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ーーーーーー夢を見ていた。

不思議と夢だと分かった。

白い教室で、生徒達が机に座っている。

だが、生徒達の表情が見えない陽炎のようになっていた。俺の前に座っている一番後ろの席に座る1人の少年を除いて。


(…………見覚えがある)


どこか不安そうで悲しそうで羞恥心がある。

そんな顔を見ていると、何故か苛立ちを覚える。

周りを見ると小学生の低学年ぐらいだろうか。

俺は、教室の後ろで大人達に混じって立っていた。

黒板の隅に『父親参観日』と書いてある。

もう一度、周りを見ると顔は見えないがスーツ姿や私服を着ている男性陣の姿が見える。

ふと、自分の隣の背の小さい姿を見る。


1人の女性がいた。


その女性の顔は他の人と違いハッキリ見えた。

見覚えがある、だが思い出せない。

その姿を見た瞬間に何かが胸の中に湧き上がった。

ドロドロした液体がグルグル胸の中で回っている気分に息苦しくなる。

父親参観なのに、ただ1人女性がいる。

そんな周りの違和感をも感じさせずただ真っ直ぐ正面に座っている少年を見ていた。


(………この少年の母親なのだろう)


そう思った。

いや、そうなのだと確信した。


そんな時、隣の男子生徒が少年に声をかけていた。授業中なので声を落とし周りには聞こえない声で。

だが、俺にはしっかり聞こえた。

まるで本当に耳元で囁いているかの様に。


「お前ん家、とーちゃんじゃなくてかーちゃんが来てるの?」


「?、うん」


「かわいそーだから、うちの父ちゃんかしてやろーか?」


聞いた瞬間に周りの音が消えた。

身体の中が、一気に冷たくなり怒りが込み上げた。

その男子生徒には悪気があったわけではない。

純粋な親切からくる疑問だろう。

純粋な疑問が故に、凶悪だった。

言葉が心を抉った。

この怒りが、一体何に向かった物なのか分からない。


だが、怒りが湧き上がり身体を通じて行動に移す前に少年は隣の男子生徒と取っ組み合いになっていた。授業中にも関わらず。みんなが注目している中で、まるで周りと自分が違っている恥ずかしさを隠すかのように。

その後、少年の母と別の父親が互いに謝り解決し

少年と男子生徒も互いに謝り握手をした。


突然、白い霧が発生し景色が変わった。

並んで、夕暮れの道を手を繋いで帰っている途中、何も言わず俯いて一緒に歩いている少年を女性が顔を見ながら困りながら笑い、ただ一言。


「ごめんね」


何故か、また胸の中に何かが湧き上がった。

何故か、分からないが女性の言葉を否定したかった。

違う、違うんだ。

何故、貴女が謝るんだ。

何故、そんな顔をするんだ。

少年だって、困惑の表情だ。

悪いのは自分だって分かっているが謝れない。

何故、母親が謝っている理由が分からない。

何故、こんな感情が込み上げてくるのか分からない。

分からない自分に、腹が立った。

違うんだ。


少年が欲しかったのはそんな言葉じゃない。


「っ!違っ……!」


叫んで否定しようとしたら、白い霧が発生した。

まるで、その叫びを言わせないかの様に……。

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