60 番の匂い?
・・
「そういえば。あの女はどうした?おまえ達、ずいぶん早く戻ったようだが。」
「案内しろって言われたから、とりあえず、門番の部屋に置いといた。」
「あ?」
「そこにシュバルツァーから迎えを寄越すように伝令を飛ばしたから、今頃宿屋に着いてるんじゃねえ?」
それを聞いてパンテェールは苦い顔をした。
「確かめてこい。もしかしたら・・・・」
「もしかしたら?」
「城に侵入しているかもしれん。」
「わけねえだろ?奥様だぜ?」
「あの女は食えん。」
・・・
慌ただしくレッグはバギーを連れて出て行った。
ややあって、バギーだけ青い顔をして戻ってきた。
「いねえ。門のとこにいた奴等、気絶させられて縛られていた・・皆良い香りでうっとりしているうちに倒されたらしい。」
「レッグは?」
「皆を集めてあの女を捜すように命令するって。」
・・・・
「もし、あの臭いの元を持っているとしたら・・皆、なにもできなくなるんじゃないの?」
美虹の言葉に、
「あ。」
バギーが慌てて戻ろうとすると、
「まて。」
と呼び止めたパンテェールは、
「対策はあるか?」
美虹に聞いてきた。
「臭いを嗅がなきゃいいんだよね。でも、あなたたちの鼻は私の何倍も良いと思うから・・・いっそ鼻を効かなくさせたらどうかな?もっと強い匂いのするモノを鼻につけさせるの。」
「それは面白い方法だ。鼻がきかなくなるのはマズイが・・・」
「何人か臭いの方へ誘導する人がいるよ。その臭いに平気な人がいると良いかも。」
パンテェールは、少し考えた後、
「試してみる価値があるかもしれん。おい。番のいる者にはそのままで。番のいない者にはその臭い作戦で行くぞ。レッグに急いで伝えろ。」
バギーは頷くと慌ただしく出て行った。
「俺も行く。」
スルーも後を追って出て行った。
後に残ったのは、アームとパンテェール、ラビー・・・そして美虹。
「番がいる人は匂いに惑わされないの?」
美虹の疑問に
「そうだ。番の匂いには我々は敏感だ。」
と言う答えが返ってきた。
「失礼だけど・・・パンテェールさんの番の方は?」
「まだいないな。見つけていない。」
・・・・パンテェールさんって40才くらいだよねえ・・・美虹は思った。その思いが顔に出ていたのかもしれない。
「美虹さん。我々の中には一生見つけられない者もいるんですよ。」
ラビーの言葉に美虹は驚いた。
「一生?」
「運が良ければ見つかります。でも、そうでない場合も多いんです。」
「だから番は大事にしないといけないんだ。それをあの女・・・」
パンテェールは苦々しく吐き捨てた。
『美虹ちゃん、美虹ちゃん!』
竜がさっきからずっと名前を呼んでいたらしい。
『・・あ・・何?ごめん。気が付かなかった。』
『うん。夢中で考えたりしゃべったりしてたみたいだからね。でもさ、美虹ちゃん。まずいよ。名前に反応してるよ』
『どういうこと?』
『パンテェールが、美虹さんって呼んでるの、普通に受け答えしてるってことさ。』
『あ・・・・どうしよう?』
袋の中のにょろにょろが出せ出せと騒いでいる。
『俺たちも探す。』
『簡単だ。』
『番の匂いも臭いも俺たちには効かない。』
『肉だ。肉をくれ』
『俺にも肉をくれ』
『出してくれ。』
『絶対見つける。』
・・・
『出しても言いと思う?』
美虹は誰ともなく聞いた。
『もう・・・仕方がないだろう。隠し切れなさそうだし・・・』
ライがため息と共に返してきた。
『僕達も心を決めた方が良さそうだ。』
どういう意味かと思ったが、今はにょろにょろだ。。
美虹は袋の口を開け、そっとにょろにょろを出した。
「俺たちにょろにょろ。」
「7すたー」
「強いんだぞ。」
「肉だ。肉をくれ」
「俺にも肉をくれ」
「俺たちが見つける。」
「任しとけ。」
パンテェール達は唖然としてにょろにょろを見ている・・
「まって。そのままだと魔物に間違えられて殺されちゃう。」
辺りを見回すが、何もない。
『美虹ちゃん。これ使って』
『?』
『腕輪さ。』
美虹はああと頷いた。ライの所に飛ばした腕輪。引き寄せるように念じると腕輪が現れた。それを7つの頭の根本にはめる。このままだと落ちそうかな?落ちないようにするには?
『大丈夫だ。この腕輪は王家の者が取らなければ、ずっとはまったままだ。』
「おお。かっこいい。」
「俺たちのモノか?」
「光ってるぜ。」
「それより肉だ、肉をくれ。」
「俺にも肉をくれ」
「さあ、行くぞ。」
「もう少し大きくしてくれ」
最後の子の言葉に美虹はにょろにょろを中型犬くらいの大きさにした。不思議なことに腕輪もそれに会わせて大きくなった。
にょろにょろは素早く部屋を出て行った。
一連の動きを黙って見ていたパンテェールは、
「美虹さん。いいえ。白龍様。あなたは、王家の誰かとこの城にやって来たのですね。儀式をするためですか?それともアルテミアからこの国を奪い返すためですか?」
と聞いた。
美虹は黙ってパンテェールを見るだけだった。
『美虹。俺はレッグの言う所の宰相の夫人とやらを見つける仕事を言いつけられた。そっちで話していた女のことだな?』
『匂いに気をつけてね。』
『大丈夫だ。番のいる者には効かないらしいからな。』
『・・・番?・・レオの?』
・・・・・
美虹はさらに黙り込み、ぼんやりと何を見つめることなく立ちつくしていた。




