ローズブレイカー その3の2
私としょうこ♂お姉さま、そして、らいずまい先生の合作『朝霧』を、捨てるにはもったいないので、公開する事にしました。知ってる方も、知らない方も、最後までお付き合いして下さいましたら、幸いです。
空は晴れ、何時もと変わらぬ風景を僕に見せる。
休日後の朝は、何時もと変わらず訪れ、そして教室では、何時もと変わらぬ顔が、僕の目の前で満面の笑みを見せ付けていた。
・・・。
いや、これはニヤニヤ笑いなのだろうか?
「で?どうだったのよ?」
「何が?」
嫌らしい笑いを向ける神崎に、僕は質問を返す。
「何がじゃねぇ~っしょ! 昨日のデートの話だよ!」
昨日のデート・・・。
僕は頭を抱える。
いくら朝霧を持たずの散歩とは言え、神崎の存在を感知する事が出来なかった。
ホント、神崎貴様・・・、何者よ。
「デ、デートって何ですか!」
神崎の言葉を耳にしたのか、中里さんは何時ものように会話へと混ざってくる。
「お!笑美ちん、耳が良いねぇ!」
「はい!死活問題ですから!」
二人は『友よ!』などと腕をクロスさせ、見詰め会う。
僕から見ると良いコンビに見えるのだが、今の所、二人に間に恋愛的事実は無いらしい。
「で、話戻るけど、昨日はどこまで行ったんだい?」
神崎は尚も、同じ事を聞いて来る。
まぁ、あの店を僕に教えたのが神埼なのだから、こいつの情報網に引っ掛かったとしても、不思議では無いのだが。
「優くん!ご説明を希望します!!」
会話の所在を掴めない中里さんは、神崎に質問をする。
「おっし! じゃぁ中里さんへの説明が先だ」
そう言いながら神崎は、中里さんへと視線を移す。
かしこまる中里さんは、深呼吸を一つして、「どぞ!」などと真剣な瞳をした。
・・・いちいちオーバーアクションな人達だ。
「一年の女子に、俺ですら躊躇する美少女が居るんだよ」
神崎は真剣に言い、中里さんは眉をピクッと動かす。
「触れてはいけない・・・、そんな聖域めいた娘なんだけど、加々美君は何の躊躇もなく、紳士的捕食体制に入ったと言う話」
「そんな・・・、また新たな女性の影なんですか!」
神崎は説明と言うには妙な表現をし、妙に察しの良い中里さんは神崎ではなく、僕に泣きそうな視線を向ける。
「神崎・・・お前、いい加減に・・・・」
「デートしてたのは事実だろ?」
僕は最後まで話す事を許されず、神崎に言葉を阻まれる。
「散歩ついでにお茶をおごっただけだ」
突然真面目な顔をする神崎に、僕は言い訳のような言葉を吐いてしまう。
「次のデート約束までしたのに、それだけだと言うのかい加々美君」
神崎は、僕の心を見透かすような瞳で見詰めてくる。
「何が言いたい?神崎」
僕は神崎にプレッシャーを掛けるが、神崎は視線を逸らそうとはしない。
「今の話を聞いて解った。あの娘は止めておけ。あれは加々美君を駄目にする」
突然の反転とでも言うのだろうか?
何時に無い、神崎の冷ややかな言葉は、僕に苛立ちを覚えさせる。
「神崎、お前の台詞とは思えない事を言うな?」
全ての女性は・・・が、聞いて呆れる。
「そう、それだよ加々美君。何時もの君なら、そんな反論はせずに笑い飛ばすだろ?」
・・・。
「加々美君は拘っているんだよ、彼女・・・蔵姫に。全く持って君らしくないんじゃないか?」
神崎は言う。
しかし、こいつは何を根拠にそんな事を言うのだろう?
「僕らしい? お前に、僕の何が解る?」
売り言葉に買い言葉とでも言おうか? 僕は僕らしく無い言葉を言う。
「それこそ加々美君は自分自身の何が解る」
「随分と、上から目線だな神崎」
「それはお互い様だろ?」
神崎は、言葉と裏腹に、何時に無い真剣な視線を僕に向ける。
神崎の言おうとしている事、神崎の何時に無い真面目な視線に、奴の言葉を真面目に捉える。
僕が蔵姫に拘っている?
それが事実ならば、その事に意識の無い僕は、自分自身を理解していない事になる。
自分自身を理解しない・・・か。
・・・確かに。
神崎の言うとおり、僕は蔵姫に拘っているのかもしれない。
こういう事は、人に言われなければ気が付かない事なのだろうか。
僕は自分の中に答えを捜そうとし、神崎との会話に沈黙が流れる。
「うぇ、う・・・うぅ」
僕は小さな嗚咽に、思考のループを止め、思わず中里さんを見る。
「け、喧嘩しないでくださ・・・ぃ。うぇ・・っ」
気が付くと中里さんは、顔中濡らして泣きまくっていた。
「どうしたの中里さん?」
僕はその時、彼女に何がおきているのか理解出来なかった。
「う・・ぅ、け、喧嘩しないでくださぁ~ぃ・・・」
「いや、笑美ちん、喧嘩してないから、俺達喧嘩してないから!」
シリアスモードだった神崎は、あたふたと中里さんに両手を振り始める。
「喧嘩は・・・だめ・・・なんですぅ~・・、うぇ・・・」
「か、加々美君!君からも言うんだ!俺達は喧嘩なんかしてないって!」
どうやら中里さんは、僕と神埼が喧嘩をしていると、思ったらしい。
・・・いや、実際に口喧嘩してたとは思うけど。
「大丈夫だよ中里さん、僕達は喧嘩なんかしてないから」
僕はそう笑顔を作りながら、中里さんを小さい子にするようにあやした。
周りの視線どうのこうのは、この際仕方がないだろう。
「ほんと・・・ですかぁ?」
中里さんは泣き止みながら、視線を上目遣いに僕達を見てくる。
「本当だよ」
僕は微笑み、神崎はうんうんと頷く。
それで蔵姫と僕の話は終了と言う流れになり、僕達はあまり意味の無い会話を続ける事になる。
授業が始まる前の、ほんのひと時を・・・と言う奴だろうか。
日常的なそれは、何時ものように、日常的な物になる筈だった。
だが、そうも行かない事情は、僕の意思とは関係なく発生する。
それは、神崎が僕の事を無駄に心配したように。
教室のドアが開くと同時に、神崎はドアの方に視線を向け、僕に何かを言おうとする。
僕は視線を向ける事無く、神崎に手で合図をし、立ち上がる。
「え?どうしたんですか?」
まだ目の赤い中里さんは、僕達のアイキャッチを不思議に思ったのか、神崎と僕を交互に見る。
「中里さんごめん、用が出来た」
そう言って、僕は教室の入り口へと足を運ぶ。
「どうした?何か在ったのか?」
僕はそこに立つ人物、美姫へと声を掛ける。
「蔵姫ちゃんが居ないの。学園にも来てないし、気配を探っても、感じ取れないの」
美姫は不安そうに言う。
美姫の言う所の『感じ取れない』は、恐らく美咲町の中で・・・と言う意味なのだろう。
「何時からだ?」
僕はそう言いながら、美姫を生徒の少ない方へと、導く。
「気配が無くなったのは昨日の朝からなんだけど、今日は存在自体を感じないの・・・」
美姫は泣きそうになりながら、僕にしがみ付いて来る。
「心配なのか?」
僕の問いに、美姫は小さく『うん』と頷く。
蔵姫もそうであるが、この娘達は、何か時間とは関係の無い結び付きがあるのかも知れない。
「あいつが誰かに何かをされる・・・と言うのも考え辛いし、自分で存在を隠してるんだろ?」
僕は、美姫を安心させる為に、楽観的な言い方をする。
「だから心配なんだよぉ」
美姫は蔵姫の行動の理由を知っているような素振りを見せる。
「美姫、とりあえず昼休みにもう一度話そう。・・・・屋上で良いか?」
僕は、ホームルームが始まる前に、話を切る。
「でもぉ・・・」
美姫はすぐにでも動きたいらしく、僕に懇願するような視線をよこす。
「今授業を抜ければ、歩美さんに連絡が行くだろ? さっきも言ったけど、蔵姫をどうこう出来る奴は少ないんだから」
僕は、焦っても仕方が無いと、美姫を諭す。
歩美さんの名前を聞いた美姫は、しぶしぶと言った感じで大人しくなる。
「じゃ、昼休みに屋上で」
僕は確認するように言い、美姫は「うん」と元気なく答え、自分の教室へと帰っていく。
約束とは人を縛り、個人の暴走を止める力が有る。
ふと、蔵姫と交わした、もう一度・・・と言う約束を思い出す。
蔵姫が何を目的としているかは判らないが、僕と交わした約束が、蔵姫に対しての歯止めになれば良いのだが。
・・・。
・・・あれ?
何で僕は、蔵姫の事を心配しているのだろう?
家族でもない彼女に対し、それを考え、その明白な理由を探しあぐねた。
廊下を歩きながら、神崎の言う『拘っている』と言う言葉を思い出す。
拘っている・・・ねぇ。
そして、そんな思考の繰り返しを、時間を知らせるチャイムが遮る。
今は考えた所で答えは出ないと判断をする。
とりあえず、ひと気の無くなった廊下を、僕は軽く早歩きで進む事にする。
「ご飯食べてこなかったのか?」
僕は、先に屋上へと来ていた美姫へと話しかける。
何時もなら、蔵姫がここに居るのだが・・・。
美姫の返事を待ちながら、僕はそんな風に考える。
「やっぱり蔵姫ちゃんの気配がしないの・・・」
美姫は朝と同じように、心配そうな表情を隠せないでいる。
「その気配って物が僕には解らないんだが、例えば、派手に戦っている最中でも、隠せる物なのか?」
「それは無理だけど・・・、でも・・・」
美姫は不安を拭い去る事が出来ないようだった。
「朝も言ったけど、蔵姫をどうこう出来る存在は少ない。それは事実なんだから、まず美姫が落ち着くのが先だろ?」
きちんとした話をする前に、冷静さを求めるのは、当たり前の話である。
「え?美姫は落ち着いてるよぅ」
・・・ほう。
おろおろしている奴が言っても、説得力は無いと思い、僕は美姫の頭をグリグリする。
「いたっ!痛いって!なに?なんで?」
自分がぐりぐりされている理由が解らない美姫は、素直な抗議を僕へと向ける。
「ただの愛情表現」
僕は冷ややかに言う。
「何怒ってんの?意味わかんないよぉ~!」
美姫は、『ぷんすか!』なんて擬音が似合いそうな怒り方をする。
「で、どうする? 今まで僕に頼らなかった美姫が僕に話をするんだから、僕に利用価値が在るんだろ?」
僕は、実も蓋も無い言い方で、美姫の思惑を探る。
「利用価値だなんてぇ・・・」
美姫は悲しそうな表情をし、押し黙るように、言葉を止める。
「言い方は悪かったが、僕の知らない事が多い以上、それが事実と言う物だ」
そんな僕に、美姫は僕の目を見詰め、頼る様に次の言葉を待つ。
「美姫は知っているんだろ? 蔵姫がこの町に来た目的を」
そう、蔵姫の目的。
蔵姫が関わっているから『アレ』を持った白薔薇も存在する・・・では無く、本当の意味での彼女の目的。
僕は疑問に思っていた。
不意に見せる、静かだが激情的な、彼女の感情。
使命感や責任とは、全く違う、彼女の根本に在る物。
「そだね、助けてもらうんだから、言わなきゃ駄目だよね」
美姫は溜息を突く。
「お兄ちゃん・・・」
少し考えた美姫は、以外に素直に、その口を開く。
「蔵姫ちゃん・・・、蔵姫ちゃんには、お兄ちゃんが居るんだって」
美姫は伏せがちに言う。
「ほう・・・」
僕は思わず、目を顰めながら相槌を打つ。
「深い事情は聞かなかったんだけど・・・」
美姫は言葉を詰まらせ、しばし沈黙が訪れる。
「気にするな。僕は相手に同情するような人間じゃない」
僕は、美姫の言い辛らそうな態度に、催促を入れる。
「・・・ごめん」
美姫はそう言って、話を続ける。
「蔵姫ちゃん、自分のお兄ちゃんを殺さなきゃいけないって言ってたの・・・」
「それが使命だと?」
僕は、態と考え付いた事と違う事を言い、美姫は首『違う』と、を振る。
「だとすれば私怨か」
淡々と言う僕の言葉に、美姫は答えない。
「あと、私・・・美咲はね、人とは・・・戦えない・・の」
美姫は辛そうに言う。
「それが僕に相談してきた理由か?」
僕は感情を乗せずそう言い、美姫はまた、それに答えようとしない。
今問題にしている人物、・・・蔵姫も一応、人である。
ならば、それから出される答え。
静かに自分の機嫌が悪くなっていくのを、僕は理解する。
「美姫、もう一つ聞くが、蔵姫の兄貴は『アレ』・・・鬼なんだよな?」
流れから言って、予想は出来る。
何か大きな要因が無ければ、その兄も同じように、人である筈なのだ。
しかし、解って居てても、聞いてしまうのが人と言う者だろうか。
「えっと、お・・・鬼じゃない・・・と、思います」
美姫は僕の質問に、視線を逸らしながら、声を小さくして行く。
僕はそんな美姫へ、そっと優しく、腕を伸ばす。
「ひぐっ!」
僕が美姫の髪に手を回し、軽く撫でただけで美姫は青ざめ、声を上げる。
・・・。
蔵姫を助けると言う事は、殺し合いの中に割って入ると言う事。
それを美咲が出来ないと言う事は、相手が『アレ』では無い、と言う事。
・・・。
僕は今、どんな顔をしているのだろう?
「僕に、人を殺せと言うんだね、美姫は?」
僕は自分の機嫌が更に悪くなって行くのを感じる。
美姫は、美咲が人と戦えないから、僕に頼むと言う。
それは、人である蔵姫の兄と戦う・・・いや、殺しあう可能性が在ると、遠まわしに言っているのと同じだった。
「ちがっ、蔵姫ちゃんを・・・とめ、止めて・・・欲しいの」
美姫は、むりやり言葉を絞り出すように言う。
「白薔薇なんだろ?そいつも。・・・なら、もちろん殺し合いに・・・」
僕はそこまで言って、美姫が震えて、涙ぐんでいる事に気が付く。
「どうした?美姫」
「あんまり怒らないでぇ・・・、恐いよぉ・・・」
美姫は懇願するように、僕の瞳を見る。
「蔵姫の事は恐くないのに、僕の事は恐いのか?」
「お兄ちゃんは別なんだよぉ」
美姫のそれは、人が神にする畏れのようにも見える。
「美姫には、人の理が当てはまらないんだろ」
不意に、蔵姫の言葉を思い出し言う。
「それはお兄ちゃんのことだよ。お兄ちゃんの言葉、私の根源まで届くんだからぁ。普通、在りえないんだから・・・」
美姫は自分の事を『私』と言い、それが美咲としての意見であると、主張する。
僕は肩の力を抜き、心の中で、溜息を突く。
「止めれば良いのか?」
「えっ・・・?」
美姫は一瞬、何を言われているのか、判らない様な反応をする。
「蔵姫を止めろと言ったのは、美姫だろ」
「あ、うん」
美姫は頼むと言いながら、一瞬戸惑う。
それは、危険が多大に存在する証拠である。
「それに泣くな。傍目には、僕がいじめている様に見える」
今朝は中里さんに泣かれ、今は美姫に泣かれる。
それはあまり、面白い事では無かった。
「事情は解った、美姫はこのまま授業を受けていろ」
僕は視線を美姫から外し、自分の行動を選択する事にする。
「・・・あれ?もしかしてお兄ちゃん、美姫が泣いて、少し・・・困った?」
視線を逸らした僕に、美姫は、茶化すようにつまらない事を聞いてくる。
先ほどの怖いだの何だのは、何処へ行ったのだろう?
「ねぇ・・・、困った?」
美姫はそう言いながら、ワザと下から覗き込むように僕を見詰め、僕はそんな美姫を睨む。
「今のお兄ちゃんは・・・恐くないもん!」
そう言って、美姫は僕から離れる。
どうやら美姫、・・・いや、美咲は、僕の感情に呼応するように、その表情を変える様だった。
ならば、蔵姫に対する不安感は、美姫と美咲、どちらの感情の表れなのだろうとも考える。
「とりあえず、美姫は動くな」
僕は、念を押す押すように、美姫に言う。
「お兄ちゃんは?」
「午後からフケる」
「じゃ、わたしも・・・」
「駄目だ」
「えぇ?何で?」
美姫は、僕の言葉に異論を唱える。
「歩美さんに連絡が行くとまずいだろ。美姫の事で、歩美さんに心配をさせたくはない。それに僕だけだったら、デートしてたとでもと言えば問題は無いしな」
「じゃ、美姫とデートって事で・・・・イタッ!」
阿呆な事を言う美姫のデコを、音速で叩く。
「なんですぐに叩くかなぁ~」
「聞き訳が悪いからだ」
僕の言葉に、美姫は、ブゥーーーー!と不満を漏らす。
不安がったり、恐がったり、笑ったり怒ったり、本当にこの娘は喜怒哀楽が激しい。
「大丈夫だ。蔵姫を見つけたら、美姫に知らせる」
「どうやって?」
「朝霧を抜く。それなら判るだろ?」
「それは、そうなんだけど・・・」
「ん?美姫は朝霧が嫌いか?」
朝霧を見せた途端、美姫は少し不機嫌になる。
「その刀も恐いの・・・」
「まぁ、鬼でも喰らう位だから、神様も喰らうかも知れないしな」
僕は、適当な事を言う。
「違うよ。その刀・・・・、お兄ちゃんを連れて行っちゃいそうで・・・」
僕は美姫の言う事に首を傾げる。
「僕を殺す・・・って事か?」
「そじゃなくて、なんとなく、これは美姫の敵だ!って感じるの」
美姫は、桜さんを睨む様に、朝霧を睨む。
「悪い、言っている意味が解らないんだが」
「簡単に言うと、女の勘なんだよ」
・・・女の勘。
それは霊的な物と同じように、僕には理解出来ない物。
・・・まぁ良い。
「どの道、美姫は手が出せないのだろ? それなら大人しくしてくれていた方が助かる」
僕は遠回しに、邪魔だと言う。
「うぅぅぅぅぅぅーーーー・・・」
美姫は納得が行かない様に口を尖らす。
「ま、そう言う事だ」
それだけ言うと、僕は美姫の頭を撫で、一人屋上を後にする。
追い掛けて来ない所を見ると、美姫は了承してくれたのだろう。
「行くのかい?」
そんな僕に、階段を下りた所で、神埼が声を掛けてくる。
「悪いか?」
僕は神崎に、毒づく。
話を聞いていたとも思えないが、まるで待っていたかのようなそれは、癪に触る。
「いや、加々美君が加々美君であれば、俺は気にしないさ」
神崎は、相変わらず意味ありげな言葉を言う。
「他に言う事は在るか?」
僕は俗学的な事を言う神崎に、嫌味のつもりでそう言った。
「I・LOVE・YO・・・ぐえ!」
阿呆な事を言う神崎を反射的に殴る。
「お前の忠告、ありがたく頂く」
そう言いながら伸びたふりをしている神崎を残し、僕は校舎を後にする。
最後に神崎が『死ぬなよ』なんて呟いた言葉が聞こえたが、僕はそれを聞こえなかった事にした。
神崎、何処まで知っているのやら・・・。
空は青く、蒼天と言う言葉が似合いそうな風景を見せる。
・・・。
美姫にはああ言ったが、町に出た僕は、蔵姫をどうやって探すかを考える。
とりあえず、朝霧の感覚を伸ばすしか、手は無いだろうか?
ローリング作戦・・・。そんな、溜息が出てしまいそうな単語が、頭に浮かぶ。
何時もの事だとは言っても、行き当たりばったりな自分に、呆れてしまう。
・・・?
町を歩いていた僕は、ふと、見たことの在る人物を見つけ、声を掛ける事にする。
「なにしてんの?」
「きゃぁ!」
その人物は、突然声を掛けたせいか、オーバーアクションな驚き方をする。
「悪い、驚かせた?」
歩美さんを驚かせた様に、この娘も驚かせてしまったらしい。
「何者ですの!」
その女性は、『ズササー!』擬音が出そうな勢いで、低く間合いを取る。
・・・。
声を掛けただけでその対応、いわれの無い冤罪とは、こう言う物を言うのだろうか?
「先日は世話になったね」
僕は気にするでもなく、目の前の女性ににこやかに話し掛けた。
「気配を消して近づくなんて、趣味が悪いですわ」
その女性・・・、数日前に会ったばかりの巫女さんは、構えを解く事無く、こちらを威嚇する。
「悪気が在る訳ではないんだ、許してくれれば助かる」
僕は、形式的に、簡単な謝罪をする。
「真昼間から大刀を持ち歩く方に、悪気も何も、無いでしょうに」
彼女にそう言われ、相手に朝霧が見える事が、当たり前になって来たと認識する。
もっとも、僕の周りの常識が、おかしくなって来たとも言えるのだが。
「大丈夫、この刀、普通の人には見えないから」
僕はそう言いながら、彼女の着ている制服に視線を移す。
「そう言う問題では御座いませんわ。常に刀を持ち歩く異常さを言ってますの。そちらがその気なのであれば、御相手致しますわよ!」
彼女は、僕と一定の距離を置いたまま、僕の出方を見計らう様にする。
そんな彼女の様子を見、僕はふと、疑問に思う。
彼女には、先日の様な、高圧的な態度や問答無用さが無い。
何か、ためらいながら話を進めているようなのだ。
「だけど以外だね」
「何ですの?」
僕の言葉に、彼女は怪訝な表情をする。
「いや、同じ学園だったんだと思ってね」
蔵姫程で無いにしろ、彼女が美人で在る事には、変わりが無い。
学園内に居るのであれば、奴が教えてくれても良さそうな物なのだが。
神崎・・・、ワザと僕に教えて居ないのか?
そんな風に考える。
「私に用が無いのであれば、悪い事は言いません、立ち去りなさい」
そんな僕に対し、彼女は距離を取りながら、早々に話を切り上げようとする。
「名前・・・、聞いて良いかな?」
他意が在った訳では無く、僕は自然に彼女の名前を聞いていた。
「貴方の様な礼儀知らずに、教える名前など、ございませんわ」
礼儀。そう言えば、僕も彼女に名前を教えてなかったと、数日前の夜の事を振り返る。
「・・・僕の名前は『加々美 端鷹』。学園では二年生と言う事になってる」
「そう言う意味でいったのではありません。それに、貴方の名前など、当に知っていますわ」
彼女は、既に知っている・・・とそう言った口調で、僕を睨み付ける。
「もしかして、悪気が無いって言った事、嘘だと思ってる?」
「当たり前ですわ!」
・・・。
「もしかして、僕の事を敵だと思ってる?」
「いまさら何を!」
僕の考察よりも速く、彼女は返事を返す。
僕はふと、彼女が武器らしい物を、何も見せていない事に気が付く。
あの夜、彼女は身に似合わない強弓を携えていた。
だが今は、腰を落とし、手刀を構えるのみである。
「成る程、今は空身なんだ」
僕は態と朝霧に片手を掛け、ニヤリと笑う。
「馬鹿になさらないで! 神弓『風裂』が無くとも、貴方に遅れを取るような事はございませんわ!」
そう言いながらも、彼女は少しだけ後退をする。
悪戯のつもりで鎌をかけたのだが、彼女は正直に空身である事を認める。
そしてその対応は、可愛らしく思えてしまう程臆病に見え、あの夜の時とはとはまるで、別人のようにも見える。
なにはともあれ、どうやら僕は悪者で、空身の彼女はかなりピンチな状態のようだった。
僕は、朝霧から手を離す。
「ごめん、冗談だ。僕としては、君と争うつもりは無いんだ」
僕は両手を挙げて見せる。
「冗談ですって?・・・とても信じられませんわね」
悪戯とは言え、軽いモーションを見せてしまった。
言い訳が通るような世界でも無いだろう。
「別に信じなくて良いさ」
「どう言う意味ですの?」
「僕が何をした所で、所詮、君をどうこう出来る物でもないだろ?」
僕は遠まわしに、彼女との力量さを言う。
少しの沈黙の後、彼女は考えるようにし、構えを解く。
「そうですわね。貴方が何かをするのであれば、全力で滅するのみ。けん制や駆け引きなど、何の意味もありませんわ」
彼女はそう言って、緩やかな動きで、僕に背を向ける。
それは、あれ程けん制していた人間とは思えない様な、余裕の有る・・・っぽい動きだった。
見栄を張ったのだろうか?若干顔が引きつっているのが、朝霧の感覚で判る。
「貴方も人間社会で生きて行くのであれば、大人しくしていることですね。では、ごきげんよう・・・」
彼女は見た目上、今回も見逃す・・・・と、そう言た具合で優雅に歩き出す。
まぁ、それは見た目上。
状況の流れから言って、正直、僕から『にげた』と言うのが正解なのだろう。
蔵姫を探す当てもない僕は、それに対し、無口で付いていく事にする。
どうせ当てが無いのなら、何処に向っても同じだから。
もちろん、朝霧の感覚は、最大限に伸ばし、視覚的に見える物にも注意を張り巡らす。
朝霧の視覚と僕の視覚。
同じ物と認識していても、その違いと揺らぎを見逃す訳には行かない。
例えば目の前を歩く彼女。
僕の視覚と朝霧の視覚で、見え方が違う。
その違いは大きくて小さく、気にしなければ、何と言う事の無い事。
ただ、それには理由が在るだろうし、何かしらの術を発動している証拠にも見える。
探している対象や結界を見つけずとも、そう言った痕跡は、手掛かりとなる。
少しの間、僕はその繰り返しの散策を機械的に続ける。
そうこうして、十分程度経過した頃だろうか?
彼女は突然振り返り、僕に言う。
「なんで付いて来ますの?」
もっともな意見では在るが、ヒステリックな反面、彼女のその言葉に力は無い。
「人を探していているんだ」
僕の目的として、嘘の無い返答を言う。
「そうではなくて、何故?何もしないで付いて来るのかと、申して居るのです」
その言い回しは、僕が彼女に何かをするかの様に聞き取れる。
「何もしていない訳では無い。それに、君に付いて歩いているのは、目的の為の手段だと思ってもらって良い」
僕は自分の行動を、色々な意味での、手段だと考える。
「私をじわじわと殺して行く事が目的だと言うのですね・・・」
彼女は少し、とんちんかんな事を言い、身を少し引く。
「何か誤解が在るようだけど、君の行く方向に僕の探す人が居るかもしれないだろ?」
僕は、首を傾げながら言い、今の状況を端的に言う。
「論理的ではございませんわ、・・・そう思う理由は何ですの?」
彼女は、溜息を突きながら言う。
「僕の探している人間が、揉め事の中心に居るような奴だからかな?」
僕はそう言いながら、蔵姫の顔を思い出して居た。
「それではまるで、私も同じように揉め事に向かっているかのように聞こえますわね」
「違うの?」
僕の言葉に、彼女は一度目を丸くし、再び溜息を突く。
彼女の様な人間が、授業にも出ず街を歩るいて居るのである。
少なからず、近い目的が在ると考える。
「揉め事は、既に目の前に在りますの」
彼女の声には、何か諦めの様な物が在った。
「お兄様に馬鹿にされて風裂を置いて来ましたが、事実、貴方の様な化け物を前にして、これ程心細くなるとは、思いにもよりませんでしたわ」
さっとでは在るが、何か酷い事を言われて居るような気がする。
「貴方の真の目的が何かは存じ上げませんが、さっさと喰い殺すなり、この瑞々しくも張りの有る身体を陵辱なさるなり、お好きな様になされば良いでは無いですか。
先程は見栄を張りましたが、所詮、風裂を持たない私など、貴方達から見れば、ただの贄に等しい存在なのでしょうから・・・」
彼女は自分の身体を抱きしめるようにして言い、・・・項垂れる。
・・・。
前言撤回。
さっとでは無く、かなり酷い事を言われていると、僕は認識をする。
「一つ質問をして良いかな?」
「何ですの?」
僕の問いに、彼女は顔を上げる。
「君から見て、僕は何に見えるんだい」
「貴方は、鬼なのでしょ?」
・・・。
・・・。
納得はしたくないが、納得する。
彼女の対応は、全てがそれ基準だったのだろう。
僕が鬼ねぇ・・・。
「申し訳ないが、これでも人間です」
僕はほんの少し怒っている振りをし、きっぱりと言う。
彼女はそんな僕を確認するように見て、口を開く。
「もう・・・どちらでも良いですわ。貴方が何者であれ、私を逃がす気など、毛頭無いのでしょうから」
どうやら、僕が彼女をどうにかするのが、彼女の思考の前提らしい。
「諦めついでに言いますが、私の名前は『北条弘美』、ほうじょうひろみと言いますのよ。形上、貴方の後輩と言う事になりますわ」
北条弘美と名乗った少女は、腰に手を当て、今更余裕を見せるように態度Lなポーズをとる。
開き直りと言う奴かもしれない。
・・・。
「弘美・・・」
「なっ!いきなり呼び捨てですの!?」
なんとなく復唱しただけだったのだが、北条は何を勘違いしたのか、目くじらを立てる。
「呼び捨てではなく、普通にファミリーネームで呼んで頂けます?」
「あ、ごめん。呼び方は北条で良いんだね」
僕は形式上、謝罪を入れる。
「それで結局、誰を探していますの?」
彼女、北条弘美は、何度目かの溜息を突きながら言う。
「蔵姫を探している」
「クラキ?」
「野茨蔵姫・・・、白薔薇・・・、ロサムルティーフローラ。呼び方は色々だが、君なら多分どれかは聞いた事が有るんじゃないかな」
僕は、ごく自然にその名前を口にする。
「随分と大物の名前を口にするんですのね。その御方、この町に来てますの?」
北条は、目を細め、緊張する様に手に力を込める。
「昨日までは確認できたんだけど、今日は何処に居るか判らないんだ」
僕は軽い感じで言う。
「ロサムルティーフローラと言えば、薔薇の中でも原祖の一振りでしたわね」
北条は面白くなさそうに言い、言葉を続ける。
「噂では、血に飢えた獣の様な人物だと、もっぱらの評判ですわよ」
血に飢えた獣・・・か、先日のケーキを食べてる蔵姫を思い出す。
どちらかと言うと、僕は小動物的なイメージを蔵姫にしてしまう。
「そんなんでも無いよ」
「類友とは言いますが、御自身の感覚が全ての人と同じとは思わない事ですわ」
「含みが有るね」
確かに普通?の人間と僕の感覚は違うものなのだろう。
「昔・・・、お兄様に連れられて、一度だけ遠目でクラキを見た事が有りますが、アレは・・・、アレは・・・人ではありませんでしたわ」
蔵姫と同級生なはずの北条は、それ以来見た事がないかの様に話す。
「北条の言いたい事はなんとなく解るとして、北条と蔵姫が違うクラスだと言う事は解った」
同じ学年でも、クラスが違えば、交流や認識と言う物は少ないのかもしれない。
「はぁ?レベルが違うと馬鹿にしてますの?言っている意味が解りませんわ」
馬鹿にしている?意味?
まさか北条は、ファンタジックな意味での『クラス違い』と、受け取ったのだろうか。
「もしかして北条は、蔵姫が同学年に在籍しているって、知らないのか?」
「同じ学年・・・?」
北条は一瞬、考え込む。
「そんな・・・、在りえませんわ!」
まさか・・・と言う事なのだろうか? 北条は納得出来ないと言った表情をする。
「フィルター・・・か」
僕は呟く。
さくらさんが昔、『アレ』の説明をする時に、「知覚フィルターのような物が掛かって、そのまま見ないようにする」と言った事が在る。
それと同じような事が起きているのであれば、それも納得が行く。
「わたくしが、見ない様にしていると?」
北条は、僕の言っている意味を、理解しているようだった。
「どうだろう? 北条がどう感じようが、蔵姫が居る事には変わりが無いし、人が本能と言う物でフィルターを掛ける事実も僕は知っているからね」
僕の言葉を聞いた北条は、面白くない・・・と、そんな表情をする。
「所で、北条に聞くんだけど」
「何ですの?」
僕の問いに、北条は素直に返す。
「君の力で、蔵姫を探せる?」
試し・・・とでも言おうか? 僕は駄目元でそれを聞く。
「貴方は出来ませんの?」
北条は一瞬嫌な顔をし、それでも口を開く。
「今の所、出来ずに困って居る。」
僕はそう答えるしか無かった。
・・・。
「出来ない事は無いですわ。」
北条は確信が在るのだろうか?その言葉を迷う事無く言う。
「ほう・・・」
僕は一瞬にやける。
「嫌な顔をしますのね」
「・・・悪い、たまに自が出るんだ」
僕は笑いながら、軽く流す。
「でしょうね」
そう答えた北条は、冷ややかである。
「悪いけど、お願いしても良いかな?」
他力本願は何時もの事だし、時間の短縮は、在る意味美徳でもある。
「そうですわね、やらなくも在りませんが、問題は貴方、・・・加々美さんの目的が何であるかが大事ですの」
北条は、真面目な顔をする。
最初の出会いが酷かった割には、北条の対応は良心的と言える。
「呼び方は、端鷹でいいよ」
僕はその気持ちに、素直に感謝を感じ、ファーストネームで呼ぶ事を薦める。
「は、話をそらさないで下さいます?!」
北条は突然顔を赤らめ、挙動不審な態度を取る。
彼女の内面で、なにが起きているかは、僕の知った所では無い。
「さっきも言ったけど、蔵姫を探すのが目的だ」
僕は、今日何度目かの、同じ返答をする。
「そうでは無くて、見つけた後の話ですの。事と場合によっては、私の命を使ってでも、今ここで貴方をお止めする事になりますわ」
北条は静かに言い、先程と違い、肝を据わらせる。
「蔵姫を大切に思っている奴が居てね、それでそいつから頼まれたんだ。蔵姫を探して・・・止めてくれ・・・と」
僕は、美姫の事を伏せながら、僕の目的を言う。
「クラキがこの町で何かをすると?」
北条の視線が鋭くなる。
「たぶんな」
「貴方にそれを頼んだ御方は?」
北条は怪訝な顔をする。
「それを言必要はあるか?」
僕は彼女に、必要以上の情報を、与える気はない。
「貴方には恥ずかしい所を見せてしまいましたが、これでも私は、霊的な者からこの町を護るのが役目ですの。言っている意味、判りますわよね?」
北条は、護るのが役目と言い、責任と使命を強く主張する。
「組合か何かなのか?」
さくらさんや、蔵姫が言っていたギルド的な物を思い出す。
「貴方がどのような物に属しているかは知りませんが、うろ覚えで物を言うと、揉め事が増えますわよ」
「知らないから聞いている」
「あの様な者達と、一緒にされては困ります。私達は護部・・・、この土地の神の代行者です」
土地神の代行者・・・。
僕は美姫の顔を思い出し、なんだかなと考えてしまう。
「で?どなたからの依頼ですの?」
北条の問いに、『その土地神様から』などと頭に浮かべ、その言葉を引っ込める。
「なに、北条と似た綺麗な光を出してる知り合いが居てね、健気にこの街の事を心配してるんだよ。」
「光・・・?」
北条は、何か思い当たる事が在るかのように、僕を見詰める。
「光・・・みたいな物かな?多分霊力の色か何かだとは思うけど。」
僕は聞き知った範囲で、答える。
「もしかして貴方・・・、マナが見えますの?」
「まな?」
何処かで聞いた事が在るような、そんな単語を北条は言う。
「全ての根源と言われてる物ですわ。適当な言葉が無いので、『マナ』と呼ばれる物ですの」
「霊力とか魔力って言われる物か」
「私が『根源』と言った言葉、聞いていました? それらの元となる物を言っていますの」
北条は、僕の認識の間違いを修正する。
「人と違う物が見えている以上、なんとも言えないんだけどね」
「人と違うと言う認識は御ありになるのですね」
北条はそう言い、僕との間に、一定の距離を置き続ける。
まだ僕を鬼だと思っているのだろうか?
「まぁ、良いですわ。今の所、この土地に害を成すつもりでも無いようですから、探して差し上げますわ。十二分に感謝なさって結構ですのよ」
「ありがとう」
僕は、そう言いながら微笑む。
何故だろう? 北条は顔を赤らめ、視線を逸らす。
「どうした?北条」
「な、なんでもありませんわ!さっさと始めますわよ!」
北条はそう言いながら、僕に背を向け、ぶつぶつと何かを呟き始める。
・・・。
印らしき物を手で作り、僕では理解出来ない、術の様な物を発動しているのだろうか。
「まるで映画に出る、陰陽師みたいだね」
「静かに」
僕は素直な感想を言ったのだが、冷やかに怒られる。
・・・。
・・・。
・・・。
沈黙の中、しばし時間は流れる。
「成る程・・・、そういう事ですか」
北条は一人、納得したように呟く。
「何か判った?」
「そうですね、貴方を含め、この町近辺での異常は無いと言う事が判りましたわ」
「つまり?」
「霊力数値の高い方の、動いた痕跡が無いと言う事ですの」
北条は、それを当たり前の様に言い、僕はしばし考える。
彼女はこの町を護るのが役目と言っていたから、異常を察知するのは得意なのだろう。
で、蔵姫程の人間が動けば、証拠が残る・・・と。
・・・。
たぶん、見つからない・・・と言いたいのだろうか?
「今、わたくしを馬鹿にする様な事をお考えになっていないでしょうね」
「いや、馬鹿にはしないさ」
元々駄目元ではある。
スタートに戻るだけなので、気にする所ではない。
「話は最後まで聞きませんと、慌てる何とかは貰いが少ない・・・となってしまいますわよ」
「乞食な。」
「人がせっかく伏せましたのに、ご確認なさらなくともよろしいですの!」
最近、突っ込む癖が付いているようで、いらない事を言ってしまった。
「ご丁寧に、痕跡を消しながら動いている方がいらっしゃいますの」
「へぇ~、判るんだ」
彼女は面白い事を言い、僕は感心をする。
「それらに心当たりはございます?」
僕は、だから蔵姫だろ・・・と言い掛けて、それを止める。
北条は、それら・・・と言う。
それは、そう言った者達を、複数捉えたと言う事。
「見当は付く」
「その方、何者ですの?」
「多分それも白薔薇」
北条の言い方が、特定の存在に対してだったので、蔵姫以外を、それのみと判断する。
「異常ですわね」
薔薇が複数存在し、それに対抗でき得る存在もまた同じく。
「蔵姫もそう言っていた」
蔵姫の言っていた『白薔薇戦争のまねごと』と言う言葉を思い出す。
「所でさっき、僕も含めて異常が無いって、どう言う意味?」
嫌味として受け取れば、聞き流しても良い事なのだが、念の為聞いてみる。
「貴方の穏業が、化け物じみていると言っただけですの。痕跡どころか、目の前に居る事自体、怪しいと言っていますの」
どうやら、聞き流しても良かった事らしい。
「陽炎じゃあるまいし」
「そうでしょうか?」
北条は、含みを持たせながら、歩き出す。
何も言わないが、付いて来い・・・と言う事なのだろうか?
僕は、一つ溜息を突いて、その後を付いていく。
僕には目的が在り、それを実現する事は、願いでも有る。
・・・ん? 願い?
それはいったい誰の・・・願いなのか?
・・・。
・・・。
まぁ、良い。
それが何であれ、僕の行動に変わりは無いし、曲げる物でも無い。
今は、ほんの少しの恐怖の可能性に、期待するしかないだろう。
そして空は・・・、やっぱり青く澄んでいた。
もう少しだけ、続きます。




