1-4話 冒険者ギルドに帰ってきました
夕日が沈む中、速足に門へと向かう。
到着するころには門番が門を閉めようとしているところだった。
「お、お疲れさん。二人とも」
「あ疲れ様です。門番さん」
イルミが返事をし、俺も軽く会釈する。
「二人とも無事でよかったよ。あの辺はそこまで狂暴な魔物はいないけど、危険がないわけではないからね」
「そうですね。始めは緊張していましたよ」
「冒険者に危機管理は必須だからな。これからもその調子でな」
「はい、ありがとうございます」
軽く話し、その場を離れる。
通りは人がまばらになり、そこかしこにいい匂いがしている。
「腹減ったなぁ」
「ほんとねー。早く戻りましょっ!」
二人して頷き、赤レンガの建物に入る。
中に入った途端、ふわっとした香りが鼻孔をくすぐる。
「あ、これは、シチューか?」
「後、オムレツもあるみたい」
リルムは宣言通り夕飯を作っていたようで、すでにテーブルには料理が並べられていた。
鍋からと思われる香りからシチューと予想し、テーブルには色とりどりのサラダやオムレツ。
フランスパン等が並べられていた。
「うわぁ。おいしそう……」
思わずといった感じで呟くイルミだが俺も同じ意見だった。
厨房と思われるところからリルムがひょこっと顔を出す。
「おかえりなさい。ヨキさん、イルミさん」
「「ただいま」」
「お腹へったでしょう? 座って待ってて下さいね。すぐ準備できますから」
俺たちは大人しく待っていると、リルムがてきぱきと配膳する。
その数、3人分。
はて、と思っていると、リルムも同じテープルの一角に座った。
「今日のお客さんはヨキさん達だけなの。一緒に食べてもいいですか?」
「もちろん」
そう頷くと、リルムは笑顔を浮かべる。
一方のイルミは疑問があったようで、念のためのように聞く
「他の人はいないの? 両親とか」
「両親は今、ちょっと出かけてるの。後、1か月は帰って来れないと思いますよ」
「え、それ大丈夫なの?」
一転して心配そうに聞くイルミ。
確かに女性の一人暮らしは、いくらギルド内とは言え危険だと思う。
というか、イベントの始まりとかに利用されそうだ。
しかし、リルムはいたずら顔で話す。
「私、こう見えて魔術師の学園卒業生なのよ。だから荒事があっても対処はできますよ」
「はぁー。なるほど。それで余裕があるわけだ。俺たちよりも強いまであるな。それ」
「私も魔術覚えようかしら」
「魔術も素養があれば比較的簡単に覚えられますから。冒険するのにも便利だと思いますよ」
なるほど、この世界でも魔術は相当優秀な物であり、同時に使い勝手もいいものなのだろう。
切り札にもなりうるし、出し惜しみしないで普段使いができる部類。
イルミも言っていたように、そのうち魔術を覚えるのもいいのかもな……
そんなことを思いながら、一口、シチューを口に運ぶ。
ふわっとした優しい甘みが口に広がる。
「うわ……おいしいな、このシチュー」
「本当ですか!? 頑張った甲斐がありました!」
嬉しそうに微笑むリルムに頷き返し、あっという間に食べきってしまった。
イルミもまったく俺と同じで、二人同時に
「「ごちそうさまでした」」
「おそまつさまでした」
はもるように言う俺たちに、声を返すリルム。
腹が減っていたのもあるが、本当においしかった。
それに三人で食べる食事というものもいいものだな、なんて思う。
両親は共働きの上、夜遅くまで働いているから、一緒に食べることはない。
妹もいるにはいるが、そっちも反抗期なのか最近はろくに話していない。
そういう意味でも、二人と話しながら食べるのは楽しかった。
それに五感完全再現というのがよくわかる。本当に食べたとしか思えなかった。
これでリアルでは食べていないのだから、確かに長時間のプレイは危険かもしれないな。
一時間制限があって良かった。
「はあー。食べちゃったなー。太りそう」
「大丈夫でだと思いますよ。それだけ動いているんですから」
イルミの言葉に、苦笑しながら答えるリルム。
そして、思い出したのか、ぽんと手を叩く。
「あ、お風呂も沸いてますよ。イルミさん先に入ったらどうですか」
「あー助かるわ。……ヨキ、念のため言っておくけど覗いたら駄目だからね」
「するか! というかできるか! 後が怖いわ」
「怖くなければいいんだ」
「そういう問題じゃない!」
「わかってるって」
全く、という感じで肩を落とす俺に対し、
イルミもクスクスと笑いながら、風呂場へと姿が消えた。
その場には、俺とリルムが残ることになる。
まあNPCなんだし、気にすることはないのだけれど、人として扱った方がいい以上無視するのも問題か。
そう思っていると、そのリルムはすでに食器を片付け始めていた。
……とりあえず手伝うか。
そう思い、食器を手に取り運び始める。
「あ、ありがとうございます」
「まあ、お互い様だな」
今夜は俺たち二人しかいないからこそできる事でもある。
今後PCが増えると、特定のPCを優遇とかできないだろうし、俺たちもこういうことができる時間ができるとは限らない。
今のうちに好感度を上げておくのもいいだろう。……まあそんなものがあればだが。
そのまま、食器洗いを隣通しでしていると、ふと、リルムが呟いた。
「私、少し浮かれているかもしれませんね」
「? どういう事だ?」
その言葉の意味が分からなく。素直に聞き返すことにする。
一方、リルムは少し恥ずかしそうに頷くと、言葉を続ける。
「二人が無事に戻ってきてくれて嬉しいんですよ。冒険者は危険なことが多いですから」
「あ、なるほどな……」
正直、ゲーム内で死んだところでリスポーンできるわけで、その辺の感覚はなかった。
とはいえNPCとしてはそんなことは知らないわけで。
そりゃ心配もするか。
「ま、今後も必ず帰れるように気を付けるさ。当たり前だが」
「本当に、そうして下さいね。帰ってくるの待ってますからね」
「ああ、約束するさ」
そう言って、後は二人とも沈黙する。
……まあ、そんなに悪い沈黙ではなかったはずだと思う。