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お祭り

 あれからどれだけの時間が経ったのかしら?


 私はロックベルク家の屋敷の地下牢に幽閉されている。


 誰かの足音が聞こえるわ。


「良くもやってくれたな」


 ジーライが現れる。


「あら、怪我はもう大丈夫なのですか?」


「いい気になるなよ。お前が勝てたのは偶然だ」


 何を言うかと思ったら、そんなこと?


「なるほど、お兄様の実力は偶然で、女にすら負ける程度ということですね?」


「!!!」


 ジーライは顔を赤くする。


「少し教育してやる」


 ジーライは牢屋の鍵を開けた。

 そして、私に襲い掛かる。


「どうだ、これが男の力だ。抵抗できないだろ!」


 私は両腕を掴まれる。

 確かに抵抗できなかった。

 純粋な力では男に勝てない。


「くだらないわね」


「なに!?」


「こんな力を誇示するなんて、ただの獣だわ」


「…………生意気な妹に少し教育が必要だな」


 私は壁に叩きつけられる。

 服を破かれ、肌が露出する。

 それでも私は表情を変えなかった。


「少しは恥じらったらどうだ?」


「獣に見られたぐらい、何とも思わないわ」


「こいつ…………!」


 首を掴まれる。

 苦しかったが、声は挙げなかった。

 この男の喜ぶことは何一つやるつもりはない。


 今度は頭から地面に叩きつけられた。

 意識が飛びそうになったが、寸前で持ち堪える。


 朦朧とする視界でジーライを見るとズボンを脱いでいた。


 えっ、そんな、まさか、そんな事しないわよね?


「本気? 私は妹よ?」


 ジーライはニヤリと笑った。


「やっと焦った表情になったな。俺は獣なんだろ? ちょっと噛み付かれた思えばいいんじゃないか」


「来ないで!」


 牢屋の中を逃げ回るがすぐに捕まり、押し倒される。


「男を馬鹿にした報いだ!」


 冗談じゃない!


 兄の、こんな男のものなんて受け入れたくない!!

 どうにかして…………


 私はジーライのズボンが目に入った。

 ズボンの傍に剣が転がっている。


 迷いはなかった。

 剣を手にし、ジーライを刺した。


「なっ…………?」


 剣は深々とジーライの腹部に刺さった。


「不意打ちでごめんなさい。お兄様」


 剣を引き抜く。

 返り血を浴びる。

 生暖かくて、独特に臭いがした。


 それに腹部に剣を突き立てた時の感覚は何とも言えないものだった。


「これが人を刺す感触なのね。なんて、気持ちいのでしょう…………」


 私の中で何かが弾けた。 


「誰か、助け…………」

 

 ジーライは這いずりながら、牢屋の外に出ようとする。


「その傷じゃ、もう助からないわよ?」


 私はジーライの首に剣を振り下ろした。


「がっ…………!」


「骨で止まってしまったわ。前に見た公開処刑の時は、奇麗に首が飛んでいたのにコツがいるのかしら? 

それとも単純な腕力の無さかしら? …………うーん、やっぱり骨は斬れないわね。それにもう動かないし、つまらないわ」


 私は牢屋から出た。


「さて、一族殺しは死罪よね? なら、何人やっても関係ないわ。でも、鉄の剣って重いのね。振るのが大変。そうだ、良いことを思いついた。丁度、お腹も減っていたし…………」


 どうせ破滅するなら、最期は楽しいお祭りにしましょう。

 地下から上がると星がとても奇麗な夜だった。


 私は厨房に向かった。


 その途中で二人の使用人に目撃される。


 私の姿が異常だと思ったのでしょうね。

 叫ばれそうになったので、一人を殺してしまった。

 でも、もう一人には逃げられちゃったわ。


「残念……それにしても酷いわ、お兄様。私の服を破くなんて…………」


 私は裸、それに肌は返り血で真っ赤。


 服を取りに部屋に行きましょうか?

 いえ、そんな時間はないわね。


 逃がした使用人がお父様に私のことを知らせているはず。


 私は急いで厨房に行き、見つけた肉に齧りついた。

 久しぶりの肉はとても美味しい。


 そして、厨房で包丁を見つける。


「うん、こっちの方が使いやすいわ」


 厨房に火を付けて、私は屋敷を走り回る。

 出会った人間を手当たり次第に殺した。


 包丁が肌を破り、肉に突き刺さる感覚は病み付きなる。


 そして、ついに私はお父様を見つけた。


「どこに行くのですか、お父様?」


 私が声を掛けるとお父様は驚いていた。


「プリシア、お前は一体…………」


「ああ、これですか? 酷いんですよ、お父様、聞いてください。お兄様が私を犯そうとしたんです。だから私…………殺しちゃいました。もう助からないくらい血を流しているのに助けてなんていうからおかしくておかしくて…………でも、人間の首って中々落とせないんですね」


 お父様の頬がピクピクと痙攣した。

 顔は怒りで真っ赤になる。


「…………この火事もお前がやったのか?」


「はい、ここに未練は何もありませんから。お腹が減っていたので厨房でご飯を食べた後、火を付けました。けど、あんまり火が広がらなくて残念です。もっと派手に燃えると思ったのに…………お父様、私、強い男と戦ってみたいんです」


 私は両手に包丁を構えた。


「鉄の剣は重くてあまり好きになれません。こっちの方が使いやすいです。試しに五人ぐらい殺ってみたんですけど、良い感じでした」


「…………剣を貸せ」


 お父様は衛兵から剣を受け取る。


「お父様、あなたはお兄様よりはるかに強い。私の最期の相手に相応しいわ! 男の強さを私に教えてください!」

 

 飛び掛かり、攻撃をするけど、冷静に捌かれてしまう。


「まるで獣だな」


 お父様は私を斬りつけた。

 傷は浅いけど、肩から出血する。


「強いですね」


 殺せるかもしれない。

 殺されるかもしれない。

 この感覚がたまらないわ!


「…………もし、お前が男なら歴史に名前を残していたかもしれなかったな」


 多分、それはお父様から私への最初で最後の褒める言葉。


「別に男とか、女とかは関係ありません。今からでも遅くありません。今回の件を不問にして、私をロックベルク家の当主にして頂けませんか? 必ず軍神や武神の地位に就くことを約束しましょう」


「馬鹿を言うな。所詮、女、人の上に立つことは出来ない」


「…………そうですか。結局、最後まで私たちは分かり合えませんでした」


 私はもう一度、斬り込んだ。


 傷は増えていく。

 攻撃は当たらない。

 それでも楽しかった。

 

 もう少し、もう少し、と戦いを楽しむ。


 それに何となくだけれど、今度は躱せそう。


 お父様の攻撃に合わせて体を捻って、ギリギリで剣を躱す。

 そして、包丁をお父様の胸に突き刺した。


「プリシア、お前は…………」

 

 お父様は吐血し、動かなくなった。


「さようなら、強いお父様…………ああ、気持ちいい…………こんなの初めて…………ねぇ、あなたたちも私を楽しませてくれるかしら?」


 体がとても熱い。


「ひ!」


 衛兵たちは逃げ出す。


「待ちなさい。男なんでしょ? 正々堂々、私と戦いましょう!」


 私は欲望のままに殺戮を繰り返した。

 十人までは覚えていたが、それ以降は数えるのが面倒になった。


 夜が明ける頃、標的を失い、近くにあった壁にもたれかかる。

 持っていた包丁は二本とも刃が潰れていた。


「楽しかったわ…………」


 私は満足して、そのまま寝てしまった。


読んで頂き、ありがとうございます。


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