家族
家の中に入って初めに思ったことは。
(…………結構、裕福そうな家だな)
だった。
広い玄関に居間には家族用のテーブルがあり、人数分の椅子、L字方のソファー、大画面テレビ、真新しいオープンキッチンがあった。
「お母さんから聞いたかもしれないけど、私達も引っ越してきたばかりだからまだ住み慣れてないのよねー。キッチンもなんだか汚したくないから殆どまだ使ってないの!」
「…………そうですか……」
荷物を運んでいる最中にマホさんが家の構造を説明してくれた。1階には他に風呂と物置部屋、トイレ、夫婦部屋があるらしい。
「階段、結構急だから気をつけて!」
(…………このテンションは母親譲りだな)
階段を登りきり、廊下に出る。
左右に2つずつ展開している部屋は、左がマホさんとユメさんの部屋、右側にトイレと俺の部屋になっていた。
「ユメー?体調悪いのー?大丈夫ー?」
段ボールを持ちながら器用にノックしながら、部屋にいるであろう妹に声をかける。
「………大丈夫……」
部屋から微かに声が聞こえた。
「そう?あまりキツかったら、言いなよ?」
「…………うん…」
俺は何も言わなかった。
体調が悪くないのは知っているが、それをマホさんに言うのはなんだか違っている気がしたからだ。
「マサアキ君の部屋はここね!」
部屋入ると、ベッドと机、空の本棚、クッション型椅子とテーブル、小さいタンス、上着をかけるパイプつきのクローゼットが置いてあった。
「もっと色々揃えないとねー」
「……………いえ、これで充分です…」
病院の部屋に慣れてしまったのか、物がない方がなんだかしっくりくる。
「荷物、ここ置くねー!」
部屋の隅に3つの段ボールを置き、自分で開梱する。
(………3つだけか。何が入っているのだろう」
実際、自分が準備したわけではないので分かるわけがない。
箱を開けると1つの箱には筆記用具なり、ノートなりいわゆる学習用具と1枚の自分ではない、何人かが一緒に写っている写真が入っていた。
一番大きな箱には私服、下着、学生服、スポーツバックが入っていた。
そして、もう1つの小さい箱には本が入っていた。
いろんなジャンルが入っていた。
驚いたのは病院の中で読んだ本もあった。
(…………という事は、実際の世界とこの本の中との世界に差はあまりないのか?)
「マサアキ君って本好きなんだ?」
「……………はい…」
「私はマンガはたまに読むけどなー。どうも文字だけっていうのは〜」
「…………最近のラノベは挿絵ありますよ…?」
「うーん、試した事はあるよ〜。でも文字見てると眠たくなっちゃうんだよね〜」
「……………そうですか…まあ、人の好みはそれぞれ違いますからいいと思いますよ…?」
「マサアキ君は、どんなジャンル読むの?」
「…いろんなジャンル読みますよ?アクション系から青春系、恋愛系とか」
「え?以外〜。男の子も恋愛系読むんだ」
「………まあ、人それぞれですね」
箱から服を出し上着をハンガーにかけパイプに引っ掛け、それ以外はタンスにしまっていく。
「手伝うよー!」
「…………いえ、大丈夫です…」
「へ?なんで〜?2人でやった方が早いじゃん?」
「…………いや…あの…あと下着だけなんで……その…」
「あー!ごめん!ごめん!女姉妹だとその辺に気が付かなくってさ!」
「…………いえ…じゃあ…マホさんは本をお願いしていいですか…?」
「オッケー!おー!ホントだ!いろんなジャンルある〜」
最後に写真を机に置き荷物の整理は直ぐに終わった。
まあ、段ボール3つだけだったからなのだが。
(………この写真の人達は一体誰だ?)
「もうすぐ、お母さん帰ってくるって!」
「…………そうですか…」
「ねぇ?敬語やめない?他人みたいだよー?これから家族になるんだよ?」
「……すいません…癖?みたいなものなんで…」
「だったら、試しに『マホさん』じゃなくて
ユメが呼ぶみたいに『マホ姉』って呼んでみっ!ホラっ!」
(…………いや、呼んでみって、ホラって、さすがにいきなり過ぎて抵抗があるわ)
「…………マホ姉…」
「うん!これから、家ではそう呼ぶように!
あと、敬語もなしね!」
「………分かりまし……分かった…」
「うん!」
なんだかこの人、いや今は義姉か?と話していると調子が狂う。
こっちのペースは御構い無しの全力疾走だ。
だが、やはり元々知っている様な気持ちになる。
(………また違和感がある。一体なんなんだ?)
「ただいまー!」
「あ!帰ってきた!おかえり〜!」
1階に降りてユキさんを出迎える。
「ホラッ!マサアキ君も!」
「………おかえりなさい…ユ…母さん…」
「…ふふっ。ただいま。マサアキ君」
義母と呼ばれたのが照れたのか空いている手で顔をを隠しながら言葉を交わした。
正直、こっちが恥ずかしくなってくるからやめてほしい。
「さあ、晩御飯の準備しなくちゃ!マホ、手伝って!」
「了解!」
「あら?ユメは?」
「体調悪いんだって。大丈夫って言ってた」
「そう、晩御飯まで休ませてあげましょ」
「うん、じゃあ準備、準備!」
「…………手伝うよ……」
「ありがとう!」
「…………いや…その…もう家族だから…」
自分で言っていて恥ずかしくなった。
「うん!」
「じゃあ、マホのフォローお願いできる?
その子、料理の腕は壊滅的だから」
「……マジ…?」
「失礼な!ゆで卵ぐらいできますー!」
「……マホ姉…それは料理の部類なの…?」
「モチ!」
その自信は一体どこからくるのか。
俺も簡単な作業しか出来ないのだが。
結果的に言うと、早々にマホ姉には退場しもらい
味見役になってもらった。
(まあ、うまい!美味しい!しか言わないのだが)
料理が出来上がり、テーブルに並べていく。
「ホラっ!味見係!運んで!」
「ヘーイ」
「……母さん、これもいい?」
「うん!大丈夫よー。そろそろユメ呼んでこないと。マサアキ君、お願いできる?」
「………あ……うん…」
あれからユメさん?は部屋から出てこなかった。気にしていないと言ったら嘘になる。俺の言葉で傷付けたのは事実だ。ユメさんの一体何に触れてしまったのか分からなかった。
そんな事を考えていたら、ユメさんの部屋の前まで来ていた。正直、なんと声をかけていいか分からなかった。部屋を2回ノックする。
「……………」
返答がない。
「………なあ…ご飯できたから…呼んできてって
母さんが…」
言い終わるか、終わらないかのタイミングで扉が開いた。相変わらずスマホを見ていて目線を合わせない。
「……えっと…ご飯が…」
「聞こえたから」
「……そう……」
俺の横を通り過ぎ、階段に向かう途中微かに
しかし、ハッキリと
「………………さっきはごめん…」
と聞こえた。それを聞いて立ち止まってしまった。同時に自分が情けなくなった。悪いのは自分なのに、謝る事すら出来ない自分に腹が立った。
「どうしたの?行かないの?」
「……行きます……」
「敬語やめて、私の事はユメ姉でいいから」
「……分かった、ユメ姉…」
直ぐに顔を逸らしたのは、照れたからか?
分からん。
自分の苛立ちは、すっかり無くなっていた。