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目が覚めて

ーーーー目が覚めると、いつもの白い天井が目に入る。いつもと言っても、まだほんの1週間の間だが。

モリカワ マサアキは、この病院で目が覚めてから前の記憶が無い。モリカワ マサアキと言う名前も担当の女性医師から聞いた名前だ。


「最初の内は混乱するかもだけど、ゆっくり思い出していこう!」


いや、そんな事言っても記憶が無いのだから混乱のしようも無い。


「……………ああ」


(………………そう言うしかないだろ?)


そうして、俺のモリカワ マサアキの何もない生活が始まった。


病室の置き型デジタル時計を見ると、朝5時前だった。空がようやく薄い青になってきた所だ。

この1週間いくら眠ってもこれぐらいには起きてしまう。一応、目覚まし機能をつけてはいるがまるで意味を持ってない。


「……………ジジイか」


目が覚めて悪態を呟く。1週間経ってわかった事はとにかく、自分が悲観的で、口が悪く、冷たい人間である事だった。

そのくせ、他人を放っておけず、自己犠牲と言うあたかもキレイな言葉と行動で助けてあげたい。

しかし、その行動が出来ず自分に苛立ちを感じていた。そして、さも相手の気持ちが分かると思い、勝手に感情移入して自分も一緒に傷つく。自分勝手な奴で、自分に苛立っていた。


「………………起きるか」


目が覚めたので、顔を洗いに洗面台に行く。

頭から水を被り残りの眠気を払いおとす。

頭を拭く時に鏡を見て顔を見る。

やはり、自分の顔に違和感しかない。

何より一番の違和感は左眼の傷痕だ。左の眉から下にかけて切られた様な傷があり、左眼は殆ど視力が無い。さらに、頭には右側のこめかみ部分に傷。おそらく、記憶障害の原因だと思われる。

身体にも刺された?様な傷痕もあった。


「………………ほんとに何をやったんだ?」


意味も無く、誰も答えてくれない。

何か、大事なそして大切な事を忘れてしまっている感覚になった。

しかし、何かが分からない。

そこに、自分勝手に苛立っていた。

ベッドに戻り椅子型クッションを敷く。

そして、朝焼けの中、図書館から借りてきた本の続きを読む。こうしている間は何も考えずにいられるので気が楽になる。

女性医師から、


「そうだ!脳に刺激があると記憶が蘇る事があるの!リハビリがてら図書館の本でも読んでみたらどうかな?」


と言われたので治療と検査以外やる事もないので最初は気晴らし程度に行ってみた。

ここの病院は図書館と一体化している変わった構造をしていた。元々は診察待ちの人達の為に開放されていた。それが入院中の人も術後のリハビリも兼ねて利用可能になっていた。

記憶が無くなる前の俺はどうも本の虫だったらしく読書は何ら苦ではなかった。

図書館だけあって種類には困らない。

文庫、単行本、ラノベ、マンガ、料理本、新聞、

各種辞典、etc…


いつも図書館に行ったら最低でも5〜6冊は借りる。続編が出ていれば貸出し限度限界まで借りた。

そして、ひたすらに読み続けていた。

流石に1週間経つと図書館の司書とも顔馴染みになり、


「あー、モリカワさんなら勝手に持って行ってOKだよー」


「………………どうも」


図書カードも出さずに最早顔パスだった。


読んでいる時は周りの音が全く聞こえなくなり人が部屋に入って来ても気付かず、食事も取らずじまいになってしまった時もあった。女性医師が言うには、本の中に深く『潜っている』時らしい。


最近、読み始めたのは流行り?の異世界物のラノベだった。死んで、異世界に飛ばされた少女がその世界で色んな人が出会い、別れを描いてあった。所々にある感動場面はマサアキの心には苦しかった。


(………本のキャラみたいに、只ひたらすら真っ直ぐに生きられたらどんな楽なんだろうか?)


自分に自問しても答えは出ない。

存在しないはずのキャラと自分を比べ、自分を悲観し、情けなくなり、涙を流す。


(………………ああ、悪態ついても、結局、自分が傷つくのが怖くて、辛いだけじゃねぇか)


突然、部屋の電気がついた。


「あー!また、電気も付けずにっ!早起きなのはいい事だけど、視力が落ちちゃうでしょ⁉︎」


現実に引き戻された。


「………………いっそのこと、もう片方の目も見えなくなったらバランスとれるかもな」


バレない様に涙を拭き、冷たいセリフを呟く。


「また、そんな事言って⁉︎」


(……朝から、騒がしい奴だな。本当に医者か?)


目線を合わせず窓の外の景色を見る。


「まあ、いいや。今に始まった事じゃないし。

ところで!いいニュース!とうとう、前から言ってた最新の治療法の許可が下りたの‼︎」


マサアキはようやく女性医師と、目線を合わせた。

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