中での1日
ユメ姉と一緒にリビングに行くと、すでに2人は座っていた。
「あ!ユメ!体調は大丈夫だった?」
「大丈夫、寝たら治った」
「そう?ならいいけど」
3人は定位置に座り、俺は空いている席に座った。
椅子の1つが空いていた。
「…えっと、父さんは?」
「今日も帰ってこないよー」
「……え?今日も?いつもなの?なんで?」
「あー、父さんは海外で医者やってるから、滅多に帰ってこないの」
「……そうなんだ」
(……サラッとすごいカミングアウトしたな)
「さあ、ご飯にしましょ!お代わりあるからたくさんたべてね!」
「「「いただきます」」」
「……いただきます」
料理は凄く美味かった。
当たり前だ、ユキさんはイタリアン料理店のオーナー兼料理長だという。
この家に来て2度目の驚きカミングアウトだ。
心臓に悪い。
「なーんで、マホは私の才能を受け継がなかったのかしらねー?」
(……確かに、疑問だ)
『ピンポーン』
食事を済ませ、片ずけを手伝っていると家のインターホンが鳴った。
「ハイ、ハーイ」
マホ姉が対応しに行った。玄関から2人の声が聞こえる。
「こんばんわ」
「あー、タカヒロくん!いらっしゃい!入って、入って!」
「新しい家族が来たって聞いたから、挨拶がてら来ちゃいました。おじゃましますー。よう、ユメ」
「うん」
入ってきた青年は、同い年に見えた。
「紹介するね、近所に住んでる
アラガキ タカヒロくん、ユメと同学年」
「よろしく、アラガキ タカヒロです」
「……あ、モリカワ マサアキです」
頭を下げる。
まただ。
違和感がある。
知っている気がする。
「同い年でしょ?タメ口でいこうぜ!」
「……分かった、よろしくタカヒロ」
「タカヒロくんは1人暮らし始めてたまにご飯食べに来るのー。ね?ユメ?」
「そう。タダ飯、食べに来る」
「ひどい⁉︎」
「事実」
「ハイハイ、タカヒロくん今日、ご飯は?」
「あっ、大丈夫です。挨拶しに来ただけなんで」
「だったら、早く帰れば?」
「ほんと、扱いがひどいな…帰るけど。じゃまた、2人共学校で〜」
「ハーイ、学校でー」
「うん」
俺が会話に入る隙がなかった。
だが、今の話の中で分かった事がいくつかある。
まずは、高校。桜の季節だということは、ユメ姉とタカヒロ、それと俺。いま着ている学生服の事も考慮すると3人は3年に上がったばかりだと言うこと。教師であるマホ姉が自宅にいる事を考えると、今は春休み?なのか?
そして、おそらく俺もその高校に行くことになるんだろう。理解して、適応する。
「あ、マサアキ君。今日は疲れたでしょ?先にお風呂入っちゃって?」
「……わかった」
一度部屋に戻り、着替えを持ち風呂に行く。
服を脱ぎ、入浴し身体を改める。
やはり、身体と目とこめかみの傷が消えている。
病院で刺された所もいまは現痛もなくなっている。目の傷がなかった事には気づかなかった。
片目だけの生活に慣れてしまっていたせいだろう
「……まあ、あんな傷があったらユキさん、姉2人に質問責めになっていただろうな」
風呂から上がり、寝間着を着る。
「………お風呂、空きました」
「ハーイ」
「うん」
「……じゃあ、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさいー」
「おやすみ」
自室に戻り、ベッドに横たわる。
これまでの疑問を思い出す。
この世界は、本当に本の中なのか?
何故、会話ができる?
何故、懐かしさを感じる?
何故、出会う人を知っている?
何故、違和感を覚える?
写真の女性達は誰だ?
実際の俺はどうなった?
何故、ここの家族になった?
(……家族……か……)
下のリビングで笑い声が聞こえる。その声を聞きながら考える。
この物語は全く終わりが見えない。
一体、どこまで続くのだろう。
不安がよぎる。
だが、次の瞬間には。
「………どうでもいい…」
こうなってしまったのだから仕方ない。
どうあがいても、今は変わらない。
だったら、目を覚ますまでここにいるしかない。
(……なら、自分なりに楽しんでやるさ)
目を閉じ、次に開いたときは現実の世界になっているのを少し願いながら眠りにつく。
(………ま、実際そんなうまい事いかないんだけどな)
自分でも卑屈な言い方だと思いながら意識が落ちた。