1-1話 初めての街に着きました
目を開けるとそこは森の中だった。
後ろを振り向くと、そこにはゲートのような建築物がある。
どうやらそこから出現したという演出のようだった。
視界の隅に自分のパラメータが表示され、注視すると表示が拡大される。
この仕様は便利ではあるが、誤爆しないか心配でもある。
実際にやってみてそこらへんは調整か。
さらにもう一つ別の画面があった。
そこには配信中との文字と共に、俺のアバターらしき立ち絵と、目の前の景色が映されていた。
どうやら放送画面がそこに映されているようだった。
「ミリン、聞いているか?」
『なんじゃー?』
ミリンに呼びかけると、姿こそ見えないが、声だけは返ってくる。
「もうライブ配信中なのか?」
『そうなのじゃ。まあ、時間のずれを利用して、ライブっぽい撮れ高抜粋配信になるのじゃがなぁ』
「なるほど」
『もちろんプライバシーに関わる部分は優先して削除するので、そこは安心していいのじゃ』
「了解した」
配信初心者の俺でも取り合えず安心する。
細かい配信のイロハはミリンの方でやってくれているようだった。
このままライブ配信を続けつつ、まずは視界に入っている街を目指そうかと考えていると、
隣に立っていたミキ……いやここからはイルミに統一しよう。つい間違って本名を呼んだら大惨事だ。
ともかく彼女が声を掛けてくる。
「さて、まずはどうするの? ヨキ」
「……あ、俺のPC名か。そうだな、まずはあの街に行こうと思うが」
『あの町は、レストア共和国の首都、レストアじゃ。基本的には始まりの街になるのじゃよ』
配信画面には動くミリンの画像が視聴者向けに解説している。
俺としては楽でいいが、先に俺たちにも説明して欲しい。
「始まりの街か。ならあそこに行くのは決定だな」
「そうね……。何をしてもいいと放りだされるとそれはそれで困るわね。何か指針的なものはないの?」
『プレイヤーは冒険者という立場じゃからな。まずは冒険者ギルドで登録することをお勧めするのじゃ』
「わかった」
まあ、ちょうどよい初心者用配信になりそうだ。と思うことにする。
俺たちは一言告げると、街の門へと向かった。
中年くらいの門番はいるが、特に検問というわけではなさそうだった。
俺たちを見かけても特に警戒してもいない。
ゲームだけど声を掛けた方がいいのか迷っていると、先にイルミがてててっと兵士に駆け寄ると声を掛けた。
「こんにちわ」
「おや、こんにちわ。冒険者さんとは珍しいね」
「珍しいんですか?」
「最近は冒険者になりたい人が減っちゃってね。最後に見てから3週間ぶりだね」
「へー。そうなんですか」
「街道を外れなければ最近は安全になっているから。冒険者自体の需要が減ってる影響かもしれないね」
「確かにそうですね。私はなりたくてなったタイプだからそこまで考えてなかったです」
「まあ、まだまだ未探索な場所は多いから。危険だけどちゃんと冒険すれば富や名声を得られる可能性はあるよ」
「なるほどなるほど……。あ、そうだ! 私たち、初めて来たんです。この町の冒険者ギルドってどこにありますか?」
「へぇ。君、若いわりにしっかりしているね。この道をまっすぐ進むと左手に赤レンガの建物が見える。そこが、冒険者ギルド『蒼い稲妻亭』だ。宿屋も兼用になっているから金があるならそこで泊まるといい」
「何から何までありがとうございます。助かりました」
「どういたしまして。私でよければ気軽に聞いてくれていいよ」
イルミが兵士にペコリとお辞儀をして俺の所に戻ってくる。
「それじゃ、いこっか?」
笑顔で話してくるイルミに俺は思わず苦笑する。
「相変わらずコミュ強だなぁ」
「ヨキが陰キャなだけでしょ? まあ女性に対してはコミュ強になるけど」
「彼女作りたいからこれでも頑張っているんだ。……うまくいったことは一度もないけどなぁ」
「どうしてだろうね?」
イルミがくすくすと笑いながら隣で並んで歩く。
「そういうイルミは彼氏できたのか?」
「残念ながら。ゲームの方が楽しくて彼氏作る気が起きないのよね」
「彼氏作って一緒にやればいいだろう」
「ヨキみたいに私と同等にゲームできる人はそうそういないのよ」
「そういうもんかー」
「そういうものなの」
そのまましばらく黙りながら、付近を観察する。
その道は人通りが多かった。おそらく主要な道なのだろうと思うが、それでも人の多さに驚く。
ゲームとしてはここまでNPCを描画させる必要はないはず。生活感があふれる景色は一瞬でも自分がゲームをやっているという感覚を失わせそうになる。
「システムとしては相当高度だな……。ここまで自然だとリアルと遜色ないぞ」
「だよね。さっき話しててもゲーム特有の違和感全然なかったよ」
「これでシナリオも面白ければ本当に人に勧められそうだな」
「だねー」
そこまで話したところで、赤レンガの建物が見える。
そこの看板を確認し、二人で頷くと中に入ることにした。