64 バドバドと
部屋の中は沈黙に包まれていた。
「もしそうだとしたら、どうする?」
ライの声がした。
「二人を争わせるのか?」
レオも続いた。
「まさか。」
・・・
パンテェールは黙り込み、それから意を決したよう頷いた。
「お見せいたしましょう。」
パンテェールは懐から布に包まれたモノを出した。
『あれ、あれだよ。』
リュウが叫ぶ・・
あれあれとはなんなのだ?美虹がぼんやり思っていると、布が開かれて現れたのは・・
「龍石か。」
「はい。欠けてはおりますが・・・紛れもなく龍石です。」
美虹の体が不意に動いた。美虹は慌てたが、リュウの意志で動いているらしく、制御出来なかった。
美虹の体は龍石を奪い、レオの後ろに立った。
『美虹?』
『わたしじゃない。』
リュウが美虹から出そうだ。
『だめ、リュウ。』
『分かった。押さえる・・・』
美虹の体が一瞬ぶれて・・・元に戻った。
「「「「「「おおお」」」」」」
その場にいたレオ達以外の者の声が重なった。明らかにリュウの姿が一瞬見えたに違いない・・
「悪いな。この龍石はこいつのモノだ。返して貰うぞ。」
レオが言った。
「・・はい。お返しいたします。しかしながら、」
「こいつのことは聞くな。」
パンテェールにレオの声が被さる。
「それより、アルテミナのことだ。
・・・あの宰相元夫人。あいつは人ではなかった。そのことは知っていたか?」
ライも被せて言った。
・・・
「人ではない?」
「黒く膨れあがって空を飛んで消えた。」
・・・・・
『臭いの元について、調べて貰う必要があるな。』
レオが言った。ライは、
『つてはあるのか?』
と尋ねた。
『ああ。さっき気付かされた。中継ぎの街に住むフェーというエルフの薬屋。500年以上生きている、あいつとその兄なら何か知っているんじゃねえかな。』
『分かってるよ。俺に行けって言うんだろう?』
リヒテがため息と一緒に言うと、
『まあそうだな。頼めるか?』
レオが応えた。
『おまえからの依頼だと分かるようにしてくれよ。』
『一筆書く。出来たらこの城に案内してきて欲しい。』
『遠いな。俺の足をもってしても、行くだけで1週間はかかるぞ。』
『帰りは二人を連れてか・・・・』
『バドバドはどうかな?』
美虹が思いついて伝えると、
『バドバド?あいつは怪我をしているんだろう?』
とレオが怪訝そうに聞き返してきた。
『少しずつ治ってるはずだよ。』
美虹は自信を持っていた。
「パンテェール。おまえのバドバド、具合はどうだ?」
レオが黙っているパンテェールに聞いた。
「バドバドですか?あれはアームに任せていましたが。アーム?」
「はい。だいぶ良くなっていますよ。」
「飛べるか?」
「歩くようにはなりましたが、とべるかどうかは・・」
「連れてって。バドバドの所に。」
美虹は思わず口を挟んでしまった。
「良いですが・・」
「俺も行く。ライ、後は頼んだ。リヒテ、ついてこい。」
「へいへい。また俺が貧乏くじか。」
「リヒテ?まさか?」
「ああ。パンテェール。騎士団長の子だ。」
ライが頷いた。
「ああ。言われれば、アルファさんに似ている。」
「・・・親父が世話になりまして。」
「いやいや。私を鍛えてくださったのはアルファ団長です。」
「ちょっとバドバドを借りますよ。」
「動くことが出来るようになっていれば、どうぞお使いください。」
『ライ、変なことは言うなよ。』
『分かっている。おまえが戻ってくるまで当たり障りのないことしか言わないさ。』
ライ達を残し、アームとスルー、レオとリヒテは、美虹と共にバドバドの所へ急いだ。
『久しぶり、バドバド。』
くぇくぇくぇ・・・・
「おや。甘え声を出している。」
アームがつぶやいた。
「やっぱりこれが甘え声?」
美虹が近づくと蛇のような目がますます細く、小さくなる。
良く見ると、羽の付け根や足に黒く霞んでいる場所が数カ所ある。
『美虹ちゃん。黒いのが悪いとこだと思うよ。』
『やっぱり?私もそう感じる。』
美虹は黒いモノが溜まっているように見える場所に手を触れた。しばらく触れていると、ぼんやり赤く光り、やがて収まる。それを数回繰り返していくと、黒いモノはすっかりなくなった。
全体をもう一度優しくなでてから離れると、バドバドはゆっくり翼を伸ばし、羽ばたいた。
「おお。」
最初はおそるおそる・・やがて力強い羽ばたきに変わっていく。
ふわり飛び上がって空中に羽ばたいて飛んで行く。
「おいおい。逃がしたのか?」
「久しぶりだから確認してるんじゃないの?」
美虹の言葉が終わった頃、バドバドが舞い降りてきた。
「これで遠くまで飛べるよ。バドバドの羽なら二人を連れて帰るのも大丈夫だよね?
くぇくぇくぇ・・・こぉこぉ・・
レオが素早く手紙をしたためる間に、旅に必要な最低限のモノをアームが走り回って集めてきた。
載せるための籠を左右に付け、背に鞍を乗せる。
「じゃあな。行ってくる。」
「ああ。頼むぞ。」
・・・
「往復は3日もあれば沢山だが。説得に時間がかかるかもしれねえな。」
リヒテは飛び去った。




