1-3話 初戦闘は地味でした
門をくぐり街道へと出る。
表示は比較的安全を示していたが、同時に武器装備推奨エリアとの表示も出る。
素早く装備欄を起動し、手持ちの片手剣を選択すると、利き手に武器が装備された。
一瞬で装備できることで、これがゲームであることを認識でき、なんとなく安堵した。
同様に盾や鎧も装備する。
武器の重さは実装されている。その重量感を体感することになり、そのずっしりとした重さに驚きを覚える。
戦闘について考えてみるが、戦闘用の特殊スキルは覚えていない以上、普通に体を動かすだけか。
……それより戦闘は完全なマニュアル操作なんだろうか。剣なんて扱ったことないぞ?
これまでやっていたVRMMOでも完全マニュアル操作は存在するが、
難しすぎてそのモードを使用する人はいなかった気がする。
ふと隣を見ると、イルミも同様に弓を装備していた。
何回か動作を確認しているようで、それが終わるとこちらへと向き直る。
「配信しながらだと、緊張するね」
「初配信、初見のゲームだからなぁ。失敗して当然だぞ。それよりもまともに攻撃できるか心配だよ」
「ま、そうだけどね。軽く振った感じ、補正的なものはないみたいだし」
『ああ、行動補正が必要だったら各スキルを伸ばすのが手っ取り早いのじゃ。
まあ、その道のプロが使うなら、スキル関係ないのじゃ。逆に補正が邪魔な場合は使用しないこともできるのじゃ』
「あー、あのスキルレベルはそういう意味か」
「なるほどね。スキルレベル1だとほとんど補正が掛からないのね」
『戦闘用の特殊スキルはまた別にあるのじゃ。同様に魔術も追々じゃな』
「一辺に教わっても覚えきれないからな……それでいい」
そんなことを話しながら、マップを表示、目的の近場の森を目指す。
特に手入れがされていないであろう森が見えてくるにしたがって、
危険度レベルが上がっている。
「そろそろ、森に入るな。とりあえず俺が前衛、イルミが後衛だ」
「ま、そうなるわよね。矢が当たるといいけど。アーチェリーの経験しかないけど」
鼓動も若干跳ねている気がする。ゲームのはずなのにあまりにリアルな森の表現に、本物と錯覚しているようだった。
慎重に五感を使い、違和感を探す。
先に気づいたのはイルミの方だった。
軽く俺に触れ、視線で方向を示す。
そこには一匹の動物がいた。
見た目は大型犬ほどの大きさのウサギ。その爪は非常に鋭く、あれに攻撃されたらダメージは避けられないだろう。
念のため、表示を確認するが、明確に敵判定の動物だった。
俺はイルミにハンドサインを送り、彼女の射線を妨げないような位置に移動する。
イルミの方はゆっくり狙いをつけると、フッと吐息と共に射出した。
その矢は狙い違わずウサギの脳天に突き刺さり、そのまま動かなくなる。
「やった……?」
イルミの呟きを聞き、念のため俺はゆっくり近づき、剣で刺す。
反応なし。不意打ちでの一撃による戦闘終了。
初戦闘は思ったよりあっさり終わることになった。
イルミもこちらへと近づき、そのウサギを見下ろす。
「初戦闘は意外とあっさりだったなぁ」
「不意打ち成功したしね……。一匹だったし」
「しかし配信を考えると、戦闘の撮れ高0じゃないか?」
「毎回ドラマチックは勘弁して欲しいわよ。命がいくつあっても足りないわ」
二人とも緊張が解けたのは軽口を言いあう。
トレジャー権利はイルミに譲り、彼女が確保するまで待つ。
次に装備を点検していたイルミは少しだけ顔を顰めた。
「どうした?」
「このゲーム。武器に耐久度があるわよ」
「あー。そうなるとあまり連戦はできないか」
「この程度だと、微々たるものだけどね。そのうち予備の武器も必要そうね」
「これ自体初期の武器だし、とりあえず狩れるだけ狩って、それを元手に装備の購入が必要か」
「そうね。難易度は意外とシビアかもね」
どの程度かは手探りになるが、それこそ先行者特有の楽しみでもあるか。
「じゃあ、とりあえず慎重に倒していこうか」
「ええ、そうね。ここの魔物はウサギだけなのかな?」
『ここは、戦闘チュートリアルな場所だからのう。基本はあれだけじゃ』
「あ、なるほど……じゃあ、ちょっと変更。今度は俺が戦うからフォローよろしく」
イルミが頷くのを確認し、次の獲物を見つける。
俺は、あえて気づかれるように動き、ウサギの動きを観察する。
そのウサギはこちらを見ると、威嚇を始めた。
俺が、盾を前面に構えると、ウサギは唐突に突進してきた。
鈍い衝撃が盾越しに走る。
確かに痛みはないが、あたった感触はあった。
盾にぶつかってきたウサギを振り払い、そのまま剣を振り下ろす。
態勢を崩していたウサギは避けられず、直撃する。
……まだ生きている。
今度は盾のふちで殴打。その一撃で、ウサギは完全に動かなくなった。
今度はトレジャーを自分で受った。ウサギの姿は消え、ウサギの肉と爪がアイテム欄に入った。
「あ、フォロー必要なかったようね」
「まあ、思いのほか動きが鈍かったからな。……それに防具の盾で殴ってもダメージは入るようだ」
『硬いもので殴れば、当然じゃ』
「まあ、そりゃそうか。ゲームによってはその辺が違う場合もあるからな。念のための確認だよ」
そうして、慎重に進めた結果か、その後もさしたる問題もなく狩っていく。
夕暮れになるまでに20羽程度倒すことに成功した。
「……っかー!! 疲れたなー。それじゃ、この辺にして街に戻るか」
「ええそうねー。私ももうくたくたよ。」
スタミナの概念もあるようで、思ったよりも疲れを感じている。
ただ、こうして戦った成果もでている。
剣技能1→2 盾技能0→1
へと上がっていた。
ステータスが一切上がっていないことが気になるが、そこは後で確認することにする。
ああ、腹が減ったな……というか、ゲームの中なのに腹が減っているのは何故なんだろう。