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朝霧  作者: KARINA
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ローズブレイカー その2の終わり

私としょうこ♂お姉さま、そして、らいずまい先生の合作『朝霧』を、捨てるにはもったいないので、公開する事にしました。知ってる方も、知らない方も、最後までお付き合いして下さいましたら、幸いです。

何か夢を見ていたような気がする。

それは切ない夢。

思い出そうとするが、想いだけが残り、記憶を辿る事は儚くも終わる。

夢とはそんな物だろう。

意識がハッキリとして来た僕は、ベットから抜け出し、学生服に袖を通す。

あれ?

「なんだ・・・?」

一瞬、視界が白くなり、一瞬、見知らぬ少女の姿を見る。

「く!」

ほんの少しの頭痛と眩暈。

疲れているだろうか?

そう思い首を振る。

昨日、美姫を探しに行き、僕は再び『アレ』と対峙した。

それは僕にとって快楽そのものであり、望む物であった。

しかしそれは、僕が思っている以上に、僕の身体への負担となっているのかもしれない。

いや、心に対してだろうか?

どちらにしろ、困る程の問題では無いのだが。

・・・ん?

ふと僕は、家の中に美姫が居ない事に気が付く。

普段であれば、寝てても美姫の足音で気が付くのだが、今日はその限りでは無かったらしい。

昨日の状況から見て、僕が疲れているのか、それとも美姫が狸だったのかが怪しいものである。

そう考えると、昨日あのまま美姫を部屋に帰したのは、間違いだったのかも知れない。

美姫を見つけたら、問い質す事としよう。

程無くして制服を着た僕は、何時ものように一階に降り、歩美さんへと朝の挨拶をする。

「おはようございます」

「きゃ!」

歩美さんは、ピョン!っと擬音が聞こえそうな動きで、声を出す。

どうやら僕は、また歩美さんを驚かせてしまったようだった。

不可抗力を強く感じる。

「端鷹君・・・、おはようございます」

なんだろう?歩美さんから、微妙な違和感を感じ取る。

心労を隠した、無理な平静とでも言うのだろうか?

それは簡単な事では無い、事情と言われる、事柄なのかもしれない。

「歩美さん、大丈夫ですか?」

僕は違和感に対し、質問をする。

「ん?ちょっとびっくりしただけ」

歩美さんは僕の意図とする所と違う事を言い、はにかむ様に笑う。

しかし、彼女の呼吸やリズムには少なからず乱れがある。

何が原因かは分らないが、僕は注意を向ける事にする。

「朝ごはん、食べるでしょ?」

「ええ」

僕は普段通りと言える会話を意識し、朝食を採る。

「しかし、美姫も以外に忙しいんですね」

僕は、美姫の居ない事を遠回しに歩美さんに言う。

「学校で何か用事が有るんですって。朝練か何かかしらねぇ?」

歩美さんは微笑みながら、左手を頬にあて、首を傾げる。

クラブ活動をしていない美姫が朝練ねぇ・・・。

それは美姫が居ない事を前提とした、準備された言葉のようにも聞こえる。

もしかすると歩美さんは、美姫が何をしているのかを知っているのかもしれない。

・・・まぁ良いだろう。

僕は静かに食事を進め、歩美さんは終始それを笑顔で眺める。

そして、朝食を終えた僕は、歩美さんに何時も通りに見送られる事になる。

「忘れ物は無い?端鷹君?」

「ええ。今日は特別に必要な物も無いですし、普段通りですから」

「そう?なら行ってらっしゃい!」

歩美さんは、僕が気持ちよく学校に行けるように、少し威勢良く声を掛けてくれる。

普段よりも強調されたそれは、彼女の精神状態から来る物なのだろうか?

もしかすると、僕の考える物より状況は悪いのかも知れない。

僕は少し考え、歩美さんに向き直る。

「歩美さん」

「ん?何、端鷹君?」

「たぶん、大丈夫です」

僕は笑顔を作り、それを当たり前のように言う。

先ほどから見え隠れする歩美さんの違和感。

それが美姫の事なのか違う事なのか、どちらにしろ、彼女の不安から来る物なのだろうから。

「・・・端鷹君、貴方は」

そんな僕を、歩美さんは、息を呑むように見詰める。

それは何処か違う人、違う時間を見ている様な、不思議な視線だった。

僕はそれ以上何も言わず、「じゃ!」と言った感じで、学園に向う事にする。

「待って・・・ねぇさん!」

玄関を出ようとした僕に、歩美さんは声を掛ける。

きっと、僕でなければ聞き取れない程小さな声で。

僕はその言葉で振り返り、そこに表情を曇らせた歩美さんを見る事になる。

ねぇさん?

その表情に、一瞬、デジャブのような物を感じる。

そして歩美さんは、少し考えるようにして、言葉を口にする。

「端鷹君は、・・・何処まで知っているの?」

それは探るような、そして確かめるような言葉。

「何をですか?」

僕は、はぐらかす様に、はにかんで見せる。

「いえ・・・何でも無いわ。・・・ありがとう」

歩美さんは困った様に微笑む。

「歩美さんは、困った顔も可愛いんですね」

少し重くなった空気を壊すように、僕は茶化して言う。

しばし、沈黙が二人の間に流れる。

「・・・ひゃい?」

突然、妙な言葉を発した歩美さんは、顔を昂揚させ挙動不審となる。

「歩美さん?」

「わ、私は大丈夫ですから、は、早く学校へ行って下さい!端鷹君は何でも分っているようですから、面倒な説明はしません。

・・・・だから、

・・・・」

一瞬恥ずかしそうにした歩美さんだったが、すぐに表情を硬くし、深々と頭を下げる。

「お願いします」

そこには、間違いのない彼女の願いが込められていた。

歩美さんは、僕の言葉をどう解釈し、どう受け取ったかは解らないが、彼女の言葉の意味を僕は知って居た。

美姫を助けて・・・と。

僕は答える事無く、笑顔を見せ、浅田邸を後にする。

そして、ふと足を止めた僕は、習慣とも言える様に空を見上げ、その風景を眺める。

そこには、久しぶりに見る、曇り空が広がっていた・・・。





学園に登校した僕は、午前中の授業の合間、一年の教室に顔を出す。

やはり美姫は学園へ来ていない。

それがどう言う意味を持つのかは判る。

『お願いします』か。

歩美さんの言葉を思い出す。

それは、『美姫の事をお願いします』と言う事。

間違い無く美姫は『アレ』に関わっている。

歩美さんが何処まで関わって居るのかは判らないが、彼女も当事者の一人なのかも知れない。

どうやら『アレ』に関わる事が、僕だけの事では無くなってしまったようだ。

「美姫か」

僕は呟く。

なんと言うか、美姫の事で振り回されてばかりだと思う。

まぁ、それも良いだろう。

しかし、それとは別に、正直僕は困って居た。

色々と状況が複雑になって来た結果、情報源としての蔵姫をあてにしていたのだが、当の蔵姫も学校には来ていないのだ。

もしかすると、蔵姫と美姫は一緒に行動しているのかもしれない。

僕は、しばし考える。

そう言えば、今日はさくらさんも学園に顔を出していない。

思わず眉間に皺が寄る。

それはまずい。

教室に戻った僕は、自分の席へと付き、外の風景を眺めながら、考える。

『アレ』に関わっているかもしれない美姫が姿をくらまし、蔵姫とさくらさんも居ない。

それは、僕の知らない所で『アレ』に対する物事が、進んでいると言う証拠だろう。

どうした物か。

「どうしたんですか加々美君。眉間にしわなんか寄ってますよ」

中里さんに声を掛けられる。

「いや、ちょっと考え事をしていてね」

僕は軽いジェスチャーを入れながら答える。

「珍しいですね。加々美君が考え事なんて」

中里さんは僕の顔を覗き込み、不思議そうな顔をする。

「僕もそう思うよ」

僕は軽く笑ってみせ、話を濁す。

説明した所で、中里さんには関係無い事だ。

「所で加々美君、話は変わるんですけど、今日の御昼、御一緒でも大丈夫ですか?」

中里さんは何故か、モジモジとしながら聞いてくる。

どうやら声を掛けて来た理由は、それらしい。

「ん?大丈夫だよ」

まぁ、断った所で僕の状況が変わる訳でも無いので、軽く了承をする。

「よかったぁ・・・」

中里さんは、安堵の息を漏らす。

そして僕らは一言二言話して、自分達の席へと戻る。

程無くして授業は始まり、午前と言うひと時は終わろうとしていた。





昼休み、僕は約束通り、中里さんと昼食を取っていた。

例の如く、神崎も一緒なのが不満ではあるが、それは些細な事である。

「御味、どうですか?」

「びっくり・・・と言うか、美味い」

そこには自分達の弁当の他に、中里さんが準備してくれた手作りの御菓子が広げられていた。

「加々美君、びっくりは失礼と言うものだろ」

なにげに感動している僕に、神崎は間入れずツッコミを入れる。

「失礼なんかじゃ無いです、わたし、嬉しいです」

中里さんは、ちょっと恥ずかしがるように笑顔を見せ、嬉しそうにする。

モジモジしながら昼食を誘って来たのは、こう言った理由からのようだ。

「でも・・・良かった、今回は当たりです」

中里さんは、恥ずかしそうに、何やら意味深な事を言う。

「ん?当たり?」

僕は思わず首を傾げ、聞き返す。

「あ、いえ、そんなに深い意味は無いんです」

中里さんは苦笑いするような、困ったような顔をする。

「ははぁ~ん、笑美ちん、例の予知夢だね!」

神崎は、ビシッと親指を立てる。

突然の話の展開と言うのだろうか?

一見、阿呆に見える神埼だが、情報と言う面から見て、実は信頼性が高い事が多い。

僕は『予知夢』と言う神崎の言葉に惹かれる。

普通であれば、笑って『オカルト』で済ませるのだろうが、僕の周囲の状況は、それを許してくれない。

「わ!わ!優君!言っちゃ駄目です!そんな事言ったら加々美君に変な人だと思われちゃいますぅ!!嫌われちゃったらどうするんですかぁ!」

中里さんは、言っている事とは裏腹に、困っているのか困ってないのか判らない、微妙な慌て方をする。

少なからず、彼女的には身に覚えが在るのだろう。

「予知夢?」

僕は中里さんの方に、視線と疑問を向ける。

「そう!予知夢。なんと笑美ちんは夢で未来が分かるエスパーだったりするのだよ!」

神崎は、まるで自分の事のように自慢をする。

予知夢。

後に起きる未来の事を、夢で見る。

そんな所だろうか?

「いえ、予知夢と言えるほど立派な物ではなくて、すごい外れるんです」

中里さんはそう言いながら、やはり困ったような、嬉しい様な態度を取る。

「なるほど・・・」

僕は呟く。

それは、中里さんに相槌を打った訳ではなく、僕たちの会話に対しての周りの反応に対して。

複数の生徒が『気持ち悪ぅ~い』や、『またかよ』等の会話を始める。

「よく見るの?その予知夢」

僕は肯定的に質問をする。

他人と違う常識に接しているせいか、その事を異常とは考えなかった。

「ん~、ぼちぼちですかねぇ?」

「ぼちぼち?」

曖昧な言葉に疑問を投げ掛ける。

「はい」

中里さんは笑顔で返事をすると、言葉を続ける。

「見ない時は見ないんです。でも、見る時は連続なんですよねぇ。昨日なんか、お昼と夜と二回見ちゃいましたから」

中里さんは、ハハハと笑ってみせる。

なるほど、ぼちぼちか。

中里さんの中で、予知夢と普通の夢の線引きをどうして居るか判らないが、彼女の中ではその違いを明確に感じているのだろう。

「所で中里さん、その予知夢の内容って聞いて良いのかな?」

僕は、少し身を乗り出すようにして質問をする。

「別に構わないですけど、笑わないでくださいね」

中里さんは、ちょっと困ったような顔をする。

「加々美君が笑う訳無いさ」

答えたのは神崎。

神崎の言うとおり、笑う理由などは無いのだが、神崎に言われた事が少し不愉快だったりする。

「えっと・・・」

中里さんは、神崎の一言を了承と受け取ったのか、神崎の言う所の『予知夢』の内容を話し始めた。

「おかし、おかしを三人で食べて居るんです。・・・こんな風に。

お弁当を食べながら、手作りのクッキーとか、アップルパイとか。

三人はとても楽しそうで、何時までも続けば良いなぁ・・・って感じで。

あ!私が一番楽しそうだったんですけどね」

中里さんは「へへっ♪」と笑う。

僕は軽い違和感を覚える。

「中里さんが楽しそうにしてるの?」

僕は中里さんの話の中で、感じた疑問を素直に言う。

中里さんの物言いは、まるで他人の事を言っている様な、そんな言い回しだったから。

「さすがは加々美君だね」

間入れず答えたのは、中里さんでは無く、やはり神埼だった。

「つまり?」

「そう、笑美ちんの予知夢は、必ず第三者目線なんだ」

神崎は僕が思った疑問に、的確に答えを返してくれる。

「まぁ、正確には傍観者とでもいうのかな?笑美ちんも夢の中では笑美ちん自身が眺めている対象な訳」

「ふぅ~ん、だから普通の夢と予知夢の見分けが出来る・・・と」

僕は興味深く答え、

「そゆ事」

神崎は御満悦となる。

面白いと言えば、面白い話である。

「で、その予知夢に登場したアップルパイは?」

小さい事ではあるが、僕は狭い机の上を見渡し、予知夢との違いを確認する。

中里さんの予知夢が当たっているのあれば、机の上にはアップルパイも存在する筈である。

「いぇ、えぇ~っとですね・・・」

中里さんが視線を逸らす。

「加々美君、許してやれって」

「じゅ、準備はしてたんですよ!クッキーは昨日の夜に作って、パイは焼き立てを持って来たかったので、下ごしらえをして!」

中里さんは、予知夢の具現化を、まるで僕達との約束のように思っているのだろうか。

まるで言い訳をするように、目を白黒とさせる。

「でも、昨日の夜に見た夢が、あまりにも突拍子も無い夢で、夜に目が覚めた後、眠れなくなっちゃったんです・・・」

中里さんは少し考え込むように、視線を落とす。

「で、寝坊した・・・と」

とりあえず、御約束だと思い、ツッコミをいれてみる。

「もぉー!加々美君!いじめないで下さぁ~い!」

中里さんは立ち上がり、僕に抗議して来る。

その激しい動きのせいで、他の女子よりも発育の良い中里さんの胸が大きく揺れる。

「友よ・・・」

神崎が僕を見て、にやりと笑う。

「神崎・・・」

僕はため息を付くしか無かった。

男である以上、女の子が気にならない・・・と言えば嘘になるが、神崎、お前は正直すぎ。

「で、笑美ちん、加々美君が夜の夢の事も聞きたがっているようだぜ」

神崎はそんな僕を余所目に、次に僕が言おうとしている事に、先回りする。

僕の思考とは、そんなにも単純なのだろうか?

「え?そうなんですか?」

中里さんは不思議そうにする。

話の流れ的に、もう一つの予知夢の話はスルーだと思っていたのだろう。

「興味が在る」

僕は、端的に答える。

「多分、予知夢的にはずれですよ?」

中里さんは、首を傾げるように言う。

なぜ外れると思うのかはのかは解らないが、中里さん的には自信の無い夢なのだろう。

「はずれでも良いんじゃない?僕がその話を聞きたいだけなんだから」

僕は、あえて軽い気持ちを演出する。

「はぁ、加々美君がそう仰るのでしたら」

中里さんは、今ひとつ乗り気では無いように話始める。

「美少女戦士みたいな?」

「ん?美少女戦士?」

「あ!他に例えが思い浮かばなかっただけで、必ずしもそうでは無いのですよ!」

思わず話の腰を折ってしまったが、初っ端から突拍子も無い話である事が伺える。

「ごめん、続けて・・・」

「あ、はい」

中里さんは、仕切り直しと言った感じで、椅子を座り直す。

「多分、夜のルナワールドだと思うんです。あ、ルナワールドって、割と近くの遊園地の事なんですけどね」

中里さんは、補足を入れつつ、話を続ける。

「そこで戦ってるんです、彼女達が・・・。最初はイベントか何かかと思ったんですけど、・・・・その・・・、なんと言いますか・・・」

中里さんの顔色が見る見る悪くなる。

「ち、血飛沫がなんともリアルに・・・その・・・」

「中里さん・・・、無理しなくても良いよ」

中里さんの悶えっぷりに、話の内容とは別に苦笑いをしてしまう。

「いえ、ここは是非!」

中里さんは、初めは話す気が無かったくせに真面目な顔をし、使命感のような物を漂わせる。

「だって、あのような大量殺戮は、冗談でもあってはならないと思うんです!」

中里さんは拳を握る。

外れと言った割には、熱の入りようが違う。

「どんな理由が在ろうとも、美少女戦士が一般人を次々と殺して行くなんて、信じられない光景です!」

美少女戦士が大量殺戮・・・、確かに突拍子も無い話である。

人に話せば鼻で笑われる。

しかし、一度話し始めれば、押えが効くほど軽い物でもなかったので在ろう。

「中里さんは、それを予知無と判断したんだ」

僕は無意識に、中里さんを見詰めてしまう。

「はい!」

中里さんの視線は真剣である。

「でもぉ、これは外れると解って居ても、絶対に当たって欲しく無いんですよねぇ」

中里さんは項垂れる。

まぁ、それ程なのだろう。

彼女にとっての『予知夢』の印象が。

「大丈夫なんじゃない?」

「はい?」

僕の軽い一言に、中里さんは顔を上げる。

「中里さんのそれは、予知夢かもしれないけど、必ず外れる」

僕は当たり前のように言う。

「ですよねぇ・・・、無茶苦茶ですからねぇ・・・」

中里さんは少し悲しそうに呟く。

僕が、彼女の話を信じていないと判断したのだろう。

「加々美君、この予知夢は外れるんだね?」

そう言ったのは神崎。

「笑美ちん、外れるよそれ」

神崎は、僕の言葉を待たずに中里さんに言う。

「優君まで・・・」

中里さんが、チョッと目を伏せ泣きそうになる。

「笑美ちんが加々美君に『予知夢』を話した事で、世界が変わったって事だよ」

神崎は然も当たり前のように言う。

「あのぉ、言ってる意味が解らないんですけど・・・」

中里さんは、首を傾げて神崎を見る。

「まぁ、その内笑美ちんにも、解る時が来るかもね」

などと、神崎はそれをはぐらかす様に言った。

正直、僕も神崎の言っている事が解らない。

神崎が何を知り、何を思っているかなど、僕にはどうでも良い事だ。

僕は立ち上がる。

「行くのかい?」

神崎は、物有り気に声を掛けて来る。

「悪いか?」

僕は機嫌悪く答える。

神崎はそれに答える事無く、一枚の紙切れを手品の様にして僕の前に差し出す。

「ふん!」

僕は面白く無かったが、神崎が差し出した紙を奪い取るように受け取り、教室を後にする。

後ろから、中里さんの「え?はい?どうしたんです?」みたいな、うろたえる声が聞こえたが、それとて僕の気にする所では無かった。

神崎が何者で、僕をどうしたいのかは解らない。

今は彼の提供する情報を利用するのが、得策と思えた。

僕は、神崎より渡された短冊のような紙の文字に視線を落とす。

『入場券ルナワールド』

僕が何をするのかが、まるで分かったかのような神崎の行動。

それが面白くなかったので、遊園地チケットを無造作にポケットへと押込む。

まぁ良いさ。

今は、流れに乗る事としよう。







学園を後にした僕は、浅田邸の車庫の前へと足を運んでいた。

ここに来るのは、何日ぶりなのであろう?

思い返せば、初めてこの家に来た時以来かもしれない。

僕はシャッターを開け、車庫へと足を運ぶ。

「ん?」

僕は目を細める。

そこには僕の目的とは違う、見知らぬ車が駐車されている。

「真紅のスーパーセブン?」

僕は思わず言葉に出してしまう。

そこには雑誌でしか見た事の無い車、ケータハム・スーパーセブンが有った。

「あの人らしいな」

僕の呟きは、この車の持ち主であろうと思われる人物に対してであった。

さくらさん。

しかし、彼女には似合いすぎの車なのでは?と思う。

僕はその車を横目に、目的の物の前に立つ。

鋼鉄の馬と例えられる二輪の乗り物。

出発直前、「これに乗って行け」と、父に渡された物である。

GSX1100S KATANAと呼ばれる単車。

父にとっては、母との思い出の単車であるらしい。

定期的にメンテナンスをしていて、状態は新車に近い物が在る。

僕はKATANAに跨る。

目的地は、ルナワールド。

中里さんの言った、予知夢の場所。

神崎がよこしたチケットには、ルナワールドの地図も明記されて居る。

徒歩で行くには、多少無理の在る場所である事が判かった。

僕はエンジンに火を入れる。

マフラーより出る心地よい重低音は、大排気量である証明として、低く周囲に響き渡る。

まるでそれが特権であるかの様に。

ギアを一速に入れ、緩やかにアクセルを捻る。

僕は、フロントの持ち上がる感覚を両手で押さえつけ、KATANAと共に、ルナワールドへと向かう。

風が心地よい。

僕はふと、中里さんの事を考える。

彼女がイジメに遭っている理由は、恐らく彼女の力による物なのだろう。

人は、自分達とは違う『異物』を排除しようとする本能が在る。

それが良い者であろうが、悪い者でもあろうが。

彼女もまた、人とは違う光を発する人であった。

朝霧を通して見えたそれは、彼女の言っている事に、信憑性を持たせる。

濁りの無いその光は、桜さんや蔵姫と同様に、普通ではない力の現われ。

だからこそ、彼女の『予知夢』を確かめる事にした。

それがどんな力であれ、とても強い力である事は彼女の発する光から容易く想像が出来る。

もっとも、美姫との関連性がまったく無いとしても、他に当てが在る訳でも無かった。

なかなか先手とは、行かない物である。

僕はアクセルを開き、市街地を早々に抜ける。

目的の遊園地は、山間部と言っても良い程の、人気の無い場所に在るようだった。

騒音対策なのだろうか?そう言った遊園地には、多いのかもしれない。

僕はKATANAを大きく倒す。

緩やかでは在るが、登りに入るとさすがにコーナーが増えてくる。

ワインディングと言うのだろうか?どちらかと言えば『峠』と言う物に近いのかもしれない。

あまりに多いそれは、少し僕を不機嫌にする。

アクセルを緩めたり絞ったり。

自分の思い通りにするのは好きなのだが、この様にまるで道に走らされて居る様に感じる事は、正直好きでは無い。

僕はオーバースピードと思える速度で加速し、ブレーキを掛けながらコーナーの手前でハンドルを切る。

加重移動が発生し、緩やかに後輪が滑り始める。

フロントタイヤにカウンターを当て、フロントの滑りをアクセルワークと後輪のスライドで調整する。

コントロールしなければ、オーバーステアの後、転倒と言う事になるのだが、綺麗な弧を描いたボディーは、本来ではありえない速度でコーナーをすり抜け、直線加速へと移る。

だからどうした?と言う事なのだが、それが人のサガと言う物であろう。

そして、そんなほんの少しの抵抗を世界に向け、僕は遊園地へと足を進める。

途中、後方からのパッシングを受けたが、意味も解らず走っている内に、後方の車両は見えなくなっていた。

あれは何だったのだろう?とその時は思ったが、神崎が後でから「それは『バトル』の合図だよ」と教えてくれた。

そんな事も在りながら、僕はリナワールドへと到着する事になる。





外から見たそれは、金網で仕切られた物とは言え、ある意味結界を思わせる。

現実世界と夢の世界。

それを隔てる為の、人為的に創られた壁と風景。

機械的な騒音を差っぴいても、子供の瞳には異世界に見える空間なのかもしれない。

僕は駐輪所へとKATANAを置き、遊園地の中へと足を進めた。

神崎に渡された入場券は、なんの問題も無く機能を果たし、僕はゲートの内側からその世界を眺める。

平日の為であろうか、人はまばらで、日常風景と然程変わりはしないのかも知れない。

少し歩いてみる事にする。

朝霧の情報だけではなく、視覚的情報収集は、必要かと思われた。

「あれ~!」

不意に、僕に対してと思われる声が耳に届く。

「やっぱり加々美君だぁ~!」

女性の声。

僕は声のした方向に視線を移す。

その女性は小走りに僕へと近づく。

同じ学園の制服。

僕は眉をひそめ、彼女を凝視する。

「もしかして、私の事わからない?」

目の前まで来た彼女は、僕の表情を汲み取ったのか、残念そうにそう言った。

「だよねぇ、クラス違うしねぇ」

「悪い」

僕は簡潔に言う。

「あ、気にしないで!加々美君は学園で噂のツートップだし、学園に来てからも日が浅いし」

そう言いながら、彼女は笑う。

「所で、加々美君もサボりだよね?」

理由はどうであれ、事実に変わりは無い僕は、簡単に肯定する。

「誰かと来てるの?」

「いや」

面倒さを感じた僕は、会話を切り上げる様に、少し不機嫌を演じる。

「じゃ決まりだね!一緒に周ろ!」

これも突然の展開と言うのだろうか?

なにげない動作で僕と手を繋ぎ、彼女は歩き始める。

僕の不機嫌さなどは、彼女にとって何の意味も成さないのかもしれない。

「私、神代あかり。呼ぶ時はファーストネームでもファミリーネームでも、好きな方で呼んで」

神代と名乗った彼女は、屈託の無い笑顔で自己紹介をする。

「加々美君の事は加々美君でいいよね?」

神代と名乗った少女は、勝手に話を進め、自分の好きな様にこの後の計画を進めていく。

まぁ、日没までは時間が在る。

中里さんの予知無では、美少女戦士なる者が登場するのは夜になってからだったし、散策をしながら時間を潰すのも良いだろう。

「でもスゴイよ!」

コーヒーカップに乗りながら、神代は言う。

「何が?」

「あの加々美君とデートしちゃってるんだよぉ私!友達にチョー自慢だよ!」

嬉しいを体で表現すると、今の神代のようになるのだろうか?

ひゃっほー!とか、いえぇーい!とか、いちいちオーバーアクションに喜びを表現する。

ジェットコースターに乗った時は、脇で騒音と悲鳴とどちらが大きいのか判らないほど騒ぎ、それを楽しいと言う。

最近、僕の周りには、居なかったタイプのようだ。

いわゆる、普通?と言うのだろうか。

「いやいや、加々美君、君って全然怖がらないよね」

げっそりとした神代は、ジト目で僕を眺める。

まぁ、恐怖を感じない僕としては、それが当たり前で、責められても答えようが無いのだが。

神代と僕は、そうも言いながら観覧車に乗り、アイスを食べ、笑ったり怒ったり、世間一般的なデートと言う物を何気に楽しんでいた。

時間が経つのは早い物で、そうしている間に、間もなく日が暮れる時間となっていた。

そろそろ暇潰しも潮時だろう。

ここに来た、本来の目的に意識を戻す事にする。

「ねぇ、加々美君。実はお願いが在るの」

そんな時だった。

終始手を繋ないでいた神代は、初めて手を繋いだ時と同じようになにげない動作で僕から手を離す。

同じ方向を向いていた神代は、僕へと振り返る。

「無理なお願いだってはね、わかってるの。でもね、なんとなく加々美君なら出来るんじゃないかって、そんな気がして・・・・、本当に加々美君に出来る事かどうか判らないんだけど・・・」

神代は、ちょっと困った表情で言葉を止める。

「デートしてくれたお礼だ。出来る範囲なら聞くよ」

思いの他、自然に言葉が出る。

「本当?ほんとにホント?」

「ああ」

僕は正直な気持ちで、目の前の神代を見詰める。

「で、・・・では」

神代は、少し緊張した面持ちで、姿勢を正す。

「私、神代あかりは、加々美端鷹君にお願いします!」

「どうぞ」

「私を・・・」

神代は声を震わせる。

それは緊張なのか恐怖なのか、今の僕には判断出来ない。

「私を・・・、殺してください!」

意を決して言った神代は、涙目に僕を見詰める。

「いいよ」

僕は神代のお願いに、笑顔で答えを返す。

「ありがとう・・・」

僕の表情を見た神代は、ほっとするように力を抜き、笑顔を作る。

そして・・・、

パン!!

辺りに風船の割れるような音が響く。

頭部を失ったソレは、膝から落ちるように崩れ、うつ伏せになるように倒れる。

生態能力を失ったソレは、細かく痙攣し、頭部を失った事を気が付かないように流血を続ける。

僕は、鞘に納まったままの朝霧を横殴りに振っていた。

苦しむ事の無いように頭部に目掛けて。

それがせめてもの情なのだろうか?

そう考えてしまう。

彼女・・・神代は、人では無かった。

初めに会った時から、『アレ』の姿をしていた。

この遊園地に入った時から人は、まばらである。

この場に居る、半分以上は『アレ』となって居た。

その内の一人が神代あかりだった。

会話には出さなかったが、彼女の制服には黒いシミが所々に在り、彼女自身からは血の匂いがしていた。

シミの形から、それが返り血で在る事は容易に判断できる。

ちらちらと朝霧に視線を送る動作をしていた所を見ると、朝霧も見えていたのだろう。

どんな経緯で『アレ』になったかは解らないが、心の中で彼女なりの葛藤があったのかも知れない。

僕が見る限り、彼女の精神は、普通の女の子のままだった。

だけど、僕に神代の心など解らない。

彼女がどんな苦痛と悲しみの中にあったか、僕は知らない。

僕には関係の無い話だった。

僕は神代だった肉塊へと視線を落とし、再びルナワールドの空間へと視線を戻す。

「相も変わらず、嫌な色だな」

僕は吐き捨てた言葉と同時に、思考を変える。

『アレ』の創り出す結界に満たされた空間は、色を強くし、日中とは見違える程の密度を膿みだしている。

ふむ、人の悲鳴だろうか?遠くから男性や女性の混じった声が聞こえて来る。

日が落ち、『アレ』が活動を始めたのかも知れない。

そうなれば、『アレ』の他に人も居るのだから、悲鳴が聞こえる位は当たり前だろう。

僕の唇が歪む。

いや、堪えるのは無理だろう・・・。

僕は感情を抑えるのやめる。

クックックック。

誰かが嫌な笑い声を上げる。

誰が笑おうが、誰が苦しもうが、僕の知った事では無い。

だから・・・、

さぁ・・・、

「始めよう・・・」

僕は小さく呟き、朝霧の感覚を、少しずつ開放していく。





ゴギィ、グジュァ、ベチィヤ。

はて?今の『アレ』は、何人目だろう?

何人?と、表現するのも可笑しいが、この遊園地に来てから、ダース単位で『アレ』を殺している。

正確に言えば、神代にしたのと同じように、彼らを撲殺している事になる

「ふぅ・・・」

僕はツマラナイ溜息を突く。

恐らくは雑兵と表現出来る類。

それは、黒田やその他複数度出会った事のある『恐怖』の存在とは違う。

人ではナイと言うだけの、つまらない存在。

期待外れと言うのだろうか?

僕は、朝霧を抜いてすら居なかった。

普段であれば、相手すらしない存在。

しかし、今日はそうも行かない。

「ふぅ・・・」

また溜息を突いてしまう。

どうして彼らは、僕を見つけると、襲ってくるのだろうか?

彼らの様な・・・恐怖を感じない『アレ』が、人を襲っている所を、僕は見た事が無い。

うずくまり、光を避け、目的も無く、人の世界に溶け込んでいるだけの者だと思っていた。

まぁ、良い。

それはそれで、僕の知識が少ないだけなのかも知れない。

ふと、僕は朝霧を眺める。

鞘に納まったままの朝霧は、血に染まる事も無く、何時も変わらない姿を僕に見せる。

剣速と風圧のせいであろうか?

鞘に納まった朝霧は、相手を喰らう事も無く、一方的に吹き飛ばしてしまう。

黒田の時もそうだったのだが、鞘に納まったままの朝霧は、瞬間的な接触に対しては『喰らう』と言う行為を行わないらしい。

武器の形をしている以上は、使う存在が居て、それに合わせた都合と言う物が在るのだろう。

僕は朝霧を、適当に振り回す。

数日の間で、どんどん軽くなった朝霧は、適度な重さでその重量を止めている。

都合の良い話ではある。

朝霧を肩に掛け直した僕は、『朝霧の実際の重量は何kg?』などと、クイズ番組形式っぽく考えてしまう。

確か一般的な日本刀は、約一キロ前後の筈なのだ。

一キロ前後、殺傷力としての重量は十分なのだが、朝霧のそれは、それの破壊力としてはおかしい。

軽く考えても、数十キロ単位の重量は有りそうだった。

まぁ、帰ったら、体重計にでも乗せてみよう。

僕はそんな風に、意味が在るかどうかも判らない思考を複数巡らせ、情報の整理をする。

それは以外に重要な行為で、見逃しを防止するには有効な手段でもある。

そんな中、ふと、ホットドックの露店が目に入る。

そう言えば、午後になってから口にしたのは、神代と食べたアイスだけだった。

腹が減っている事に気が付いた僕は、なんと無く露店へと足を運ぶ。

既に『アレ』に襲われた後なのだろう。

本来店員が居る場所には、妙な形をした肉塊と、その血溜りが広がっている。

僕は軽く店内を見回し、既に包装されていたホットドックを手に取る。

運良く、血に汚れていない物が二つ程有ったのだ。

代金をカウンターへ置く。

そして僕は、ドリンク自販機の脇のベンチに腰掛け、冷めたホットドックを、やたらと値段の高い缶コーヒーで流し込む。

やはり、食事の時くらいは落ち着きたいと思う物である。

しかし、このホットドック、冷えているとは言え、なかなかこだわりの一品である事に気が付く。

店員だったと思われる、肉塊を思い出し、今日何度目かの溜息を突く。

惜しい人を亡くした・・・。

そんな風に考えながら、ベンチにもたれ掛かる。

満腹になった僕は、だらしなく手足を伸ばす。

囲まれた・・・か。

三十体程度の『アレ』が、ベンチに座る僕を囲む。

さすがにチンタラ出し惜しみをやっている場合ではないようだ。

僕はベンチから離れ、適度な距離になるまで、彼らを待つ。

そろそろか。

僕は朝霧を抜く。

・・・空気が変わる。

音は消え、『アレ』達のザワメキを強調する。

昨日、巫女姿の彼女が言った。

『反吐がでる』と。

目の前の彼らには、朝霧を抜いた僕は、どう見えているのだろう?

瞬歩・・・とまでは行かないが、彼らとの間を詰める。

ぞぶ、ばぎぃ。

朝霧の一振りで、三体程の上半身をもっていく。

『アレ』らは、力なく崩れ落ち、血溜まりを作る。

それでも彼らは、僕を獲物と思っているのだろうか?

腕を伸ばし、僕へと掴み掛かろうする。

避ける必要は無かった。

僕は無造作に、朝霧を振るうだけ。

後は殺戮と言う行為を繰り返す。

千切り取り、奪い、喰らう。

「ギャァァァ!」

「うぎぃ!」

「ギュっ・・・。」

彼らは思い思いの言葉を放つ。

共通するのは、その後のベチャ・・・と言う、倒れる音だった。

然程時間は掛からなかった。

『アレ』だった死体の群れは、僕の周りで沈黙を守る。

ねぇ中里さん、殺戮をするのは美少女戦士じゃなくて、僕だよ。

それにこれは『人』じゃ無いから。

そんな風に、その場には居ない中里さんの『勘違い』訂正しながら笑った。

しかし、らちが明かない。

僕は再度、溜息を突く。

僕がここに来たのは、こんな事をする為では無い。

朝霧の感覚を広げる。

密度は下がるが、それが最善と考える。

程無くして、結果は現れる。

正解。

遊園地内に大きい存在を三つ、認する。

二つは激しく移動を繰り返し、一つは結界の中心付近で、動く事無く、沈黙を守っているようにも見える。

当面の目的は、移動を繰り返すこの二つ。

僕はそう判断し、その存在へと向かう。

途中、何体かの『アレ』に出くわしたが、極力無視をする。

『恐怖』では無い『アレ』に、用は無い。

足を止める。

「ここら辺かな?」

僕は独り言を言いながら、何をする訳でもなく、しばしその場で待つ。

「きゃぁぁぁぁぁーーー!」

それは悲鳴を上げながら、落ちてきた。

僕は両手を伸ばし、その落ちてくる人物をキャッチする。

バフゥーーーーー!

派手な土煙が上がる。

僕は、予想外にそれを軽くキャッチしていた。

何かしらの力を使い、地面への衝撃を消していたのだろう。

「んんーーー、ん?あれ?」

僕の腕の中の人物は、バツが悪そうに、僕を視線を合わせる。

「阿呆」

僕は吐き捨てるように、言い放つ。

「いやぁ~、なんと言うか・・・、ヤッホー!」

その人物、美姫は能天気にも、元気に右手を上げる。

ガン!

少し癪に障った僕は、無造作に頭突きをする。

「おぉぉぉぉーーー!」

僕の両腕から、飛び降りた美姫は、頭を抱えしゃがみ込む。

「痛痛痛ーー!ばっかじゃない!しんじらんなーーーい!」

美姫は毒づき、僕を睨む。

余程頭突きが痛かったのだろうか、それはオーバーアクションで、在る意味こっけいに見える。

「で、お前は何をしてるんだ?」

そんな緊張感の無い美姫に、僕は冷ややかな質問をする。

「何・・・って、」

美姫は、言葉を詰まらせる。

「その、なんと言うか、正義の味方・・・かな?」

どこかで聞いた事の在るような台詞。

僕は目を細め、視線を逸らす事無く、美姫を眺める。

「いや、何?なんかすごく視線が痛い気がするよぉーー」

何も言わず冷ややかに視線を送っていたせいだろうか?美姫はまるで服を着ていないかの様に、体を丸め、両腕でそれを隠そうとする。

まぁ無理も無い。

まともな神経の持ち主ならば、今の美姫の様なカッコウはしないだろう。

「美少女戦士ねぇ・・・」

思わず、中里さんが言っていた単語を口から漏らしてしまう。

巫女アレンジの魔法戦士?

ミニスカート風ハカマ?

洋風な錫杖?

少ない知識から搾り出して表現出来るのは、そんな所だろうか。

「あぁーー!ばかにしてるぅーー!」

美姫は立ち上がり、怒りをあらわにして抗議する。

「いやいや、僕は美少女戦士って聞いてたから」

僕はクックックと、軽く押し殺すような笑い方をしてしまう。

「言ってる意味解んないシィーーー!」

美姫は、僕の嘲笑に抗議をする。

中里さんが言っていた事に、確信が在った訳でもないし、それが美姫だと思っていた訳でもないが、いざその『美少女戦士』が目の前に登場すると、どうにも弄りたくなってしまう。

「み、美姫だって、好きでこんな服着てるんじゃなぁいんだから!」

彼女には彼女の事情が在るのだろう、ふて腐れたように口を尖らす。

まぁ、少なからず恥ずかしい服装だと言う、自覚は在る様だった。

「で、見る所、いっぱい秘密がありそうな美姫さんは、今は何と戦ってたのかな?」

僕は馬鹿にするように飄々と聞く。

聞きたい事は山のように在る。

しかし、美姫が『アレ』に干渉する人間だと確信を得た以上、この場での詮索は必ずしも得策ではない。

「あ!」

美姫の表情が険しくなる。

こいつ、何と戦っていたかを、僕に会って忘れてただろ?

「お兄ちゃん、気を付けて!手強いのが居る!」

美姫は周囲を見回す。

その直後だろうか?僕は居合いの要領で朝霧を凪いで居た。

・・・。

僕に襲い掛かって来たそれは、その一凪でその存在を失う。

「今のか?」

それはあまりにも呆気なく、到底手強いとは考えられない物だった。

・・・。

「ちがうよ・・・」

美姫の目が泳ぐ。

どうやら今のが、美姫が苦戦した相手らしい。

見た目は猫科の大型獣に似ていた。

黒豹と言う例えが妥当だろうか?

実体は無く、朝霧が無ければ僕には見えない存在なのだろう。

まるで何かに使役されている様な、そんな感じの物だった。

この業界に詳しい訳では無いので、なんとも言えないが。

「や!ちょっ、や、やめてよぉー!」

不意に、美姫は抗議の意思を露にする。

誤魔化そうとする美姫が可愛らしく、何気に美姫の頭をグリグリしていた為だろう。

まぁ、美姫がしょっぱくて、なにげに微妙な人だったとしても、現時点での問題は無いのだが。

二つの大きな存在の内、一つは運良く美姫だった。

普段と違うそれは、日ごろ美姫がそれを隠し、猫を被っている証拠といえる。

そうなれば、もう一つの大きな存在、奴が近くに居る筈だったから。

それは僕にとって・・・いや、美姫とっては大きな安心の要素だろう。

「ほう、本当に端鷹だったのだな」

そんな中、独り言のように呟きながら、早速、蔵姫が姿を現す。

蔵姫はロングコートにホットパンツ、そしてジャングルブーツと、黒一色のスタイルだった。

僕は蔵姫に視線を移し、この場で美姫を守るように動く彼女に、好意を抱く。

「悪かったな、僕で」

僕は、自分の思惑とは別に、蔵姫に対し悪びれて見せる。

「お前が来たと言った時は信じられなかったが、実際に目にすると成る程、美姫の言う事も納得が出来る」

蔵姫はそう言いながら、さらに機嫌を悪くしていく。

馬が合わないとは、こう言う事を言うのだろうか?

「蔵姫が僕を嫌うのも判るが、そこまで露骨にしなくて良いだろう?」

僕はワザとらしいと思える様に、両手を上げてみせる。

無表情ながらも、感情をアピールしていた蔵姫は、一瞬眉を潜める。

「何を言っている?誰がお前を嫌いだと言った?」

蔵姫は怪訝な顔をする。

「違うのか?」

蔵姫の真似をする訳では無いが、怪訝と言う物を表現してしまう。

「私はお前が気に入らないと言うだけだ」

・・・へぇ。

僕は関心してしまう。

こう言う人って、漫画とか、小説の中にしか居ない物だと思っていた。

「喋らなければ可愛いとは、お前の様な奴を言うのだろうな」

僕は、素直な感想を言う。

「私がか?」

蔵姫は僕の嫌味に対し、何か考え込む素振りを見せる。

「まぁ良い、何にせよ、一番気に入らないのは貴様の発する妖気だ」

蔵姫は僕に対し『妖気』と言う言葉を口にする。

「反吐が出る・・・か?」

意識した訳ではない。

なんとなく、そんな風に言葉の先回りをしてしまう。

個人的に、納得出来ないのだが。

「あぁ・・・、そう言えばお兄ちゃん、昨日、言われてたもんねぇ」

美姫はしみじみと、僕と蔵姫の会話に割り込んでくる。

昨日、巫女さんと交わした会話を、しっかり聞いて居た様だった。

取りあえず、美姫が狸を演じて居たのは正解という事だ。

まぁ、それ自体は別にどうでも良い事なのだが。

しかし、美姫を見る所、狸なのをやめたと言うよりは、隠して居られるような状況ではない、と言った所だろうか?

「端鷹、お前、何体殺った?」

話の流れを切る様に、蔵姫は唐突に言う。

「はい!はい!はいっ!私三体位です!」

乗りが良いと言うか、何と言うか、美姫は手を揚げ主張するように答える。

「八十程度か?」

僕は美姫の発言を無視し、正直に答える。

嘘を言っても仕方の無い事だ。

「ふむ、二人合わせても二百にはまだ届かぬか、らちが明かんな」

何気に蔵姫も美姫を無視しして居たが、その少ない表情は、彼女としての状況を良しとはしていなかった。

蔵姫が何を基準に言っているのか判らないが、百単位ではどうしようも無い程、この遊園地には『アレ』が存在するのだろう。

「面白くは無いな」

僕は率直な意見を言う。

「あぁ」

蔵姫は眉を潜める。

恐らく、僕の考えている『面白くない』と、蔵姫の考えている『面白くない』は、まったく違う事なのだろうが、今言う事では無いだろう。

僕はふと、近づく者に視線を逸らす。

「あ、た、助けて下さい!」

その女性は『アレ』から逃げて来たのだろうか?息遣いを荒くし、すがる様に僕達へと近づいてくる。

「蔵姫ちゃん、あの人は『人』かなぁ?」

そんな女性を見て、美姫は首を傾げて蔵姫に声を掛けた。

緊張感の欠片も無いそれは、現実感と言う物を遠ざける。

「美姫、面倒な事を言うな。全部殺せば良いんだ」

蔵姫の意見は、とても簡単な物だった。

「ねぇ、蔵姫ちゃん、『人』は殺しちゃ駄目なんだよ」

なんだか二人は、ぶっそうな話を日常会話のように始める。

まぁ、そう言う世界の住人なんだろう。

それに、この場で倫理を語った所で、意味は無いのだが。

蔵姫は重心を変え、近づいて来る女性に視線を向ける。

多分、言った言葉の通り、殺す気なのだろう。

「蔵姫、区別が付いていないのか?」

僕は素朴な疑問を蔵姫に言う。

「ふん!この濃い瘴気と束縛の結界だぞ?人と奴らとの見分けが付く奴が居たら、御目に掛かりたい物だな」

蔵姫は当たり前のように言い、その後、気が付いたかのように視線を僕へと移す。

「端鷹、お前は、まるで区別が付いている様な言い回しをするな?」

相変わらずと言うか、それでも殆ど無表情な蔵姫は、僕の返事を待つ。

「あの人は人間だから、殺すのはやめておけ」

僕はそれを答えとした。

見分けは付いている・・・と。

納得こそ行っていない様だったが、取りあえず、蔵姫は殺す事を止めた様だった。

先日から思っていたのだが、蔵姫は以外に素直なのである。

そしてその女性は、僕へと抱きついて来る。

恐らくは、三人の中で、僕が男で在った為だろう。

「助けて!助けて!助けて!」

女性は、呪文のようにそれだけを繰り返す。

他の言葉が思い付かないのだろう。

「出口は向こうですよ」

僕は入場門を指して、自分が来た道を教える。

「え・・・?」

女性は一瞬、何を言われたのか解らないように声を放ち、僕から離れる。

どうやら、取り乱している人間を凍り付かせる程、冷たく言ってしまったらしい。

実際、女性が助けを求めてきた事に対しては、全く興味が無かったから。

「死にたく無ければ、さっさと行け」

その女性に対し、蔵姫は高圧的に言う。

凍り付いていた女性は「ひぃっ」と声を上げ、僕が指差した方角に向かって走り始める。

結果として、逃げるように立ち去った訳なのだが、それは蔵姫的な気遣いったのだろうか?

実際、この場に居る三人と一緒に居て、良い事など一つも無いのだから。

「何処まで把握している?」

蔵姫はやはり、唐突に僕に質問をして来る。

「いや、全然」

語るまでも無いが、今この時点で僕達は、ルナワールドに居る。

蔵姫が何を考えていようが、それは目的の同一性を意味し、非同一性であったとしても、状況把握と言う面からは、同じ事になる。

蔵姫が居るからには、この遊園地には白薔薇使いが居るかもしれないし、それが『アレ』である可能性も高い。

その上での会話。

「大元の位置が解らぬ以上、消耗戦も致し方ないと言う物か」

蔵姫は吐き捨てる様に言う。

目的は解らないが、数百の『アレ』を操っている大元の『アレ』が居るのだろう。

「取りあえず、別々に行動した方が良いようだな」

僕は蔵姫に向かって言う。

蔵姫の言い振りから、僕と蔵姫の『アレ』を殺すペースに、然程の違いは無い様である。

一緒に行動しても、能率が上がるとは思えない。

「また妙な事を言う。私がお前と行動を共にした事など、今の一度も無いのだが?」

蔵姫は言葉に毒を乗せることも無く、淡々と言う。

「なら話は早い」

僕はそう言うと、蔵姫に視線を送る事も無く、歩き始める。

美姫の無事が確認出来た以上、僕は本来の目的に戻るだけだった。

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん?」

そんなやり取りを見て居た美姫は、僕の袖を掴み何かを言いたそうにする。

「美姫は蔵姫に付いて行け」

僕は粗野に言い、それを離す。

「だ、駄目だよお兄ちゃん!ここは危ない所なんだから、一緒に居ないと!」

美姫は、食い下がる様に、言う。

「蔵姫、何体殺った?」

僕は、蔵姫が僕にした質問と、同じ質問を蔵姫にする。

「辛うじて三桁と言った所か?」

蔵姫は言う。

それに悪意や誇張は無く、素直な数字なのだろう。

「美姫は?」

僕は、同じように、美姫にも質問する。

「辛うじて三体と言った所か?」

美姫は蔵姫を真似る様に言い、墓穴を掘る。

「そう言う事だ、お前が心配するような事じゃない」

「でもぉ・・・」

美姫は心配そうな顔をし、言葉を詰まらせる。

「言うまでも無いが、頼む」

僕は蔵姫に向かい、『美姫を頼む』と、はにかむ様に笑った。

「見くびるな」

ふん!と言った感じの蔵姫に、僕は思わず笑みをこぼしてしまう。

素直なんだか、素直じゃ無いんだか。

僕はそれ以上会話する事無く、二人と別れる。

さて、『アレ』の元に向かうとするか。

どうやら蔵姫は『アレ』の位置を掴んでは無いらしい。

それは幸いであろう。

僕は空を見上げ、星空の無い、照明に照らされた雲の天井を眺める。

それは、この町に来てはじめて見る、星の無い夜空だった。








ああ・・・、懐かしい雰囲気がする。

状況や場所、風景や空気の臭いはまったく違うのに、僕は僕は小さかった頃の記憶を呼び覚ます。

ここは遊園地の広場。

遠くからリズミカルな音楽が聞こえて来る。

月明かりも無いその場所は、人工的な光に包まれ、幻想的と言う言葉が良く似合う。

遠くから聞こえる音楽と、その幻想的な光はとても良く似合っていた。

だけど、その光に照らされて、

・・・それは居た。

何をする訳でもなく、ただそこに居るだけって感じで。

僕は目が離せなかった。

そこには揺ぎ無い恐怖が存在する。

僕は目が離せなかった。

それは世界。

僕は目が離せなかった。

何故ならば、僕と彼女は見詰め合っていたから。

僕は彼女を知っている。

それは何処までも白く、銀色の髪をなびかせる少女。

この町で見た、初めての恐怖。

ほんの一瞬、それだけの出会いだったが、彼女の事を忘れた事は無かった。

彼女は、それ程の存在。

ふと、夢の中の少女を思わせる、それでもなお、絶対的な恐怖の存在。

はて?

夢の中の少女とは、何時見た夢の少女だったのだろう?

記憶と矛盾した、確信的な思考が頭の中を駆け巡る。

「ふひぃ・・・っ」

僕は息が漏れる。

甘美と言ってい良い。

僕は唇が吊上がるのを抑える事が出来なかった。

「・・・端鷹。・・・あなたが端鷹なのね」

唐突に『アレ』は僕の名前を呼ぶ。

それは羽衣のような物をまとい、浮遊するかのように、その足を地面より浮かす。

「本当に不思議。この世界の中で私を見つけるなんて・・・」

何故、彼女が僕の名前を知っているかなんて、関係無かった。

僕は酔いしれている。

動く事も、『アレ』を殺す事も忘れて、彼女と見詰め合っていた。

「あの人も『私を』見つけたの。だから私の物にしたの・・・」

体内の血流は沸騰し、彼女の言葉など、僕の耳には入らない。

「でもね、残念ね」

彼女は舞う。僕の周りをくるくると。

「私、あの人だけでいいの」

一瞬僕に触れ、また踊るように僕から離れる。

「貴方・・・、邪魔なんですって」

だから?

僕は言葉を投げ掛ける事無く、彼女に問い掛ける。

「だから・・・、殺しちゃうね?」

彼女は笑顔で言う。

「好きにすれば良い・・・」

僕は独り言とも、返事とも判別出来ない言葉を吐く。

欲望のまま、と言うのが正しいのだろうか?僕は静かに朝霧に手を掛ける。

「駄目ぇーーーーーー!」

突然と言うべきだろうか?

予期せぬ叫び声が、そんな僕らの間を邪魔する。

僕は、その者達の接近に気付いて居なかった。

それ程目の前の存在は甘美で居て、甘露な者だったからだ。

「ちっ!」

僕は、聞き覚えの有る美姫の声に、舌打ちをする。

そして美姫は、何故か僕に対し突進してきた。

「きゃん!」

何と言うか、美姫は僕に触れる前に『アレ』の羽衣の様な物で弾かれる。

派手には飛ばされはしたが、リアクションが取れる程度である。

あの程度なら、ダメージ的に心配は無いだろう。

「美姫!すっこんでいろ!お前では無理だ!」

そう言ったのは僕では無く蔵姫。

僕は、二人に付けられていた事を失念する。

そして『アレ』は、蔵姫が出て来たことで一旦距離を置く。

『アレ』から見て、蔵姫を危険と判断したのだろう。

「どう言うつもりだ」

思わず僕は、感情と言う物を露にする。

「ほぅ、お前でも感情が出るのだな」

蔵姫の言い様は、癇に障る物だった。

「お前がそれを言うのか?」

僕は僕なりに嫌味を込めて言ったのだが、蔵姫は何を言われているのか解らない様子だった。

「もしかして、自覚ないのか?」

僕は立て続けに言う。

「何がだ?」

蔵姫の反応に嘘は無い。

「趣味が悪いな、蔵姫」

僕は毒吐く。

後を付けられた事もそうだが、楽しみを邪魔された事は、僕にとって予想以上の苛立ちだった。

「欺こうとする者は、全てがそう言った物だ、端鷹よ」

蔵姫は冷ややかに言う。

「お前の間違いは、この瘴気の中で、人とそうでない者の区別がつく上に、美姫や私の位置が掴める能力が在りながら、こいつの位置が掴めない振りをしたと言う事だ」

何時に無く流暢な蔵姫は、冷ややかながらも苛立ちと言うよりは、『ムカつき』のような物を表に出す。

蔵姫からしてみれば、もっともな話なのだろう。

「お友達?」

『アレ』は、まるでお茶飲み話に参加するかのように話しかけて来る。

次の瞬間、僕は朝霧を抜刀していた。

ほぼ瞬歩であろうそれは、『アレ』との距離を零にし、横殴りなその一太刀を振るう。

ガン!

羽衣のような見た目とは裏腹に、重量物同しの金属のぶつかり合う音が響く。

『アレ』は動く事無く、朝霧の一撃を防ぐ。

その羽衣は、幾重にも重なる羽のように存在し、それが刃の集合体である事を露にする。

蛇腹剣。

彼女の右手には柄が握られ、その先に、羽衣に見えた剣先が連なる。

SFの世界ではガリアンソードと呼ばれる蛇腹剣。

現実世界では実現不可能と言われた武具である。

僕は一旦距離を置く。

ガン!ガン!

立て続けに音が響く。

僕の突進を予期していたのか、違う方向から不意を付いたように蔵姫が攻撃をする。

そして響いたのは『アレ』がそれを防いだ音。

「落ち着きの無い人達ね」

『アレ』は微笑む。

「白薔薇か」

僕は呟き、蛇腹剣に視線を移す。

「端鷹は物知りなのね」

『アレ』は、蔵姫を退けながらも嬉しそうに言う。

「でも、そこのお友達さんは源祖の薔薇さんみたいだから、端鷹は知ってても当たり前なのかな?」

『アレ』は、蔵姫に視線を送りながら、微笑を作る。

「白華音、貴様の目的は何だ?」

蔵姫は、『アレ』の名前を知っているようだった。

すでにその両手にはカイザーナックルが握られており、蔵姫にとっても遊びで無い事が解る。

『アレ』は目をきょとんとする。

「何って、私、端鷹に会いに来たの。こうすればきっと来るって、彼が言ってたの」

また妙な事を、とも思うが、僕の名前が出た所で僕に意味は必要なく、『アレ』の意識が蔵姫に移った瞬間、朝霧を振るう。

だが、複数度放ったそれは悉く弾かれ、僕の欲望を満たしてはくれない。

蛇腹剣はまるで、生き物の様に動き『アレ』は身体を動かす事無く、何か別の物でそれをコントロールする。

その動きに、『アレ』からの予備動作を感じ取れない。

僕はそれに、苦手意識のような物を感じてしまう。

「ほぅ、では貴様は端鷹に会う為に、態々この施設に結界を張り、数百の人間を殺したのか?」

殺す・・・。

そうか、人が人で無くなる事を第三者が強要する。

蔵姫の言う言葉を聞いて、初めて気が付く。

存在が薄くなるとか、人で無くなるとか、そんな事では無い。

それは単純に、人だった者を殺した・・・と言う事。

「そうよ。そうすれば端鷹が来るって、彼が言ったから」

『アレ』は、然も当たり前の様に言う。

「彼?」

蔵姫の雰囲気が変わる。

「言ったとおり、端鷹は来てくれたわ」

『アレ』嬉しそうに微笑む。

「鬼のお前が端鷹に会ったからと言って、どうなると言うのだ?」

蔵姫は深く考えるようにし、目を細める。

「どうもしないわ、殺すだけよ。だって、端鷹なのよ?」

『アレ』は不思議そうに首を傾げる。

「そうか、それがお前達の理由なのだろう。しかし、毎回毎回お前達の考える事は解らん」

蔵姫は呆れたように言い、軽いステップを踏み始める。

「だがな、お前を滅する前に、その『彼』とやらの存在も聞かせて貰おうか」

一見、緩やかに見えるそのリズムは隙が無く、彼女が一つの選択肢を選んだ事を物語っていた。

「私、彼と会えて幸せなの、とっても」

『アレ』は気にする事無く、恋をする少女のように振舞う。

「関係無い」

二人の会話を聞いていた僕は呟く。

状況、関係、事情、目的、そんな物はどうでも良い。

僕は僕の欲望を満たすだけ。

「端鷹は黙っていろ、邪魔だ」

蔵姫は一瞥もくれる事無く言う。

「そうね、アナタも・・・邪魔だわ」

『アレ』は僕に対してか、それとも蔵姫に対してなのか、美しく、そして無垢に微笑む。

「ねぇ、そろそろ殺しても良いでしょ?」

『アレ』は問い掛けるように首を傾げる。

「そんな事は許さないんだから!」

いつの間にか復活していた美姫は、毅然と言う。

それが合図だったのだろうか?蛇腹剣がその名の通り、生きた蛇の様にうねる。

どれだけの射程なのだろうか?それは彼女を中心に、僕達に襲い掛かる。

近づけない訳では無い。

蔵姫と美姫の位置を常に確認し、すり抜け、弾き、瞬時に距離を詰める。

振るった朝霧は蛇腹剣に弾かれる事無く、軌道を変え、あらぬ方向から刃を彼女に向ける。

剣技の中ではフェイントの類に属するそれは、予想されたかのように複数の刃に拒まれ、次の一撃へと繋がれる。

実際に舌を巻く。

美姫が近づけずに遠巻きにしているのは解るが、僕と蔵姫は接近戦に持ち込んでいる筈だった。

複数の打撃と刃を向けている。

それでも彼女は自分の位置を変える事無く、僕と蔵姫に刃を向ける。

蔵姫は流れるような捌きを見せ、『アレ』の羽衣は美しく舞う。

蔵姫然り、目の前の少女然り、薔薇を持つ者とは全てこうなのか?

僕は、笑わずには居られなかった。

僕は、見つめずには居られなかった。

僕は、進まずには居られなかった。

そして、我慢が出来なかった。

喰らっても良いんだよね?

目の前の絶対的な恐怖に、身体が震える。

あぁ・・・、どうでもいい。

僕は蔵姫と対峙した時の様にバルブを開ける。

少しずつなんて阿呆な事はしない。

情報の濁流は息を詰まらせ、目眩すら快感となす。

慣れるまでなんて、待って居る必要は無い。

僕は朝霧を蛇腹剣へと叩きつけ、反作用を利用して加速する。

不思議と僕へのキックバックは発生しない。

そして、僕と蔵姫と彼女の位置が交差する。

それは死角。

僕は蔵姫ごと『アレ』に朝霧を振るう。

「きさっ!」

貴様!とでも言おうとしたのだろうか?

咄嗟に避けた蔵姫は蛇腹剣に弾かれ、美姫と然程変わらぬ距離を置く。

ダメージからだろうか?蔵姫は距離を置いたまま、表情を歪める。

『アレ』は朝霧の斬撃を避け、初めて自分の位置を変えて居た。

「本当・・・、端鷹は凄いんだね。彼が言ってた通り」

僕は話し掛けてくる『アレ』を気にする事も無く、二撃、三撃を振るう。

唇が歪むのが解る。

そして蛇腹剣をすり抜けるたび、その風圧から、蛇腹剣の動き全てが致命傷となる威力がある事を理解する。

だが、当たらねば意味が無い。

『アレ』は蛇腹剣を操りながらも、位置を少しずつ変える。

僕は朝霧で蛇腹剣を流し、それをそのまま力の糧とする。

『アレ』の動きが無くとも、蛇腹剣は動きを伝える剣。

苦手意識は在っても、対抗は出来る。

それが解れば、僕は蛇腹剣を朝霧で見ながら、『恐怖』を楽しむだけで欲望に近づく。

「それが端鷹の力?」

『アレ』問いかけは僕には届かない。

僕は朝霧を凪、下ろし、叩きつける。

『アレ』の蛇腹剣は、朝霧の軌道とは関係の無い空を切る。

まるでそこに何かが在るかのように。

『アレ』にはいったい、何が見えているのだろう。

もしかすると、蔵姫が言った『妖気』が見えているのかも知れない。

『アレ』は、自分に振り下ろされる剣先とは別の物を見詰め、困惑する。

「本当・・・、人じゃないみたい・・・」

少女は動きを止め、僕を見詰める。

「死んでくれ」

僕は呟く。

そこには、静かに佇む『恐怖』が存在した。

あぁ、朝霧を振り上げるこの一瞬。

生臭い物が、喉をごりごりと通る様な、痺れるほど甘露な感情。

僕は、その限り無く煉り込まれた『恐怖』を喰らおうとする。

刹那!

僕は、僕を遮る、夢の少女の幻影を目の前に見る。

ありえない!

朝霧は感知していないのだ。

その上で霊的不感応な僕が、視覚的に幻影を見る?

僕は朝霧を振り下ろす事無く、一瞬の硬直を生んでしまう。

横殴りの一撃だった。

殺しきれるようなタイミングでは無い。

僕は横に飛びながらも、右腕に走る痛みを堪える。

キィーーーーーーン!

直後だった。

僕が居た位置に、突進する巨大な鉄矢が超振動を発しながら飛来する。

そのままその場に居れば、間違いなく僕はそれにより絶命していただろう。

そして『アレ』はそれを防ぎ、なおも突進を続けるそれに眉を潜める。

威力を消す事が出来ず、相殺し合っていると言った所だろうか?

僕はその鉄矢に見覚えが在った。

僕が蔵姫ごと『アレ』を喰らおうとしたように、『アレ』に対しての死角からの攻撃だろう。

しかし、どう見ても、この場に居る者の攻撃では無い。

どうやらこの殺し合い、この場に居る四人だけの物では無いらしい。

『アレ』は蛇腹剣を収束させ、なおも振動を続ける鉄矢を振り払おうとする。

その蛇腹剣を収束させた姿は、まるで大輪の薔薇の様にも見える

「邪魔しないで!」

『アレ』は密度を上げた薔薇を乱舞させる。

威力を消された鉄矢は地に落ち、それを確認した僕は一度、距離を置く。

朝霧を左手に持ち、右手を確認する。

右腕は使い物にならないか。

骨が折れた訳では無いが、薔薇をうけた右手は痺れ、殆ど言う事を聞いてはくれない。

「端鷹、順番だ。ゆっくりと待っていろ」

先程のダメージが回復したのか、蔵姫は無表情に『アレ』を睨みつける。

『順番』・・・か、僕は苦笑いをしてしまう。

多分、交互にとかでは無く、『アレ』を滅したら、次はおまえだ!位の意味なのだろう。

それ程蔵姫の視線は冷ややかな物だった。

僕は周囲に朝霧の感覚を延ばす。

やはり、近くに大きな光を放つ者は居ない。

先ほどの鉄矢は、余程遠くからの行射なのであろう。

それであれ程の威力か。

僕は先日の、巫女服の彼女を思い出す。

身の丈を超える鉄弓と、朝霧で弾いた鉄矢。

似てはいる。

だが、同じ弓矢では無い。

似せているのか、偶然なのか、矢羽根の癖が違うのだ。

どうやらこの街には、人並み外れた化け物が多いらしい。

何はともあれ、第二射の前兆らしき物は、今の所無いようだった。

ガン!ガン!ガン!

まるで重機の駆動音の様な音が、立て続けに響く。

蔵姫が蛇腹剣を弾き、流し、『アレ』めがけて幾重にも拳を振るう音。

密度を上げ、荒波のように猛る『アレ』に対し、よくも一人で立ち回る。

鬼神とは、あの様な者の事を言うのだろうか?

「おおぉぉおぉぉぉぉぉーーーー!」

蔵姫が一際声を上げ、渾身の一撃を振るう。

蔵姫の光の色は強くなり、その中心に、どす黒い違う光が見え隠れする。

ぞぶり・・・。

「いひゃぁ・・・?」

僕は声を上げてしまう。

一瞬・・・、いや・・・一瞬にも満たないその瞬間を見逃さない。

僕は・・・、クラキに・・・、

恐怖・・・・を、

・・・感じた。

学園の屋上で感じた興味とはまったく違う、なんと素敵な物。

僕は、自分の脈拍が上昇するのを認識する。

「なぁ~んだぁ、早く言えよぉ・・・クラキィ・・・」

目の前にぶら下がる、もう一つの果実を視界に入れ、笑う。

「順番なんて、待てないなぁ・・・」

僕は、自分の動作から矛盾と音を取り去り、足を進める。

気配の消えた僕は、蛇腹剣の間をすり抜け、『アレ』らに近づく。

そして僕は、不意と斬撃を同時にこなす。

蔵姫に気を取られていた『アレ』は、驚き一瞬、我に帰る。

蔵姫はそれを見逃さず、それに対応しようとし、『アレ』に意識を向ける。

ニヤリ。

僕はその刃先を引き戻しつつ、蔵姫へと刃を向けた。

位置的には、『アレ』と蔵姫の中間程に位置するのだろうか?

瞬間的に朝霧を二度ほど振り、蔵姫は紙一重でそれを避ける。

右手が使えなくとも、朝霧のスピードに、変わりは無い。

「貴様、先ほどといい、何のつもりだ!」

僕を見方だとでも思っていたのだろうか?

朝霧を避けながら蔵姫は言い、その表情には怒りらしきものが見え隠れする。

「何のつもり?」

僕はどうしてもにやけてしまう。

大きくうねる蛇腹剣を朝霧で流しつつ、距離的に近い『アレ』に間合いを詰める。

「お前が『アレ』だからに決まっているだろ?」

僕は目の前の少女に朝霧を振るいながら、冷ややかに蔵姫へと言う。

蔵姫は一瞬硬直し、蒼褪める。

「ふぅ~ん、そうなんだぁ~」

『アレ』は朝霧の斬撃を防ぎながらも、興味深そうに蔵姫へと視線を移す。

「そうね、よく見れば貴女・・・」

『アレ』は楽しそうに笑う。

蔵姫はこの殺し合いの中、あから様な動揺をする。

きっと、今が蔵姫を喰らう時。

「駄目!お兄ちゃん!」

剣先を蔵姫に向け、その存在を喰らおうと動いた瞬間、美姫が僕へとしがみ付いて来る。

その声に蔵姫は我に帰り、『アレ』との戦闘を再開する。

この殺し合いの中、僕は美姫が飛び込んで来る事が分からなかった訳ではない。

そもそも、飛び込んで来る美姫を排除する事は単だった。

それは、美姫が僕にしがみ付く前に、朝霧の鞘で殴れば済むと言う単純な事実。

しかし、脳裏を過ぎった歩美さんの顔が、それを拒否したのだ。

そして、美姫に押しやられる様に、僕達は『アレ』から離れる事になる。

「蔵姫ちゃんは違うの!蔵姫ちゃんは人なの!蔵姫ちゃんは殺しちゃだめぇ!」

美姫は、必死に訴え、僕にしがみ付いて来る。

僕が蔵姫に、何をするのか、判ったのだろう。

そして邪魔をしようとした美姫に対して、僕が何をしようとしたのかも。

しがみ付きながらも、彼女は恐怖に震えている。

「あ、そうか」

僕は美姫の声と、その恐怖を理解し、呟く。

昨日の夜も、そして今も、美姫は『アレ』に対して怖い思いをしているんじゃ無いんだ。

彼女は、

美姫は、

この僕が怖いんだ。

「ごめん、美姫」

僕は美姫を優しく抱き寄せる。

「え?」

こんなにも怖い思いをしてるのに、それでも美姫は僕と関わろうとする。

「美姫の事、大好きだから」

僕は美姫を安心させる為、思ったままの事を言う。

「え?え?お、お兄ちゃ・・・」

美姫は最後まで言い終える事無く、静かに崩れ落ちる。

僕は美姫に『当身』をしていた。

古武術などでは、打撃全般を当身と言うが、今やった物は、相手を気絶させる為の物。

たぶん、これが一番簡単な、美姫を守る方法。

僕は美姫を抱え、少し離れた場所に寝かせる。

愛しい・・・とは、こう言った事なのだろうか?

こんなにも恐がっているのに、僕に対しての愛情を見せてくれる美姫。

この娘を守りたい、そんな、純粋な感情が湧き上がってくる。

「ふふ・・・」

自分に対する嘲笑の様な物が、自然と出る。

・・・らしくないな。

僕は自分で選んだ『らしくない』を肯定し、気分を入れ替える。

「さぁ、これで邪魔なのが一人減った」

僕は、相変わらず重機のような音を響かせ戦う奴らの方を向き、抑える必要も無い感情を昂ぶらせる。

僕の願いは、歩美さんの思いでもある。

僕の願いは、美姫を守る事でもある。

僕の願いは、欲望を満たす事でもある。

ならば、選択肢は一つ!

僕は感情の高鳴りとは逆に、静かに、『アレ』へと距離を縮める。

踊るように荒れ狂う白薔薇を紙一重で避け、スピードを変える事無く一歩ずつ。

ここら辺だろうか。

僕は自分にとっての、一足一刀ギリギリの間合いを取る。

『アレ』から見ては、七メーター程度である。

右手は未だに使い物にならない。

僕は腰を落とし、左手のみで朝霧を弓を引く様に構える。

剣技では最も間合いの広い『突き』を溜める形となる。

蔵姫を相手にする『アレ』は、間合いの遠い僕へ、ほんの少し注意を薄めて居る。

数秒・・・いや、一秒にも満たなかったのだろうか?

僕は自分の目で、白薔薇を凝視し、朝霧の情報を捨てる。

ふと、道元先生の言葉を思い出す。

『身を捨て、命を拾う』

あまりにも似合わないその言葉で、僕の唇はにやける。

一閃。

「きぇぁーーーーーーー!」

僕は、気合を使い、次の瞬間『アレ』の首筋を朝霧で射抜いていた。

ほぼ完全な瞬歩と渾身の突き!

「え?・・・な、嫌ぁああああぁーーーーーーーーー!」

『アレ』は悲鳴を上げる。

咄嗟に、朝霧から逃げ、僕から距離を置いた『アレ』の判断は賞賛に値する。

しかし、『アレ』はおろか、蔵姫すら何が起こったのか、解らずに居る様だった。

「どぅ・・して・・・?」

『アレ』はよろめきながら、僕と朝霧を見る。

無限にその長さを伸ばす様に見える白薔薇は、実際に物理的な理を抜ける事が出来ず、足りない部分を霊的な物でそれを補完していた。

それは、朝霧を通さない僕の裸眼にとっては、隙間だらけの不完全な武器だったのだ。

そして、霊的干渉を一切受けない僕は、蛇腹剣の隙間を抜ける。

結果、自分を守る為の盾は意味を持たず、『アレ』は避ける必要の無い一撃を喰らったと言う事になる。

それだけ。

「そろそろ終わりにしよう・・・」

ダメージが大きいのか、『アレ』は肩で息をしながら、膝を付く。

そして僕は、彼女の目の前に立ち、感情の昂ぶりの頂点を感じる。

「これで終わり」

僕がそう言った瞬間、それは唐突に起きた。

「え?」

ザク!

僕の胸から、赤く染まった刃が生える。

「ああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!」

その刃は真横にスライドし、捕らえられた者の命をそぎ落とす。

これでは、のたうち回る余裕などは皆無である・・・。

「端鷹、詰めが甘いわね」

その刃の持ち主は、僕の耳元で囁く。

「さ、さくらさん?」

僕の真後ろに、さくらさんは居た。

まったく感知出来なかった。

ドサッ!と言う音と共に、目の前に、血の海が広がる。

「邪魔はしないでね、・・・って言ったでしょ?」

さくらさんはそう言って、僕から離れる。

霊力?で出来ているのだろうか?

その刃は、僕の体を傷付けると言う事が無かった。

僕越しに『アレ』を切り裂いた真紅の刃は、まるでリップスティックのように縮まり、見覚えの有る短刀へと形を変える。

「ロサ・ルゴサ!」

蔵姫はさくらさんを睨み付ける。

「睨まないでよ、私は私の仕事をしただけなんだから。彼方だって業界のルール、知らない訳じゃないんでしょ?」

それが当たり前と、さくらさんは言う。

「ルール?私には関係の無い事だ」

蔵姫は刺々しく言いながらも、敵対行動を控えている様に見える。

「まぁ良いわ、貴女が何に対しての盟約に従い、どの意思を尊重するかは関係無いもの」

さくらさんは蔵姫を小ばかにした様に言う。

僕は『アレ』に視線を落とす。

それの呼吸は途切れ途切れとなり、一分と経たず、その命を終えるだろう。

「みつくん・・・、しっぱいしちゃった・・・ぁ」

『彼』とやらに言っているのだろうか?

『アレ』の視線は何かを見、その存在に微笑み掛ける。

白薔薇は蛇腹剣から形を変え、元々の形と思われるグレートソードへと変わる。

彼女に対してのそれは、あまりにも不釣合で、その大きさは、まるで非現実的な造詣物を連想させる。

その姿は綺麗でこそあれ、不思議と恐怖では無い者となっていた。

不意に、グレートソードへと形を戻していた白薔薇が光り、事切れる寸前に彼女は一瞬、ピクッ!と痙攣をする。

「端鷹!!」

さくらさんと蔵姫は同時に叫んでいたのだろうか?

あ、マズイ。

そう思った瞬間、目の前がホワイトアウトする。

意識の消える前、誰かに抱きつかれた様な気がするが、今はどうでも良い事であった。



僕の意識は闇の中へ。












それはとても良い匂いがした。

それはとても良い感触がした。

そして、暖かかった。

僕はそれを抱き寄せ、安心感と共に、安堵の息を吐く。

「いたたたたたたたっ!」

僕は、何かに耳を摘ままれ、間抜けな声を上げてしまう。

どうやら、今さっきの幸せな感覚は、全て夢だったらしい。

「あれ?さくらさん?」

さくらさんは、僕に微笑みかける。

「右手・・・、痛くない?」

さくらさんは、蛇腹剣に弾かれた僕の右腕を心配する。

「あ、うん。痺れは在るけど、大丈夫みたいだ」

夢から覚醒したばかりの僕は、状況が掴めず、身を起こす。

「ほんと・・・、スケベな所も全然変わってないわね、端鷹」

さくらさんは微笑を崩さない。

「すけべ?」

突然の言葉に、僕は何を言われているのか、解らなかった。

僕は虚ろな意識の中で、少し考える。

スケベか、耳を摘まれるチョッと前の感触を思い出す。

うむ、あの感触は多分、膝枕。

僕はそれを肯定する。

状況からすると、さくらさんに膝枕をさせてた僕は、彼女を抱き寄せ、善からぬ所へでも顔でも埋めていたのだろう。

いや、想像すると、少し恥ずかしい。

「僕ってスケベだったんだ、少しは否定しても良いのかな?」

僕は照れ隠しのつもりで言う。

「否定?あんなにボディータッチの多い子供だったのに?無理無理」

さくらさんは懐かしそうに言う。

「あんたは小さい頃、急に後ろから飛び付いてきたり、おしり触ったり、抱き付いてきたと思ったら、私のおっぱい触ったりで・・・」

さくらさんは楽しそうに昔話をしているようだった。

ああぁ、なんとなく思い出す。

血の気が引くとは、こう言う事を言うのだろうか?

純真な子供の行為とは、恐ろしい物である。

「ちなみにあんた、子供の時から『純真』とか『無垢』とかって文字が無くて、確信犯だったからね」

さくらさんは追い討ちを掛ける。

僕の自分に対する言い訳は、彼女の言葉によって意味を無くす。

神崎の時も思ったが、僕の思考とは、そんなにも読みやすいのだろうか?

そう思ってしまう。

「で、結局どうなったの?」

意識がはっきりしてきた僕は、遊んでいても仕方が無いので、思考を切り替える。

「怒っても注意しても、アンタ恐がらないから、最後は好きなように・・・」

さくらさんは呆れたように言う。

「いや、そっちじゃなくて」

僕は冷ややかに言う。

「真顔で言わないでよ、言ってる私の方が恥ずかしくなるじゃない」

さくらさんは顔色を変える事も無く、事例的に言う。

「自爆・・・ってのが適当かしら?」

「だろうね」

『アレ』は最終的に、自分で命を絶ったと言う事。

僕はそう言いながら、近くに立つ、広場の時計に目をやる。

僕の意識が途切れてから、大よそ、十分程度だろうか?

「分ってんなら聞かないでよ」

さくらさんは立ち上がる。

「行くの?」

「そうね、私の用事は済んだけど、まだやる事が在るし、端鷹だって、もう大丈夫でしょ?」

そう言いながら、彼女は背を向け、暗闇の中へと消えようとする。

「さくらさん、ありがとう」

僕は素直に言う。

さくらさんは一瞬立ち止まる。

彼女のコートの端は焦げ、彼女の美しい真紅の髪からは、チョッと焦げ臭い香りがしている。

多分、僕をあの爆発から助ける為に、結構無理をしたのだろう。

そしてさくらさんは、振り返りもせず、手をひらひらと振りながら闇夜へと消えていく。

これで二度、僕は彼女に助けられた事になるのだろうか?

しかし、さくらさんの本当の用事とは、なんだったのだろう。

『アレ』を倒す事が目的ならば、もう少し早く登場しても良い筈なのだ。

まぁ、彼女の目的が何であれ、今は素直に感謝しておこう。

僕は立ち上がり、美姫を寝かせた所へと向かう。

「遅かったな」

声を掛けてきた蔵姫は、美姫の傍らに座り、守るように佇んでいる。

「悪い、少し気を失っていた」

僕は事実を素直に言う。

「不甲斐ない男だな貴様、だから美姫には不釣合いだと言ったのだ」

蔵姫は少し怒ったように言う。

「まぁ、そう言うな。これでも兄貴役を務めようと、努力しているんだ」

僕は笑い、そしてそれを見た蔵姫は、怪訝な顔をする。

「お前が起こしてやれ」

そう言いながら、蔵姫は美姫から少し離れる。

「蔵姫、お前は本当に美姫の事を大切に思ってくれているんだな」

そんな蔵姫を見て、僕は素直に関心してしまう。

「どう言う意味だ?」

蔵姫は言われた事が解らない様に、聞き返す。

まぁ、良い。

僕は美姫に近づき、軽く揺すったり、頬をぺちぺちしてみたりする。

「美姫、美姫、美姫、起きろ」

とりあえず、声を掛ける。

「うみゅぅ~、じゅるぅ~」

美姫は意味不明の声を出し、覚醒する兆しを見せない。

確か、当身で彼女の気を失わせた筈なのだが、美姫は見る限り熟睡モードに入っている。

侮れないな、この娘。

仕方が無い。

僕は美姫のほっぺたを、強く引っ張る。

美姫は見る見る表情を歪め、血の気を帯びてくる。

「いたたたたたたたたたたっ」

突然と言うか、取りあえずは、覚醒したようだった。

「何?なに?ナニ?」

美姫は頬を押さえながら、辺りを見回す。

「あ、お兄ちゃんおはよ」

あまりに平和そうな美姫に、僕は叩き甲の在るでこをペチっと叩く。

「なに?なに?なんで叩くの?あ、蔵姫ちゃん」

・・・!!

視界に入った蔵姫を確認した美姫は、思い出したかのように飛び起き、錫丈を構える。

「奴は!」

「消滅した」

蔵姫は面白くなさそうに言う。

自分が殺したのであれば、『滅した』くらいは言うのだろうが、現状はさくらさんに横取りされたと言うのが妥当だ。

現に、僕とてその例外ではない。

「え?マジ?マジ?物凄い鬼だったんだよ!どうやったの?」

どうやったっと言われても、実際に倒したのはさくらさんであって、僕的にはなんとも言えない。

「さくらさんが出てきた」

僕はごく冷静に、端的に言う。

「何?結局あの人も来たの?」

美姫は、殆ど事情を知っているような口振りで、嫌そうに言う。

「美姫、理由は知らないが、そこら辺、色々と詳しそうだな」

僕は目を顰め、白々しく言う。

「え?何の事?」

美姫は視線を逸らす。

「まぁ良い、先ずは家に帰るぞ、歩美さんが心配してる」

僕は、自然に眉間にしわが寄るのを感じる。

他人に干渉などしない僕が、どうにも、この娘には干渉してしまう。

「うぅぅぅーーー・・・」

美姫はバツが悪そうに唸る。

「それに美姫、忠告する様だけど、力の無い僕よりも弱いなら、悪い事は言わない、危ない事はするな」

僕は圧力を掛けるように、美姫に言う。

美姫を見る限り、光の強さと裏腹に、戦うその力は弱い。

「端鷹、謙遜という物は、度が過ぎると怒りを買う。貴様知っているか?」

なぜか美姫ではなく、蔵姫が僕に食って掛かる。

「なんの事だ?」

僕は素直に首を傾げる。

「貴様がどんな能力を有しているかは知らんが、言うに事欠いて美姫の力が弱いと言う」

蔵姫は続ける。

「ふん!この場に戦闘力計でも有れば、美姫に比べ貴様がどれ程ゴミなのか、証明出来る物を!」

日ごろクールな蔵姫は、静かでは在るが、まるで自分の事のように怒りを露にする。

どうやら、美姫に干渉させられているのは、僕だけでは無いらしい。

それが美姫の力か。

いや、存在と言った方が良いだろうか?大きいのは解る。

しかし、僕が見て考えた事と、蔵姫が感じている事にはすれ違いが在る様だ。

「ほら、蔵姫ちゃん、さっきのあの娘、鬼の中では最強の類だってお兄ちゃん知らないから」

最強?

そうなのだろうか?

今一つしっくりとは来ない。

「説明要る?」

腑に落ちない所が表情に出たのか、美姫は僕に話しかける。

「別に・・・」

「はい!じゃぁ説明するね!」

僕が「別に必要ない」と言おうとした瞬間、美姫は僕の言葉を押し退ける。

「お兄ちゃんは、私たちの戦い方が地味だと思ったよね・・・多分。

それはね、さっきの銀色の髪をした、小さな女の子みたいな鬼のせいなの。

普通あのクラスと戦う時って、どかーーーん!とかバカァーーーーン!とかって、能力開放したせいで超絶魔界大戦みたいに派手になっちゃうんだよ」

普通・・・、美姫はまるで、そんな戦いがちょこちょこ在る様な話し方をする。

「美姫、それはもしかして言い訳をしているのか?」

僕は先程の美姫の姿を思い浮かべ、思わずツッコミを入れてしまう。

美姫は、話の腰を折られたせいか『ちがぁーーーう!』と地団駄を踏む。

「彼女の名前は『白華音』その存在は朧げで、存在するのに存在しない。何処にも居ないのに何処にでも居る。あやふや過ぎて、誰にも知覚出来ない存在なの。そして発生した結界は強大で、その存在を間違いの無い物とする鬼。超有名過ぎて、なんでこの町に現れたか分かんない位なんだよ!」

美姫は親切丁寧に説明をしてくれる。

「あんな強力な結界の中で鬼とまとも戦えるのって、蔵姫ちゃんとか、お兄ちゃん位なんだから!」

美姫は、僕に説明する様に言いながら、最後に小声で『あと水守せんせ』と付け加える。

僕は気付きもしなかったが、あの結界には、なんらかの強力な意味が有ったのだろう。

「あの結界は、そう言う結界だったのか?」

僕は、美姫が僕の体質を知っている前提で話しかける。

「うん、普通の術者なら、何一つ術が発生しなくて嬲り殺しに会っちゃうかな?」

美姫は『ははは』と笑う。

困った素振りを見せる美姫は、その事を聞かれたく無かったのかも知れない。

「ちなみに美姫の言う『普通』って、どれ位なんだ?」

今後の参考の為・・・と言うか、少し白々しい質問をする。

「えっとぉ、まともな人間が、人生の中で辿り着ける、ギリギリのところ・・・位かなぁ~」

美姫は、視線を合わせようとはしない。

なるほど。

それが普通か。

つまり、あの場で戦っていた人間に、まともな人間などは居なかったと言う事。

「概ね理解した」

僕は、深く聞くこともせず、話を切る。

僕の体質も、蔵姫の一瞬の恐怖も、美姫の光の色と強さも、さくらさんのべらぼうな強さも、『まとも』では無い、と言う事らしい。

「美姫、用事は全部済んのだろ?」

『アレ』が居なくなった今、この場に居る意味は無くなり、僕は朴訥に言う。

「え?あ、・・・うん」

美姫は反射的に言う。

「じゃ、帰るぞ。蔵姫も適当に帰れ」

そう言った僕に、蔵姫は仕切るな、と嫌な顔をする。

その姿は人その物で、先程見せた『アレ』の片鱗は見えない。

蔵姫にも、後々聞く事が有りそうだ。

僕はKATANAを駐車して居る駐輪場へと歩き始め、そんな僕に、美姫はトテトテと素直に付いて来る。

「で、結局、お前はどれ位知っているんだ?」

僕は、付いて来る美姫に振り返る事も無く、聞く。

「何を?」

「『アレ』の事や、さくらさんの事」

僕はとりあえず、最低限の事を聞く。

「お兄ちゃんは?」

そんな僕の質問に、美姫は質問で返してくる。

それは言いたくない事をはぐらかす為の、初歩的な言い回しでもある。

「成る程、答える気は無いんだな」

僕は感情を込める事無く言う。

「怒んないでよぉ~、チョッとだけ駆け引きしようとしただけなんだからぁ~」

そう言いながら、美姫は僕の腕へと絡んでくる。

「お兄ちゃんは、私の名前・・・・知ってるよね?」

美姫は自分の事を『美姫』とは呼ばず、『私』と言う。

「それが僕の質問への答えなのか?」

尚も的外れと思える質問をする美姫に、僕は言う。

「お願い・・・、私の名前を言って」

美姫は僕の言葉を押し退ける様に言い、その言い様は静かで穏やかだった。

「美姫」

僕は当たり前のように、美姫の名を呼ぶ。

「お兄ちゃん、わざと言ってる?」

美姫は、彼女の名前を呼んだ僕を、怪訝そうに覗き込んでくる。

可笑しな話、美姫は自分の名前が美姫では無い・・・と言っている事になる。

さて、今の美姫が望む名。

それが本当にその名なのかは知らないが、その名を僕は記憶の中に持っていた。

記憶と現実、誤った記憶は修正され、今の現実へと統合される。

そして、僕の記憶の中で修正される『筈』だった少女の名。

「美咲」

僕は目の前の少女の名前を呼ぶ。

それは昔の話。

記憶も朧げで、小さい頃の夢を見るまで、思い出しもしなかった昔の話。

僕は、母さんと一緒に探した、小さい少女の名前を口に出す。

『名前を聞いてあげて。貴方の声で』と、母さんの、そんな言葉を思い出す。

「うん、やっぱりお兄ちゃんって凄い!」

美姫は『美咲』と呼ばれた事が余程嬉しかったのか、その光を強め、絡める腕に力を込める。

「名前を言えたからって、凄い事は無いだろ?」

僕は美姫のやりたいままに身を任せる。

「だってね、普通の人は、この名前を言う事も出来ないし、聞く事も出来ないの」

美姫はさみしそうに言う。

まるで、鬼に干渉され、存在の薄くなった人達のように・・・。

「お兄ちゃんは、この町の名前、知ってるよね?」

美姫は当たり前の事を、再度確認するように聞く。

「美咲町」

この町の名は、美姫のもう一つの名前と同じ響きを持つ。

「私ね・・・、この町の神様なの。そして、それがお兄ちゃんの言った『どれ位しってる?』への答え」

「へぇ~」

僕は感心するように言う。

何をどうすると『神様』と言う定義なるかは知らないが、少なくとも、目の前の美姫は真剣に言っていた。

それが本当ならば、美姫はこの町で起きている事を、たぶん、全て把握している事になる。

「あ、信じて無いでしょ」

美姫はぷぅーと、頬を膨らませる。

まぁ、突拍子も無い話では在るが、美姫の光の神々しさは、それを証明するかのように、強く輝いている。

「一概には信じられないな、普通」

僕は一般論を言う。

「僕にとっては、美姫が何者で在るかなんて意味がないし、見たままが美姫だと認識している。信じようが信じまいが、それはどうでも良い話だろ」

そう、僕にとっては美姫が神様で在ろうが人であろうが、『アレ』でなければ同じ事である。

「うん、そうだね」

美姫は静かに答える。

美姫の欲しがって居る言葉が、そんな所に無いと判ってはいるが、それが僕としての価値観だった。

「しかし、そうなると美姫は、『アレ』の事だけじゃ無く、僕の事や朝霧の事、さくらさんや蔵姫の事、それに鉄弓を使う奴らの事も分って居るのか?」

僕は探りも兼ね、推測の範囲の事柄も事実として、話す。

「町で誰が動いているのか、大雑把には分るよ。誰かさんみたいに全然わかんない人も居るけど」

美姫は最後だけ、無意味にプー!と怒る。

何に怒っているかは解らないが、少なくとも、僕ら以外の『誰か』が、動いていると彼女は認識しているようだった。

僕らはその後、何も話さず、駐輪場へと着く。

「聞かないの?」

美姫は、予備の半ヘルを渡そうとした僕に呟く。

「何を?」

首を傾げる僕に、美姫は違う物を期待する。

美姫の質問は、僕にとって必要の無い物だった。

だから聞きもしなかった。

だが、美姫にとってのその事は、とても重要な事なのだろう。

何かを期待するかのように、僕の言葉を待つ。

「僕の知っている美咲が、なんで美姫なのか、それ位は気になるかな?」

僕はそう言って、KATANAに跨るのをやめる。

多分これは、彼女にとって、僕が聞いてやらなければならない事なのだろう。

「うん・・・」

美姫は小さく頷き、話を始める。

「昔々、結構昔、この地域は鬼にとって、とても住みやすい土地だったんだよ。外敵らしい外敵も居なくて、食料となる人間も尽きる事が無くて、自分達のやりたいようにやっていたの。

でもそれって、人間から見れば地獄でしょ? だから見かねた凄い人がこの地域と鬼達を浄化して、まるっと結界みたいな物で覆ったの。

それがこの町の始まりで、そして、それが私の始まり。

でね、凄い人が居なくなった後、残った結界を、人々は信仰の対象としたの。

今で言う所の、擬人化? かな? いや、擬神化か?」

美姫は上手い事を言ったと思ったのか、確認する様に反芻している。

「で、その信仰や想いから生まれた人格が、結界と一つの意味になる事で半高位次元生命体として『神様』になったの。

それが元々の私。

で多分、結界を創った凄い人が『ミサキ』って名前だったのかな?

気が付いた時には、町の名前が美咲町で、私の名前もそれらと『同じ』になってたって訳。

で、時は流れて、それでも結構前の話なんだけど、私ってドンくさいから、時代と共にみんなに忘れられちゃって、信仰心ってのを無くしちゃったの」

美姫は、はははと笑いながら、頭を掻く。

「人の信仰だけを糧とする半端な神様としては、その時点で消えるか、別の者になっちゃう運命が待っていたんだね」

美姫は一呼吸入れる。

「でね、お兄ちゃんと美姫が初めて出会った時、美姫はね、あの時、とぉ~っても運が無かったの。

あ、私じゃなくて、美姫の方」

美姫は自分の事とも、他人の事とも取れる言い方をする。

「私は結界としての役目を果たさなくなり、鬼はそれを見逃さない。

美姫は只の被害者。

美姫の元々の適性かなぁ、鬼と波長が合っちゃって、取り込まれる寸前まで行ってたの。

その結果、力を無くした美咲は依り代を求め、存在の薄くなった美姫は自分を繋ぎ止める為の理由を美咲に求めたの。

そう・・・、だから・・・、私達は・・・・、一緒に居た」

彼女は一瞬、無表情になる。

「今の美姫が居るのは、あの時お兄ちゃんが見付けてくれたから、お兄ちゃんが呼んでくれたから、美姫は美咲と共に居て、美咲は美姫と共に存在する事が出来るの」

気が付くと美姫は、学生服に着替えていた。

着替える暇などは無かった筈である。

どんな原理かは解らないが、変身とか、そんな類なのだろうか?

「・・・共に居る・・・か」

僕は呟く。

「うん、辛うじて。あれからずっと眠っては居るけど、私と同じ。お兄ちゃんの力で繋ぎ止められてる」

美姫は胸元に手を置き、確認するように力を込める。

「僕の力?」

僕は聞きかえす。

正直な所、美姫が何の事を言っているかが解らない。

僕は蔵姫にも感じた『すれ違い』的な物を美姫の言い回しに感じる。

確かに昔、美姫を『三咲』と呼んで、家につれて帰った記憶は在る、だがそれだけだった。

「力の無い事が『力』と言えば話は通る。だけど、霊的不感応な僕が、存在の薄くなった美姫を見つけたってだけの話だろ?」

僕は美姫の勘違いを正すために、自分の霊的不感応な体質を口に出す。

「霊的不感応? 誰が言ったの?それ」

美姫の表情が険しくなる。

「誰って・・・」

僕はさくらさんの名前を出そうとして、言葉を止める。

「誰に吹き込まれたかは知らないけれど、お兄ちゃん、もしかして自分の力を知らないの?」

僕の力?

そんな物、有りはしない。

いや、有ったとしても、それは朝霧の力であって、やはり僕の力では無いはずだった。

「お兄ちゃんは、『鬼』を見るでしょ」

「ああ」

僕は反射的に、美姫の問い掛けに答える。

美姫は『見える』では無く、『見る』と言う。

「だから鬼と話せるし、鬼と戦えるの」

美姫は続ける。

「お兄ちゃんは、結界とか、霊力とか見ないでしょ」

「ああ」

僕は先程と同じように返事をする。

「だから結界の影響も無いし、霊的干渉も受けないの」

そして、さらに美姫は続ける。

「それはね、世界の理から外れている事なの。お兄ちゃんが見た物は存在し、お兄ちゃんが見ない物は存在しないって事になるの」

美姫の言うそれは、当たり前の事で、不思議な事では無い様に思える。

「だから、その場に存在しない筈の者も、お兄ちゃんが見えると肯定すれば存在し、その場に存在する物でさえ、お兄ちゃんが見えないと否定すれば、お兄ちゃんに対し、その在り方を無くしてしまうの。『白華音』だって、その例外じゃ無かったでしょ」

・・・・・。

「つまり?」

僕は遠回しな美姫の言い方に、答えを求める。

「お兄ちゃんはね、自分の力で世界の理を捻じ曲げてるの。肯定と否定と言う容で。

それはまるで・・・」

あまりにも真剣に、あまりにも思い詰めた様に美姫は言う。

そんな彼女のおでこを、僕はペチッと叩く。

「痛!何?何で叩くの?」

「阿呆。難しく考え過ぎだ。霊的干渉が無いから『アレ』が見えるだけで、霊的干渉が無いからそう言った物の影響が無い・・・それだけだ」

僕は言う。

「じゃ、何で神様である私を美姫に固定出来たの?何で存在の消え掛けていた美姫を人としてこの世界に縫い付ける事が出来たの?」

美姫は食い下がる。

「知るか。それこそ神様なら『美咲』としてのお前の力だろ?」

僕は彼女の含みを解っていて、それでも浅墓な事を言ってしまう。

「わたし・・・の・・・力で?」

美姫は、何かスイッチが入ったように、視線が定まらなくなる。

「私が自分の力で美姫の中に留まった・・・?」

美姫は俯き、震えるように、呼吸を乱す。

「私じゃ・・・ないよ・・・」

「私じゃ・・・ないよ・・・」

「私じゃ・・・ないよ・・・」

美姫は呪文の様に、暗示を自分に掛けるように、同じ言葉を繰り返す。

それには、何かを否定しようとする想いが見え隠れしている様にも見える

僕は気付いてやるべきだったのかもしれない。

美姫の言った『わたし達は・・・一緒に居た』と言う美咲の言葉。

美姫は言ったのだ。

信仰を失った神は消えるか、別の者になると。

それは・・・、消えなければ『アレ』になると言う意味。

美姫は言ったのだ。

美咲は結界の役目を果たさず、美姫は鬼と波長が合ったのだと。

その事実と可能性、美姫は疑念に囚われている。

もしくは真実かもしれない仮定に。

「私じゃないよ!美姫を食べようとしていたの!」

美姫は目を見開き、僕へ縋り付く。

「私、あの時、まだ神様のままだったよね! 鬼なんかじゃなかったよね!」

その瞳は救いを求めるように見上げ、瞬きもせず、僕を直視する。

可能性は語る。

美姫を取り込もうとしていた存在、それその物が美咲自身で、美咲は喰らう為に美姫の中に入ったのだと。

結果はどうで在れ、美姫の存在は薄くなり、美咲は美姫の身体を奪ったとも、言える。

「わたし・・・、神様なのに・・・、神様の筈なのに」

美姫はガクガクと震え、顔を僕の胸に埋める。

彼女は、その仮定としての可能性や不安を、ずっと抱いていたのかも知れない。

誰かに救ってもらいたいと、願いながら。

僕は心の中で溜息を突き、この娘に関ってしまった事を、再認識する。

「昔の話なんだが、僕は小さい時、はじめて『アレ』を見て思ったんだ。『人はあんなじゃない』って」

僕は静かに語り始める。

「さくらさんは僕に、フィルターが無いからだって言ってたけれど、『人はあんなじゃない』って思う位、僕から見た鬼は人とはかけ離れていて、恐怖をそまま形にした者だったんだよ」

僕は美姫を優しく抱きしめ、言葉を続ける。

「覚えてる?僕が初めて美姫と出会ったのは、今住んでいるみんなの家で、そしてその後、美咲と初めて出会ったのが、近くの小さな公園だったんだ」

不思議と今は、あの時の情景を思い出す事が出来る。

「時間がチョットしか経っていないのに、さっき会ったばかりの女の子が、まったく違う物になっていて、首を傾げたんだ。

あれ?『人はこんなじゃない』って」

美姫は僕の言葉を聞いて、ビクッと身体を震わせる。

「なんだろ? その時の僕は、子供心に『あ、天使ってこんなかな』って思ったんだ。それ位綺麗な者に見えたんだ。

美咲はその時の事、覚えているか? そん時のお前、胸元にぎゅって手を握って、何かを守ろうとしてたんだよ。

『だれもいないの』って言いながら。

自分の名前も言えないくらい、薄くなった存在で。

だから僕は言ったよな『ぼくはここにいるよ』って。

あの時、お前が護っていたのが、美姫の存在だったんだな」

僕は小さい子供をあやす様に、頭を撫でる。

「大丈夫、お前は『アレ』なんかじゃない」

大丈夫・・・、大丈夫・・・。

僕はただ、それだけを繰り返していた。

僕の言葉が、どれだけ彼女を納得させたかは解らない。

意味とて、如何程の物なのであろうと思う。

ただ、それでも美姫は静かに身を任せ、小さくすすり泣いて居るだけだった。





美姫が落ち着いてから、僕はKATANAと跨る。

「そう言えば美姫、お前、戦う必要とかもう無いんじゃないのか?」

僕はふと、疑問に思い言う。

美姫が神様だろうが、正義の味方だろうが、歩美さんを悲しませてまでも戦う必要は無いと僕は考える。

それが神様だって言われれば、そうなのかも知れないが、美咲が言うとおり信仰が既に無いのであれば、その義務も無い物と考えられる。

「美姫、神様だから戦ってるんじゃないよ?」

いつの間にか、一人称が『美姫』に戻っている美姫は、首を傾げる。

「じゃあ、何で危ない事をするんだ?」

僕の問いに、美姫は笑う。

「お兄ちゃんがこの町に居るからだよ」

「?」

僕は美姫の瞳を見詰める。

「お兄ちゃんがどう考えようと、美姫は、美姫と私は、お兄ちゃんが居るから存在出来るの。本当ならばもう居ない存在。だから人だとか、神様だとか、そんなの関係なく、喜びも悲しみも、楽しみも苦しみも、全部お兄ちゃんと共に存在するの。私達にとって、お兄ちゃんが全てなの」

美姫はなにか幸せそうに言う。

「いや、だから・・・」

僕は、僕の力と言われた物を否定しようとして、言葉を止める。

一瞬、美姫に巫女服の美しい女性が被って見えた気がしたのだ。

・・・ありえない。

僕は一度瞼を閉じ、再び目を開ける。

そこにはにこにこと微笑む美姫が立って居るだけだった。

「だから、お兄ちゃんの居るこの町を守るの!」

美姫はそう言いながら、僕の後ろへと座り、抱き付くように両腕を回してくる。

まぁ、仕方が無い。

その後僕は、何も言わずKATANAを発進させる。

美姫の言っている事が正しいのかどうかは知らない。

見方によれば、頭のイカレた能力者が、神様を気取って暴れているだけとも言える。

ただ、良くも悪くも美姫はそれを信じ、頑なに実行している。

それも、僕の為だと言う。

まぁ、良いさ。

僕とて同じ事なのだから。

人の事を言いながら、所詮は自分の為の行為。

僕は、僕の欲望のままに。

僕は、有りの侭に。

世界は流れ、エンジン音と美姫の体温が、僕を包む。

ああぁ、なんて星が綺麗なのだろう。

いつの間にか晴れ渡る星空に、僕は見とれるしかなかった。










その日の朝、僕は朝日の眩しさを感じ、目を覚ます。

珍しく、夢と言う物を見なかったのだろうか?

「ふぅーーー」

力を抜くように一呼吸し、昨日の事を思い出す。

それはまるで、つい先程の出来事の様に思える。

「美姫が神様ねぇ」

僕は、その冗談のような言葉に、苦笑いをしてしまう。

昨晩、僕は再び美姫を探しに行き、そして再び見つけた。

全ての目的がそれと言えば、僕のそれは間違い無く嘘となり、すべて嘘かと言えば、そうでも無かったりする。

しかし、身も蓋も無い答えは、僕としての在り様とも言え、なんら恥ずかしい事では無いだろう。

それでもその願いと思いは、僕だけの物ではなく、今はそれでも良いと考えるのだった。

あの後、浅田邸に戻った僕達は、崩れ落ちる様に泣く歩美さんに迎えられる事になり、僕はその事を実感する。

やはり歩美さんは、知っていたのだ。

美姫は、歩美さんに『今度は帰れないかもしれない』と、朝の別れをし、そして歩美さんはそれを了承した。

それが、昨日の朝の事。

歩美さんが不安を隠せず、それを表に出していた理由。

どんな形であれ、歩美さんはそれを、仕方の無い事と、認識しているらしい。

僕から見れば、そんな彼女らの人間ドラマ自体はどうでも良い事なのだが、僕の思惑とは別の所で、僕が『大切だ』と考える人達が、不幸にならなかった事は望ましい。

そして、それは良かった事なのだと、僕は判断をする。

僕は私服に着替え、朝食をとるべく、一階へと降りて行く。

「おはようございます」

僕はリビングに居た歩美さんに声を掛ける。

「あら、端鷹君、今朝は足音を立ててくれるのね」

歩美さんは微笑みながら、僕の意思を汲む。

「なんだか、デレデレですね」

僕は、歩美さんに抱き付いたままの美姫を見ながら、感想を言う。

「そうなの、昨日からずっとこうなのよ」

歩美さんはそう言いながら、そんな美姫を嫌がりもせず、ただ好きな様にさせている。

「この娘ね、ずっと私に対して余所余所しかったの」

歩美さんは、美姫の頭を撫でながら言い、それが過去の事だと遠い目をする。

余所余所しいなどと言う物を二人から感じた事は無かったが、彼女達には彼女達の感覚と言う物が在るのだろう。

なにはともあれ、二人の雰囲気は、以前とは一寸だけ違っていた。

「歩美さんは、美姫の事・・・彼女達の事を知っているんですよね?」

僕は率直過ぎる質問をする。

「ええ。母親ですから・・・」

歩美さんは嬉しそうに言い、美姫から視線を僕に向ける。

「端鷹君は、美姫のもう一つの名前を言えるのよね?」

歩美さんは、何かを期待するかのように、僕を見詰める。

「美咲・・・ですか?」

僕は美姫のもう一つの名前を言う。

「もう一度言ってもらえるかしら?」

歩美さんは笑顔で僕に言い、僕はもう一度、美咲の名前を口にする。

「ねぇ、ママにも聞こえた?」

それまで会話に入ろうとしなかった美姫が、歩美さんに楽しそうに話しかける。

歩美さんに対する呼び方が『ママ』になっているのは、美姫の精神面的な事が在るのだろうか?

「聞こえたわよ、もう忘れてしまったけれど、聞こえたって言う記憶は残ったもの」

歩美さんは、美姫に微笑みかける。

「ね!お兄ちゃんて凄いでしょ!」

「本当、端鷹君は凄いのね」

歩美さんは、僕に・・・と言うよりは、美姫に対してそんな事を言う。

「歩美さんは、美姫の名前、もう一つの名前を言えるんですよね?」

僕は確認の為、歩美さんに、彼女が僕にした質問と、同じ質問をする。

「いいえ・・・」

歩美さんは静かに首を振る。

「だめなのよ、どんなに頑張っても、記憶に留める事が出来ないの」

その物言いは、悲しみと言うよりは、諦めのような物を秘めていた。

「でもね、端鷹君には感謝してるわ」

「はぁ・・・」

僕は、気の抜けた返事をする。

「美姫を連れ帰って来てくれた上に、この娘と私のわだかまりを消してくれたんですから」

歩美さんの視線は、何処までも優しく、母親その物と言っても良いと思える。

『わだかまり』か。

本人達にしか解らない事であろうそれは、今の僕には察する事は出来ない。

「昔ね、端鷹君が美姫を連れ帰って来てくれた後、この娘の雰囲気のズレを見て『貴女は美姫じゃない』って、詰め寄った事が有るの。

私、そう言った存在の者、全てが悪い物だと思っていたから」

歩美さんは、そう言った人では無い者の存在を肯定し、それを否定する言い方をする。

「そしたらね、この娘ったら言い訳どころか、泣きながら『ごめんなさい』ばかり言うのよ。

本当、馬鹿正直に。

でもそれは、間違い無く美姫の姿で、美姫の声で、美姫の仕草だったわ。

自分は美姫じゃ無いって言いながら、全身で自分は『美姫だよ』って謝るの。

演技じゃないのは、すぐに判ったわ。

目の前にこの娘と美姫が一緒に存在するのに、私はそれに気付けなかったの。

だから私はね、ずぅ~と、自分は母親失格だって思ってたの。

私はあの時、一瞬でも自分の娘を捨てたんだって思ったから。

それを解ってて、この娘は余所余所しいんだって、私、ずっと負い目に感じてたの。

でも、端鷹君はこの娘の、美姫の余所余所しさの理由を、取り去ってくれたのよね?」

歩美さんは、まるで懺悔のように言い、僕の言葉を待つ。

「僕はただ、見たままを彼女に言っただけです」

僕は、僕の事実を素直に言う。

「それだけでこの娘の心を救ったの?」

歩美さんは僕の方を見る様にし、首を傾げる。

「僕に、そのつもりは無いですよ」

僕は力を抜き、他人事の様に言う。

「そう、それが端鷹くんなのね」

歩美さんは、何か納得するかのように言い、微笑みかける。

「僕には、よく解りません」

結果と過程は、必ずしも同じ方向を向いているとは言えない。

だから僕は、是非に関係なく、曖昧に答える。

そんな僕の思考を感じ取ったのか、歩美さんは僕を見詰め、何かを試す様な色を見せる。

「じゃぁ・・・そうね、端鷹君から見て、私はどう見えますか?」

少し間を置いて言ったそれは、何気に唐突な質問と言ってよいだろうか。

「今は、美姫の母親・・・、お母さんにしか、見えませんね」

僕は笑ってみせる。

歩美さんはゆっくりと目を閉じ、手を胸元へと置く。

「ずるいわ、その含みの在る言い方。以前はそうじゃ無かったって事?」

歩美さんは美姫に視線を戻し、楽しむように質問をして来る。

「そうですね、昨日まではとてもチャーミングな女性・・・?そんな感じに見えていましたよ」

僕は誇張しつつも、素直に、僕からの『見たまま』を言う。

「お上手ね。昨日までの私なら、貴方に心を奪われてたわ」

歩美さんは優しく微笑む。

「今は、歩美さんの心、奪えないんですか?」

僕は歩美さんとの会話が面白く、日頃はしない様な話の展開をする。

「母親ですから」

ほんの少しの間を置いて、僕と歩美さんはくすりと笑う。

それは、とても優しい時間と言え、歩美さんも同じように感じていたのかもしれない。

「私、やっと母親にもどれたのね」

歩美さんが最後に言った言葉は、とても小さく、無意識の呟きだったのだろうか?

そして僕達の会話はひと段落する。

その時の会話で、美姫の中の本当の美姫?の話に深く触れる事は無く、一つの問題が解決したと言う事に安心を得たのだろうか?

その後、美姫は美姫で我関せずと言った様子で歩美さんに甘え、僕は僕で準備されていた朝食を静かにとる。

朝食を終えた僕は、程無くして、散歩に出かける事にする。

せっかく幸せそうにしている二人に、水を挿すのも野暮と言う物だろう。

上着を着て玄関を出た僕は、空を見上げ、何時もと変わりの無い青空を見る。

この空は、もしかしたら、町の結界でもある美姫の心その物なのだろうか?

そんな漠然とした事を考え、美姫の幸せそうな笑顔を思い出す。

ならば、青空である事、それも良いだろう。

そして僕は、取り合えず歩きだし、秋の晴天を楽しむ事にするのだった。








とりあえずの一休みです。もう少し続きますのでここまで読んでくださった方、引き続きよろしくお願い致します。

蛇足ではありますが、もし、もし、ビジュアルを見たいと思ってくださった方がいらっしゃった場合は、(lunatan.com)で御検索なさると、10年前より時が止まった彼らを見ることが出来るかも知れません。※推奨ではありません。

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