0話 新作MMOで遊びます
『ダイブ型VRMMOで肉体改造しよう!』
ゲーム雑誌で見かけた意味不明なキャッチコピー。
初印象といえば
「意味わからん」
の一言だったが、なんとなく気になり念のためゲームの発売日をチェックした。
基本フルダイブ型のVRMMOはベッドに寝ながら、もしくは座りながら意識のみで遊ぶタイプが多い。
どちらかというと運動不足になるタイプのゲームで一時期社会問題化していたようだった。
そのため、この手のタイプは1日1時間という厳しい制約が法律で課せられ、
各社体感プレイ時間の向上という形でプレイ時間の壁を突破するまで半ばタブー視されていたジャンル。
今は、その技術の難しさから大手のゲームメーカーのみがこの手のゲームを配信出来ていた。
しかし、このゲームは全くの無名のメーカー。そしてこのキャッチコピー。
その時は本当にプレイするとも思っていなかったし、あの時まではすっかりそのゲームの存在を忘れていた。
「おはよー! カリタ!」
「おほようミキ」
代り映えのしない登校風景。高校行くのだるいなぁと考えていると後ろから声を掛けられた。
俺はだるそうに振り向き、後ろから声を掛けてきた幼馴染に挨拶を返す。
いつものように腰まであるブロンドの髪をポニーテールに束ね、それなりに発育のよい体つき。
アメリカ人とのハーフでもある、学内でも結構人気のある美少女だ。
同時に重度なゲーマーでもあり、俺と今でも友人関係が続いているのは同好の士であることが理由でもある。
運動だってできるのに運動部には入らないのすら、ゲームをやる時間が無くなるのが嫌だという理由なのだから困ったものだと思う。
まあ、俺としてはゲーマー友達がいるのだからミキには感謝しているのだ。
ともかく、俺は彼女が追いつくまで歩調を緩める事にした。
彼女と一緒に登校しながら他愛もない話をする。
「そういえばカリタは何か新しいゲーム始めないの?」
「そうだなあ。FF20はそろそろ飽きたし、新しいゲームするかな……」
「DQ18は?」
「もう配信4年目だろ? 今からじゃあ流石について行ける気がしない」
「じゃあ、新規配信ゲームでもやる?」
「そうだなあ……あ」
なんとなく彼女と話しているうちに不意に思い出す。
そういえばあの意味不明なキャッチコピーの新作が配信日を過ぎている事を。
不意に言葉が途切れた俺に対し、ミキは小首をかしげながら聞いてきた。
「何か思い出した?」
「ああ、そういえば3日前に配信開始したゲームがあったな、と思ってな。
なんでもキャッチコピーが『ダイブ型VRMMOで肉体改造しよう!』だったかな?」
「いかにもB級って感じがするわね。ネタになりそうだしそれやってみない?」
「よし、じゃあ、今日の18時からそのゲーム始めるか」
「ゲームタイトルはなに? 探しとくよ」
「確か……ミルシア・シード、だったはず」
「オッケー! じゃあ、18時ね。遅刻しないでね」
「ああ、わかった」
そんな感じで一緒に高校に登校する。
ミキがいてよかったなあ。一人じゃきっとやらなかったな。
そんなこんなで学校が終わるのを待っていた。
さて、と。ゲーム機の準備はできた。
先ほどミルシア・シードのダウンロードと基本設定が終わり、後はプレイするだけ。
俺はベッドに横になり、VR用のゴーグルを装着する。
フルダイブVRMMOはすでに大手で発売しており、ゲーム業界では定着しつつあるジャンル。
ただ、開発は難しいらしく今の所大手の物しか配信されていなかった。
しかし今回は始めるゲームは今まで聞いたことのないメーカーだった。
正直、期待度は低いが、無名のメーカーのゲームという事にある種の発見がないか楽しみではあった。
――ゲームスタート
瞬間、自分の感覚が一瞬なくなり、別の何かに接続される感覚を得る。
この手のゲームによくある特有の感覚を経て、新たな景色が視界に現れる。
そこは何もない部屋だった。
がらんとした部屋の中心に自分が立っている。
何かを探すために頭を動かす必要はなかった。向かいには、一人の少女が立っている。
ぱっちりとした大きな目、明るい茶色の髪をツインテールに束ねている。
服装はいわゆるゴスロりというのか、やたらとフリルのついた翠のドレスを着ている。
外見年齢は中学生程度か。文句なしの美少女が自分の前に立っていた。
その少女が口を開く。
『ようこそ。ミルシア・シードの世界へなのじゃ! 私は貴公専属のナビゲーターAIなのじゃ!』
その人間と変わらないように見える、AIのグラフィックを見つつ、このゲームは思ったよりも楽しめるかもしれないと思うのだった。