58 宰相夫人の子ども
新たに入って来た二人を見て宰相婦人は目をすがめた。
「誰だ?」
バギーの一言でパンテェールは笑い出した。
「元宰相婦人だそうだ。」
とレッグが説明すると、
「見た事ねえ。」
「それはそうだろう。下っ端だった俺たちが会えるお人じゃなかろうよ。」
スルーがバギーに教えるように言った。
・・・
『スルーもバギーも30才くらいかな?15年前だときっと今の私と同じくらいの年だったに違いないね。』
と美虹は思った。思っただけでなく無意識にライやレオに届くように話しかけたようだ。
『この国がちゃんと機能していたとき、騎士団に入れる年齢は15だったな。』
ライの声が響いた。
『スルーもバギーも僕は知らない。パンテェールでさえも会う機会は少なかったと思う。』
王様がそんなに下の者のことまで把握してるわけがない。美虹は思ったが何も伝えなかった。
『宰相には毎日会っていたが・・・奥方のことは彼は何も言ったことがなかったな。子どもの話もほとんど聞いたことがない。・・・いや。1度だけ聞いたことがあったな。産まれたときに見たったきり、会わせて貰っていないと・・・あの頃は、変なことを言うなとは思ったが・・・』
『獣人同士じゃないんだよね。宰相夫人、人間に見えるよ。』
『宰相は黒豹だったから・・・間違えて選んではいないはずなんだが・・』
ライは言葉を探しながら話しているようだった。
『獣人は相手がはっきり分かるんだったよね?』
『ああ。会ったら分かる。』
レオが口を挟んできた。
『模擬戦は終わったの?』
『ああ。』
・・・・
「で。シュバルツァーに案内すれば良いんだな?」
スルーが言った。
話は続いていたのだ。
「仕方がありませんわ。」
バギーが頷いて
「では、こちらに。」
と宰相夫人を連れ出した。
・・・・
「どう思いましたか?」
パンテェールが聞く。
・・・・
「疑問がいくつか。」
「ほう?」
「1つめ。宰相の子どもはなぜ母親に連れて行かれなかったのか。」
「そうだな。」
「2つめ。何故、今になって夫人が来たのか。」
「そこだ・・」
「3つめ。パンテェールさんは、本当は息子さんの行方を知っているのではないか?」
「・・・・」
「それに加えて、4つめ。夫人は元々どういう人・・どう言う立場の人だったのか。」
「良い所をついていますね。」
パンテェールはゆっくりお茶を飲み干した。
「もう一杯入れてくれないか?」
ラビーはお茶を入れ直す・・その間パンテェールは何かを考えているようだった。
「宰相の子どもは本当は宰相の子どもではなかったと言われている。」
「え?」
「どこかから連れてきた黒豹人の子どもだという噂もあったな。」
レッグも頷く。
「でも、宰相は信じていたんでしょう?」
「分からない。でも、あまりに会わせてもらえないので疑ってはいたようだ。」
『獣人の子どもは、本当に番同士でなければ産まれない。だから、子どもが生まれたと聞いて良かったと思っていたんだが』
ライが口を挟んできた。
『一回だけ子どものことを話したとき・・・愚痴も言っていたが・・・体が弱くてあまり会わせてもらえないと寂しそうだったな。』
・・・
『宰相って可哀相な人だったの?』
『どうだろうね。結婚に関しては、番を見つけたと言っていたようだったが・・・僕には分からないよ。アルテミアの貴族の娘だとは聞いたような気がするが。僕も社交界とか好きじゃなかったからね。』
・・始めにちょっと顔を出して後は引っ込んでいたからなあ・・・言葉が消えていった・・・
「あの女。宰相と団長の間に立ってなにやら画策していたと言うことだけは覚えている。」
とパンテェールが言った。
「なんだそれ?」
レッグが身を乗り出した。
「初めて聞くな。」
「そうだな。私も初めて言った。憶測でしかないかもしれん。だが・・・」
『僕は知らないよ。』
ライのつぶやきが聞こえた。
「あの女。団長と宰相の両方に番だと思われていたんだ。」
「え?そんなことあるの?」
「まれにあると聞いている。」
「で・・・選んだのが宰相?」
「そう言うことだ。」
「何かうさん臭え。」
「おまえもそう思うか?」
そこにノックの音と共にバギーとスルーが入って来た。なぜかアームも一緒だ。
「アーム。お久しぶり。」
美虹が思わず言うと、アームは怪訝そうに美虹を見た。しまった・・・美虹は美虹ではなかった。ミクティだった・・・アームとは初対面のはずだ。美虹の焦りを感じたかのようにパンテェールも、レッグも怪しそうに美虹を見ている・・・
アームはしかし、そんな空気に気が付かぬように言った。
「僕の母と名乗る者が尋ねてきたと聞きました。」
・・・・・・




