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WHYとWHITE DRAGON !!!!  作者: 猫山
2 出発
59/81

59 ここは正直に

・・

「母?」

 美虹は思わず聞き返した。

「宰相夫人ですよ。」

 パンテェールが応えた。

「やはりあなたは美虹さんですね?」


・・・

「いや。知りませんよ。誰ですか?それより、前に、アームさんは侍従の子どもだとおっしゃっていませんでしたか?」

 美虹は焦ったが、なるべく普通に聞こえるように応えた。答えた後で、あ。侍従の子どもだって言うのは美虹の姿のときに聞いたんだったと思い出したが、後の祭りだ。・・腰に付けたにょろにょろの袋も慌てたように激しく蠢きだした。美虹は慌てて、でもさりげなく見えるように、袋を上から安心させるように軽くたたいた・・



・・・・・



『美虹ちゃん。ちょっとまずかったね。』

ライの声が聞こえる。

『どうする?ライ。俺も行ったほうがいいか?』

『いや。おまえが行くとさらにばれる可能性がある。』

『もう、話しちゃっても良いんじゃないの?何を恐れてるの?』

美虹はつぶやいた・・・




「あなたが美虹さん?10才くらいの女の子だと思っていたのですが?」

 アームがパンテェールを見た。

「うむ。まあ。いろいろなことがあるようだ。おまえの母と名乗るあの女も。」


・・注意が美虹からそれた。




「母?ふん。あんな奴が母であるはずがない。」

 アームが吐き捨てるように言った。

「おまえ、何か知っているのか?」

 レッグが聞く。

「・・・ええ・・」

「何を知っているんだ?」

と、パンテェール。


・・・・


「あの女が僕の母親ではないこと。僕の本当の親は、どこにいるか分からない・・・このくらいですよ。」


・・・


「おまえはあのとき、燃え上がる宰相の家からスルーに助け出された。」

「ええ。あの後、僕はあなたに生きる道を示された。宰相の子として生きるか、他の何者でもない一人の獣人として生きるかと。僕は後者を選び、あなたに連れられてこの国を脱出した。」

「簡単に宰相の子の立場を捨てる奴と思っていたが・・・」

 スルーが口を挟んできた。



「実は・・・・」

 アームが言いづらそうに口をつぐんだ。

「みんな言っちまえよ。」

 レッグが促す。スルーもうなずいた。


「僕は・・あの日・・・」




・・・・



 アームはいつものように勉強部屋で先生から教えて貰っていた。

 そこに、ノックもそこそこに入って来た召使いの

「大変です。騎士団の者達が宰相夫人とその子どもを出せと言って周りを囲んでいます。」

と言う声が割り込んできたのだ。

「なんですと?」

 先生が叫び、

「君はここにいなさい。」

と言って召使いと共に出て行った。


 しばらくして戻ってきた先生は、

「急いでここから脱出しなさい。私は関係ないから逃がしてもらえるだろうが、君のことはどうなるか分からない。とにかく夫人と一緒に・・・」

と言っている後ろから何かが飛んできて先生は前のめりに倒れた。


「せ・・・先生?」


 後ろに立っていたのは宰相夫人だった。

「お母様。いったい何を?」


 母と思っていたその人は、

「ふん。汚らわしい。母などと呼ぶのでない。おまえはその辺の黒豹の子よ。私の子でもない。」

と言うではないか。

「な・・・」

「逃げるのにおまえも邪魔。」

 そう言って今までは母と思っていたその人は、ナイフをアームに突き立てた・・・アームはかろうじて体をひねり、急所は外れたが倒れた。本能からじっとしていると


「ふん。死んだわね。さあ。逃げなくては・・・」


 自分が刺した子どもの生死を確かめるでもなく、かつかつという音と共に気配が去り・・・やがて煙の臭いがしてきた。


 炎と煙に巻かれ、動きたくもなく、ぼんやりしているうちに火が回ってきた。ああ。もう駄目だ。と思ったとき、

「ここに人が倒れているぞ。子どもともう一人・・・子どもはまだ生きている。」

と言う声がした。

 ああ。助かるのかと思ったとたん、意識が遠くなっていった。



・・・・・


「そうして気が付いたとき、パンテェールさん。あなたが目の前にいたのです。」

「・・・やはり宰相の子どもではなかったのだな。」

「はい。すみません。今まで言えなくて・・・」


 パンティールも・・宰相でさえ・・当時の多くの者たちも疑ってはいたのだが、確証がなかったのだ。ここで、初めて夫人の口から宰相の子でも自分の子でもないと言う言葉が確認出来たのだ。では、アームは誰の子だ?美虹は思ったが、自分がわかり得ることではないと思って口には出さなかった。




「あの女が何故、宰相と騎士団長の番だと本人達から思われていたんだ?」

とレッグが言えば、

「もしかしたらそれが何かの陰謀?魔法とか使って惑わせたのか?」

とスルーも言う。

「魔法じゃ無理だろう?」

「薬・・・薬かもしれん。」

 話を遮るようにパンテェールが言った。

「夜会の警備ですれ違ったとき、妙な匂いをさせていた。」



『薬だって?臭いか。僕はいつも早々に出て行ってたからなあ。気が付かなかった。』

ライのつぶやきが聞こえた。

『なあ。』

リヒテの声も聞こえた。

『おお。戻ったのか?』

『ああ。』


 そちらに集中するとこちらの話が聞けない。

『ちょっとそっちの通信、集中して聞けないよ。こっちの話も聞き漏らしたくないから。』

『ああ。俺たちも興味がある。』


 

「妙な臭い?」

 レッグが返すと、

「ああ。何となく心騒ぐような・・・そうか。それで宰相や団長は惑ったのか・・・」

とパンテェールは最後は自分に納得させるように応えた。


「心騒ぐ匂いって?」

 我慢出来ずに美虹が口を挟むと、

「側にいたい。自分のものにしたいと言う気持ちが湧いてくる匂いさ。」

とパンテェールは教えてくれた。

「へえ?」

「廊下ですれ違ったくらいで、何となく心騒ぐ程度の匂いだったが、あれがもっと濃い匂いで、密室だったら・・・。」

「番と勘違いしても可笑しくない訳か。」

レッグが後を引き取った。


 部屋の中はしんと静まりかえった・・・







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