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エラン・ギーヴァ

 トーナメント表はジーライの言った通りになった。

 私とジーライは真反対、決勝戦で当たる。


 それに分かったことがある。


 ジーライの方は親の七光りで予選を免除された者ばかりだった。

 そして、家柄はロックベルク家が一番上。


 ロックベルク家に逆らえない。

 つまりは茶番だ。


「まぁ、いいわ、私は戦いを楽しみましょう」


 本戦に出て来た剣士は、予選より強かった。 


 初めて打ち合いを経験した。

 そして、戦っているのが楽しかった。


 一回戦、二回戦、三回戦と順調に勝ち進んでいく。

 準決勝で、私は初めて苦戦をした。

 激しい打ち合いになった。


 対人経験のない私に戦いの中での細かい駆け引きは出来ない。


 だから、守勢に回らなかった。

 攻めることに活路を見出す。


 私は何度、攻撃を受けても倒れなかった。

 最後には相手の剣を飛ばして、決着する


 準決勝が終わった後に対戦相手から握手を求められた。


 私はそれに応じ、「名前を聞いてもいいかな?」と尋ねる。


 この大会に出て、初めて個人に興味を持った。


「エラン・ギーヴァだ。君の名前は?」

「僕は…………ラング」


「ラングか、多分、君がこの大会で一番強い。君と戦えたことを誇りに思う」


 ギーヴァは控室まで付いてきた


「なに?」と不愛想に答えると、ギーヴァは笑顔で、


「俺は医学の知識があるんだ。ちょっと見せてもらっても良いかな?」


「……分かった」


 言われるがまま、腕や足を触らせた。

 なぜか、ギーヴァは他の男たちとは違う気がした。


 って、それは私を男だと思っているからよね。

 私が女だと知れば、すぐに態度を変えるわ。


「うん、骨は折れてないね。決勝戦は戦えそうかい?」


 ギーヴァは笑った。


「戦えるよ。…………で、手加減した理由を聞いてもいいかな?」


 ギーヴァは少し驚いたようだった。


「気付いていたとは驚きだな」


「私があれだけ無防備に突っ込んだのに頭とか渠とかを狙ってこなかった。さすがに気付くよ」


「なるほど君は頭も言いようだ。戦闘に関しては天武の才があるな。……理由は簡単さ」


 ギーヴァはスッと私に近づき、仮面を取った。


「俺は女を痛めつける趣味はない」


「返しなさい!」


 慌てて仮面を取り返し、顔を隠した。

 しかし、もう遅いことは分かっている。


「中々に可憐な子だな。背丈が高いからもう少し大人っぽいと思っていたが、なるほど俺より年は下らしい」


「大会の運営に言う気?」


 ちょっとだけ気を緩めていた。

 その油断を悔いる。

 負けるなら仕方ない。


 しかし、こんな結末は望んでいなかった。


「そんなつもりはないさ。決勝戦、頑張れよ」


「は?」


「だから、頑張れよ。応援している」


 それを聞いた瞬間、私は笑っていた。


「どうしたんだ、急に?」


「だって、あなた、女の私に頑張れなんておかしいわ」


「そうかな? おかしいのはこの国だと思うけど」


 ギーヴァは声を低くしたが、その声は良く聞こえた。


「……あんた、とんでもないこと言うわね」


「とんでもないことをしている君に言われたくない。俺はこの国の二つの制度を失くしたい」


「二つ?」


「男尊女卑と奴隷制度だ」


「夢物語ね。奴隷制度は国の基盤になっているわ。この国は決して恵まれた土地じゃない。他国へ侵攻し、奪わなければ、忽ち弱体化する」


 王国の領内には農業に適した土地は少ない。

 国内だけで食料を賄うのが難しい。


 他国に侵略して奪うしかない。


 だから、大陸最強の軍事国家となった。

 強い者が弱い者を支配する。

 この国の国家思想になった。


「男尊女卑も無理ね。だって、女は弱いもの」


「君は強いじゃないか」


「私は例外よ。でも、この国がいけないのは男が乱暴なのもあるけど、女が黙って支配されているのも原因だわ」


「だから、君は戦うのか?」


「分からないわ」


 男より強くなりたいと始めた剣の修行。

 その力を試す機会が欲しくて、武闘大会に参加した。


 戦いは楽しい。

 女が弱くないことを証明する。

 そのことをすっかり忘れていた。


「良ければ、君の本当の名前を聞いても良いかな? ラング、なんて偽名だろ?」


「…………いいわよ。楽しかった戦いと秘密を黙っていてくれるお礼に私の名前を教えてあげる」


 私はギーヴァの耳元に近づき「プリシア・ロックベルク」と告げた。


 私が接近するとギーヴァは焦って、顔を赤くした。

 

「あら、可愛い顔をするのね」


「それは君が突然…………んっ? ロックベルク? じゃあ、決勝の相手は…………」


「私の素晴らしい兄上様よ」


 私はそれだけ言うと去っていく。

 決勝の舞台へ向かった。

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