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愛と毒が殺す世界  作者: 仲島 たねや
第6章 光に呑まれる物語
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光に吞まれる物語⑥

 毒の子との攻防が続く。


 重傷を負いながらもよくぞここまで動けるものだ、とウェルトは半ば呆れ、そして感心もしていた。剣の技術、体裁き、呼吸の仕方に至るまで、ウェルトをすべて凌駕している。努力だけではたどり着けない境地に毒の子は達している。きっと良い師にでも恵まれたのだろう。


 しかし、負けてはいられない。加護を使っての牽制、防御、攻撃手段の増加など、やれることはすべてやる。


 それでも、追い込まれているのが現状だ。


 ウェルトは一旦距離を離そうと考えた。空間の歪を使い、攻撃を仕掛けるとみせかけて、大きく後ろに跳躍しようとした。しかし、刀身が現れるかもしれない空間の歪に、あろうことか毒の子は剣を捨て、そのまま手を突っ込んできた。まずい、と思ってももう遅い。ウェルトは毒の子に手首を掴まれ、腕を思いっきり引っ張られる。さらには指を折られ、剣も奪われた。


 ウェルトの手首から先が無くなった。


 痛みを誤魔化そうと出せるだけの大声を出した。だけど一向に痛みは誤魔化されてはくれない。これほどの痛みを背負って、今まで毒の子は戦ってきたのだろうか。半ばあった呆れは無くなり、ウェルトは感心することしかできなかった。


 毒の子が肉薄してくる。案山子が意思を持てば、きっとあのような動きになるに違いない。片足で動くにしてはあまりにも速すぎる。


 そしてウェルトは目を疑った。自分がいる場所と、迫ってくる刀身との間に、一人の少女が滑り込んできた。刀身はそのまま少女の腹に刺さる。赤い液体が飛び散り、毒の子全身を汚す。


「がああああああああああ!」


 どのような傷を負ったとしても、悲鳴の一つすらあげなかった毒の子が、自らの体を抱き込むようにして、倒れ、苦しみ始めた。


 目の前の少女——リリアが、地面に吸い込まれるように倒れていく。ウェルトはそれを支えようと手を伸ばすが、支える手はすでに無く、水音とともにリリアは地面へと叩きつけられた。


「リリア!」


 ウェルトはひじの裏を使い、リリアの頭を起こしてやった。リリアの震える唇が、僅かにぱくぱくと動く。何かを話そうとしている。ウェルトはまだ斬られていないほうの手で、体温が失われていくリリアの手を握り、耳を澄まして小さな声を拾おうとする。


「…………めんね…………緒にいけな……」


 途切れ途切れではあったが、言わんとしていることは大体わかった。


「謝るなよ。きっとこれぐらいの傷は治るから。治ったら、また一緒に旅をしよう。ラアナのことを覚えててやるんだろ。ええと、あとそうだ、この旅が終わったら、一緒に軍を辞めて、パン屋を開こう。ずっと夢だったって前に話したよな。今は従業員がいないから、副店長にしてやるよ。な、いい条件だろ。それと、それと……」


 死にゆく彼女にもうかける言葉が見当たらない。気の利いた台詞の一つでも吐ければいいのだが、どうにも自分にはこういったことは苦手らしい。エルレグの話を真面目に聞いていれば、それを参考にして何かしらの良い台詞を思いついたかもしれない。しかし借り物の言葉に意味なんてない。不器用だけれど、自分の言葉で、自分の気持ちを正直に言おう。


 君が好きだから、これからも一緒にいたいのだと。


 このまま終わるのは嫌だ。何も伝えずに最後を迎えたくない。


「俺はリリアが——ッ」


 声が出せなくなった。


 ウェルトの喉を、ぎらつく刀身が貫いている。


 目線の先には赤い瞳。


 奴はリリアの毒を受けたのではなかったのか。毒の子の体を見てみると、明らかに出血の量が増えている。なるほど、毒というものは体内に侵入しなければ然したる効果をみせない。そのため、毒の子の体内に毒を侵入させるのであれば、多くついている傷口からが最も効率がいい。実際、リリアの毒は傷口から侵入していった。毒の子はその毒を、傷口から更なる血を流すことで血とともに強引に排除していった。


 毒の子の瞳がかすんでいるように見える。奴もそう長くは生きられないのだろう。


 ウェルトはリリアの決死の行動を、完全に無駄なものにしてしまった。情けない。敗北だ。リリアに構わず早くに止めを刺しておくべきだった。リリアのことを想うのであれば、それぐらいのことはしなければならなかった。


 結局、目の前の毒の子と自分は同じだったのだ。世界の終焉を憂うよりも、身近な少女のほうが大切で、そのためなら未来なんてお構いなしに動く。


 だけど最後くらいは格好つけさせてほしかったなあ、とウェルトは薄れゆく意識の中でそう思った。

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