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桜色の本

最初に思った事は。


(本みたいにズブッとか音はならないもんだな)


だった。

体の中に入っていくナイフに対してそんな事を思っていた。

入ったと同時に男の手を掴む。

激痛が身体を襲う。

だが、それだけ。

声を出さず、表情も変えない。

そのまま男を見る。

ただ見る。

男は相変わらずなにかを叫んでいる。

どうでもいい。

男が、空いている手で顔をなぐってきた。

どうでもいい。

掴んだ手を離さない。

力強く握ったせいで爪が割れた。

どうでもいい。


「マサアキ君!!」


誰かが俺の名前を呼んだ。

男が血走った眼でそちらを見る。

それに俺は腹が立った。


(………なに、狙おうとしてんだ)


男の腹を蹴った。

男が倒れる。

ナイフを抜く。

抜いた所から出血する。

どうでもいい。

騒ぎを聞きつけた警備員が男を取り押さえる。

やたら時間が長く感じたが、出来事は一瞬だっただろう。

不意に力が抜けた。

膝から倒れ、廊下に顔を打ちつけた。

身体が熱い。興奮しているからだろう。


「マサアキ君!」


女性医師と近くにいた医師が駆け寄ってきた。

流れていく血が広がっていくのがわかった。


「マサアキ君!しっかりして!」


(………初めて、名前呼ばれたな)


意識が朦朧とする中で思った。


「出血がひどい!おい!応急キット早く!」


「クソ!止まらねぇ!」


(………おい、そんな押さえたら苦しいよ)


いろんな人の声が聞こえる。

必死に俺を助けようとしている。

内容が頭に入ってこない。

力が入らない。

段々と身体が寒くなってきた。

眠気もきている。

落とした本が赤色に染まっていく。


(………ああ、そういえばあの本はまだ読むの途中だったっけ?)


「おい!眠るな!起きろ!」


(…………寝たい、寝かせてくれ)


「マサアキ君っ!みんなをおいて先に行くなんて絶対許さないからっ!絶対に!死なせない!

だってまだ私達!なにも返してないんだからっ!」


俺の手を握り、泣きながら女性医師は叫んでいた。

その言葉は俺にとって理解できなかった。

『みんな』とは?『返す』とは?理解ができない。

だが、それを聞いた時に涙が出た。

こんな状態でも泣いているのがわかった。

そして、脳裏に思った。


(……なんだろう……なんか……以前にも似た様な……?………あぁ…死にたくないなぁ…………)


「どうした⁉︎何があった⁉︎」


誰かが駆け寄って来た。


「っ!この子はっ⁉︎…ここで処置をする!」


「しかし医院長、この出血では……」


「例の機器で意識だけを飛ばす!それで時間は稼げる筈だ!ここから手術室より図書館の機器を持って来た方が早い!」


「しかし、あれはまだ……」


「責任は私が取る!」


「ですが!意識の行き先はどうするんですか⁉︎」


「お願いします!これを、使って下さい!」


女性医師が1冊の本を手渡した。

朦朧とする意識の中で微か目に入ったのは、

【桜色の本】だった。

タイトルも著者の名前も入っていなかった。


「だが………これは………」


「お願いします!マサアキ君を助け下さい!助かる可能性が少しでもあるなら!」


「装置到着しました!」


「……分かった!これを使う!直ぐに読み込みを!」


頭にヘッドギアを着けられていく。

もう本当に眠りそうだ。


「準備できました!」


「よし!彼の意識を送ってくれ!」


機械の重低音が鳴る。

意識が、飛ぶ前に女性医師が。


「マサアキ君、中で待ってて。直ぐに逢えるから」


(どういう意ーーー)


疑問の途中で世界が白く染まった。

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