10話 裏工作をしたワルモノふたり
少しだけ過去の話になる。一条に呼び出され、結月を教室に残し、僕が屋上に向かった時のことだ。
屋上に僕が行くと、一条は屋上の出入り口から一番離れた欄干の前にいた。
「一条、どうした?」
「……あのね、少し面倒なことになってるんだよ」
一条は欄干にもたれ掛かっている。
「どういうことだ?」
「水崎さんだよ」
「水崎?」
「そう、水崎さん」
「どういうことだ?」
「虫が死んでただろう? 柏葉さんの机の上で」
「ああ、処理が大変だった。まさか消毒液をああいう使い方するなんて――」
「――あれ、水崎さんの仕業なんだって。見てた人がいて、俺に教えてくれたよ」
文脈から判断は出来た。でも、はっきりと言われると感じ方が違う。心が痛い。
「……何のために?」
「さあ、わからないな。でもまあ、放っておいたら色々と面倒なことになってくるからね」
「一番実害があるのは僕だな、これは」
「柏葉さんに被害が届くわけもないからね」
一条は大きく背伸びをした。
「……でもこの話なら教室でもよかったんじゃないのか?」
「まさか。こんなつまらない話だけのために屋上に連れ出すなんて、そんな……」
「だよな。で、何なんだ?」
そう言い、僕は恰好を付けて欄干に腰を当ててその一点に体重を掛け身体を支え、背筋を伸ばして空を仰ぎ見た。良い天気だ。
「水崎さんを何とか取り入れられないかな?」
「取り入れる? 仲間に?」
「そう」
「どうして?」
「一目惚れ?」
ええ、力が抜けて尻もちをつきましたよ。
僕に訊くな。
「……そういう事か」
一条は僕をからかう口調になった。
「汚い幸助君は嫌いよ」
「ちゃんと綺麗にしてから行くから大丈夫だ!」
この状況を見られた時点で口も利いてもらえそうにないけど。
「骨とか大丈夫?」
「若いから大丈夫」
一条は欄干に手を置いた。
「で、協力してくれる? 最悪、俺と彼女の距離を縮められたらそれでいいんだけど」
僕の頭の中には、一つの案があった。一目惚れという言葉を聞いたあたりから。
「……一番簡単な手を思いついた」
「へえ、それは僕の考えと違うことかな?」
「……一緒なんじゃないか?」
「聞かせてよ」
「僕があと少しだけ我慢すればいいだけだ」
一条が困ったように笑った。
「……なあんだ、本当に一緒だった」
「……これは、あいつには聞かせられないな」
「クラスの皆にもね」
このままいけば、水崎がクラス全員から敵視されるであろうことはわかっていた。
それで僕らは、あえて何も言わずに水崎を泳がせたのだ。
一度、水崎にぼろぼろになってもらうために。
僕たちと関わらなければ何も出来なくなる状況を作り出すために。
一条は欄干に手をおいて眼下に広がるグラウンドを見下ろしている。
「ばれたら嫌われそうだね」
僕は開き直って床に座り込み、空を見上げていた。
「口も利いてもらえないと思うぞ」
「じゃあこれは秘密にしといてね。最終的にはクラスの人にも和解してもらうよう努力してもらうから」
僕がこの手伝いをするからには、結月に危害が加わらないようにする義務が生じてくる。
同様に一条にも、一度クラスの皆から敵視されるであろう水崎を、再びクラスに馴染ませる義務が生じる。この時点で水崎に一条が声を掛ければ、水崎はそんな状況に陥ることはないだろうからだ。これは一条もわかっていることだ。
だからこそ一条は、ここまで弱気な声を出しているのだろう。
「そういうことをパッと言えるお前はすごいよ」
「裏工作は嫌いじゃないしね。半分は自業自得ということで」
「……いや、一条が介入しなかったらもっと酷いことになるはずだから」
「ものは言いようだね」
そう言って一条はからっと笑ったのだった。
ブックマーク登録してくださった方がいらっしゃるみたいで……。
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