1 はじまり、はじまり
「いっ、痛あああああい!!!」
不覚だ。めっちゃ不覚を取った。
アタイが、義賊『月光団』の女頭領たるこのアタイが、これしきの奴の攻撃を避け損なうなんて。
しかも頭にクリーンヒットだぞ。ありえないだろ。
仲間が「姐さん!!」と駆け寄ってくる。ああもう、本当に申し訳ない。
街をぶらぶらしていたら襲われている馬車を見つけて、勧善懲悪をモットーとする我々『月光団』は迷いなく助けに入った。かつては盗人集団として名を馳せたというが、当代ではそっち方面から足を洗っている善良な組織なもので。
味方は四人、敵は十人ほど。何ら問題ない。速攻でのしてやった。
ただ、最後の一人が少々手練だったらしい。いや、最後だからと気が抜けたのか。
とにかく、負けを悟ったこいつが悪あがきで放った捨て身の一撃が、アタイの頭を直撃したのだ。
(あーやばい、意識飛びそう)
今日はめでたくも十五歳の誕生日だっていうのに、なんつー誕生日プレゼントだ。
路上に倒れ伏しているが、頭からの出血は止まらないしズキズキ痛む。
エメラルダ王国王都に君臨する『月光団』の頭領がこのザマかよ、情けない。
……ん? エメラルダ王国?
アタイの脳内で何かのスイッチがかちりとはまった。
……エメラルダ王国って、『運命の愛は何度でも』の舞台じゃね?
その瞬間、脳内を光が走った。アタイのものではない誰かの記憶がどんどん流れ込んでくる。
(何だよこれは! というか頭痛すぎてもう無理!)
アタイは潔くすっぱりと意識を手放した。
必死に叫んでいた仲間たちよ、すまねえが許してくれ。
――結論から言うと、頭を打たれた衝撃でアタイは『前世の記憶』を思い出したのだった。