0-2話 過疎ってるゲームだとわかりました
「呼ばれてきたわよー。って何、この状況?」
「おー。ミキ、あ、PC名はイルミだっけ?」
PC名をイルミにしたミキ。基本的な姿はリアルのミキと変わらない。
ブロンドの髪をポニーテールに結わいた髪型。
初期装備は弓だというのは見て取れた。
そして可愛さが、一段階上がっていると思うのは間違いじゃないだろう。
種族をエルフにしているのか、若干とがった耳になっているのが、現実感のない美少女感を出している。
このゲームグラフィックは凄いなあ、と思っていると、ミキから声が返ってくる。
「ええ、そうだけど……なんで、ナビゲーションAIが正座してるの?」
「ああ、ちょっと、このゲームの現状を聞いていてな?」
『うう……助けてくれなのじゃ……』
何やら哀願してくるミリンは無視して、聞いた内容を確認する。
どうやらこのゲーム、宣伝らしい宣伝を一切していないようだった。
雑誌掲載が俺が読んだ一回のみ。広告も特にせず、開発費に充てていたらしい。
新規メーカーの懐事情としては理解できる所でもあるのだが、
正直、過疎過ぎてMMOとしては致命的に思える。
「今、このゲームに登録しているのは俺たち二人だけらしい」
「……あー、なるほど」
それだけでミキも察したのか納得の頷きを返す。
「このゲーム、グラフィックは凄いのにねー。AIもまるで生きてるみたいだし」
「そうだな。実際やって見ないと面白いかはわからないけどな」
「とはいえ遊んでるのは私たち二人だけだとね……」
「まあ、この分だとNPC相手にしているだけでも十分楽しい可能性はあるけどな」
「収入がないとすぐサービス終了しちゃうものね」
『一応半年分の維持費は確保しているとは運営言っておったのじゃが』
「そこまでばらしていいのか?」
『事実じゃからのう』
せっかく面白そうなゲームが見つかったのにすぐ終わるのはなあ
そんなことを思っていると、ミキが俺に対しウィンクする。
そして、
「そうだ! せっかくだから私たちでゲーム配信してみない?」
ぱんっと両手を合わせ、いいアイディアが浮かんだとばかりに言うミキ。
俺たちが宣伝するか……悪くはないかもしれない。
まあ、ゲーム自体が面白いことが前提だが。
「あー。なるほど。そういう機能はあるのか? ミリン」
『確か、ないのじゃが……』
「ないのか」
『ちょっと運営に聞いてみるのじゃ』
そういって、再び運営に連絡をとるミリン。
その姿をミキはじっと見つめていた。
「こうしてみるとAIに見えないね。こっちのショウ・ユーも人間としか思えなかったし」
「だよな。これ、無名のメーカーが作ったとは思えないのだけどな」
ミキのネーミングセンスは俺と同レベルか……と思いつつミリンの動きを待つ。
しばらくて、通信を切ったのか、ミリンがこちらを向いた。
『とりあえず、今作るから待って。とのことじゃ』
「今作れるの?」
『うちの運営陣は優秀じゃからなぁ』
気持ち誇らしげに言うミリンに苦笑する。
しばらくしてポーンというサウンドと共に視界の隅に文字が浮かんだ。
『今、β版として二人に、配信機能および、V.アクション機能を追加したのじゃ』
「本当に早いな……」
架空のキャラを画面に表示して動画配信する機能の総称がV.アクションという言葉だった気がする。一種のなりきり配信のようなものだ。これなら個人情報を出さずに配信できるので気軽に挑戦できる機能だった。
『ゲーム内とリアルでは時間の流れが違うからのう、編集しつつほぼリアル放送が可能なのじゃ』
「へぇ。そうなんだ。私一度、V.アクションやってみたかったのよねー。楽しみね」
ミキの方はというと、この状況を楽しんでいるようだった。
『ま、とりあえずはゲームを体験してみるのじゃ。すべてはそれからなのじゃ』
「わかった。じゃ、ゲーム世界へログインするぞ」
「オッケー」
ミキの気楽な返事に頷きを返してログイン操作をする。
視界が光に包まれるような感覚を得ながら。ふっと意識が途切れた。