければ、何と言う事の無い事。

ただ、それには理由が在るだろうし、何かしらの術を発動している証拠にも見える。

探している対象や結界を見つけずとも、そう言った痕跡は、手掛かりとなる。

少しの間、僕はその繰り返しの散策を機械的に続ける。

そうこうして、十分程度経過した頃だろうか?

彼女は突然振り返り、僕に言う。

「なんで付いて来ますの?」

もっともな意見では在るが、ヒステリックな反面、彼女のその言葉に力は無い。

「人を探していているんだ」

僕の目的として、嘘の無い返答を言う。

「そうではなくて、何故?何もしないで付いて来るのかと、申して居るのです」

その言い回しは、僕が彼女に何かをするかの様に聞き取れる。

「何もしていない訳では無い。それに、君に付いて歩いているのは、目的の為の手段だと思ってもらって良い」

僕は自分の行動を、色々な意味での、手段だと考える。

「私をじわじわと殺して行く事が目的だと言うのですね・・・」

彼女は少し、とんちんかんな事を言い、身を少し引く。

「何か誤解が在るようだけど、君の行く方向に僕の探す人が居るかもしれないだろ?」

僕は、首を傾げながら言い、今の状況を端的に言う。

「論理的ではございませんわ、・・・そう思う理由は何ですの?」

彼女は、溜息を突きながら言う。

「僕の探している人間が、揉め事の中心に居るような奴だからかな?」

僕はそう言いながら、蔵姫の顔を思い出して居た。

「それではまるで、私も同じように揉め事に向かっているかのように聞こえますわね」

「違うの?」

僕の言葉に、彼女は一度目を丸くし、再び溜息を突く。

彼女の様な人間が、授業にも出ず街を歩るいて居るのである。

少なからず、近い目的が在ると考える。

「揉め事は、既に目の前に在りますの」

彼女の声には、何か諦めの様な物が在った。

「お兄様に馬鹿にされて風裂を置いて来ましたが、事実、貴方の様な化け物を前にして、これ程心細くなるとは、思いにもよりませんでしたわ」

さっとでは在るが、何か酷い事を言われて居るような気がする。

「貴方の真の目的が何かは存じ上げませんが、さっさと喰い殺すなり、この瑞々しくも張りの有る身体を陵辱なさるなり、お好きな様になされば良いでは無いですか。

先程は見栄を張りましたが、所詮、風裂を持たない私など、貴方達から見れば、ただの贄に等しい存在なのでしょうから・・・」

彼女は自分の身体を抱きしめるようにして言い、・・・項垂れる。

・・・。

前言撤回。

さっとでは無く、かなり酷い事を言われていると、僕は認識をする。

「一つ質問をして良いかな?」

「何ですの?」

僕の問いに、彼女は顔を上げる。

「君から見て、僕は何に見えるんだい」

「貴方は、鬼なのでしょ?」

・・・。

・・・。

納得はしたくないが、納得する。

彼女の対応は、全てがそれ基準だったのだろう。

僕が鬼ねぇ・・・。

「申し訳ないが、これでも人間です」

僕はほんの少し怒っている振りをし、きっぱりと言う。

彼女はそんな僕を確認するように見て、口を開く。

「もう・・・どちらでも良いですわ。貴方が何者であれ、私を逃がす気など、毛頭無いのでしょうから」

どうやら、僕が彼女をどうにかするのが、彼女の思考の前提らしい。

「諦めついでに言いますが、私の名前は『北条弘美』、ほうじょうひろみと言いますのよ。形上、貴方の後輩と言う事になりますわ」

北条弘美と名乗った少女は、腰に手を当て、今更余裕を見せるように態度Lなポーズをとる。

開き直りと言う奴かもしれない。

・・・。

「弘美・・・」

「なっ!いきなり呼び捨てですの!?」

なんとなく復唱しただけだったのだが、北条は何を勘違いしたのか、目くじらを立てる。

「呼び捨てではなく、普通にファミリーネームで呼んで頂けます?」

「あ、ごめん。呼び方は北条で良いんだね」

僕は形式上、謝罪を入れる。

「それで結局、誰を探していますの?」

彼女、北条弘美は、何度目かの溜息を突きながら言う。

「蔵姫を探している」

「クラキ?」

「野茨蔵姫・・・、白薔薇・・・、ロサムルティーフローラ。呼び方は色々だが、君なら多分どれかは聞いた事が有るんじゃないかな」

僕は、ごく自然にその名前を口にする。

「随分と大物の名前を口にするんですのね。その御方、この町に来てますの?」

北条は、目を細め、緊張する様に手に力を込める。

「昨日までは確認できたんだけど、今日は何処に居るか判らないんだ」

僕は軽い感じで言う。

「ロサムルティーフローラと言えば、薔薇の中でも原祖の一振りでしたわね」

北条は面白くなさそうに言い、言葉を続ける。

「噂では、血に飢えた獣の様な人物だと、もっぱらの評判ですわよ」

血に飢えた獣・・・か、先日のケーキを食べてる蔵姫を思い出す。

どちらかと言うと、僕は小動物的なイメージを蔵姫にしてしまう。

「そんなんでも無いよ」

「類友とは言いますが、御自身の感覚が全ての人と同じとは思わない事ですわ」

「含みが有るね」

確かに普通?の人間と僕の感覚は違うものなのだろう。

「昔・・・、お兄様に連れられて、一度だけ遠目でクラキを見た事が有りますが、アレは・・・、アレは・・・人ではありませんでしたわ」

蔵姫と同級生なはずの北条は、それ以来見た事がないかの様に話す。

「北条の言いたい事はなんとなく解るとして、北条と蔵姫が違うクラスだと言う事は解った」

同じ学年でも、クラスが違えば、交流や認識と言う物は少ないのかもしれない。

「はぁ?レベルが違うと馬鹿にしてますの?言っている意味が解りませんわ」

馬鹿にしている?意味?

まさか北条は、ファンタジックな意味での『クラス違い』と、受け取ったのだろうか。

「もしかして北条は、蔵姫が同学年に在籍しているって、知らないのか?」

「同じ学年・・・?」

北条は一瞬、考え込む。

「そんな・・・、在りえませんわ!」

まさか・・・と言う事なのだろうか? 北条は納得出来ないと言った表情をする。

「フィルター・・・か」

僕は呟く。

さくらさんが昔、『アレ』の説明をする時に、「知覚フィルターのような物が掛かって、そのまま見ないようにする」と言った事が在る。

それと同じような事が起きているのであれば、それも納得が行く。

「わたくしが、見ない様にしていると?」

北条は、僕の言っている意味を、理解しているようだった。

「どうだろう? 北条がどう感じようが、蔵姫が居る事には変わりが無いし、人が本能と言う物でフィルターを掛ける事実も僕は知っているからね」

僕の言葉を聞いた北条は、面白くない・・・と、そんな表情をする。

「所で、北条に聞くんだけど」

「何ですの?」

僕の問いに、北条は素直に返す。

「君の力で、蔵姫を探せる?」

試し・・・とでも言おうか? 僕は駄目元でそれを聞く。

「貴方は出来ませんの?」

北条は一瞬嫌な顔をし、それでも口を開く。

「今の所、出来ずに困って居る。」

僕はそう答えるしか無かった。

・・・。

「出来ない事は無いですわ。」

北条は確信が在るのだろうか?その言葉を迷う事無く言う。

「ほう・・・」

僕は一瞬にやける。

「嫌な顔をしますのね」

「・・・悪い、たまに自が出るんだ」

僕は笑いながら、軽く流す。

「でしょうね」

そう答えた北条は、冷ややかである。

「悪いけど、お願いしても良いかな?」

他力本願は何時もの事だし、時間の短縮は、在る意味美徳でもある。

「そうですわね、やらなくも在りませんが、問題は貴方、・・・加々美さんの目的が何であるかが大事ですの」

北条は、真面目な顔をする。

最初の出会いが酷かった割には、北条の対応は良心的と言える。

「呼び方は、端鷹でいいよ」

僕はその気持ちに、素直に感謝を感じ、ファーストネームで呼ぶ事を薦める。

「は、話をそらさないで下さいます?!」

北条は突然顔を赤らめ、挙動不審な態度を取る。

彼女の内面で、なにが起きているかは、僕の知った所では無い。

「さっきも言ったけど、蔵姫を探すのが目的だ」

僕は、今日何度目かの、同じ返答をする。

「そうでは無くて、見つけた後の話ですの。事と場合によっては、私の命を使ってでも、今ここで貴方をお止めする事になりますわ」

北条は静かに言い、先程と違い、肝を据わらせる。

「蔵姫を大切に思っている奴が居てね、それでそいつから頼まれたんだ。蔵姫を探して・・・止めてくれ・・・と」

僕は、美姫の事を伏せながら、僕の目的を言う。

「クラキがこの町で何かをすると?」

北条の視線が鋭くなる。

「たぶんな」

「貴方にそれを頼んだ御方は?」

北条は怪訝な顔をする。

「それを言必要はあるか?」

僕は彼女に、必要以上の情報を、与える気はない。

「貴方には恥ずかしい所を見せてしまいましたが、これでも私は、霊的な者からこの町を護るのが役目ですの。言っている意味、判りますわよね?」

北条は、護るのが役目と言い、責任と使命を強く主張する。

「組合か何かなのか?」

さくらさんや、蔵姫が言っていたギルド的な物を思い出す。

「貴方がどのような物に属しているかは知りませんが、うろ覚えで物を言うと、揉め事が増えますわよ」

「知らないから聞いている」

「あの様な者達と、一緒にされては困ります。私達は護部・・・、この土地の神の代行者です」

土地神の代行者・・・。

僕は美姫の顔を思い出し、なんだかなと考えてしまう。

「で?どなたからの依頼ですの?」

北条の問いに、『その土地神様から』などと頭に浮かべ、その言葉を引っ込める。

「なに、北条と似た綺麗な光を出してる知り合いが居てね、健気にこの街の事を心配してるんだよ。」

「光・・・?」

北条は、何か思い当たる事が在るかのように、僕を見詰める。

「光・・・みたいな物かな?多分霊力の色か何かだとは思うけど。」

僕は聞き知った範囲で、答える。

「もしかして貴方・・・、マナが見えますの?」

「まな?」

何処かで聞いた事が在るような、そんな単語を北条は言う。

「全ての根源と言われてる物ですわ。適当な言葉が無いので、『マナ』と呼ばれる物ですの」

「霊力とか魔力って言われる物か」

「私が『根源』と言った言葉、聞いていました? それらの元となる物を言っていますの」

北条は、僕の認識の間違いを修正する。

「人と違う物が見えている以上、なんとも言えないんだけどね」

「人と違うと言う認識は御ありになるのですね」

北条はそう言い、僕との間に、一定の距離を置き続ける。

まだ僕を鬼だと思っているのだろうか?

「まぁ、良いですわ。今の所、この土地に害を成すつもりでも無いようですから、探して差し上げますわ。十二分に感謝なさって結構ですのよ」

「ありがとう」

僕は、そう言いながら微笑む。

何故だろう? 北条は顔を赤らめ、視線を逸らす。

「どうした?北条」

「な、なんでもありませんわ!さっさと始めますわよ!」

北条はそう言いながら、僕に背を向け、ぶつぶつと何かを呟き始める。

・・・。

印らしき物を手で作り、僕では理解出来ない、術の様な物を発動しているのだろうか。

「まるで映画に出る、陰陽師みたいだね」

「静かに」

僕は素直な感想を言ったのだが、冷やかに怒られる。

・・・。

・・・。

・・・。

沈黙の中、しばし時間は流れる。

「成る程・・・、そういう事ですか」

北条は一人、納得したように呟く。

「何か判った?」

「そうですね、貴方を含め、この町近辺での異常は無いと言う事が判りましたわ」

「つまり?」

「霊力数値の高い方の、動いた痕跡が無いと言う事ですの」

北条は、それを当たり前の様に言い、僕はしばし考える。

彼女はこの町を護るのが役目と言っていたから、異常を察知するのは得意なのだろう。

で、蔵姫程の人間が動けば、証拠が残る・・・と。

・・・。

たぶん、見つからない・・・と言いたいのだろうか?

「今、わたくしを馬鹿にする様な事をお考えになっていないでしょうね」

「いや、馬鹿にはしないさ」

元々駄目元ではある。

スタートに戻るだけなので、気にする所ではない。

「話は最後まで聞きませんと、慌てる何とかは貰いが少ない・・・となってしまいますわよ」

「乞食な。」

「人がせっかく伏せましたのに、ご確認なさらなくともよろしいですの!」

最近、突っ込む癖が付いているようで、いらない事を言ってしまった。

「ご丁寧に、痕跡を消しながら動いている方がいらっしゃいますの」

「へぇ~、判るんだ」

彼女は面白い事を言い、僕は感心をする。

「それらに心当たりはございます?」

僕は、だから蔵姫だろ・・・と言い掛けて、それを止める。

北条は、それら・・・と言う。

それは、そう言った者達を、複数捉えたと言う事。

「見当は付く」

「その方、何者ですの?」

「多分それも白薔薇」

北条の言い方が、特定の存在に対してだったので、蔵姫以外を、それのみと判断する。

「異常ですわね」

薔薇が複数存在し、それに対抗でき得る存在もまた同じく。

「蔵姫もそう言っていた」

蔵姫の言っていた『白薔薇戦争のまねごと』と言う言葉を思い出す。

「所でさっき、僕も含めて異常が無いって、どう言う意味?」

嫌味として受け取れば、聞き流しても良い事なのだが、念の為聞いてみる。

「貴方の穏業が、化け物じみていると言っただけですの。痕跡どころか、目の前に居る事自体、怪しいと言っていますの」

どうやら、聞き流しても良かった事らしい。

「陽炎じゃあるまいし」

「そうでしょうか?」

北条は、含みを持たせながら、歩き出す。

何も言わないが、付いて来い・・・と言う事なのだろうか?

僕は、一つ溜息を突いて、その後を付いていく。

僕には目的が在り、それを実現する事は、願いでも有る。

・・・ん? 願い?

それはいったい誰の・・・願いなのか?

・・・。

・・・。

まぁ、良い。

それが何であれ、僕の行動に変わりは無いし、曲げる物でも無い。

今は、ほんの少しの恐怖の可能性に、期待するしかないだろう。

そして空は・・・、やっぱり青く澄んでいた。








もう少しだけ、続きます。

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