プロローグ
この物語はおそらくフィクションです。
何かに促されるように空を見上げた。
見上げると、ほんのりオレンジに色づいた空にイワシ雲。それを分断するかの様に、一筋の飛行機雲が貫いて行く。
何かを主張するかの様に。
しかし、それは全く無意味な事だということに飛行機は気づいてはいなかった。
イワシ雲にとっては、なんら痛くもかゆくも無いからだ。さぞかしこのきれいな、少なくとも地球上のこの雲が見える所にいるヒトから…、いや、この雲の存在に気付いたヒトから見ればさぞかし美しい夕焼けになるはずなのに。。
ひょっとしたら、多摩川の土手を散歩しているヒトが、この夕焼けを見て今日あったイヤな出来事を水に流がし明日への活力を得られるかも知れないのに。。または、野良犬が夕陽に向かってバカ野郎と吠えているかも知れないのに。もしくは、余命4ヶ月の花婿が人生の、いや生命のはかなさと力強さを同時に、いやが上にも悟らされているかも知れないのに。…くらいにしか、思ってなかった。
それなのに、飛行機は、いや飛行機を操縦しているパイロットはきっと満足げに、その様々なヒトや野良犬にとっては神聖な風景であるオレンジ色に染まる空に、きれいな一筋の飛行機雲を描いている訳である。
……少なくとも地球上に降りたって間もない、飛行機とは何なのか、イワシ雲とは、多摩川の土手とは、余命4ヶ月の花婿?余命3ヶ月の花嫁ではなかったのか?または野良犬とは何なのかを大量に刷り込まれた情報としか認識出来ていない、TUkにとっては、少なくともそう思えたとりとめもない現象に過ぎなかった。