そばにいる人
ちょっとしたことから書いてみようと思いました。短いですがお楽しみください。
「ん…ここは…」
あたりを見渡しても何もなくただ真っ白な世界。
でも不思議と違和感はなくむしろ心地よい。
『ここはあの世とこの世の狭間です』
「おっと…びっくりした…えーとあなたは…?」
声のした方を向くと先程までいなかったきれいな若い女性が立っていた。
『いきなりすいません。よくあちらの世界で言われるのは死神…ですかね?まーほんとのところただあの世に導く案内人みたいなもんなんですけど。』
「そうですか…ということは私は死んだのですな…?」
わかってはいた。でもなんとなく聞いてしまった。
『はい。死因とか聞きたいですか?』
「一応お願いしてよろしいですかね?なんとなく死ぬときのことが思い出せるかもしれない。」
『もちろん大丈夫ですよ。そのための案内人でもありますから。享年75歳。死因は老衰だそうです。静かに…ゆっくりと逝かれたそうですよ。』
「あぁ…思い出した…そうでしたね…なぜこんなことを忘れていたのか…」
『仕方ありません。まだ死んだ直後ですから。ほら。寝起きだとぼーっとするでしょう?あれと同じ感覚ですよ。』
「なるほど。死んでいるのに寝起きとはなかなかに面白い。」
『自分で言っておいてなんですがなかなか上手くないですか?』
「座布団一枚ですね。」
『ここで座布団がもらえるとは。』
「ばあさんとはよく見て笑ったもんですよ…あぁ…ばあさん。大丈夫かねぇ…自分がいた病院についたときには私。もう死んでましてね。」
『それは…』
「えぇ。すごく泣いていましたよ。どんなに背中をさすっても気づいてもらえなくてですね…」
元気づけようとしても。肩を叩いても。前に行っても。気づいてはくれなかった。けれど…
「こんなに自分のために泣いてくれる人と何十年も過ごせたんだなぁと…とても幸せを感じましたよ。」
『それは良かったですね。仲のいい夫婦だったんですか?』
「もちろん。ばあさんがなかなか面白い人でしてね…いい感じに言葉を返すと漫才になるらしくて孫がよく笑ってましたよ」
『それは見てみたかったですね…』
「ぜひ見せたかった。」
『…少し事務的なことにはなりますが…未練などはございませんか?』
「先程言ったとおり…ばあさんが大丈夫かくらいですな。」
『ちょっと見てみますか?』
「見られるんですか?」
『一応狭間ですから。どっちを見ることもできますよ。』
「…それなら…少しだけ」
長く見たらすぐそばに行ってしまいそうだから。
『少しでいいんですか?』
「いいんです。私はもう死んでますから」
『では…』
女性が体の前で円を描くと鏡が現れた。
『よく見てください。あなたのことを考えている人が現れるはずですから』
言われたとおり鏡をじっくり見ると…
「ばあさん…それに鈴まで…」
つい昨日まで話していたのに。とても懐かしいと思える声が聞こえてきた。
《あなた…なんで死んじゃったの?昨日まで元気やったやろ?ねぇ…》
《ばあちゃん…》
《鈴…私どうしたらいい?わからないの…あの人がいなくなったら私…》
《あのね。ばあちゃん。きっとじいちゃんなら死んだあとでもずーっとばあちゃんのこと気にして見ててくれてると思うんよ。》
《それが…どうしたの?》
《んーとね…上手くは言えないんだけど…たぶんばあちゃんのそばにいるか…遠くにいてもずっと気にかけてね?守ってくれると思うんだ。だからさ。いないってことはないと思うよ。確かにもう死んじゃって…この世にはいないんだろうけど…でも…あの世ではばあちゃんを支えてくれるはずだよ。》
「鈴…」
《…そうね…あの人ならばあちゃんのことのこと守ってくれるよね…》
《当たり前だよ!じいちゃんはばあちゃんのことすごーーーく好きだったもん》
《そうね。ほんと…そうよね。ありがとう…鈴》
「…ばあさん。私は鈴の言うとおりあんたのことをずっときにかけてるからな…。…すいません…もう大丈夫です。ありがとうございます。」
『…わかりました。』
女性が鏡を出したときと逆の方に円を描くと一瞬にして目の前から消えた。
『…どうですか?未練は残っていませんか?』
「ええ。もう満足です。私は今とても幸せな気持ちですから。」
『…そうですか…では最後の事務的な話です。今から話す二択から選んでください。』
「わかりました。」
ばあさん。あの世で会えるかはわからんが…会えたらいっぱい話そうな。それまで待ってるよ…。
『1つ目、このままあの世に行きそこで暮らす。2つ目、あなたの伴侶である方をここで待ちつづけること。この二択です。』
「…え?」
『どうしました?』
「いや…ここで待っていいと言われるとは思わなくてですな…」
『その代わりと言ってはあれですけど…先程ご使用された鏡はお預けしますが基本お一人にはなりますね。』
「そんなの…言うまでもないです。2つ目でお願いします。」
『わかりました。では少し手続きとかがあるのでご協力くださいね。』
「もちろん。」
しわしわな自分の手をよく見てみる。
もう一度手を触れて話せるのなら…
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「どうだった?今回の人は」
「気さくで良い人でしたよ。」
「それはよかったな。うちは今回ほんとめんどくさくてなー…」
「私は次の仕事があるのでその話はまたってことで。では」
「あっお前逃げたな!」
「なんのことでしょう?」
次の人がどんな人生を歩んでいるのかは会ってみないとわからない。けどさっきみたいな人ならば…それはきっと幸せなことなんだろう。
「次も頑張りますかー」
end
現実で自分のおじいちゃんが亡くなってこんな感じなら嬉しいなーと思い書いてみました。
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