妖精のおくりもの
公式企画「冬の童話祭2020」参加作品です。
「ねえねえ、おかあさん、ちっちゃいあしあとがあるよ」
外に出てきた風花ちゃんが、隣にいるお母さんに言いました。
「あら、ほんと。かわいい足跡ね」
お母さんが答えます。お母さんも、まっしろな雪の上に残った小さな足跡を見付けたようでした。
「だれのあしあとかなあ」
風花ちゃんがつぶやくと、お母さんは
「きっと、冬の妖精さんよ」
と答えました。
「妖精さん?」
風花ちゃんが聞き返すと、お母さんは
「きっと雪を降らせたから、風花と雪遊びがしたくて、呼びに来たのよ」
と答えます。
「ふうかとあそびたかったの?」
風花ちゃんは残念そうです。
朝起きたら雪が積もっていたから、今日は幼稚園のお友達と雪だるまを作ろうと思っていたからです。
冬の妖精さんがどんな子かは知らないけれど、せっかく遊びに来てくれたのに気が付かなかったのが、風花ちゃんは残念でした。
「ようちえんにきてくれたら、いっしょにあそべるよ」
「冬の妖精さんは恥ずかしがり屋さんだから、幼稚園には行けないんじゃないかな」
風花ちゃんは、妖精さんが幼稚園に来てくれたら、みんなと一緒に遊べるかもしれないと思いましたが、お母さんからは無理だと言われてしまいました。
「はずかしがりやさんなの?」
「きっと、風花と2人で遊びたかったのよ」
「じゃあ、ようちえんからかえってきたら、あそべるかな?」
「そうね、じゃあ、待ってるって印を置いておきましょうね」
お母さんは、風花ちゃんといっしょに、お庭の雪で雪うさぎを作りました。
うさぎさんの目には、風花ちゃんが秋に拾ったどんぐりを使い、耳は庭のオリーブの葉っぱを使いました。
「妖精さん、みてくれるかな」
幼稚園のバスに乗りながら、風花ちゃんはお庭を振り返りました。
風花ちゃんは、幼稚園でお友達と一緒に雪だるまを作りましたが、お昼からおひさまが頑張ってしまったので、幼稚園を出る頃には、雪だるまは溶け始めていました。
おうちに帰ってきた風花ちゃんは、お母さんにただいまを言うと、妖精さんが来ているかな、と思いながら、お庭に行きました。
でも、お庭に置いておいた雪うさぎは2枚の耳だけを残して溶けてしまっていました。
「おかあさん、妖精さんきてくれなかった」
風花ちゃんが残念そうに言うと、お母さんもお庭にやってきて、溶けてしまった雪うさぎを見ました。
「あら、残念ね。また雪が降ったら、遊びに来てくれるかもしれないから、待ってようか」
「うん…」
お母さんに言われて、妖精さんを待っていた風花ちゃんですが、そのあと雪は降らず、妖精さんは来ないまま、春が来てしまいました。
そして、また冬が来ました。
少し大きくなった風花ちゃんは、今年も妖精さんを待っています。
でも、なかなか雪は降りません。
クリスマスイブになっても雪は降りませんでした。
「妖精さん、こないね」
風花ちゃんは残念そうです。
でも、次の朝。
「風花、雪が積もってるわよ」
起きてきた風花ちゃんに、お母さんが声を掛けました。
「妖精さん、来てくれたかな」
大喜びでお庭に出た風花ちゃんは、何か見付けたようです。
それは、去年、雪うさぎを置いた場所にありました。
小さな小さな雪だるまです。
うっすらと積もった雪の上に、小さな足跡と雪だるまがありました。
雪だるまの鼻は、どんぐりでできていました。
「妖精さん、また来てくれるかな」
妖精さんには会えませんでしたが、風花ちゃんは嬉しそうです。
だって、去年妖精さんが持っていったどんぐりは、もう1個あるんですから。