決勝戦
決勝戦、観客は大盛り上がりだった。
昨年の優勝者のジーライ・ロックベルク。
今大会を圧倒的な力で勝ち上がってきた謎の仮面剣士。
話題としては最高だった。
私も楽しみ。
兄にどんな恥をかかせようか、と考えると笑いが込み上げてくる。
ジーライは目で「分かっているな」と語りかける。
私は剣を構えた。
ジーライは自分の思い通りになると思って、笑った。
試合開始の笛が鳴る。
それと同時に私は斬りこんだ。
「は?」
私の一撃でジーライは仰け反った。
不意打ちに近い一撃を防げたのはジーライの技量ではない。
私が手加減をしたからだ。
一撃で終わらせるつもりはなかった。
この男には惨めな負け方が相応しい。
「ど、どういうつもりだ!?」
「気が変わったから、正々堂々と戦いましょう」
「は?」
「あなたは強いのでしょう? 実力を見せてくれるかしら?」
「お前…………上等だ。後悔するなよ!」
ジーライの動きはとてもゆっくりに見えた。
「ギーヴァの方が強かったわね」
こう受けたから、こう反撃が出来るわね。
この場合はこうすればいいのかしら。
ジーライの動きは酷く稚拙に思えた。
それにずっと見て来たジーライの動きの癖は知り尽くしている。
負ける気がしなかった。
私はこの一年、剣を振り続けた。
今日一日で対人戦を学んだ。
初の実践でここまでの力量を示す天賦の才があったことは、自分でも認める。
それを後押ししたのは好戦的な性格。
そして、男に対しての反抗心。
初め、盛り上がっていた会場は静まり返っていた。
すでに勝敗は明らかだった。
それでもまだ止めを刺すつもりはない。
もっと虐めたい。
「どういうつもりだ?」
「昨年の優勝者の実力がこの程度ではないわよね? 早く本気になってくれません」
その一言はジーライを自尊心を酷く傷付けた。
「嘗めやがって!」
ジーライは突っ込んできた。
私はそれを簡単に受けて、ジーライを弾き飛ばす。
「こいつ……!」
ジーライはまた突っ込んできた。
もう飽きたわね。
さすがに終わらせましょう。
上段から剣を振り下ろして決着するつもりだった。
しかし、ジーライの動きは私の予想を超えていた。
「えっ…………?」
転んだ時にジーライは砂を掴んでいた。
私に砂を投げつける。
思わず、目を閉じてしまった。
「覚悟しろ!」
ジーライが襲い掛かる。
私はその一撃を受けてしまった。
衝撃で仮面が割れる。
「お前は…………」
ジーライは驚く。
「これが正々堂々ですか? お兄様?」
仮面の破片が額を傷付けて、血が流れるが、気にならない。
私が睨みつけるとジーライは動揺した。
「だ、黙れ! 女の分際で武闘大会に参加するなんて身の程知らずが!」
「ええ、私は自分の身の程知らずを自覚したくて、大会に参加しました。男性の強さを感じ、改めて尊敬する為に、と思ったのですが、どうでしょう? ほとんどの男は大したことはあったですよ。お兄様を含めてね」
「お前…………!」
「それどころか、お兄様は卑怯ですね。剣で戦う武闘大会で砂を投げつけるなんて、いくら弱いからって、そんなことをするなんて恥ずかしくないんですか?」
私は不敵に笑う。
バレてしまったものはしょうがない。
「もう終わらせましょう」
私は全力で剣を振った。
ジーライは全く反応できない。
私が剣を止めたのはジーライの顔が腫れ上がり、気を失った時だった。
戦いが終わり、優勝者が決定したのに歓声はなかった。
あまりに一方的な決着だった。
「動くな!」
私は駆けつけた衛兵に囲まれた。
その後ろからお父様も現れる。
その顔は怒りで真っ赤だった。
「なんで私は囲まれているのかしら? 武闘大会の優勝者よ」
私は不敵に笑って見せた。
「黙れ! 女を優勝者にするわけにはいかない。参加権を剥奪する!」
「お父様、ロックベルク家の跡取りは考え直した方が良いのでは? そんな弱い男より私の方が良いと思います」
私は衛兵に担がれて運ばれていくジーライに侮蔑の視線を向けた。
「黙れ! 女は男に従っていれば、良いのだ!」
「弱い者に従うな! それがこの国のしきたりですよね!? なら、私は男に従いません! 私は強い!」
「お前は…………こいつを拘束しろ!」
反撃…………は止めましょう。
武装した兵士に囲まれたこの状況で戦って勝てる見込みはないわ。
「お父様、男って大したことないんですね」
連行される寸前、私は不敵に宣言した。
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